書く仕事

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「スローグッドバイ」 石田衣良

2006年09月24日 01時51分14秒 | 読書
池袋ウエストゲートパーク(IWGP)シリーズやアキハバラ@DEEPで今や絶好調の石田衣良さんの恋愛小説.短編集です.
あとがきで,作者が「できるなら誰も書いていないテーマを誰も書いてない方法で書きたいな」と述べています.
私は恋愛小説に造詣が深いわけではないので,本当のところはよくわかりませんが,確かにこんな恋愛小説は見たこと無いような気がします.
なぜかというと,恋愛小説につきものの「不倫」とか「破局」とか「破滅」とか「憎しみ」とかが出てこない.
恋愛の負の成分がきれいに拭い去られている.
かといって,相思相愛でハッピーエンドというわけでも,もちろんない.
普通とちょっとだけ違うキャラクター同士が,ちょっとだけ違うシチュエーションで出会ってしまう.そして何か惹かれ合うものを感じ,ひと時の恋愛あるいは恋愛のようなものを経験する.
ちょっとだけ違うって言うのは,相手がデートクラブのコールガールだったり,若い女の子のふりをしてネットの掲示板に登場する72歳のおばあちゃんだったり,セックスレスに悩む同棲中の女の子だったりするんですが,石田衣良さん独特の「やさしさ」とか「思いやり」のようなものに包まれた形で事態が進行し,あるときは思わぬ展開になったり,静かな別れを迎えることもあります.
しかし,たとえ別れが来る場合でも,お互いが未来に向かって旅立つために別々の道を行くという感じの別れなんですね.暗くない.
「娼年」を読んだときにも感じましたし,石田さんの人生観にも通じるのかもしれませんが,相手を思いやり,相手の心情に入り込んでまるで相手の感情に同化するような男性がよく登場しますね.
黙って俺について来いという男は決して出てきません.
恋愛と言うのは男女の相互作用ですから,一方が他方についていくものではないですね.当たり前ですが.
そしてこの短編集のすばらしいところは,一つ一つの物語から,微笑ましく心地よいメッセージが湯けむりのように立ち上り,なんとも言えず暖かい気持ちにしてくれるところにあります.
10篇の短編小説から構成されます.いずれもすてきなストーリーですが,私の一押しは,6つめの「夢のキャッチャー」です.
才能ある女性をガールフレンドに持ってしまった凡庸な男性の心情が痛いほど良くわかります.でもでも,ラストは思わずジーン...