映画の原作だったことに後で気がついた。警察小説の横山が、第二次世界大戦の際の回天の小説を書いた。主人公は大学野球の投手。甲子園で優勝したが、その後、肘を壊して再起を目指している。戦火が進む中、速球を諦め、魔球に夢をかける。そこに学徒動員が。海軍に入り、回天の搭乗員となる。野球部の仲間、同じ大学で陸上をやっていた男。それらが絡みながら…。という物語。正直、警察小説の方が好み。☆☆☆。
『風が強く吹いている』の三浦しをんの直木賞受賞作。東京近郊のまほろ市駅前で便利屋を開く多田。高校時代の同級生の行天が突然やってくる。猫の飼い主探し、バスの運行調査、「親」探しなどの依頼が多田と行天の二人の不思議なコンビで一筋縄でいかないものに。不思議な純粋さ。大人でない大人達。爽やかな、それでいて単純な爽やかでない青春小説らしからぬ青春小説か。☆☆☆☆。
もとは「日本一不運な男」という題だったそうな。新堂という作家は初めて。普通のサラリーマンが突如連れ去られ、恋人が人質となっていることを知る。助ける手段は、殺人。それもヤクザの親分の娘。トレーニングと称して、ホームレスを殴れ、ドンキ(のような店)で万引きしろと指令を受ける。さてその先に…。設定が奇抜で面白いかと思ったが、エピソードも、大転換もいまひとつ。途中で止めたくなったがどうにか読了。☆☆ほ。
これは単行本で読んだ。主人公は大阪府警今里署。四課○暴の刑事堀内。ぎりぎりのところで生きる男の話。警官でありながら、シノギは代紋が菊という世界。それでいて凄腕ではある。相棒となった伊達とともに、大阪の悪の世界を飛び回る。黒川の『疫病神』で登場の二宮、桑原シリーズの警察側からの世界とういうべきか。悪に半ば染まることで生きる警官の姿、生々しく、面白く、そして哀しい。大阪の裏側を描かせたら、この人は面白い。読ませる。☆☆☆☆。
安積警部補シリーズ。舞台は臨海署。短編集。2002年のもの。今回の課長は榊原。安積班の面々は同じ。「暗殺予告」ではアメリカ人の刑事が。安積が射撃の名手とも。「被害者」では被害者の権利とは…。などなど。サンダース軍曹とそのチームを思い出し、何故か内省型の刑事。それでいて、上司やしがらみに喧嘩を売りつつ、結婚には失敗。何とも人間的でいて、理想的なる安積であるが、読み物としては、☆☆☆☆。