チエちゃん家では、
おばあちゃんがチエちゃんの子守り役なら、
おじいちゃんは弟たかひろ君の子守り役でした。
おじいちゃんは、乳母車(この乳母車がまた、時代劇「子連れ狼」の大五郎が乗っている物とそっくりだった)にたかひろ君を乗せ、子守り兼散歩に出かけたものです。
散歩コースは、公民館や熊ん様、薬師堂など、いろいろあったのですが、毎日欠かさず通っていた所は、不動様です。
チエちゃん家から村道を50m程上った右手に、サラシ川に架かる橋がありました。
橋を渡って、右に行けば
火事にあったお向かいのたげおやんの家に着き、左に折れて更に30m程上って行けば、そのお不動様がありました。
辺りは、どのような僧が修行したものか苔むした
磨崖仏と鬱蒼とした杉木立に囲まれ、夏でもひんやりとした精霊の宿る場所でありました。
おじいちゃんは不動様に着くと、お賽銭をあげ、合掌して唱えます。
のうまく さんまんだ ばさらだん せんだんまかろしゃだや そはたや うんたらた かんまん
ある時、お母さんがたかひろ君を連れて外出した時のこと、道端の道祖神に向かい、おもむろにしゃがみこんだたかひろ君が手を合わせて唱え始めたのです。
のうまく さんまんだ ばさらだん せんだんまかろしゃだや そはたや うんたらた かんまん
お母さんはびっくりしました。
これが本当の「門前の小僧習わぬ経を読む」であると、帰宅してから家族中に報告したのでした。
このあと、たかひろ君はしばらくの間、道祖神やお地蔵様らしきものを見かける度、しゃがみこんでは唱えたということです。