書く仕事

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「黒の貴婦人」西澤保彦

2007年01月05日 22時08分02秒 | 読書
珍しくジャケ買いですね。
といっても、買ったのではなくて、図書館で借りたので、正確には「ジャケ借り」かな?
黒を基調とした構図の中で謎めいた美女がいすに座って横顔を見せています。
この表紙で、ミステリアスな、ドキドキさせてくれるストーリーを想像してしまったというわけです。
でも、読んだ印象はかなり違っていました。
むしろ、切ないラブストーリーですよ。
ラブストーリーと言い切ってしまうと誤解されそうですが、物語の芯に「青春」と「満たされぬ愛情」があるのです。
その周りで、トリックが施された殺人事件などが起きるわけです。
長編だと思って読み始めましたが、同じ登場人物が何度も出てくる連作ものであり、一話完結の短編集でした。
でも、初めて読んだ西澤保彦さんの作品が「黒の貴婦人」だというのは残念ながら失敗でした。
といいますのは、主人公として匠千暁(たくみちあき)が登場するシリーズの最新刊だったのですよ。
巻末の解説によると、匠千暁シリーズはすでに7巻が出版済みで、この「黒の貴婦人」が8作めだということ。
どうりで、殺人事件現場に居合わせた匠くんと、通報を受けて到着した刑事とが、いきなり親しげに話し始めたりするわけです。
また、過去の事件でいろいろと複雑な人間関係にあった人物同士が意味ありげな会話を交わしたりするということもあります。
これはどうも、「Pの密室」の時と同じ間違いをしてしまったようですな。
しかし、それらを割り引いても、なかなかこの小説、面白かったです。
それは、登場人物として、無駄なキャラクターが居ないのです。
いわゆる主役と脇役という関係がこの小説には無い。
すべての登場人物に秘密があり、その秘密がその短編では単なるエピソードだけど、別の話の伏線になっていて、別の話では事件のキーポイントになっていたりする。
ひとつひとつの逸話やちょっとした思い出話がすべてどこかでつながっているわけですね。
これは目が離せないというか、小説全体に素敵な緊張感を与えてくれます。
ただ、ミステリーとして、いわゆる謎解きの部分では、今ひとつの感ありです。
つまり犯行の動機がかなり甘いのです。
「そんなことで人を殺すのかよ」という突っ込みを入れたくなります。
しかし、それを上回る魅力が、登場人物の人間関係にあるのです。
主人公の匠くん-匠千暁は男性です-は主役といっても、最後の謎解きのホームズ役が主な仕事で、それ以外はあまり活躍しません。
むしろ、他の人物同士の、切ない片思いとか、意外な関係(秘密!)とか、そっちの方がずっと面白いです。
青春小説の魅力を充分に持っています。
え?、この人はこういう人だったの?という人物像に対する謎がとても面白いです。

さてさて、これは、困った。
ただでさえ、読みたい本が溜まっているのに、またまた、匠千暁シリーズの最初の本(「彼女が死んだ夜」)を読まなくては引っ込みがつかなくなってしまいました。