ロシア・ノスタルジー

 

 セルゲイ・スデイキン(Sergey Sudeikin)というロシアの画家がいる。知る人ぞ知る、ディアギレフ率いるバレエ・リュスのための舞台・衣装装飾を手がけたデザイナー。
 一方、知らない人は知らない。私も知らない。知らないからって、わざわざ調べる気にならない。
 こんな私のような人間のために、手軽に紹介してくれているサイトが見つからないので困る。コマルトフ。

 略歴によると、モスクワの美術学校で、コロヴィン、セロフのロシア二大印象派画家らに師事するが、自身の関心は世紀末象徴主義。
 淫猥卑猥なドローイングを理由に放校されたというが、それまでにすでに、ボリソフ=ムサートフを敬愛する「クリムゾン・ローズ」展と、続く「青薔薇派」結成に参加。また、ディアギレフとともにパリを訪問、サロン・ドートンヌ展にも出品し、後の「芸術世界」の活動において見られる作風を確立している。

 スデイキンの作風というのは、第一感、ソモフと同様、芸術世界派が称讃、心酔した美の世界が、よく表われていると思う。青の支配する、ロココチックに典雅な、あるいはヴェネツィア・カーニバル風に神秘的な、ムードとモティーフ。
 ただ、ソモフの絵が、18世紀フランス・ロココへの回帰を感じさせるのとは違って、スデイキンの絵は、19世紀ロシアの上流階級のイメージを喚起する。このロシア的なイメージをもたらすものは、同時代のナターリヤ・ゴンチャロワらも追求していた、様式化された原始主義(プリミティヴィズム)の表現だ。

 前世紀ロシアの貴族や商人の生活を思い出させるノスタルジックな、けれども滑稽で戯画的な一幕。

 こうしたテーマが、モスクワやサンクトペテルブルクの新富裕層に人気を得たスデイキンは、十月革命まで、ロシアで筆頭に名の挙がるデザイナーだったという。
 革命後はアメリカに渡ったらしい、メトロポリタン歌劇場の舞台装飾を手がけ、ニューヨークで没している。

 ところで、芸術世界派には同性愛者が多く、スデイキンがそれぞれ親しかった、座長ディアギレフと詩人ミハイル・クズミンとは愛人同士だったらしいので、スデイキンも……と下種に勘繰っていたのだが、スデイキンは、ペテルブルクきっての美人と誉れ高い女優オリガ・グレボワと結婚。その後、バレリーナのヴェラ・デ・ボセと駆け落ちした、と解説にあった(ヴェラはその後、スデイキンを去って、ストラヴィンスキーへと走ったらしい)。
 その人のオープンになっているセクシャリティって、つい眼がいっちゃうんだよね。

 画像は、スデイキン「ヴェネツィア人形」。
  セルゲイ・スデイキン(Sergey Sudeikin, 1882-1946, Russian)
 他、左から、
  「冬の幻想」
  「羊飼いの男女」
  「パセリのパンケーキ」
  「“ヴェニスの狂人”のための衣装デザイン」
  「“ホフマン物語”のための舞台デザイン」

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