団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

れんこんもち

2016年06月17日 | Weblog

  買い物途中、和菓子コーナーで『れんこんもち』が対人販売されていた。れんこんもち?れんこんって蓮根、あの野菜のハスの根っこのこと。私は野菜のレンコンが大好物である。試食の細かく切られた羊羹のような黒い塊に爪楊枝を刺して私に渡そうとする羽織袴の女性に尋ねた。私は試食しない。差し出された小さな揺れる“れんこんもち”を丁寧に手のひらを立てて断りながら「れんこんもちってレンコンが原料なの?」と切り出した。すると、若い大学生のアルバイトらしき女性がニコリと笑って「はい、あのレンコンでできています」と答えた。5個入り、3個いり、ばら売り。1個170円。3個入りを購入。

 家に帰ってれんこんもちに添えられていた挨拶状を読んだ。「れんこんの澱粉を和三盆糖と黒糖で煉り合せた涼菓です」 翌朝朝食の後、妻が淹れてくれた新茶と一緒にいただいた。笹の葉に包まれた小さな羊羹ほどの大きさである。笹の葉は本物。上手に包んである。笹の葉は扱いにくい。まるで機械で一様に仕上げられたように見事な仕事だ。このれんこんもちを作った和菓子職人の心意気を充分感じさせられた。

 子どもの頃、近所にも和菓子屋があった。戦前父親は東京でパン工場に勤めていた。後に独立してパン屋を経営していた。徴兵されてパン屋はやめた。戦後東京の家と店舗は空爆のドサクサで人手に渡っていた。母が疎開していた故郷に戻った。戻ったのは父ばかりではなかった。東京で仲間だった人たちが和菓子店と洋菓子店を開いていた。父はよく私をその作業場に連れて行った。小さい頃から和菓子とケーキに不自由しなかった。私があまりに熱心に和菓子や洋菓子の製造過程を見つめていたので店主に「跡継ぎにおじさんの店へ来るか?」と言われ嬉しかった。

 テレビ東京に『世界!ニッポン行きたい人応援団』という私を毎回泣かせる番組がある。テレビ東京は他のテレビ局と違って好感できる番組づくりをしている。テレビ東京は日本のテレビ局としては“職人”を大切に扱う。番組づくりにそれが素直に現れている。『世界!ニッポン行きたい人応援団』は世界中から日本に憧れ来たい夢を持つ人を探して日本に招待してその夢を叶えてあげる番組である。16日の夜は日本の相撲に憧れるハンガリーの女子高校生とそろばんをポーランドで自分流に制作して小学校でそろばん教育を広めようとしている退職男性教師が紹介された。

 毎回涙なしにはこの番組を観ることができない。まずこれほどまでに日本の技術や伝統を深く学んで自己流であっても何とか形にしていること。私の父や私が子どもの頃の近所の職人たちのことを思い出させること。軽井沢でさんざんにアメリカ人宣教師や子どもたちに日本のことを馬鹿にされたこと。留学したカナダで日本人として差別されたこと。妻の海外勤務に同行して13年間日本から離れていて和菓子を夢にみたこと。などなど。

 日本を嫌い憎み恨む国がある。日本が好きで来たいと夢見る人もあちこちにいる。日本に憧れ学びたい人をテレビ東京だけに頼らずに民間の力で形にして地道に世界から一本釣りのように招いて行けば、政府や役人の行方の分からないODAよりずっと確かな結果が出せる。こうして世界中に味方と理解者を増やすことはミサイルを持ったり核武装するよりこれから先、日本の防衛につながると私は考える。世界を魅了する文化伝統が残っているうちにやらなければ手遅れになってしまう。特に後継者のいない絶滅寸前の職域に従事する組織が立ち上がって欲しい。それを民間人がふるさと納税のような制度でファンドを立ち上げ応援したらどうだろう

 新茶とれんこんもちを口に運びながら夢を描く。


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