AcousticTao

趣味であるオーディオ・ロードバイク・車・ゴルフなどに関して経験したことや感じたことを思いつくままに書いたものです。

6163:晩年

2023年01月15日 | ノンジャンル

 レコードジャケットを確認した。かかっていた曲はシューベルトのピアノソナタ第20番であった。演奏はRADU LUPUである。レコードのレーベルはDECCA。ジャケットの写真の具合からして1970年代の録音のようであった。

 第20番のピアノソナタはシューベルトの晩年のピアノソナタ3部作の一つである。4楽章構成で演奏時間は40分を超える大作である。

 凛としていながらもどこかしら華憐で、時として淡い幸福感を感じさせながらも、その底流には深い悲しみが流れているといった具合に相反する要素が混ざり合うようにして曲は進む。

 シューベルトにとっては晩年の作品ではあるが、31歳という若さで世を去っているので、人生を達観・諦観したような晩年ではなかったはずである。不意に体調不良に見舞われ、音楽家として世間一般に大きく認められることのないなか、焦燥感と喪失感とが精神の多くの部分を覆っていたのではないかと推測される。

 世の不条理のようなものを強く感じながらも、自身の創作においては清澄な高みを目指す・・・こういった葛藤の中から生まれた名曲の一つである。

 しばし、珈琲を飲みながら、そのピアノソナタに耳を傾けていた。この店のオーディオ装置は変わっている。1970年代の日本製の古いオーディオ機器が使われているのである。

 レコードプレーヤとプリメインアンプは、ともにYAMAHAである。レコードプレーヤーはYP-400、プリメインアンプはCA-V1である。この時代のYAMAHAのオーディオ機器はとても美しいデザインをしている。清楚で清潔感がある造形美は、しっかりとした美意識を体現している。

 スピーカーは、PIONEER CS-E700。薄い色合いの茶色のサランネットに覆われていてる。キャビネットは天然木を活かしたウォールナットのオイル仕上げで、サランネットとの色合いとのバランスがとても穏やかである。二つのスピーカーは、特製の木製スタンドによって床から持ち上げられている。

 このオーディオシステムと1970年代に録音されたレコードとの相性は良さそうであった。違和感のない音の質感は、「本日のコーヒー」であるブラジルの味わいともリンクしていた。

 滞在時間は30分ほどであったが、こういった時間は慌しく過ぎていく日常の時間の流れの中にあって、一つのオアシスのようなものなのかもしれない・・・

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