「ストロベリーナイト」の誉田哲也が警察小説を更に進化させた!という帯の惹句は少々大袈裟か。6編の短編小説が連なり、一人の女性の姿が描かれていく。警察小説とか、どうとかいう程のものでもなく、時間があったら読めば…というものか。☆☆☆。
久々の安積班シリーズ。臨海署が新築され、新たな建物への引越しから始まる。刑事課は安積班に加えて、あの相楽率いる一斑が加わり二係体制に。もっさりとした外見ながら洞察力に富む須田がWEBサイトでイベントでの信憑性の高い爆破予告を見つける。警戒につくも、爆破が起こり、その捜査へ。相楽は安積に対する対抗心剥き出しで捜査する。安積は例によって、自信無さげに部下のことを思いつつ、進む。速水も登場、新たに警備課の特車二係の後藤という人物が名前だけで登場。『隠蔽捜査』と同様に主人公内省型の警察小説、時代を取り込みながらの読み物に仕上がり☆☆☆ほ。
再読シリーズ。ネルソン・デミルは「凄いなぁ」と思った作家。『誓約』を読んだ時に思った。『王者のゲーム』のように、独特のユーモアも味がある。この本は、日本での刊行は2005年だが、執筆は何と1980年。もう20年以上前ということになる。ニューヨークの聖パトリックの日、アイルランド系のお祭り。パレードの最中に大聖堂がIRA暫定派の「フィアナ騎士団」によって占拠される。枢機卿やイギリス総領事、元IRA活動家らが人質に。主人公の一人、ニューヨーク市警情報部警部補のバークは後年のデミルに主人公となるタイプ。アイルランド問題というものを見据えた作品。ただ、やはり古さを感じてしまうのは仕方が無い所。☆☆☆。
再読シリーズ。1997年の本。舞台はアメリカ。学校の前を時計のように正確に毎日散歩する老人。それを見守る双子の男の子。突然の銃撃。「銃撃。銃撃。百二十九歩目で撃たれた」「車は三十発撃った」「男に十九発当った」 双子のトレースとリッキーは自閉症児、レインマンみたいで、特殊な能力に秀でている面も。トレースとリッキーは犯人の顔、車のナンバーを憶えていた。目撃者となった二人と保護者の教師ローラ。彼らを保護する元刑事の検事補モンタナ。必死の逃避行が始まる…。話の展開はスピード感満点。映画向きでもあります。読み応えあり。☆☆☆☆。
再読シリーズ。ナッシュビルのステーキハウスのウエイトレスのケイシー。税金の滞納や店長からのセクハラに苦しむ。店長を殴って飛び出して、偶然、殺人を目撃してしまう。警察に届けようとするが、恐怖にかられ断念。それでもということで、とんでもない方法で告発することに。いかにもアメリカなのだ。どうしてそういう発想が出てくるのかと。いかにものアメリカが感じられ、ナッシュビルという土地の空気もあって、それはそれなりに面白い。☆☆☆ほ。
還暦を迎える三人のおっさん。建設企業を勤め上げた清田清一、父から引き継いだ町道場で剣道を教えてきた。最後の教え子が小学校卒業を期に去っていく。再雇用先は系列のアミューズメントパーク。居酒屋『酔いどれ鯨』を息子夫婦に譲り一線から退いた立花重雄。柔道の使い手。脱サラして各企業から機械等の試作を請け負う町工場を立ち上げた有村則夫。幼馴染の三人が、「おじいさん」ではなく、「おっさん」としてボランティアとして活動を始めた。六つのお話の中で、町のこと、家族のこと、現代のことなど、いかにも有川らしい世界が展開し、有川らしく読ませてくれる。☆☆☆☆。