投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2016年12月12日(月)10時41分24秒
少し検索してみたら今年6月に『家族システムの起源Ⅰ ユーラシア 上』が刊行されて以降、月本昭男・小浜逸郎・柄谷行人氏等による結構な数の書評が出ていますが、「中切」の訳注が変だと指摘した人はいないようですね。
月本昭男(旧約聖書学者・上智大特任教授)
http://www.yomiuri.co.jp/life/book/review/20160822-OYT8T50060.html
小浜逸郎
http://www.sankei.com/life/news/160904/lif1609040031-n1.html
柄谷行人
http://fujiwara-shoten.co.jp/main/reviews/archives/2016/08/_2_1.php
まあ、スペースの関係もあるでしょうから翻訳・訳注に言及される余裕がなかったのかもしれませんが、『文藝春秋』12月号に掲載されているトッドと磯田道史氏(国際日本文化研究センター准教授)の12頁分の対談、「日本の人口減少は『直系家族病』だ」を見ても「中切」への言及はありません。
冒頭を紹介してみると(p126以下)、
------
磯田 トッドさんの四十年に及ぶ研究の集大成である『家族システムの起源』(藤原書店)が、今年、日本で翻訳が刊行され、非常の興味深く読みました。核家族や、直系家族(子どものうち一人、一般的には長男が相続者として親と同居する)といった家族システムが、社会の価値観やイデオロギーを規定していることを、全世界を対象にして分析して論証した研究です。この本でひとつの国に丸々一章を費やされているのは日本だけですね。
トッド 日本について詳細に論じることができたのは、日本の歴史人口統計学の父である速水融さん(慶應大学名誉教授)の素晴らしい研究成果のおかげです。彼の作った学派によって徳川時代の良質なデータが揃っていました。また、速水さんは良き友人でもあります。私の師匠筋にあたるル=ロワ=ラデュリの家でたまたま出会いましたが、速水さん、ル=ロワ=ラデュリと、そしてケンブリッジ大学の私の師匠、ラスレットの三人が、歴史人口学と家族史の世界をリードしていたのです。
磯田 実は大学院生のとき、速水先生の研究のために日本中の古文書を探し歩いていました。先生が五年で五億円近い科学研究費を獲得されて、「これで家族と人口に関する史料を集めよう」と。
トッド 磯田さんは私と似たことをしていたのですね。私もラスレットに命じられて、史料探査に出かけたものです。私の場合は、ラスレットの学説では説明できないようなデータを見つけて、困らせてやろうと思っていましたが(笑)。磯田さんはどうでしたか?
磯田 ハハハ。そんな挑発はしませんでしたが、速水先生は当時からトッドさんの話をよくしていたので、トッドさんと議論するのに役立ちそうな史料を優先して探すようにしていました。ヨーロッパの家族システムの地域分布図が載っているトッドさんの著書『新ヨーロッパ大全』(藤原書店)を念頭において、地域が偏らないように、いろんな場所に探しに行きました。
でも、速水先生から家族と人口については農民の史料だけを集めればいいと言われていたのですが、密かに武士の史料も集めていたんです。最初、バレたときは怒られましたが、後になって、「いつの間に集めたんだ」と速水先生は笑って喜んでいたように思います。
トッド さすが速水さんは素晴らしい。これがヨーロッパだとそうはいきません。特にフランス人の若い研究者は指導教授に従順にすることを潔しとせず、むしろ反抗しようとします。すると、どうなるか。私など、教員のポストが見つかりそうになったとき、ラスレットから邪魔されましたよ。私は彼の一番優秀な学生だったのですがね(笑)。
------
といった感じで、和やかに対談が進んで行きます。
ま、決してつまらない内容ではないのですが、磯田氏がトッドへの日本関係情報の提供者に終始していて、理論的な対話が一切ないのには若干の不満を覚えます。
日仏の知識人同士の丁々発止のやり取りというよりは、フランス人観光客と地元情報に詳しいタクシー運転手との会話みたいな感じ、といったらちょっと失礼かもしれませんが。
磯田氏は若くして速水融に学んだという経歴からしても家族社会学には相当詳しいはずですが、「中切」についてはどう思ったのですかね。
ウィキペディアの磯田氏の項を見たら、「速水融のいた慶應義塾大学文学部史学科に進学」とありますが、速水融氏は経済学部教授だったはずで、ちょっと変な記述ですね。
磯田道史
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A3%AF%E7%94%B0%E9%81%93%E5%8F%B2
※追記
磯田道史が「中切」に気づいていなかったことは後日確認しました。
「私は三十六歳で結婚するまで、経験がゼロ。きっちり直系家族の秩序主義をやり遂げました」(by 磯田道史氏)
http://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/8a075de0135eb35165ca6a0491b15ad6
