ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『裏切りのサーカス』

2012-04-21 00:17:19 | 新作映画
(英題:Tinker Tailor Soldier Spy)



----やっとジョン・ル・カレ『裏切りのサーカス』だ。
この映画、よく「一度観ただけじゃ分からない」と言われているようだし、
えいもお手上げだったのかと…。
「う~ん。
ある意味、そう取られても仕方ないのかな。
お話としては、英国諜報部<サーカス>に潜む、
ソ連の二重スパイを探す…という、
ただ、それだけのもの。
ところが、このシンプルなストーリーにもかかわらず、
なぜか “分かりにくい”というイメージが出来上がっている。
でも、ぼくは、この作品が持つ、
映画ならではの語り口に酔いしれたんだ」

----おっ、出ました。“語り口”
「じゃあ、それを説明するために、
もう少し、物語について触れることにしよう。
<サーカス>のリーダー、コントロール(ジョン・ハート)は、
5人のサーカス幹部の中に、
長年にわたりもぐりこんでいるソ連の二重スパイ<もぐら>がいるという情報を掴む。
ハンガリーの将軍が、<もぐら>の名前と引き換えに亡命を要求。
コントロールは独断で、工作員ジム・ブリド―(マーク・ストロング)をブダぺストへ送り込む。
さて、ここが最初の見せ場。
ブダペストのカフェ。
ジムの周りにいる人は押し並べて硬い表情。
そのだれもがジムを狙っているようだ。
日常を意図的に作ったような異常な空気感。
そこに配置された一人ひとりを
カメラがこれまた絶妙な距離で写しだし、
細かいカットの積み重ねよって緊張を高めてゆく」

----う~ん。スゴそうだけど
聞いただけじゃ分からないニャあ。
「ごめんごめん。
筆力が足りなくて…。
さて、この作戦は失敗に終わり、
責任を問われたコントロールは、
長年の右腕だったスマイリー(ゲイリー・オールドマン)と共にサーカスを去る。
新リーダーのパーシー(トビー・ジョーンズ)は、残った3人の幹部を率い、
ソ連の新しい情報源と手を組んだ
<ウイッチクラフト作戦>で成果を挙げる。
実はこの作戦が、後々重要な意味を持ってくるわけだけど、
今回は、ストーリーを語るつもりがないので割愛。
一方、コントロールは謎の死を遂げ、
最愛の妻アンに出ていかれたスマイリーはうつろな日々を送っていた。
そんな中、スマイリーは、突然、レイコン次官に呼び出され、
4人の幹部の中に潜む<もぐら>を突き止めろという命令を下される。
調査を開始したスマイリーの前に、
イスタンブールで東側に寝返ったと思われていたリッキー・タ―(トム・ハーディ)が帰国し、
彼に助けを求める。
実は彼は当時イスタンブールで、
違反行為を承知で東側の通商使節団員イリーナと接触し、恋に落ちていた。
亡命を望む彼女が交換条件として提示したのは、<もぐら>の情報。
だが、リッキーがサーカスにその旨の電報を打った直後、
イリーナはソ連側に連れ去られてしまう」

----ニャるほど。
情報が筒抜けってことだニャ。
「うん。
そしてそれはサーカスに<もぐら>がいるという証拠でもあるね。
で、ここの描き方が、
さっきのブダペストとは真逆。
まるで映画の中の時間と実際の時間を一致させたかのようなブダペストに対し、
このイスタンブールの描き方は、時間がどんどん先へと流れていく。
そしてその流れの中で、突然、イリーナの姿がポンと消えてしまう。
ここも巧い。
リッキーにとっては、昨日と今日とをつないでいたはずの
時間が切られてしまうワケだ。
これはもう、恐怖を超えている」

----自分が二本の足で立っているという
その現実感さえも消えそうだね。
「そういうこと。
この映画、もちろん
スパイ・ミステリーではあるけれど、
ぼくが引かれたのは、
このような時間と空間の見せ方。
映画は、単に小説のストーリーをなぞったものではないという、
そのことを改めて教えてくれたこの作品、
ぼくが魅せられないはずはなかったね」



                    (byえいwithフォーン)

フォーンの一言「なんか肝心なことを言ってない気がするニャ」小首ニャ

※あっ。監督は『ぼくのエリ200歳の少女』のトーマス・アルフレッドソンだ度

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10 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
■sannkenekoさん (えい)
2013-07-14 20:10:49
映画は物語をかたることも、もちろん必要ですが、
その空気をどこまで出せるか、
それが肝じゃないかなと思います。

この作品は、
それぞれのシチュエーションがもたらす空気を
見事にスクリーンから匂わせてくれました。
得難い体験でした。
返信する
こんばんは。 (sannkeneko)
2013-06-28 20:49:17
あのブダペストのカフェ。
>日常を意図的に作ったような異常な空気感。
あの光景に引き込まれて・・・というか飲み込まれてしまいました。

二重スパイ探しのシンプルな話にスパイの・・・スマイリー自身の人生も描かれていて。
ただ人間関係の複雑さにDVDを何度か見直しました。
それでも・・・結末がわかっていても緊張感が褪せない作品でした。
返信する
■ノラネコさん (えい)
2012-05-02 20:28:31

それぞれのエピソードを
それぞれにふさわしい映像で描き分けていく。
それが、ひとつの方向へ収斂されていくさまは、まさにカタルシス。
映画とは? 映画の魅力とは何かということを改めて考えずにはいられませんでした。
返信する
こんばんは (ノラネコ)
2012-04-26 23:27:53
その通りなんです。
文学の映像化において、この作品の切り口は見事でした。
以前ドラマ化されたときには7時間を費やした物語を僅か2時間で描いてるにもかかわらず、端折った感じは殆どなし。
緊張感を持った映像で描写されるディテールの一つ一つが、パズルのピースの様にピッタリと嵌ってゆくクライマックスはカタルシスさえ感じました。
返信する
■にゃむばななさん (えい)
2012-04-26 22:13:50
こんばんは。

ぼくも原作は読んでいないのですが、
かなりこれは大胆な試みの映画だと思いました。
映画=ストーリーを語るものという
いつの間にか出来上がったその図式を壊したという…。
見ごたえありました。
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■ノルウェーまだ~むさん (えい)
2012-04-26 22:12:07
こんばんは。

>なんとなくよく判らない感じが、より一層自分もその場に居合わせたかのような感覚に陥る事ができて、

そうだと思います。
スパイの世界は特に、
見えていないところが多いはず。
<観客にはすべてを分かっている>ように見せるという前提を壊した、
その描き方だけでも見ごたえありました。
返信する
■JKさん (えい)
2012-04-26 22:09:09
こんばんは。
とても書きにくい映画で、
ラブコールをいただきながら
遅れてしまいました。
物語そのものよりも
その語り口に酔いしれた映画でした。
返信する
こんにちわ (にゃむばなな)
2012-04-26 16:45:57
なるほど、空気感ですか。
確かに雰囲気はいい映画でしたね。
ただ個人的にはもう少し人物像などの説明が欲しかったのですが、それは原作を読んでいる人からしたら、もしかしたらいらぬものだったのかな~。
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空気感 (ノルウェーまだ~む)
2012-04-23 00:19:13
えいさん☆
私もこの空気感好きです。
時間の流れ方の速度の違いも楽しめましたね。
なんとなくよく判らない感じが、より一層自分もその場に居合わせたかのような感覚に陥る事ができて、その緊張感がたまりませんでした。
返信する
Unknown (JK)
2012-04-22 22:35:06
こんにちは
「日常を意図的に作ったような異常な空気感」
あそこは変な画になっていて何かあると思わせますよね
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