第8回『このミス』大賞受賞作。中山七里はこの選考の際に、二作が最終候補となったという。もう一作も『カエル男』として刊行。本作はピアニストである岬洋介のシリーズ。私立高校の音楽科に通う娘の語りで物語りは始まる。祖父は名古屋の資産家、銀行員の父と母、叔父は家でぶらぶらしている。従妹のルシアはインドネシアに移住した叔母夫婦の娘、両親はスマトラ沖地震で亡くなっている。同じ敷地の祖父宅で従妹と二人泊まりこんだ日に火事、ここで祖父と少女が亡くなった。そこから始まる謎解きの物語。根幹となる幹に、枝が広がり、葉が茂る。それが小説の面白さとすると、ピアノ演奏という葉が見事に茂っていき、実に読ませてくれる。ミステリーとスポ根の融合と解説にあったがそんな要素も。そして謎解きであるが、あっと言わせてくれました。☆☆☆☆ほ。
キャリア警察官の竜崎伸也、前作以来、息子の事件で左遷された大森署署長を務めている。アメリカ大統領の来日が決まり、その対策が取られる中、第二方面警備本部本部長の命が下る。異例の命であったが引き受け、第二方面は羽田空港を含む管轄となる。アメリカのシークレットサービスの先遣隊との仕事、そこでもあの変人竜崎が発揮される。実に清々しい。こうなれたなら、自然体の羨ましさに皆が引かれるのも分かるというもの。幼馴染(竜崎によれば小学校で同級だったというだけ)の伊吹刑事部長、大森署のはずれ者刑事戸高など脇役が今回も利いていて面白い。思わず前作を読み直した。☆☆☆☆ほ。
ヤクザの足を洗い、山奥で木彫りをして暮らす主人公の榊原健三。ヤクザ時代の兄貴分が訪れて見せた一枚の写真が榊原を山を降りさせることとなる。一人の女性を守るためにどこまでできるのか。探偵はバーのシリーズで登場の桐原も登場。あまりにもハードなアクションシーンの連続で、いつもの北海道の闇を抉るという部分は希薄なれど、東直己北海道シリーズのひとつの柱という。☆☆☆ほ。
元新聞記者で札幌の私立探偵、畝原シリーズ。『熾火』を先に読んでしまった。この作品、そして『悲鳴』が先にある。マンションの部屋に女子高生を連れ込む区役所職員。その調査からその父も登場し事件は急展開。そこにSBCテレビのディレクターで不遇時代を助けてくれた友人の依頼を受ける中でさらに大きな事件が。保険金詐欺、新興宗教などがからまって、畝原一家にも危機という物語。相変らずではあるが、北海道の闇は深く、ここでもそれがテーマとなる。今回は友人で不遇時代に助けてくれた横山が活躍。☆☆☆☆。
建設コンサルタントの二宮と、ヤクザの桑原の厄病神シリーズ。今回は大宗門の内紛の中で祖師絵伝絵巻を巡って西へ東へ大暴れ。二宮は相変らず。従妹の悠紀に紹介された麻衣の所に避難したり。絵巻にからむ約束手形から桑原がシノギを始め、二宮が巻き込まれる。ピストル、ナイフと出てきて、東京のヤクザと大暴れ。若頭の嶋田が要所で現れ、ヤクザ社会が見えてくる。相変らずのフルパワーで面白い。そう言えば、黒川さん、キツネメの男だとされて反論してたけど、どうなったんだろう。☆☆☆☆。
舞台は東京近郊、西のニュータウン。主人公山崎は新潟に生まれ、昭和一桁、高卒で丸の内銀行に就職、くぬぎ台ニュータウン二丁目にマイホームを構え、毎朝、6時57分の新宿行き急行で通い、二女を育て上げた。一丁目はその先輩世代、以後五丁目まで約20年の幅がある。定年を迎えた男達の姿が描かれる。私鉄不動産開発でくぬぎ台の開発を担当した藤田、大手広告代理店の敏腕部長で町内会長を勤める古葉、運輸会社で西日本進出の尖兵として各地の支店長を務めてきた単身赴任男野村など、定年族の世界が描かれる。そしてそれぞれの家族の物語が。人間を描くのだ。上手いものだ。そこまで抉るか、家族、夫婦、親子の問題がきゅんと来る。一種の応援歌である。それでいい。☆☆☆☆ほ。
NHK BSドラマだったと思う。堤進一が主人公でいい味を出していた。その原作。舞台は重松の故郷だろう備後市。昭和37年生まれの息子アキラと父ヤスの二人暮らし。愛妻は事故で亡くした。ヤスの回りには、たえ子ねえちゃんの居酒屋に、幼馴染で海雲和尚の跡継ぎ照雲などがいる。アキラの成長、ヤスさんの悩み、いろいろがまざりながら、昭和という時が過ぎていく。まわり全体で育てあっていく、ああ、こんな時代があったのかなと、心の素朴なところにじわーんと来る。こういうのに弱いんだなぁ。ついでながら、テレビドラマはよく出来ていた。☆☆☆☆ほ。
元新聞記者で札幌の私立探偵、畝原シリーズ。順番を間違えた。娘が既に高校生になっていた。姉川とは「待っていた女」以来、交流は続いている。今回のテーマは北海道の闇。北海道警察の闇が外に出ようとする。それを防ごうとする力に姉川が…。この小説もススキノシリーズと同じ幹から出た枝であって、「俺」が関わる週刊「テンポ」の居残氏の記事の話なども出てくる。東の北海道小説というのは、大きな幹からいくつものシリーズが螺旋のようになっているというの、確かにそうだ。☆☆☆☆。
『駆けてきた少女』ススキノ探偵シリーズ第七作からスピンアウトしたような本作。主人公はススキノを地元とする高校三年生の松井省吾。前半は妙にこの高校生の省吾にいらいらさせられる。デブの「便利屋」の「俺」が登場し、松尾や高田が出てくると、何だか急に落ち着いてきた。高校生でススキノで飲み歩き、大人の飲み仲間も持つ省吾。ホステスの真麻とつきあいながら、受験勉強も欠かさない。この頃の年頃の生意気雰囲気を見事に出しているということか、鼻につく。同級生の金井、同じく同級生でススキノ探偵シリーズでも重要な役となる柏木。本編とは別の角度から見た世界となる後半は面白くなった。☆☆☆ほ。
元新聞記者で札幌の私立探偵、畝原を主人公とするシリーズ。『待っていた女』は畝原と同じ無認可学童保育所に娘を預けるデザイナー姉川の事件。短編で、少々強引な結末に。☆☆☆。『渇き』は依頼によってSMクラブに踏み込み、そこで事件がもつれていく。ススキノ探偵シリーズの「俺」に較べて、やや小難しい傾向が畝原シリーズにはある。これは主人公のタイプの違いだろうけれど、好みから言えば、「ススキノ」の方がいいな。☆☆☆ほ。