「チエは、それで、ホントにいいのか?」尾形先生が確認する。
「はい・・・」
(もう決めたことだし・・・)
「お父さんも、就職ということで、よろしいですね?」
「はい、よろしくお願いします。」
高3の夏休みの相談室だった。
ホントのほんとは、よくなかったのだ。チエちゃんは、大学に進みたかった。
自分の力が、どれ程であるのか試してみたかった・・・。
でも、もうこのことについては、両親と何度も話し合って、決めたことでした。
チエちゃんの気持ちを理解してくれたお母さんが、何度かお父さんを説得してくれたのですが、「女の子は、大学なんか行く必要がない」とお父さんは、考えを変えてはくれなかったのです。
「お父さんって、なんて古い考えなの。これからは女の子だって、学歴が必要になる。どうして、分かってくれないの?」
この時ほど、
進学校の女子高を選ばなかったことを後悔したことはありませんでした。
けれども、チエちゃんには、もう一押しするだけの理由がなかったのです。
将来この職業につきたいから、絶対この大学に行きたいという想いがなかったのです。
ただ、漠然と「大学に行きたい」そう思っていただけなのでした。
おそらくは、18歳で社会に出て行くことが怖かったというのが、本音ではないでしょうか。自分の知っている学校という世界に、出来ることなら浸っていたかったのでした。
それに、家の経済状態も十分に想像できたのでした。
それから、チエちゃんは、勉強が馬鹿らしくなりました。
模擬試験の結果がどうのと騒いでいるクラスメートも、子供っぽく見えました。
わたしはもう、あんた達とは違う。
早く卒業式が来ればいいのに・・・