角川文庫は時々凄く面白い海外モノを扱う。これはまさにその典型で、このミスでも2009年の第一位。東江一紀という人の訳文が独特。この言葉を切り落として並べていくような感じがとても良い。余分なものを排除して、事態が進んでいく。いくつもの流れが、所々で絡み合い、長い長い年月の中、登場人物が年を経て、幾度も絡み合い、そして進む。淡々と進むのが余計に麻薬というものの深みと底の深さを伝えてくる。本当にここまでのことがあるのだろうかと思いながら、圧倒的な世界に浸った気分。かつて読んだウィンズロウのイメージを変えた、極めつけの一冊ということか。☆☆☆☆ほ。
最近、映画になった南極観測隊のお話。昭和基地から1000キロ以上離れ、標高3800メートルと富士山より高く、最低気温はマイナス80℃というウィルスも住まないという富士ドーム基地での越冬隊。そこに海上保安庁所属の筆者が、料理人として二度目の越冬隊参加となった。総勢9名の男達。それが一年間、極限の地で過ごす。そこを彩る原価計算したらあっと驚く豪華料理。どうということのないエッセイだけれど、極限状態の一年間、人間を描くことになってもいる。何だか、楽しく読ませていただき、美味しそうと思ったり、でもこの生活は…と思ったり。WEB小説から小出版社での出版。それが文庫化され、既に5冊の本になっていた。害はない。それなりに面白い。悲惨にならぬ逆境生活ってのが、日本的でなくていいような。☆☆☆☆。ちょっとおまけ。
カール・ハイアセン13作目の長編という。例によって、不思議な軽さで進む、進む。離婚して息子を育てるハニー・サンタナ。元夫から先に離婚を切り出されたのが腹立たしく、勤め先の魚屋のおやじにセクハラされてぶん殴り、電話セールスの無礼に腹を立て、不思議な復讐を計画中。息子のフライはえらく大人。元夫はアブナイ密輸をしていた街の顔役、それでいていい父であり、元の妻が心配でならない。そこに登場するのが、声だけ最高、ほかは何の取柄もない男。さらにその同僚の女。ハーフのインディアンが現れるかと思えば、セクハラ魚屋はストーカーとなる。いやはや、はちゃめちゃで軽くぶっ飛ばしながら、結構退屈しのぎにはなる。☆☆☆ほ。