姫川玲子シリーズ第三弾。七本の短編集。姫川の目黒署時代、国奥との関係など、姫川の背景が描かれている。どうということもないですが、時間のある時、そして時間の無い時に便利な短編集。ということで☆☆☆ほ。
第2回ブクログ大賞受賞作、と帯にある。ブクログ大賞を知らないのだが。「キケン」とは成西電気工科大学機械制御研究部の略称。この部に集う若者たちも物語。上野直也、キケンに二人しかいない二回生の一人。「成西のユナ・ボマー上野直也」と呼ばれた男。もう一人の二回生は大神宏明。こちらは「名字を一文字隠した大神宏明」と呼ばれる。三回生はユウレイ部員のみというこの部に、元山高彦と池谷悟の新入生二人が連れて来られる所から始まる。理系男子だけの大学でのちょっと変わった部の世界。そこで逸話が妻に語られるという趣向。あるじゃないですか、学生時代の男だけのの不思議でおバカな世界。その世界そのもので、これが上野、大神という上級生とそれに引っ張られた元山、池谷を筆頭とした下級生が織りなす青春群像劇。あるよね、こんなこと。あの合宿の時のバカみたいに真剣に卵から中身を抜出してそこに水を詰めたような。どうということはないけれど、最後のシーンでは、おう、おう、そうだよなって気分になって。ということで爽やかな読後感、そして郷愁にひたれたので、☆☆☆☆ほ。
お金を借りようと思った彼女から別れを切り出されたノボル。借金が165000円であったことを知り、とにかく返すと言ってしまう。先輩からの電話で呼び出された先で待ち受けていたのは、奇想天外な誘拐の誘い。謎の男佐藤。弁護士の成宮、これまた謎の女愛美。話し手が変わりながら物語は進む。結構ぼんぼんと進むのも心地よい。続編シリーズ読みたい気分。☆☆☆ほ。
漫画『BE-BOP-HISCHOOL』の漫画家で『藁の楯』などの木内一裕。カン・チャンスという青年が主人公。殺人者?バスジャックを解決したヒーロー?はたまた。脳に出来た腫瘍によって感情を無くした主人公が、心を神様からもらう物語。というものの、キャラクターは幾人か出そろったものの、文庫本一冊ではそれが活き活きと躍動する間もなく終わってしまった。木内作品の中では楽しみに欠ける。☆☆ほ。
久々に横山秀夫。主人公は関東のD県の県警広報室で広報官を務める三上。刑事から広報室勤務、再び刑事に戻ったが、広報官となった人物。地方県警の中の刑事部と警務部との軋轢。東京の本庁と確執。それが大きな渦となってうごめいている。主人公は刑事から広報に出されたことに抵抗を覚えながら、その中でもがくが、一方で家庭内に大きな問題を抱える。伏線が張られた中に、意外な展開。そして人間の嫌な面を見せられながら、「男」というのはいるもので、グッとくるのです。横山ワールドなのであります。謎という面でもなかなかの組み立てに、久々堪能。☆☆☆☆。
『ビンゴ』などのオダケンシリーズの西村健が故郷大牟田を舞台に描いた大河小説。大河警察小説でもあり、大牟田と石炭を描いた大河小説とも言えるし、ともかく大河なのです。舞台は福岡県大牟田。筑豊とともに日本屈指の石炭産地、三池炭鉱の町が舞台である。主人公は猿渡鉄男、大牟田で生れ育ち、大牟田署につとめる警察官。父も警察官であったが、三池炭鉱の炭塵爆発事故の日に殺されている。同級生の白川、櫟園、菅という仲間達と少年時代を過ごし、今はそれぞれの道を歩いている。物語は警察官になり立ての鉄男が大牟田の派出所勤務時代、旧労の幹部の死亡事件の捜査に加わったところから始まる。石炭産業史、三池の労働争議、炭鉱事故。さらにそこに生きる人の様々な物語。次第に炭鉱の大牟田の、猿渡家の歴史が明らかになっていく。謎が解き明かされ、別の謎が浮かび上がり、いくつもの闇が見えてきたりする。壮大な物語は終焉に向けてひとつの糸のように撚り合わさっていく。日本の近現代史を地域と家庭、人とともに描き切り、読み応えあり。☆☆☆☆ほ。