文庫となったのが2007年。池井戸の早い時期の作品ということになる。銀行小説である一方で、推理小説の要素も。白水銀行の審査部の阪東。彼は『バブル入行組』シリーズにも名前が出てくる。本店の審査部の調査役。例によって、銀行の中では、気骨ある中堅・若手の代表株。カリスマ経営者風間が一代で築き上げたスーパー一風堂。イメージはダイエーかな。これが業績悪化。風間は会長に退いたが、依然力を持ち、経営も旧態のまま、再建策もままならず。白水銀行への融資申込みに阪東はバンカーとして反対する。企画部の二戸、白水のエリートの一人は一風堂支援を推し進める。バンカーとしての気概か、目先の利益か。ここに一風堂店舗爆破事件がからみ、犯人探しの要素も。正直、盛り込み過ぎで、後に経済小説となっていくのは納得がいく。それでも謎解きもおう、と思わせてくれました。☆☆☆ほ。
いやあ、面白かった。元やくざの矢能政男、「探偵」から二、三日ということで預かった少女栞とまだ一緒に暮らしている。私立探偵となるも、四件の依頼の内、三件を断り、まともに仕事もしていない様子。新しい依頼人に会いに行き、事件に巻き込まれる。元いじめられっ子で空手家の弟子の数馬、その師匠堂島。「探偵」の時以来のつきあいで栞を可愛がる「情報屋」、やくざ時代の後輩工藤など、味のあるキャラクターが動き回る。そして国会議員が登場し、それが二世議員の小さな男で。ぐいぐい引っ張って終盤に、あれ、どうすんだっ、と思ったら、いやあ、そうきたか。面白い。栞に与えられたキャラクターもこれからに将来が楽しみで久々の☆☆☆☆☆。楽しい読み物。
80年代の漫画『BE-POP-HIGHSCHOOL』の作家が小説家になっていた。『藁の楯』という作品が作家デビューというがこれは二作目。「探偵」が主人公。元警察官、今は私立探偵。そこに一人の女性が依頼に。妻子持ちの恋人がいる。その弟に襲われた。助けて欲しいと。ハードボイルドなのだ。「取るに足りない事件」「死ぬ迄にやっておくべき二つの事」「ヨハネスからの手紙」この三話。最初は、「あまり…」と思ったが、どうしてどうして、登場人物が面白い。「探偵」「情報屋」「鉄砲屋」。名前はあるが不思議なやくざ矢能、殺し屋ヤン。「探偵」は切れ者のようで、痛い目に遭い、それでいてタフ。そして美容師の女性がいい味を出す。そして物悲しい。☆☆☆☆。続編あり。『アウト&アウト』。実はこの続編を本屋で見かけ、先に本作を読むべきと分かった。順番は大事。
元銀行マンの池井戸の銀行を舞台とするバブルシリーズ第二弾。今回も主人公は半沢。前作から今回は舞台が本部に移る。伊勢島ホテルが投資で損失。このままでは「分類」され、銀行の経営に大きな影響が。これを処理することを求められた半沢。合併後の派閥争い、銀行からの出向など、銀行の世界が描かれていく。例によって一歩も引かぬ半沢。同期で病気から初の出向となる近藤。金融庁検査官の黒崎ら悪役も多数登場。同期の渡真利も要所で顔を出す。激しさの中に人間味を見せる半沢。悪役の迫力も満点。銀行という世界、その一方でバンカーとしての意地、プロの仕事人たちも描かれ、読ませてくれる。そして結末もおお、そう来たか。次作が楽しみということで☆☆☆☆ほ。
初めての池井戸作品。物語はバブル華やかなりし頃の青田買いから始まる。内定者の囲い込みで大学生達が未来を語る。舞台はバブル崩壊後の大阪。銀行の地位はかつての輝きを失ってい、主人公の半沢は支店の融資課長を務める。銀行内部の凄まじいドロドロ。かつてのバブル入行組は一人が9.11に遭遇しニューヨークで死亡。一人は職場で精神的に追い詰められている。半沢は支店長によって怪しい融資に巻き込まれる。銀行内部の厳しさ、そして嫌らしさが描かれる。まさに時代が書かせた本なのだなと思いつつ、負けない半沢を応援。☆☆☆☆。
ノン・シリーズもの。ウィスコンシン州ケネシャ郡の国立公園内にある湖畔の別荘が舞台。ソーシャルワーカーと弁護士の夫婦が二人の男に殺された。ブリン保安官補が不審な911に様子を見に行き、ドラマは一気に加速する。元州警の夫の暴力で別れ、ガーディナーの夫と連れ子、実母と暮らすブリン。女性ながら警察官としての才能にいろいろな面で恵まれる。まきこまれたミシェルと国立公園内の森林を逃げる。追う悪党もなかなか魅力的。いくつかのどんでん返しがあって、これには感心。少々、未消化感もありますが、☆☆☆☆。
この作家の本を読むのは初めてのような。上野公園でホームレスのテントが放火され、十数人が焼死。新聞記者がその事件を追い、ターゲットが一人の男であったことを知る。その身許を追って岐阜へ。ところが…。警視庁の十津川警部が登場し、岐阜、高山、下呂と観光地巡り?ご当地モノなのだろうけれど、少々ぬるい。☆☆。
警察小説やスポーツ小説の堂場、これは新聞記者小説。東日新聞の長妻。まだ若い記者で地方局から本社の社会部へ上がったばかり。自殺の現場を取材した後で、社会部のエース市川から声がかかる。マスコミでも有名な大学教授のサイトが自殺推奨との疑惑。それを取材する市川。記者からデスク、編集委員、岐路に近い市川。本社に上がったものの、まだ自分の世界が築けず、仕事に追われる長妻。元新聞記者という堂場だけに、実にリアルに仕事の凄まじさが伝わってくる。読み応えあり。☆☆☆☆。