第15回このミス大賞受賞作。がんセンターの呼吸器内科夏目、その友人で病理学医の羽島、保険会社の森川。夏目の患者であった末期がんの患者でリビングニーズ特約の患者が続けて保険給付後にがんが寛解していた。そこから謎解きが始まる。本格的医療ミステリー。何故末期がんの患者が保険金を受け取った後に寛解するのか。湾岸医療センター病院では富裕層や権力を持つ患者に指示され、移転したがんも消え去るという噂。そこに夏目の先生も…。確かに本格的な医療ミステリーである。どうしてがんが消える?ただ、小説としての完成度はちょっと疑問も。大きな展開ではあるけれど、ちょっと、という気がする。☆☆☆
クリスマスに倒産が決まった子供服メーカーの社員大和俊介、その社長英代、ベテランデザイナーのベンさん、若手デザイナーの折尾柊子、東大出の女性社員朝倉。会社の別事業の保育所に通う航平。その母、父。大和は父の母へのDVに悩み、立ち向かい、挙句に母から梯子を外された過去を持つ。それを救ったのが母の友人であった英代と亡くなったその夫。その会社で学生時代からバイトをし、正社員となった。柊子と結婚を約束したが、幸せな家庭に育ち、いい育ち方の柊子がまるで違う辞書の世界にいることを知り、別れてしまう。そんな時に、航平の両親が離婚をしようとしているのに立ち向かう航平。彼との関わりの中でそれぞれが掴んでいく。ああ、そうなのだ。幸せな家庭を持てなかった者に、幸せな結婚像を描くことはできません。何とも、かんとも。悪役も憎めない。ぐっときた本です。☆☆☆☆☆。
スウェーデン・ミステリー。作者はスウェーデンの脚本家二人。原題は「秘められたもの」というものであったという。主人公セバスチャンは“元”犯罪心理捜査官。心理学者で国家刑事警察の殺人特別班のフロファイラー。ストックホルムから離れたヴェステロースの町で殺人事件が起こる。国家刑事警察の殺人特別班トルケルのチームが捜査を行うことに。ヴェステロース出身で両親との不和から帰ったこともなかったセバスチャンは、母の死とともに故郷へ、そこで自身の知らない手紙を発見し、トルケルのチームに加わることに。登場人物がいい。セバスチャンは善人ではないし、トルケルのチームのウルスラ、ヴァニヤは有能であるけれど、それぞれの中に何かを持った女性。ビリーはまとも。ヴェステロース警察の警部であるハラルドソンがいい。その中で、捜査が進み、そして暗転、そして…。あれ、まだ頁がと思うと、しっかりとひっくり返り、面白い。鉱脈発見。☆☆☆☆ほ。
柴崎令司警部、警視庁総務部企画課係長から綾瀬署警務課長代理の第五作。五本の短編からなる。腰巻に「柴崎警部に“相棒”誕生!」と出ていた。刑事の上河内。相棒というか、柴崎の影が薄くなっていく。警察という所も人の業の世界ですねと。☆☆☆ほかなと。
再読シリーズ。2005年の「この文庫がすごい!」第1位に輝いたという作品。作者は徳山諄一、井上泉の二人の合作。冒頭が死期が迫る父から息子への手紙。かつて誘拐されたことのある息子にその詳細を語る。そして父の無念も。手記の中で、誘拐の状況が明らかにされていく。その犯人は分からない。父の死後、何年か後に、その誘拐の身代金が偶然発見される。息子はそれを読むこととなった。そこから新たな犯罪が始まる。コンピューター時代とともに書かれた小説であったが、今なら…という所はある。それでも結構面白い。ただ、プロットの面白さがその時代には大きく評価されたのかという感も。☆☆☆。
警察学校小説第二弾。それぞれの生徒を主人公とした「創傷」「心眼」「罰則」「敬慕」「机上」「奉職」の6編の短編から成る。隻眼の教官風間の生徒達。前半は、少々やるせない。生徒達がこんな風に消えていくのかと。厳しいというか、そんなのがいるのかというか。そんな中で人間の弱さというのが見据えられているということなのだろうな。警察小説好きとしては面白いことは面白いが、前半の調子が続くと、嫌ミス気分になるところ。☆☆☆ほ。
検事や弁護士の作品がある柚月裕子による警察小説。悪徳警官が主人公ともあるが、とにかく警察小説。舞台は昭和の末、広島県の呉がモデルの呉原市。そこに広島大出の若き巡査が呉原東署の捜査二課マル暴に。そこで怪物のような大上に出会う。暴力団と警察、そこにそれぞれに人間がいる。悪徳?であることで、微妙なバランスを生きる大上。若さから反発を感じながらも、人間を見ることを覚えていく日岡。登場人物がとても良いのだ。もう少し長く、じっくりといって欲しいとも思うが、読み応え、グイグイ感ありで、☆☆☆☆ほ。