夜四部作の第二作。主人公野本了治。高三の四月に友人で生徒会長の榊信明に誘われ、バンドをやることに。ギターとヴォーカルの野本、信明はベース。副会長で信明の彼女の萩原昌子はエレキピアノ、昌子の友人、吹奏楽部の花形奏者小出君香がクラリネット。元バスケ部のエースで別のバンドでもドラムを担当の辰巳壮介。壮介と君香は学校一の美男美女、皆がスターで一人スターでなかったのに「野本了治バンド」。40歳、18歳8月、21歳、31歳、40歳、18歳9月、25歳、34歳、40歳、18歳12月、29歳、38歳、40歳、18歳3月、29歳、39歳、そして40歳。5人の、そして野本を中心とした世界の物語。時を行きつ戻りつしながら、この5人の世界が描かれていく。☆☆☆☆ほ。
再読だった。夜四部作(2020年の段階では三作まで)の第一作とされる作品。主人公下田保幸は46歳のクラリネット奏者。所属していたバンドがリーダーの死による解散で、今は音楽教室と時折ある演奏の仕事。畑に囲まれた小さな一戸建てに住み、豆腐と納豆、週一のファミレスのモーニングバイキング(朝食海賊)で生きる。だんだんクラリネットに触れる時間も減っていく時に、警察からの電話が出会いをもたらした。そこからの一年間、停滞から始まる物語。前半の下田の生活、これ『食っちゃ寝て書いた』の主人公の生活にかぶる。小野寺さんはこんな生活…と思わせる。人が人とつながっていく。過去のつながりがようやく見えてくる。保幸は再び立つのか。☆☆☆☆。
主人公は小説家横尾成吾。そしてもう一人、編集者の井草菜種。三月から始まり、二月まで、横尾、井草それぞれの一人称で物語は進む。50歳にして1DKで一人住まい。朝4時半に起き、食って寝て書いての横尾。買い物は二日に一度。豆腐とキムチ、ご飯はパックを温める。3月、二度の大きな書き直しをした原稿がボツとなった。そこで編集者が井草に代わった。井草菜種、開業医の父を持ち、成績優秀で医学部をいくつも受けるが全滅。受けてあった文学部にそれもいい大学なのだが、合格し、ボクシングを始めた。プロテストを受けるが落ちた。それでも就職は大手出版社に合格し、編集者。30歳。どこまでが「本当の」世界なのだろうと思いながら、読んだ。読んで、寝て、読んだ。面白い。小野寺さんの本はいろいろ読んできたが、今回のはとても面白い。☆☆☆☆☆。
純文学作家ポール・オースターによるハードボイルド小説。池上冬樹氏の書評でほぼ☆5に近いとの評価のあった作品。ニューヨークの私立探偵マックス・クライン、検事補時代に理不尽なことを求められてドロップアウト。アイビーリーグ時代に野球を。その頃にスター選手でメジャーでも大記録を打ち立てたジョージ・チャップリンから自身が脅迫を受けていると依頼を受ける。美人の妻、プリンストン大学の教授、メジャー球団のオーナー、マフィアのボス。多彩な面々が登場。訪ね、会話し、殴られ、撃たれ、ハードボイルドだどという展開。ただ、相性というのでしょうか。☆☆☆という感じ。
「解体屋、風俗経営者、ヤミ業者になった沖縄の若者たち」の物語。筆者は社会学者で、参与観察という手法をとる。沖縄でゴーパチと呼ばれる国道58号線で暴走を繰り返す暴走族やその見物に集まる若者たちの中に入り、彼らの生活を聞き取っていく。建築現場、解体業、風俗業、キセツ(内地への長期出稼ぎ)などそれぞれの場で生きるヤンキーの声を聞き、地元の意味、先輩と後輩、結婚などが見えてくる。なんとも凄い世界が見えてくる。☆☆☆☆。
5本の短編から成る綾瀬署警務課長代理柴崎警部シリーズ第5作。綾瀬署には相変わらずの面々。今回は宿敵中田(元企画課長で上司)、新キャラ松江西新井署長(女性で濃いキャラ)などが登場。暴力団事務所が綾瀬署管内に出来、反対運動がおこる。その辺りの対応など興味深い。少々、筋が荒い感じで、キャラもいまひとつ生きてきてないような。☆☆☆。
警察庁企画課係長から綾瀬署警務課長代理に左遷された柴崎警部のシリーズ4作目。かつて警察手帳を無くした女性刑事も成長しつつある。女児行方不明事件。女性署長の坂元、そこに入ってくる警視庁捜査一課。さらに千葉県警まで巻き込んでの物語。上河内という刑事課長代理が新たなキャラクターで登場。柴崎を引っ張りまわす。☆☆☆ほ。
「全米で100万部とっぱ!」という文字が帯に。「実話に基づく傑作歴史ミステリー」というのがこの本。ボストン大学で古典言語の修士号を取得というケイト・クイン。古代ローマやイタリアのルネッサンス期を題材に書いてきた人とか。主人公シャーリー・セントクレア。アメリカの裕福な家庭に育つ。第二次大戦後、退役してきた兄が自殺。大学生の彼女は自分を失い、その結果、ヨーロッパへ母と向かう。「ささやかな問題」を処理するために。もう一人の主人公イヴリン・ガードナー。イギリスに住む偏屈な女性。第一次大戦中にはスパイであった過去が。第二次世界大戦後の1946年頃と、第一次世界大戦中の1916年頃との二つの時間で物語が進む。過去の物語と現在の物語。その中で二人の女性、ヒロイン達と一人の男に一台の車のロードムービーでもある。実に面白い。☆☆☆☆☆。
大卒でタクシー運転手となった主人公の高間夏子。アパレルのスーパー販売員にして柔らかな母と暮らす。高校教師の固い父とは中学の頃に離婚している。「十月の羽田」「十一月の神田」から「三月の江古田」まで田で終わる地名がつく六カ月の物語。同僚、お客、見合い相手、いろいろな人が登場し、お仕事・成長物語であり、家族の物語であり。☆☆☆ほ。
舞台は中堅広告代理店中和エージェンシー。そこに働くアラフォーたちが主役。あの本城雅人がこういうのを書くんだと思いつつ読み進む。六つの短編からなる。明るいがうっかりの多い阿南が営業第三課長となる。39歳。同期の石渡は営一課長に最年少でなった。有能だが自信過剰のナルシスト。途中入社で阿南とともに営四課長となったのが元陸上短距離の和田。同い年で上司と不倫中。阿南の同期三人の内で社長秘書(課長級とか)の吉本は、何故か社長から遠ざけられていく。途中入社でもう一人の同い年の課長、事業二課長の平松は先代社長の息子。テレビ局を辞めて入ってきたが、二世風を吹かさないという稀なタイプ。会社はなかなか良い雰囲気だが、彼らアラフォー達を見守り、時々導きを与えるのが専務の武居。一丸商事でトップの実績をあげていた部長から先代社長のヘッドハンティングでやってきた。「四十過ぎたら出世が仕事」という言葉をアラフォー達に伝えながら、次期社長と目されている。登場人物それぞれに物語があり、それぞれの展開がある中で、会社という社会、人生というものが。ということか。☆☆☆ほ。