「掃除をお願いしたい」
そんな依頼が入った。
依頼者は、ハウスクリーニングの個人事業者(男性)。
おおきく括れば同業者である人からの依頼で、例によっての事情があることは、話を聞く前から察しがついた。
男性は、取引先からマンションのルームクリーニングを請け負った。
そこは孤独死の現場。浴室腐乱。
そこで人が亡くなっていたこと、かなりの時間がたって遺体は腐敗していたことは知らされたものの、遺体が腐るとどうなるか、その現場がどんな風に汚れるのかは全く想像できず。
男性は、漠然と“なんとかなる”“なんとかするしかない”と考え、その仕事を引き受けてしまった・・・というか立場的に断ることができなかった。
そして、とりあえず、実際に現場に行ってみた。
すると、目の前に現れたのは、想定外の事象。
それまでに嗅いだことがないニオイと見たことがない汚れ・・・
“とても自分の手には負えない”と即座に白旗をあげ、当方に電話してきたのだった。
話を聞いた私は、その心情と事情が痛いほどわかった。
なんてったって、この私だって最初から特掃隊長だったわけじゃなく、腐乱死体現場にビビりまくってオエオエやっていた初心者の頃があったわけだから(今思えば懐かしいかぎり)。
また、元請業者の命令にそむけないのが下請業者の悲しい宿命。
元請業者に喰わせてもらっている立場では、どんなに酷い現場でも引き受けざるを得ない。
したがって、男性には“断る”という選択肢はなかったものと思われた。
「こりゃ、フツーの人じゃ無理だわ」
現地の汚腐呂をみた私は、フツーにそう思った。
しかも、電気が壊れているうえ、その浴室には窓もなし。
扉を開けていても懐中電灯が必要なくらい暗く、すごく不気味だった。
私が提示した金額は、男性の予算をはるかに超えるものだった。
ただ、“元請業者からの請負金額は既に決まっており、その予算内でやらないと赤字を食ってしまう”とのこと。
結局、私は、苦境にある男性に同情するかたちで、作業料金を破格の安値に変更。
普通なら作業前に書面で契約を交わすのだが、電話の口約束だけでその仕事を請け負うことに。
そして、元請業者から「早くやれ!」と催促されている事情を考慮して、そのまま作業に取り掛かった。
更に、「せっかく頼ってきたんだから」と、私は普段にない男気をだして、請け負っていないトイレまで掃除。
約束以上の仕事をして、その現場を終えたのだった。
男性は現場の惨状を知っているわけだし、清掃業だから作業が過酷なものであることは容易に想像できるはず。
電話の向こうの物腰も礼儀正しく丁寧。
そんな男性を私は信用していた。
しかし、その後、問題は起こった。
請求書を発行しても、代金の支払いは一向になし。
はじめのうちは電話で連絡がとれていたものの、そのうち電話もつながらなくなった。
仕方なく、最初に教えられた住所に行ってみると、そこは男性の実家で出てきた家族に話は通じず。
最初から悪意があったものとは思いたくないけど、結局、バックレられたまま時間だけが過ぎ、今日に至っているのである。
「引越しをするので不用品を片付けてほしい」
そんな依頼が入った。
聞くところによると、依頼者女性は夫との離婚を機に引っ越すことに。
子供は自分が引き取るため、これから母子家庭になるとのこと。
元夫のモノ等、いらないモノがたくさんでるため、それを始末したいようだった。
出向いたのは、どこにでもあるタイプのマンション。
引越しの荷造りを進めている途中のようで、だいぶ散らかってはいたものの“ゴミ部屋”というほどの惨状ではなし。
私は、片付ける物とその量を確認し、要する費用と作業内容を提示。
私一人でできるくらいの量であり、費用も高くはならなかった。
作業内容と料金に納得した女性は、その場で作業を依頼。
私は、いつも通り書面で契約を交わし、作業の日時を調整。
代金は作業後に現金決済することを約束して、その日の現地調査を終えた。
作業の日、私は当初の予定通りに女性宅を訪問。
そして、作業の準備に取りかかろうとした。
すると、女性は、
「お金を入れていた財布を落としてしまって・・・」
「代金は後でもいいですか?」
と、イレギュラーなことを言いだした。
妙に思った私は、
「コンビニのATMとかでおろしてこれません?」
と返した。
しかし、
「引っ越しで出費がかさんだもので、今月は余裕がなくて・・・」
「次の給料がでたら必ず払いますから!」
とのこと。
当日にお金が払えないことを事前に連絡することはできたはずなのに、女性は土壇場になってそれを言ってきたわけで・・・
私は、女性がウソをついているんじゃないかと疑った。
が、せっかく、予定を組み作業の準備をして現場まで来たわけで・・・
また、費用もそんなく高額なものではなかったし・・・