少し検索してみたら今年6月に『家族システムの起源Ⅰ ユーラシア 上』が刊行されて以降、月本昭男・小浜逸郎・柄谷行人氏等による結構な数の書評が出ていますが、「中切」の訳注が変だと指摘した人はいないようですね。
月本昭男(旧約聖書学者・上智大特任教授)
http://www.yomiuri.co.jp/life/book/review/20160822-OYT8T50060.html
小浜逸郎
http://www.sankei.com/life/news/160904/lif1609040031-n1.html
柄谷行人
http://fujiwara-shoten.co.jp/main/reviews/archives/2016/08/_2_1.php
まあ、スペースの関係もあるでしょうから翻訳・訳注に言及される余裕がなかったのかもしれませんが、『文藝春秋』12月号に掲載されているトッドと磯田道史氏(国際日本文化研究センター准教授)の12頁分の対談、「日本の人口減少は『直系家族病』だ」を見ても「中切」への言及はありません。
冒頭を紹介してみると(p126以下)、
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磯田 トッドさんの四十年に及ぶ研究の集大成である『家族システムの起源』(藤原書店)が、今年、日本で翻訳が刊行され、非常の興味深く読みました。核家族や、直系家族(子どものうち一人、一般的には長男が相続者として親と同居する)といった家族システムが、社会の価値観やイデオロギーを規定していることを、全世界を対象にして分析して論証した研究です。この本でひとつの国に丸々一章を費やされているのは日本だけですね。
トッド 日本について詳細に論じることができたのは、日本の歴史人口統計学の父である速水融さん(慶應大学名誉教授)の素晴らしい研究成果のおかげです。彼の作った学派によって徳川時代の良質なデータが揃っていました。また、速水さんは良き友人でもあります。私の師匠筋にあたるル=ロワ=ラデュリの家でたまたま出会いましたが、速水さん、ル=ロワ=ラデュリと、そしてケンブリッジ大学の私の師匠、ラスレットの三人が、歴史人口学と家族史の世界をリードしていたのです。
磯田 実は大学院生のとき、速水先生の研究のために日本中の古文書を探し歩いていました。先生が五年で五億円近い科学研究費を獲得されて、「これで家族と人口に関する史料を集めよう」と。
トッド 磯田さんは私と似たことをしていたのですね。私もラスレットに命じられて、史料探査に出かけたものです。私の場合は、ラスレットの学説では説明できないようなデータを見つけて、困らせてやろうと思っていましたが(笑)。磯田さんはどうでしたか?
磯田 ハハハ。そんな挑発はしませんでしたが、速水先生は当時からトッドさんの話をよくしていたので、トッドさんと議論するのに役立ちそうな史料を優先して探すようにしていました。ヨーロッパの家族システムの地域分布図が載っているトッドさんの著書『新ヨーロッパ大全』(藤原書店)を念頭において、地域が偏らないように、いろんな場所に探しに行きました。
でも、速水先生から家族と人口については農民の史料だけを集めればいいと言われていたのですが、密かに武士の史料も集めていたんです。最初、バレたときは怒られましたが、後になって、「いつの間に集めたんだ」と速水先生は笑って喜んでいたように思います。
トッド さすが速水さんは素晴らしい。これがヨーロッパだとそうはいきません。特にフランス人の若い研究者は指導教授に従順にすることを潔しとせず、むしろ反抗しようとします。すると、どうなるか。私など、教員のポストが見つかりそうになったとき、ラスレットから邪魔されましたよ。私は彼の一番優秀な学生だったのですがね(笑)。
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といった感じで、和やかに対談が進んで行きます。
ま、決してつまらない内容ではないのですが、磯田氏がトッドへの日本関係情報の提供者に終始していて、理論的な対話が一切ないのには若干の不満を覚えます。
日仏の知識人同士の丁々発止のやり取りというよりは、フランス人観光客と地元情報に詳しいタクシー運転手との会話みたいな感じ、といったらちょっと失礼かもしれませんが。
磯田氏は若くして速水融に学んだという経歴からしても家族社会学には相当詳しいはずですが、「中切」についてはどう思ったのですかね。
ウィキペディアの磯田氏の項を見たら、「速水融のいた慶應義塾大学文学部史学科に進学」とありますが、速水融氏は経済学部教授だったはずで、ちょっと変な記述ですね。
磯田道史
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A3%AF%E7%94%B0%E9%81%93%E5%8F%B2
※追記
磯田道史が「中切」に気づいていなかったことは後日確認しました。
「私は三十六歳で結婚するまで、経験がゼロ。きっちり直系家族の秩序主義をやり遂げました」(by 磯田道史氏)
http://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/8a075de0135eb35165ca6a0491b15ad6
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