チエちゃんが小学1年生の頃、教室の机は木製の2人用机でした。今では、こんな机どこにもないと思います。天板の半分がはめ込み式になっていて、ふたを開けて教科書やノートを入れるようになっていました。
ですから、必ず机は2人ペアで使っていたのです。それも、男の子と女の子のペア。2学期が始まって、すぐに席替えがあり、チエちゃんのお隣の席になったのはみつお君でした。
みつお君は、クラスの中で一番身長が低く、授業中におかしなことを言ってはみんなを笑わせる、
トッポ・ジージョによく似たお茶目な男の子でした。
ところがです!翌日から、みつお君のいたずらが始まったのです。
チエちゃんの教科書やノートをどこかに隠してしまうし、授業中チエちゃんのえんぴつや消しゴムを遠くの方へ投げ捨てて知らんぷりをしています。髪の毛を引っ張られることもしょっちゅうでした。
チエちゃんは、毎日泣いて帰り、おばあちゃんに訴えたものでした。
チエちゃんはいじめに遭っていたのでしょうか?
いえいえ、そうではありません。
みつお君はチエちゃんがとても気になる存在だったのです。だから、わざといたずらをして気を引こうとしたのです。
それから1ヵ月後、再び席替えがあって、チエちゃんはみつお君の被害からやっと逃れることができました。それでも、たまに「チエよ~」と近寄ってきては、いたずらをしかけてきます。学年が進むと、スカートめくりや
タッチボインの被害にも遭いました。
そんなみつお君とチエちゃんは、小学校・中学校と同じクラスで過ごし、同じ高校へ進学しました。
高校の入学式のとき、みつお君を見かけたチエちゃんは、ハッとしました。
みつお君、いつの間に 私より 身長が高くなったんだろう
学年の中でも一番チビだったみつお君が、いつの間にか他の男の子と同じ背丈になっていたのです。
チエちゃんはみつお君から一度も告白されたことはありませんでしたけれど、みつお君の気持ちはずっと知っていました。
だからこそ、大切にしたい。
幼い頃の甘酸っぱい思い出は、心の中の宝箱に入れて、そっとしておきたい。
現在、みつお君は東京で大手の電機メーカーに勤務し、幸せな結婚をして、お子さんにも恵まれました。
クラス会では、相変わらず、「チエよ~」と言いながら寄ってくるんですけどネ。