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「越州左親衛」(金沢貞顕)作詞の「明王徳」

2018-03-13 | 『増鏡』を読み直す。(2018)

投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2018年 3月13日(火)22時26分31秒

先に早歌を検討した際、金沢貞顕作詞の「袖余波」は紹介済みですが、貞顕はもうひとつ、「明王徳」という曲も作詞しているので、貞顕の教養の形成過程を知るための参考資料として、これも紹介しておきます。
「究百集」の「明王徳」は、「撰要目録」の諸本では「自或所被出之 明空調曲」とされていますが、早大本だけ「越州左親衛作」となっています。
引用は外村久江・外村南都子校注『早歌全詞集』(三弥井書店、1993)からです。(p176以下)

「小林の女房」と「宣陽門院の伊予殿」(その4)
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/a3e5fd3f9025de85df9bca99a9db52bb
「越州左親衛」(金沢貞顕)作詞の「袖余波」
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/5c6f654a75b33f788999dc447bda1e48

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明王徳

唐堯〔たうげう〕は徳をもて国を治む 虞舜は孝をもて世に聞ゆ 王道〔わうたう〕共に私〔わたくし〕なく
臣是〔これ〕に随ふ 或〔あるい〕は水を納〔をさめ〕て 九年の愁〔うれへ〕を息〔やす〕めしむ 或は位
〔くらゐ〕を賢に譲て 親疎の道を隔てず 凡〔およそ〕君たる徳は又 遠きもなく近〔ちかき〕もなく
普〔あまね〕き恵〔めぐみ〕をほどこす 国に民絶ざれば 上に行〔おこなふ〕力なく 民を仕〔つかふ〕に
時あり 農業の暇〔いとま〕を授くとか 日に瑩〔みがき〕風に瑩〔みがき〕 玉の枝より開初〔さきそめ〕て
匂〔にほひ〕ものどけき御代〔みよ〕なれば 文章の花も盛〔さかん〕なり よしあし原の旧〔ふり〕にし跡に
又立帰〔たちかへ〕るまつりごと 天地〔あめつち〕の神の代は <あの>直〔すなほ〕なれどもわきがたく
百王〔はくわう〕の下〔くだ〕れるいま 淳素の宣旨をたがへず 雨露〔うろ〕の恩また深ければ 草木〔さうもく〕
も色をあらためず 君に心は筑波ねの 陰より茂き恵〔めぐみ〕の 恨〔うらみ〕をふくめる人ぞなき 上〔かみ〕
の明かなるは是〔これ〕 日月〔じつげつ〕の照〔てらす〕に異ならず 下〔しも〕に愁〔うれへ〕なきは又
仁愛あまねき故とかや さればや四海事なくして 関の戸とづる時もなし 其〔その〕政理〔せいり〕まさに
直〔なほ〕ければ 寒暑も節〔をり〕を誤〔あやまた〕ず 周文〔しうぶん〕いまだまみえずして 虞芮〔ぐぜい〕
の訴〔うつたへ〕をしづめき 殷帝〔いんてい〕賢〔けん〕を求〔もとめ〕しかば 傅説〔ふえつ〕を夢にえたりな
 明王の用し人の鏡 いにしへ今にくもらず 像〔かたち〕を鑑〔かがみ〕し百練〔はくれん〕は 箱の底にぞ
朽〔くち〕にける 草創と守文〔しうぶん〕と 何〔いずれ〕もかたきに似たれど 両忠〔りやうちう〕心を
一〔ひとつ〕にして 終〔をはり〕を守〔まぼる〕にしくはなし 身の正〔ただし〕きに順影〔したがふかげ〕
 君臣の通〔とう〕ずるなるべし 魏徴〔ぎちよう〕を子夜〔しや〕に見し夢 張謹〔ちやうきん〕を辰日
〔しんじつ〕に悲む <あの>三足〔さんそく〕の思惟〔しゆい〕は 智恵の実〔まこと〕を顕〔あらは〕す 五復奏
〔ごふくそう〕の御事法〔みことのり〕 刑罰の依違〔いゐ〕を慎む 驪宮〔りきう〕の玉の甃〔いしだたみ〕
嫋々〔でうでう〕たる秋風に 宮樹〔きうじゆ〕の梢の蝉 垣根にしげる苔の色 瓦の松も徒〔いたづら〕に
御幸〔みゆき〕にしられでとし旧〔ふり〕ぬ 四皓〔しかう〕は漢恵〔かんけい〕に仕〔つかへ〕て 国の位を譲しむ
周公は成王に代〔かはり〕て 世の政〔まつりごと〕に徳おほし 我朝〔わがてう〕の聖代〔せいたい〕は 寒夜に
民を哀み 善政さかりに行〔おこなは〕れ 万州〔ばんしう〕に道をさかへしむ さて又大和ことの葉の 情〔なさけ〕
を捨〔すて〕ぬ名を留〔とめ〕て あはれむかしべならの葉の 旧〔ふり〕にし事を拾〔ひろひ〕をき 延喜は古今
〔こきん〕に集〔あつめ〕て かかる賢きためしの 誉〔ほまれ〕を和漢におよぼす
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『早歌全詞集』には漢籍を引用した多数の注がありますが、煩瑣になるので省略します。
越州左親衛作のもう一つの曲「袖余波」と比べると、いかにも将来を嘱望された名門武家の貴公子に相応しい曲ではありますが、あまり面白いものでもないですね。
まあ、若き貞顕が大変な勉強家であったことは確かです。
「袖余波」の方は「明空成取捨調曲」となっていて、この意味については少し検討しましたが、「明王徳」は明空は作曲だけで、詞には手を入れていません。
貞顕はこれだけ立派な詞がかけるのですから、「袖余波」も明空は歌いやすいように若干の改変をした程度のような感じがします。

『とはずがたり』と『増鏡』に登場する金沢貞顕
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/26c6e1bde1b9e0a358f5eb0d5e4e7e3d

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