チエちゃんの昭和めもりーず

 昭和40年代 少女だったあの頃の物語
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第82話 も ろ

2007年06月22日 | チエちゃん
 チエちゃん家には、桑の葉を保存しておくための室(むろ)がありました。
裏山の斜面に掘った横穴で、間口1.5m、奥行き4~5mはあったように思います。大人は少しかがんで中に入りましたが、子どものチエちゃんはゆうに立つことができました。
中の温度が一定のため、夏は涼しく、冬は暖かでしたから、冷蔵庫のない時代、野菜の保存やビール・ジュースを冷やすことにも利用していました。
また、おばあちゃんは真夏の暑い日には、ここに茣蓙を敷き、涼むこともありました。
入り口には、板戸が蝶番で取り付けてあり、外から施錠できるようにもなっておりました。

 この室のことをチエちゃんの家では「もろ」と呼んでいたのです。

「もろ」は、チエちゃんたち子どもにとって、時折、恐ろしい場所にも変身したのです。

 チエちゃんとたかひろ君がケンカして、いつまでも揉めていると、とうとう大人が仲裁に入ります。ケンカ両成敗で、お互いに謝るように諭されます。

 すると、弟のたかひろ君は自分に非があっても無くても、すぐに「ごめんなさい」をします。
ところが、強情っぱりのチエちゃんは、自分に非が無いと思う時には「ごめんなさい」を言うのは絶対に嫌なのです。
そして、いつまでも黙ったままでいると、その態度が悪いということで、お仕置きが決定するのでした。
こうなると、どんなに泣いてわめこうが、聞き届けられず、「もろ」に閉じ込められてしまうのでした。

 普段は平気でジュースを取りに中に入っているのに、こんな時の「もろ」は、パタンと板戸がしまった途端にやって来る闇がとても恐ろしく、奥の真っ暗闇の中にはとんでもない魔物が潜んでいるように思えたものです。
「もろ」の住人のベンジョコオロギがぴょんと跳ねようものなら、魔物に襲われたと、ますます泣き叫ぶことになるのでした。

 一時の興奮も収まり、鼻水をすすりながら、ヒック、ヒックしている頃、ようやく「もろ」の扉が開き、解放されるチエちゃんなのでした。

 こうして、チエちゃんは、世の中を渡っていくためには理不尽なことでも、妥協しなければならないこともあると学んだのです。(ぜ~んぜん、反省していないや!)

 また、弟は弟で、謝らない姉ちゃんは、いつもお仕置きをくらっているから、ここは何にしても、とりあえず謝っておいた方が得策であると学んでいるのでした。