「20代、30代、40代、50代、60代、70代」。いいオトナたちが経験する6つの“初めて”。そこには新たな可能性が待っている、」と帯にあった。6つの短編から成る。人生の扉がその言葉で開かれたのか。ということだが、あまり面白くなかった。☆☆ほ。
赤松という作家のことを知って、読んでみた。舞台は北海道の島。紀州雑賀崎を発祥とする一本釣り漁師船団、「海の雑賀衆」の物語。船頭の大鋸権座、膀胱が緩んでいる加羅門寅吉に精神が病んでいる鴉森留吉。無類の乱暴者の狗巻南風次に主人公の水軒新一。それぞれに異能の漁師、それぞれにどうしようもない者たち。一艘の船での一本釣り。その漁法は最高の魚を得る。されど時代の波の中でぎりぎりの漁が続く。迫力のある描写、人物像も個性に溢れる。そこへ外からの新しい風、大きな風を受けて海の雑賀衆が輝きを見せるかと…。途中からの展開の激しさにちょっと疲れて☆☆☆ほ。
朝の通勤快速電車。そこに乗り合わせた7人の物語。それぞれが放つものは、竜であり、情、銃、今日、ニュー、業(ごう)、そして空(くう)。大学生、講義内試験を受ければ単位が取れる。なのにお腹で竜が暴れ始めた。快速電車は駅を飛ばして走る。次で降りれば単位は絶望。下車駅まで竜を飼いならせるか。突然、横の女性が座り込む…。同じ電車、同じ車両、同じ辺りに乗り合わせた7人。時に絡みながら、それぞれの人生がある。ということだが、もう少し、あと5人位でさらに絡めばという感あり。☆☆☆ほ。
こども食堂を舞台とした物語。開店前の4時半から終了の8時まで、10の物語から成る。「クロードこども食堂」を開いた松井波子。ボランティアの女子大生木戸、母に連れられてやってきた牧斗、最初は父に連れられて来て今は一人でやってくる千亜、ボランティア男子大学生鈴彦、牧斗の母貴紗、波子の息子航大、ボランティアで最年長石上、やってくる老人宮本、そして波子。それぞれの視点からの物語。読み進む中でそれぞれの世界が、そしてつながったり、別であったりした世界が描かれていく。☆☆☆☆☆かな。
作者は『戦場のコックたち』も書いた人。アメリカ軍を舞台とした小説に全く違和感、日本人が書いている感が無くて驚いた。今回はファンタジーというべきか、とても変わった小説。大きな川に挟まれた菱形のような読長町、そこにある御倉家は全国でも知られた書物の蒐集家。その孫娘が主人公の御倉深冬。読書家で書物の蒐集家であった祖父は地下二階、地上二階の書庫を一般にも開放、その妻は本の盗難を契機に開放を止め、盗難防止に必死。息子あゆみは柔道場をやりながら妹のひるねとともに書物の管理をする。あゆみの娘深冬は本が嫌い。何故かそれが本の世界に引きずり込まれる。本が盗まれるたびに、読長の町がその本の世界となってしまう、「ブック・カース」。これは本を盗まれないための呪いとか。盗人がつかるまでそれは解けない。物語は進む。不思議なお話。☆☆☆ほ。
『横道世之介』を読んだのは10年前、2013年のことだった。(ちなみに刊行は2009年)この本、今は『おかえり横道世之介』となっていて、『永遠と横道世之介』と続く。さて、『続…』である。世之介24歳を中心に物語は進む。大学以来の友人コロモン、パチンコ屋で出会った浜ちゃん。桜子と亮太。隼人もいる。留年をして大学を卒業、就職しそこないパチンコとバイトで暮らす。その中で出会う人、人。物語は時空を超えて、飛ぶ、飛ぶ。コロモンとアメリカを旅して、桜子と買い物に。自動車工場で働きながら、ヤンキーだらけの小岩、南米の娼婦がいる池袋。光司のもとで一緒にプロレスを見る隼人。何物でもない世之介、世之介には人に言ったこともないことを話してしまう人、人。最低の一年だから、これからは上。☆☆☆☆ほ。
単行本として刊行されたのは2019年7月というこの小説、ちょっと驚く。伊坂作品では章の頭に独特のイラストが付けられることがあるが本作も。今回はそれに川口澄子の描く台詞無しアクションシーンが何か所かに挿入される。作者曰く「アクションシーンは、小説が苦手とするもののひとつではないか、と…」いうことでの合作。クジラアタマとは大きな不思議な鳥の異称。夢の世界に登場し、その夢の世界と現実とがリンクする。その夢を見ることができるのは限られた人、主人公、都議会議員、有名ダンサー。そこに新型インフルエンザのパニックが。2019年に新型インフルエンザが流行、そこからというが、我々は2019年と言えばその後にくるコロナ禍のパンデミックを思い起こすわけで、おう、伊坂の未来予測、と思ってしまう。主題とは別の部分での衝撃もあって☆☆☆☆ほ。
再々読シリーズ。最初に読んだのは2005年、まだ伊坂作品を読み始めたばかりの頃。冒頭に掲げられたエッシャーの絵。これが本作の中に大きな意味を持つ。延々と続く騙し絵の階段とそこを登る、あるいはたたずむ兵士(または僧)。五つの視点で物語。大手の画商戸田、戸田にからめとられようとしている新進の画家志奈子。独特の美学を持つ空き巣専門の黒澤。新興宗教の教祖にひかれる画家の河原崎と教団幹部の塚本。配偶者の交換殺人を企むサッカー選手の青山と精神科医の京子。さらに元デザイナーで再就職に失敗し続ける豊田。彼らの物語が時に交錯しながら、進んでいく。黒澤のつぶやきは例によっての世界であるし、最後にすべての糸が紡がれていくのもまさに伊坂ワールド。☆☆☆☆。
再読シリーズ。仙台、東北大学法学部の5人の物語。東堂、西嶋、南、北村という東西南北に鳥井(頭がヤマセミ)。入学から卒業までが春、夏、秋、冬、そして春という5章の物語。東西南北が集まって麻雀をする。何ともベタな、それでいて世界の平和を目指してひたすら平和を上がろうとする西嶋に心つかまれる。砂漠、という世界。そこに出ていく前の物語ということでもある。☆☆☆☆ほ。
そして続編を再読シリーズ。家のどこかにある筈だけど、また買ってしまいました。語り手は武藤。上司が主任となった陣内。武藤はぶつぶついいながら一緒にやっている。今回は陣内の友人、永瀬が結構活躍する。少年法のこと、罪とはなんだということ、難しい要素が詰まっている。軽い調子でつづくのだけれど、難しい問題なのだ。☆☆☆☆ほ。