子を育てる母親としての人格もあるだろうし・・・
また、母子家庭であることへの同情心も働き・・・
結局、私は、女性を信じることにして、会社に相談なく独断で代金の後払いを了承。
予定通りの作業を行ったのだった。
話の流れで察していただけると思うが、その後、その女性がお金を払ってくることはなかった。
携帯電話もつながらず、教えられた引越先の住所もまったくのデタラメ。
最初からあったと思われる悪意にまんまとやられ、結局、バックレられたまま時間だけが過ぎ、今日に至っているのである。
上記二件の請負金額は、それぞれ数万円。
公に訴えたところで、経費倒れするばかり。
結局のところ、泣き寝入るほかない。
人として、よくもまぁ、こんなことができるものだ。
こんなことするのは、ほんの一握りの人間のはずだけど、こんなことがまかり通る世の中って、残念で仕方がない。
同時に、思い出すとやはり頭にくる。
“裏切るより裏切られるほうがマシ”なんて上品なこと言ってられない。
しかし、怒ったところで、何も解決はしない。
前回の記事に書いたとおり、怒ってストレスを抱える分だけ自分が損。
忘れたほうが自分ためかもしれない。
これまで、人に裏切られたことは数知れず。
ただ、今まで生きていて、最も多く私を裏切ったのは誰か・・・
それは“自分”。
この世の中で一番信用できないのは自分だったりする。
自分で決めたことを守らない、自分と約束したことを守らない。
忍耐と努力が大の苦手で、諦めることと逃げることが大得意。
ちょっとしたことで私は私を裏切ってきた。
これは、今、私がこんなことになっている原因の一つでもある。
望むような人生が送れていないのは、誰のせいでもなく自分のせいなのだ。
私は、弱い人間。
だから、これからも自分を裏切ってしまうことがあるだろう。
そして、そんな“裏切者”を簡単に赦してしまう自分もいれば、どうしても赦せない自分もいるだろう。
もちろん、そんな裏切者がいないに越したことはないが。
ま、私(人間)なんて、そんなにできた生き物ではない。
そして、それがまた人間らしさなのかもしれない。
そう思うと、
「裏切者(弱い自分)のおかげで、俺も味のある人間になれるのかもな」
と、他人事みたいに笑えるのである。
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おおきく括れば同業者である人からの依頼で、例によっての事情があることは、話を聞く前から察しがついた。
男性は、取引先からマンションのルームクリーニングを請け負った。
そこは孤独死の現場。浴室腐乱。
そこで人が亡くなっていたこと、かなりの時間がたって遺体は腐敗していたことは知らされたものの、遺体が腐るとどうなるか、その現場がどんな風に汚れるのかは全く想像できず。
男性は、漠然と“なんとかなる”“なんとかするしかない”と考え、その仕事を引き受けてしまった・・・というか立場的に断ることができなかった。
そして、とりあえず、実際に現場に行ってみた。
すると、目の前に現れたのは、想定外の事象。
それまでに嗅いだことがないニオイと見たことがない汚れ・・・
“とても自分の手には負えない”と即座に白旗をあげ、当方に電話してきたのだった。
話を聞いた私は、その心情と事情が痛いほどわかった。
なんてったって、この私だって最初から特掃隊長だったわけじゃなく、腐乱死体現場にビビりまくってオエオエやっていた初心者の頃があったわけだから(今思えば懐かしいかぎり)。
また、元請業者の命令にそむけないのが下請業者の悲しい宿命。
元請業者に喰わせてもらっている立場では、どんなに酷い現場でも引き受けざるを得ない。
したがって、男性には“断る”という選択肢はなかったものと思われた。
「こりゃ、フツーの人じゃ無理だわ」
現地の汚腐呂をみた私は、フツーにそう思った。
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扉を開けていても懐中電灯が必要なくらい暗く、すごく不気味だった。
私が提示した金額は、男性の予算をはるかに超えるものだった。
ただ、“元請業者からの請負金額は既に決まっており、その予算内でやらないと赤字を食ってしまう”とのこと。
結局、私は、苦境にある男性に同情するかたちで、作業料金を破格の安値に変更。
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更に、「せっかく頼ってきたんだから」と、私は普段にない男気をだして、請け負っていないトイレまで掃除。
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男性は現場の惨状を知っているわけだし、清掃業だから作業が過酷なものであることは容易に想像できるはず。
