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「脳を司る『脳』」毛内拡

2021年05月19日 11時45分38秒 | 読書
「脳を司る『脳』」毛内拡


有り難いことに最近,多くの良書に巡り合えている.
特に,最近アップした「心理学用語大全」や「物語 アメリカの歴史 超大国の行方」はエンタテーメントではなく,私の人生観やライフワークに影響を与えそうな知識を得た本だった.

この「脳を司る『脳』」は,お茶の水女子大で生体機能組織学を研究する新進気鋭の学者である著者の,これまでの研究成果と周辺技術を専門外の読者にわかりやすく伝えるためのものである.
この本は,(おそらく)この分野の専門家には常識的なことかもしれないが,一般には大きく誤解されている意外な事実を実にわかりやすく解説してくれている.
「大きく誤解されている意外な事実」とは何か?
  脳はニューロン(神経細胞)の集合体であり,ニューロンはお互いにつながりあって電気信号をやり取りしている,
  人間の記憶や感情はこれら電気信号のなせる業である.
  つまり,脳の機能はこれらニューロンのネットワークがどうなっているかですべてが決まる.
と,思っていないだろうか?私はそう思ってきた.
しかし,この本によると,そうではない.
もちろん,記憶や運動など脳の基本的な機能の多くに,シナプスを介したニューロン相互の電気信号のやり取りが大きく貢献していることは間違いない.
ただ,それだけではないのだ.
キーワードは「細胞外スペース」である.脳には20%ほどの神経細胞以外のすきま「細胞外スペース」がある.
細胞外スペースは間質液(脳脊髄液)で満たされており,そこには神経修飾物質がある.
この神経修飾物質が,細胞外電場等の間接的な影響をニューロンに及ぼし,発火のしやすさをコントロールしている.
詳細は省くが,人間が感じる気分,緊張感,至福感などの心理的機能や精神機能は細胞外スペースが司っていると言える証拠が見つかりつつある.

というような話だ.
一部のAI研究者が言うように,ニューラルネットワークを究極的に発展させると人間の脳に匹敵するものを作ることができる,というのは原理的に不可能な話のようなのである.
著者の表現を借りるなら,ニューロンは有線ネットワークを作っているが,脳内には細胞外スペースというワイヤレスネットワークがある.
ということで,脳の本質を理解するには,脳内のワイヤレスネットワークの研究が必要のようだ.
グリア細胞やアストロサイトにその鍵があるようで,今後の研究が待たれる.
脳の不可思議な新たな一面を知ることができて,脳からウロコが取れた気分だ.







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