カタカナ・ミステリー大全

洋物のミステリーの読書日記。原則は文庫本のみ。

アメリカの警官は、ドーナッツが大好き!

どうぞ、召し上がれ。

『触発』今野 敏 中公文庫

2010-08-29 19:07:54 | 和物
 再読シリーズ。というか、間違って二度買いをしてしまった。霞ヶ関の地下鉄駅で爆発が起こる。オウム事件を思い出させる凄惨なテロか。元外人部隊の日本人にとって、久々に訪れていた日本は耐え難いものとなっていた。こんな日本に戦争を挑む。古い日本を背負った男が、プロとしての意地の中に突き進んでいく。カンボジア人の母を地雷で亡くし、自衛隊で爆発物のプロとなった男。斜めに世の中を見ているようで、筋が一方通る同僚。予告電話を受けたばかりに、責めを負い、自身にも課した刑事。オウム事件の頃にもてはやされた若手社会学者。それぞれが事件の渦に巻き込まれていく。その中のメッセージは、こんな日本でいいのかと。テンポのいい進み具合に一気に読了。☆☆☆☆か。

『ゆりかごで眠れ』上・下 垣根涼介 中公文庫

2010-08-16 15:18:04 | 和物
再読シリーズ。今回の舞台は日本とコロンビア。バックボーンはコロンビアである。リキという日系コロンビア人、カーサというコロンビアの少女。コロンビアに移民した日本人の子供リキ。最下層で生きるコロンビア人に育てられ、その中に入っていく。日本では、まさに壊れようとしている汚れ役の刑事、その刑事とかつて付き合っていたこともある女性刑事、リキとともにどこか壊れた世界に生きる。展開の中で、背景が描かれ、そして物語は進む。『ワイルド・ソウル』までの使命感のようなものは表に出ていないが、人間の生きるということ、普通でいられないということ、そうした世界が描かれていく。☆☆☆☆。


『午前三時のルースター』垣根涼介 文春文庫

2010-08-15 23:25:43 | 和物
再読シリーズ。垣根が売り出したのがこの本。旅行会社につとめる主人公、受けた依頼は宝石会社の社長の孫をベトナムに連れていくこと。父がベトナムで失踪、その地をどうしても訪れたいという。ベトナムで父親探し、日本からの友人、ベトナムのタクシー運転手、娼婦、一人一人加わって、捜索へ。一人の男の生き方、これが大きなテーマか。そこにベトナムという舞台が活き活きと描かれるのは、後の垣根作品と通ずる。☆☆☆☆。

『サウダージ』垣根涼介 文春文庫

2010-08-14 11:19:01 | 和物
再読シリーズ。『ヒート アイランド』、『ギャングスターレッスン』の続編。柿沢のチームに加入寸前に追い出された男。コロンビアから来た売春婦DD。男がDDとの関わりによって実によく描かれている。アキは初めての普通の女性と恋をする。柿沢、桃井、アキのチームと男の運命が交錯する。格好をつけながら、必死に生きながら、どうしてこうなってしまうんだ、って思いながら、暗い過去の男がどこか憎めない。DDという女性の日本人規格との距離感といい、面白い。メインの主人公よりも、その回のゲストによってドラマが出来上がっているという感じも強いが、面白い。読ませる。☆☆☆☆。


『ワイルド・ソウル』上・下 垣根涼介 幻冬舎文庫

2010-08-09 22:25:18 | 和物
 再読シリーズ。戦後日本の移民政策。南米各国へ、多くの日本人が移民した。彼等を待ち受けていたのは、地獄。移民ではなく、棄民政策。これを垣根は見事に描く。これを行った日本政府、外務省を叩く。衛藤を通して描かれる移民一世の世界に驚く。その一方で、人間の愛にも驚きも。ケイ、松尾という二世たち。それぞれが自身の、そして一家の歴史を引きずりながら、生きている。圧倒的な出来事を、見事に表に出して見せ、それでいて読ませる小説にした垣根という人は大したものである。貴子もいい。人物が皆生きている。☆☆☆☆☆。読むべし。歴史を知ることは大事なことだ。

『ギャングスターレッスン』垣根涼介 文春文庫

2010-08-08 23:18:55 | 和物
 『ヒート アイランド』の続編。再読シリーズ。アキが帰ってきた。ニヒルな中年の柿沢、メカ担当の桃井。このチームにアキが加わった。チームとなるための修行の日々編。前作ほどの緊張感なく、これからという所。なかなかのキャラクターが出てくるが、これで新しいシリーズできたらなとも思わせる。この三人のチーム、続くのかな。続いたら面白いけどな。☆☆☆ほ。

『ヒート アイランド』垣根涼介 文春文庫

2010-08-07 17:21:20 | 和物
 再読シリーズ。渋谷でファイト・パーティーを仕切るストリートギャング雅。そのトップのアキが主人公。一方で、三人組の強盗団。裏の金しか狙わないことで、警察からは追われない商売にセイを出す。今回も暴力団の裏カジノから売上金の強奪に成功。ところが引退を決意したその内の一人が、雅のメンバーに襲われ…。そこから暴力団、ストリートギャング、強盗一味との間で、「息詰まる攻防」となった。これ、アキがいい。そして強盗一味のそれぞれの味も。かき人を描かせるのがうまい。☆☆☆☆。

『弁護側の証人』小泉喜美子 集英社文庫

2010-08-05 22:42:55 | 和物
 「日本ミステリー史に燦然と輝く、伝説の名作」と帯にある。1963年の作品で、74年に文庫化。それがまた復刊とか。結構評判になっていた。恥ずかしいながら、私は設定を勘違いしてほとんど終盤まで読み進めてしまった。いや、まいった。ストリッパーの女性が大金持ちの御曹司にみそめられ、結婚。されど、まわりが認めず…、そこで突然、父親が殺される。という話。やはり古めかしくて、☆☆ほ。

『死亡フラグが立ちました!』七尾与史 宝島社文庫

2010-08-02 23:11:11 | 和物
 第8回『このミステリーがすごい!』大賞の最終候補作品に「加筆」(とは文末にあるが)したもの。実際は800枚という長編を削って整理されているらしい。(大森望氏解説)三流出版社の雑誌で食いつなぐフリーライター、都市伝説をテーマとしていたが、究極の都市伝説の記事を求められる。「死神」という謎の暗殺者を追うことに。事故としか見えない事件がこの「死神」によるという。標的にはトランプのジョーカーが送られるとも。ライターの陣内、その先輩の本宮。このほかに定年間近の板橋刑事とコンビを組む御室刑事、さらに数人の登場人物がそれぞれの視点で描かれていく。ヤクザの親分が死んだ事件から迫る陣内ら、十数年前の殺人失踪事件から迫る刑事、さらに洋菓子を作る主婦、小説の世界を自身と同化させる女性etc. 馬鹿馬鹿しさに溢れ、展開は猛スピード。そして衝撃の結末へ!という感じ。この一冊で終わらせるのはもったいないキャラクター達もいて、これはなかなかのもの。作者の今後にも期待。☆☆☆☆☆といっちゃいましょう。