チエちゃんの昭和めもりーず

 昭和40年代 少女だったあの頃の物語
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第76話 お母さんのサンドイッチ

2007年06月04日 | チエちゃん
 その日、お母さんがどうして急にお弁当にサンドイッチを作ってくれたのか、未だに分かりません。いつもはごはんのお弁当だったのに。
 遠足でもなければ、学芸会でもなく、特別な意味のある日でも何でもない、全く普通の日だったのです。

 おそらくは、婦人会か若妻会のお料理講習会でサンドイッチの作り方を教わったお母さんは、これを娘のお弁当に持たせてあげたなら、きっと喜ぶに違いないと思ったのです。

 お母さんの予想通り、チエちゃんはその日、うれしくて、うれしくて、朝からお昼の時間が待ち遠しくてしかたありませんでした。
だって、サンドイッチなんて滅多に食べられるものじゃなかったんです。

誰彼と捕まえて、

 ねえ、きょうのあたしのお弁当、なんだか分かる?
 サンドイッチだよ!

と、言いたい気分でしたが、
実際には、密かにウキウキ気分を味わっていたのです。
 そして、ようやくお弁当の時間になりました。
早速包みを開けたチエちゃんは、食べようとしたその時、発見したのです。
パンの上の黒いポチッとしたものを。

 それは、青カビでした。
 どうしよう! 
 でも、せっかくお母さんが作ってくれたサンドイッチです。

 チエちゃんは、カビの部分をちぎって取り、サンドイッチを食べました。
カビが生えるくらいですから、食パンはパサパサし、中身もハムだけのサンドイッチでした。そのハムも、現在のようなロースハムではなく、馬肉やマトンが多くて周りがオレンジ色の薄っぺらいハムでした。
なにせ、田舎のことですから、あの頃は高級な食材など手に入らなかったのです。

それでも、チエちゃんは大満足でした。
お母さんが作ってくれた最初で、おそらくは最後のサンドイッチ。
学校から帰ったチエちゃんは、お母さんに言いました。

 すっごく、うまがった!

幸いお腹をこわすこともありませんでしたから、カビのことは今でも内緒です。