高橋和明は以前から読んでいる。しかし、この作品には驚いた。日本の小説と海外物では空気感が違うと思っていた。それがこの作品では、日本の作家がそうした空気感を表現している。感心。イラクと日本。イラクに派遣された傭兵と日本の薬学を学ぶ大学院生。二つの舞台で物語は始まる。薬学を学ぶ学生は亡くなった父から託されるものに向けて進む。必ずしも近しくなかった父と子。アメリカ人の傭兵は病気の子を抱えていた。死に向かうわが子のために新しいミッションに加わる。二つの世界が交錯することとなり、新たな生命を賭けての壮絶な戦いが繰り広げられる。読み応えあり。☆☆☆☆ほ。
父親が四人。高校生由紀夫を主人公とする物語。二股どころか四股が明らかになった時、母の知代は「だって、訊かれなかったから」と答えた。大学の教員で沈着な読書好きの悟。中学校教師で由紀夫にバスケ、格闘技を教えた勲。ギャンブル好きの鷹、バーをやっていて知代の携帯に「女好き」とある葵。四人が父親となり、同じ屋根の下で暮らす。同級生の多恵子、中学の同級生鱒二らが絡んでくる。非日常なれど、四人の父親との会話、同級生との会話、不思議な町の選挙戦などが絡んで、平凡な高校生の日常から事件に巻き込まれていく。伊坂ワールド絶好調でありまして、☆☆☆☆。
両親はドイツ・ハンブルク出身、ウィーン生まれ、イギリス育ち、ドイツ在住であったジンメルのスパイ小説。開高健の『最後の晩餐』で賞賛の本。出版は何と1960年。確かに、時代を感じさせる古めかしさ。でも面白いのです。時代は第二次世界大戦前。ドイツ人でイギリスで銀行家であったトーマス・リーヴェン。彼はパートナーに陥れられて、諜報機関で働くことに。ドイツ人でありながら、フランス、イギリス、ドイツなど、いくつもの国の諜報機関から誘われ、追われ。ナチとは一線を画しつつ、裏社会にも潜っていく。リーヴェンは料理も得意で、要所要所で料理を作る。その詳細なレシピ付きメニュがいいのですよ。作ってみたいと思わせる。料理ができないのに。いい男で、頭が良くて、それでいて、次から次へと落とし穴に落ち、そのストーリーはぐいぐいと引き込んでくれます。驚きの日付も(個人的に)出てきたりしましたが、実に面白い。続編は文庫になってなくて、大きい本を買いました。☆☆☆☆☆。