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「そして父になる」是枝裕和,佐野晶

2013年11月14日 11時48分12秒 | 読書
「そして父になる」是枝裕和,佐野晶



一流大学の建築科を卒業して大手ゼネコンに入社し,数々の大規模な建設プロジェクトに携わってきたエリートビジネスマンの良太.
優しい妻とおとなしい息子に恵まれ,世の中の幸せを全て体現しているかのような順風満帆の日々.

しかし,その息子が,産院で取り違えられた他人の子だった...

かなり昔だが,実際に産院での,赤ちゃん取り違え事件はいくつか報道された記憶がある.
その後,対策が講じられ,その後はそのような事件は起きていないようであるが.

この小説は,赤ちゃんの取り違えをきっかけとした家族の気持ちのすれ違いや,相手家族との軋轢を題材としてはいるが,テーマは違う.テーマは「生き方」であり,「価値観」である.
人は何のために生き,何のために働くのかということである.
「善」とは何かということである.
子供が他人の子とわかった時に,その子への愛情がどうなるかが問われる.
一緒に暮らした6年間は無駄だったのか?
「血」が全てかということである.

答えは示されていないし,実際に答えなどないのだろう.

良太の強烈なエリート意識は,基本的に弱肉強食の世界観である.

弱ければ生き残れないから,だから,強くなれと,わが子を叱る.
負けて悔しくないのか?と鼓舞する.

しかし,世の中には勝ち負け自体に興味がない人だっているのだ.
勝つことが人生の目的ではない人は確実にいる.

そういう価値観の違いに良太は気付いておらず,それがあらゆる障害や妻子の苦しみを誘っていることに気づいていない.

結末は読んでのお楽しみだが,父親のように強くなれない,元子供と現子供の涙が,果たして良太を変えることが出来るか?

良太に従うことでしか人生の価値を見つけられなかった妻が自分の足で立ち上がれるか?

重く,深く,人生を考えさせる小説だ.

この本を読んだ「お父さん」は,腕組みをして自分と家族との関わりを考え直してみる気になるに違いない.