レントス美術館

 
 渡欧の2週間前に、突如、黒猫ムスタファが我が家に転がり込んできたせいで、里親探しに翻弄され、美術館の下調べはおろか、リンツに行くことさえ知らなかった私。
 現地リンツでは、まず州立美術館(Landesgalerie)に行ってみたのだが、受付で収蔵品の図録を見せてもらい、「リンツの絵はすべてレントスにある」と言われれば、納得するしかない。

 ドナウ川に沿った長方形の箱型で、一面、レントスレントス……というプリント文字で覆われたガラス張りのレントス美術館。1階部分は巨大な空洞で、2階部分が展示場。
 ところで私は、ハンドバッグ代わりに、ノートと会話集と水筒と熊を入れた小さなディパックを背負うのだが、これが、「ハンドバッグ以外の荷物は一切ロッカーに」という一律な規定で許可されなかったこと、ロッカーに1ユーロコインが必要だと注意してもらえなかったために、コインを取りに、ロッカーの地階と2階とを何度も往復したこと(まあ、これは私も間抜けだったのだが)、で、出鼻からケチがついた。

 長方形のフロア全体が、ドーナツ状に一周できるような配置で、各部屋に区切られている。各部屋は10年ごとでまとめられ、つまり、「1900-10年」から始まって、「1911-20」、「1921-30」……「2001-11」と続く。
 このうち、クラシック(時代的な意味ではなく)として鑑賞に耐える絵は、最初の2部屋と、せいぜい20世紀前半までで、あとはコンテンポラリーな抽象画や写真など。が、そのコンテンポラリーななかに、年代別の展示順を無視して、クリムトのデッサンやらフリードリヒの油彩やらを、何の脈絡もなく飾ってあるので、腹が立つ。

 そして、企画展示場には、自動車の特別展(私たちは無視したけど)。

 受付の案内に「2010年8月より、1900~2011年のコレクション展示」とあったが、それを真に受ければよかった。
 19世紀絵画を一枚も持っていないとは思えない。それらを地下倉庫かどこかに眠らせて、代わりに自動車を展示している。
 自前のコレクションを持っていないために企画展で集客するしかない、日本の美術館とは訳が違う。美術鑑賞を理解ぜず、そのために来る人々に親切にせず、ただ、持っているものを飾っているだけの、コンセプトのない美術館。
 ヨーロッパで訪れたなかで最悪の部類の美術館だった。カンディンスキーを観てホッとしたのは、初めてだ。

「金の使い方を知らんとロクなことに使わんな。自動車の展示なんか、自動車企業が勝手にやれってんだよ。美術館としての誇りはないのか、誇りは!」というのが、相棒の感想。

 絵そのものの感想としては、「この絵だけはここに来なければ観ることができない」という類の絵は、特にない。名品ではなく、コレクションという感じ。
 有名どころは、クリムト数枚、シーレ、ココシュカ、他にドイツの画家ら、リーバーマンやウーデ、モーダーゾーン=ベッカー、カンディンスキーやクレーなどが1、2枚ずつ、オットー・ミュラーやペヒシュタイン、シュミット=ロットルフなど。
 こんな画家初めて知った、知れてよかった、来た甲斐があった、という画家は、特になかった。それなりの画家はいたけれど。

 漫然とモダン・アートの雰囲気を味わいたいだけなら、許せるのかも。

 画像は、フンケ「桟敷席にて」。
  ヘレネ・フンケ(Helene Funke, 1869-1957, Austrian)

     Bear's Paw -美術館めぐり-
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