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しかし、その後、問題は起こった。
請求書を発行しても、代金の支払いは一向になし。
はじめのうちは電話で連絡がとれていたものの、そのうち電話もつながらなくなった。
仕方なく、最初に教えられた住所に行ってみると、そこは男性の実家で出てきた家族に話は通じず。
最初から悪意があったものとは思いたくないけど、結局、バックレられたまま時間だけが過ぎ、今日に至っているのである。
「引越しをするので不用品を片付けてほしい」
そんな依頼が入った。
聞くところによると、依頼者女性は夫との離婚を機に引っ越すことに。
子供は自分が引き取るため、これから母子家庭になるとのこと。
元夫のモノ等、いらないモノがたくさんでるため、それを始末したいようだった。
出向いたのは、どこにでもあるタイプのマンション。
引越しの荷造りを進めている途中のようで、だいぶ散らかってはいたものの“ゴミ部屋”というほどの惨状ではなし。
私は、片付ける物とその量を確認し、要する費用と作業内容を提示。
私一人でできるくらいの量であり、費用も高くはならなかった。
作業内容と料金に納得した女性は、その場で作業を依頼。
私は、いつも通り書面で契約を交わし、作業の日時を調整。
代金は作業後に現金決済することを約束して、その日の現地調査を終えた。
作業の日、私は当初の予定通りに女性宅を訪問。
そして、作業の準備に取りかかろうとした。
すると、女性は、
「お金を入れていた財布を落としてしまって・・・」
「代金は後でもいいですか?」
と、イレギュラーなことを言いだした。
妙に思った私は、
「コンビニのATMとかでおろしてこれません?」
と返した。
しかし、
「引っ越しで出費がかさんだもので、今月は余裕がなくて・・・」
「次の給料がでたら必ず払いますから!」
とのこと。
当日にお金が払えないことを事前に連絡することはできたはずなのに、女性は土壇場になってそれを言ってきたわけで・・・
私は、女性がウソをついているんじゃないかと疑った。
が、せっかく、予定を組み作業の準備をして現場まで来たわけで・・・
また、費用もそんなく高額なものではなかったし・・・
子を育てる母親としての人格もあるだろうし・・・
また、母子家庭であることへの同情心も働き・・・
結局、私は、女性を信じることにして、会社に相談なく独断で代金の後払いを了承。
予定通りの作業を行ったのだった。
話の流れで察していただけると思うが、その後、その女性がお金を払ってくることはなかった。
携帯電話もつながらず、教えられた引越先の住所もまったくのデタラメ。
最初からあったと思われる悪意にまんまとやられ、結局、バックレられたまま時間だけが過ぎ、今日に至っているのである。
上記二件の請負金額は、それぞれ数万円。
公に訴えたところで、経費倒れするばかり。
結局のところ、泣き寝入るほかない。
人として、よくもまぁ、こんなことができるものだ。
こんなことするのは、ほんの一握りの人間のはずだけど、こんなことがまかり通る世の中って、残念で仕方がない。
同時に、思い出すとやはり頭にくる。
“裏切るより裏切られるほうがマシ”なんて上品なこと言ってられない。
しかし、怒ったところで、何も解決はしない。
前回の記事に書いたとおり、怒ってストレスを抱える分だけ自分が損。
忘れたほうが自分ためかもしれない。
これまで、人に裏切られたことは数知れず。
ただ、今まで生きていて、最も多く私を裏切ったのは誰か・・・
それは“自分”。
この世の中で一番信用できないのは自分だったりする。
自分で決めたことを守らない、自分と約束したことを守らない。
忍耐と努力が大の苦手で、諦めることと逃げることが大得意。
ちょっとしたことで私は私を裏切ってきた。
これは、今、私がこんなことになっている原因の一つでもある。
望むような人生が送れていないのは、誰のせいでもなく自分のせいなのだ。
私は、弱い人間。
だから、これからも自分を裏切ってしまうことがあるだろう。
そして、そんな“裏切者”を簡単に赦してしまう自分もいれば、どうしても赦せない自分もいるだろう。
もちろん、そんな裏切者がいないに越したことはないが。
ま、私(人間)なんて、そんなにできた生き物ではない。
そして、それがまた人間らしさなのかもしれない。
そう思うと、
「裏切者(弱い自分)のおかげで、俺も味のある人間になれるのかもな」
と、他人事みたいに笑えるのである。
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