系譜としては『ナミヤ雑貨店の奇蹟』。主人公の直井玲斗。シングルマザーに育てられたが母は病死。会社の不正を客に漏らしたことから馘になり、会社から機械を盗もうとして捕まった。助けてくれたのは会った記憶もない叔母。その叔母からクスノキの番人になれと言われて物語は始まる。神社にある大きなクスノキ。満月と新月近くの夜、クスノキの洞へ祈念のために訪れる人がいる。その世話をするのが番人の仕事、の一部。本当の仕事も、祈念のことも叔母は何も教えてはくれない。こちらの世界、そしてもうひとつの世界がつながるのは『ナミヤ…』と共通するものが。☆☆☆☆。
とある住宅地。路地を囲む10軒の家々。そこに住む人々の物語。冒頭に住宅図があり、それぞれの家族構成が簡単に示される。刑務所から脱走した女性がその町付近に来ているとの情報が舞い込み、そこから家々の物語が紡がれていく。町内会で協力して見張りをするということで、普段とは別のうねりが家々に起こる。次第に明らかになる人々の世界、その中で必死に生きる人々。それぞれの過去がつながることもあれば、思わぬ展開に見えてくるものも。不思議な、そしてどこにでもあるような物語か。☆☆☆☆。
5本の短編から成る綾瀬署警務課長代理柴崎警部シリーズ第5作。綾瀬署には相変わらずの面々。今回は宿敵中田(元企画課長で上司)、新キャラ松江西新井署長(女性で濃いキャラ)などが登場。暴力団事務所が綾瀬署管内に出来、反対運動がおこる。その辺りの対応など興味深い。少々、筋が荒い感じで、キャラもいまひとつ生きてきてないような。☆☆☆。
警察庁企画課係長から綾瀬署警務課長代理に左遷された柴崎警部のシリーズ4作目。かつて警察手帳を無くした女性刑事も成長しつつある。女児行方不明事件。女性署長の坂元、そこに入ってくる警視庁捜査一課。さらに千葉県警まで巻き込んでの物語。上河内という刑事課長代理が新たなキャラクターで登場。柴崎を引っ張りまわす。☆☆☆ほ。
2022年直木賞受賞作。ミステリー作家として知っていた。歴史小説?というのも意外な感じがした。実にしっかりとした歴史小説であり、そしてミステリーの短編がいくつも含まれ、そして人間を描いた。主人公は荒木村重。摂津に生まれ、池田家を下克上、そして信長から摂津一国を任されることとなる。その村重が、信長軍による丹波、播磨攻めの最中に、本願寺、毛利と連携し謀反。物語はその拠点有岡城で始まる。謎とも言われる村重の謀反。そしてそこに黒田官兵衛(当時は小寺)が説得のための使者として訪れ、土牢に幽閉されたことは知られている。そこから紡ぎ出された物語。謀反ということ、有岡城は初の総構えという巨大な構造で堅固を誇る。そこを守る家臣達は荒木家代々の家臣というのではない。いくつかの謎、それらは有岡城の崩壊の予兆なのか。その謎を共に語る相手は官兵衛しかいないという現実。実に面白く、また村重の有岡城脱出まで見えていて感服。☆☆☆☆ほ。
やってきました神奈川県。キャリア警察官僚竜崎伸也、身内の不祥事から所轄の署長に。そして今回、神奈川県警の刑事部長でやってきた。事件の舞台は町田市。これが神奈川県に突き出した東京都。警視庁との合同捜査となった。警視庁からはおなじみ伊丹刑事部長、田端捜査一課長らもやってくる。ライバル関係にある二つの組織。新たな地で、竜崎ならではの、それでも大森署での経験によって成長した竜崎の世界が広がる。奥さんが要所で登場も。☆☆☆☆。安定の一作。
主人公は元経済新聞の記者でフリーライターの上阪傑。ゴーストライターを務めることが多く、過去に三冊のゴーストライターを引き受けたIT企業会長から呼び出しを受ける。そこで依頼されたのが自伝。それも余命三ヶ月という宣告を受けてのものという。主人公上阪傑の章、釜田芳人の自伝、和泉日向の章と視点を変えながら進んでいく。過去の自伝執筆の際には明かされていなかった事実。空白の期間、ゴーストライターとして対象に成り代わって描いたことが嘘だった!ことも。そこにある二人の男達の若き夢の日々。現在の若者たちの夢と現実。それらが描かれる中で次第に明らかになっていくものが。そした最後にもうひとつのどかん。面白い。人というものが描かれている、謎の深まりとその謎解きもまた。これもまた新しい本城雅人の世界。☆☆☆☆ほ。
大手ゼネコン鬼束建設の新井と、中央新聞調査報道記者の那智、深谷、向田。それぞれの視点を移りながら、この国の未来をみつめる。IR(統合型リゾート)開発を巡る闇。ゼネコンの新井はかつて談合の疑いで逮捕された経験がある。中央新聞の那智は伝説の調査報道記者を叔父に持つ。深谷と向田は情報提供者を守れなかった負い目を持っている。両者の視点が目まぐるしく変わり、少々わかりづらいこともある。それでも様々な役者が味を持つ。仕事への誇りというのもテーマのひとつ。☆☆☆☆
主人公はレスリングの元オリンピック強化選手にして新米の弁護士杉浦小麦。仕事が無く、楽な事件の国選弁護人を引き受けたつもりが、えらいことにはまり込んでいく。同僚を殴打、被害者と目撃者の証言で加害者の同僚は速やかに逮捕。そして罪を認めており、すんなり行く筈が、そこに大きな罠が隠されていた。法律に従うか、良心に従うか。そこで新米が踏ん張る訳ですが、小麦のキャラクターはまあまあ面白い。悪役が強烈。脇役が少々登場が少ないがこれまた魅力的。この本、1.5倍の分量で書いてくれたらもっと面白くなりそうな気がするのですが。☆☆☆ほ。
木内一裕の矢能シリーズ第5作。元ヤクザ、「探偵」業の後を継ぎ、その「娘」の栞を引き継いだ。このシリーズ、栞やもっとチョイ役の情報屋といった脇役が効いている。正岡なる怪しげな人物への2億円の要求、その引き渡しの仲介として名指しされた矢能。引き受けるつもりはなかったがまきこまれていく。孫娘からの依頼ということで動き出す、引き受けると栞が喜ぶ。途中、すっ飛ばし展開というのもあるが、シリーズとして楽しむのにはいいか。☆☆☆ほ。