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遍歴修道士と緑の殉教

2016-12-20 | トッド『家族システムの起源』
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2016年12月20日(火)10時48分15秒

>筆綾丸さん
ここ数日、古代オリンピックについて調べていて『贖罪のヨーロッパ』は少し先になりそうですが、パラパラめくっていた際も「緑の殉教」は気になりました。
佐藤氏は、

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 六世紀末から七世紀はじめに、大陸における修道制刷新の立役者となったアイルランド人聖コルンバヌスは、教皇大グレゴリウス(一世)に宛てた書簡のなかで、現代でも一部が残されている聖ギルダスとアイルランド人修道士フィニアンとの往復書簡を読み、遍歴巡礼者について詳しく知ったことを述べている。往復書簡のなかで、ギルダスは「より厳しい戒律」を求めて修道院を離れようとする修道士に対してどのように対処すべきかを述べているが、そこには聖アウグスティヌスやバシレイオスの思想が反映しているとされる。このようにみずから進んでより厳しい戒律に服して苦行を実践しようとする志向は、ウェールズやアイルランドに特徴的であった。アイルランドでは巡礼者としての漂泊と遍歴は、すでに述べたように隠遁の一形式であり、「赤い殉教」としての文字通り肉体の死で完遂する行為、「白い殉教」としての社会からの追放という形式に対比して、「緑の殉教」と称された。贖罪としての旅という意味である。
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と書かれていますが(p10以下)、正直、これだけでは何のことか分からず、ご紹介のウィキペディアの英文の方の記述を読んで、やっと多少理解できました。

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The homily outlines three categories of martyrdom, designated by color. This triad is unique, but draws on earlier distinctions between "red" and "white" martyrdom. "Red" martyrdom, or violent death as a result of religious persecution, was rarely obtainable after the establishment of Christian hegemony in the Roman Empire. Blood martyrdom was not a regular feature of early Christian life in Ireland, despite narratives that depict conflict between missionaries and traditional religious authorities such as the druids.[8] Irish saints had to forgo the bloody "crown of martyrdom" until the Viking invasions at the end of the 8th century.[9]
St. Jerome had used the term "white martyrdom" for those such as desert hermits who aspired to the condition of martyrdom through strict asceticism.[10] The Cambrai homilist elaborates also on a distinction made by Gregory between inward and outward martyrdom.[11] White martyrdom (bánmartre), he says, is separation from all that one loves, perhaps on a peregrinatio pro Christo or "pilgrimage on behalf of Christ" that might be extended permanently; blue (or green) martyrdom (glasmartre) involves the denial of desires, as through fasting and penitent labors, without necessarily implying a journey or complete withdrawal from life;[12] red martyrdom (dercmartre) requires torture or death.[13]


この後の緑のシンボリズム云々の記述を読むと、更に深い世界が色々ありそうで、今の私にはとてもついて行けそうもありませんが。
佐藤著で先に引用した部分の少し前に、

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 アイルランドやウェールズの部族社会では、血縁集団や家族から離れ孤独に生きるのは、贖罪とみずから進んでする苦行の最高の形式とみなされた(口絵2の孤絶した環境が示すように)。
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とあり、口絵2「アイルランドのスケリグ・マイケル島に残る中世初期の孤住修道士の僧坊」は美しい風景写真ですが、さすがにこんなところに住みたくはないですね。
贖罪より食材が心配になります。


>ザゲィムプレィアさん
箸置きの件は単なる冗談ですが、「黙れ兵隊!」が残っていましたね。
ま、出発点の吉松安弘『東條英機 暗殺の夏』の信憑性についてはある程度結論が出たように思いますが、纏めは年内にやります。

※筆綾丸さんとザゲィムプレィアさんの下記三つの投稿へのレスです。
「胸算用」
「妾思う、故に入水す」
「箸置きのお持ち帰り」

箸置きのお持ち帰り 2016/12/17(土) 15:15:18(ザゲィムプレィアさん)
小太郎さんが書いたプーチンのエピソードを読んで思い出したことがあります。

著者も書名も忘れましたが、旧陸軍の中国畑の情報将校の経験談です。
初めて現地で任務に就いた時、上官から以下を注意されたそうです。
これから中国人と知り合いになり、自宅に招待されることもあるだろう。その時に書画や壺などが目につくことがあるだろうが、
決してそれを褒めてはいけない。褒めると、気に入ったなら持って帰れと言われる。断っても宿舎に持ってくる。
人が欲しがったものを与えないのは、ケチであり面子がつぶれるからだ。

プーチンの思考は知りませんが、喜ばせるつもりで持ち帰ったとも考えられます。

胸算用 2016/12/17(土) 17:50:19(筆綾丸さん)
小太郎さん
http://www.chuko.co.jp/shinsho/2014/02/102253.html
佐藤氏のもう一つの著書は『禁欲のヨーロッパ』で、禁欲といい贖罪といい、誠に鬱陶しいテーマではありますね。宗教者あるいは修道士と云えば聞こえはいいのですが、多かれ少なかれ精神を病んだ人たちともいえますね。こういう人たちに、一体、どれほどの思想的普遍性があるというのか。

ローマ法王との会見といい、英国女王との会見といい、プーチンは遅刻の戦略的常習犯のようですが、今回の訪日で天皇との会見が組まれていたならば、法王(45分)と女王(15分)から類推して、30分くらいの遅刻を目論んでいたのでしょうか。トランプとの初会談では、どれくらい遅刻する胸算用なのか、かなり期待できますね。

NHKワールドニュースの「ロシアTV]では、テレビクルーが山口の河豚を紹介していましたが、顔がなんとくプーチンに似ていました。ロシア人好みの魚かもしれないですね。

「女将の私物」という断り書きは笑えます。「秋田犬の箸置き」が北方領土に見えなくもないよね、という含意ですかね。

妾思う、故に入水す 2016/12/19(月) 17:58:59(筆綾丸さん)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%88%91%E6%80%9D%E3%81%86%E3%80%81%E3%82%86%E3%81%88%E3%81%AB%E6%88%91%E3%81%82%E3%82%8A
Cogito ergo sum の仏訳は Je pense, donc je suis ですが、je suis の発音は入水と全く同じなので、妾思う、故に入水す、と意訳(?)することができます。子音の s をあえて発音しているところが味噌です。

https://fr.wikipedia.org/wiki/Hom%C3%A9lie_de_Cambrai
『贖罪のヨーロッパ』に、赤、白、緑という三色の殉教の話がありますが、ウィキによれば、アイルランドの L'Homélie de Cambrai(カンブレー説教集、7~8世紀)に出てきて、赤の殉教は死、白の殉教は禁欲、緑(或いは青)の殉教は断食・苦行を意味するのですね。(英文の説明の方が詳しい)
皮肉な言い方をすれば、黄色い(jaune)殉教とは裏切り、つまり、イスカリオテのユダのことだ、と言えなくもないですね。
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le martyre rouge, c'est-à-dire la mort violente ; le martyre blanc, c'est-à-dire l'ascétisme strict ; et le martyre glas, terme ambigu pouvant signifier ≪bleu≫ ou≪vert≫, qui comprend jeûne et travail.
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