我は汝、汝は我なり、自然と精霊

 
 
 ノルウェー絵画史に、ときどきひょっこり、「新ロマン派(Neo-Romanticism)」なるタームが登場する。音楽や文学の分野では、よく使われるターム。

 絵画史のなかでロマン主義の流れは、それを乗り越える形で写実主義・自然主義が現われる一方で、写実・自然主義の対立軸として、精神や内面、主情をより重んじる諸種の表現様式において脈々と受け継がれる。20世紀になると、それが、物質文明や合理性一辺倒への嫌忌、自然や神秘への憧憬や懐古、民族的アイデンティティの現われとしての伝説・伝承への回帰などと相俟って、自然イコール精霊、というような、アニミズム的な独特の雰囲気を作り出すようになる。
 これがまあ、私のなかの新ロマン主義のイメージ。

 ニコライ・アストルップ(Nikolai Astrup)は、ハラルド・ソールベリやテオドール・キッテルセンらと並んで名の挙がる、新ロマン派のノルウェー画家。この画家は、相棒がCDジャケットから見つけてきた画家で、以来、私のお気に入り。

 稀薄な大気のなかに広がる、荒々しくも瑞々しい風景。この山と湖の景色は、アストルップの故郷ヨルスター。
 その情景のムードは、物語というよりは、自然との交感を描いたよう。「風景の親密画」とも呼べそうな、淡々としたロマン。それを描き切る、強烈で明瞭な、ノルディックな色彩。

 ほとんど故郷ヨルスターしか描かなかったアストルップだが、西ノルウェーを、さらにはノルウェーそのものを描き出した画家として、ノルウェーで最も愛されている画家の一人なのだという。

 略歴を記しておくと……
 幼少より、牧師だった父が赴任していた西ノルウェーのヨルスターで育つ。父は長男の彼に自分と同じ牧師になることを所望するが、彼は絵の道を選択。オスロの美術学校で学び、ハリエット・バッケルの画塾にも通った。
 ドイツを周遊した際には、世紀末を風靡していた死の画家ベックリンにやはり心惹かれ、後に生まれた長男には、アルノルト・ベックリン・アストルップ、なんて命名している。
 故郷に戻り、エンゲル・スンデと結婚。8人の子を儲け、経済的には大変厳しかったという。長い間、病弱だったらしく、47歳で肺炎で死去。

 画像は、アストルップ「春の宵」。
  ニコライ・アストルップ(Nikolai Astrup, 1880-1928, Norwegian)
 他、左から、
  「三月の朝」
  「聖ヨハネの火」
  「岩の上の鳥」
  「冬の夜」
  「ヨルスターのスンデ」

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