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『とはずがたり』における前斎宮と後深草院(その6)

2018-03-25 | 『増鏡』を読み直す。(2018)
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2018年 3月25日(日)20時55分28秒

続きです。(次田香澄『とはずがたり(上)全訳注』、p223以下)

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 まづ先に参りて、御障子をやをら開けたれば、ありつるままにて御とのごもりたる。御前なる人も寝入りぬるにや、音する人もなく、小さらかに這ひ入らせ給ひぬる後、いかなる御ことどもかありけん。うちすて参らすべきならねば、御上臥〔うへぶ〕したる人のそばに寝れば、いまぞおどろきて、「こは誰そ」と言ふ。「御人少ななるも御いたはしくて、御宿直〔とのゐ〕し侍る」といらへば、まことと思ひて物語するも、用意なきことやとわびしければ、「ねぶたしや、更け侍りぬ」といひて、そらねぶりしてゐたれば、御几帳のうちも遠からぬに、いたく御心も尽さず、はやうちとけ給ひにけりと覚ゆるぞ、あまりに念なかりし。
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【私訳】私がまず先に入って、御襖をそっと開けると、先ほどのままでお寝みになっておられる。御前の女房も寝入っているのであろうか、声を立てる人もおらず、院がお体を低くなさって這うようにしてお入りになった後、どのようなことがおありだったのであろうか。そのまま捨て置き申し上げることもできないので、斎宮の御上臥しをしている女房の傍で寝ると、その人は今になって目を覚まして、「あなたはどなた」と言う。「お人が少ないのがお気の毒なので、御宿直しております」と返事をすると、それを本当だと思って話しかけてくるのも、気が利かないことよと情けなく感じられるので、「眠たいわ。夜も更けました」と言って眠ったふりをしていると、御几帳の内側も遠くないので気配で分かるのだが、院がそれほどお心を尽くされることもなく、早くも打ち解けなさったと思われたのは、あまりにあっけなかった。

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 心強くてあかし給はば、いかにおもしろからんと覚えしに、明けすぎぬさきに帰り入らせ給ひて、「桜は、にほひは美しけれども、枝もろく折りやすき花にてある」など仰せありしぞ、 さればよと覚え侍りし。日高くなるまで御殿ごもりて、昼といふばかりになりて、おどろかせおはしまして、「けしからず。今朝しもいぎたなかりける」などとて、今ぞ文ある。御返事にはただ、「夢の面影はさむる方なく」などばかりにてありけるとかや。
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【私訳】気強くお許しにならないで夜を明かされたとしたら、どんなに面白かっただろうと思われたのに、院はすっかり夜が明けてしまわないうちに帰ってこられて、「桜は色つやは美しいけれども、枝がもろく、手折りやすい花だなあ」などとおっしゃったので、やはり思った通りだと思われた。院は日が高くなるまでお寝みになって、もう昼という時分に目を覚まされて、「これはいけない。今朝に限って寝坊してしまった」などと言われて、今になって後朝(きぬぎぬ)のお手紙をしたためられる。斎宮のお返事は、ただ、「夢のようにして拝見した面影は覚めようもございません」ぐらいのことだったとか。

ということで、二条が仲介して後深草院と異母妹・前斎宮が関係を持ちます。
それにしても、前斎宮が後深草院を拒否すれば面白かったのに、あっさり靡いてしまって何とも退屈なことよ、という発想はなかなかのものです。
ここでの二条の役回りは、好色な後深草院に命じられて他の女との仲立ちを強いられる気の毒な被害者ではなく、後深草院の共犯者ですね。
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