ますます個人よりも組織
2010年W杯で優勝したスペイン(流の繋ぐサッカー)はその後後退して、2014年にはドイツが優勝した。ロシア大会では、このドイツが予選リーグで負けて、フランスが2度目の優勝。この間、個人技世界一と言って良いブラジルは、負け続けている。自国W杯では、優勝したドイツに7対1と惨敗だし、ロシア大会は3位のベルギーに準々決勝敗退である。
日本はというと、直前のパラグアイ戦で自分の戦い方、組織を見つけることができて3度目の決勝トーナメントに進み、ブラジルを負かしたベルギー相手に好勝負を演じた。
さて、あれだけ弱かった日本が急に強くなったのは明らかに組織が変わったからだ。個人技世界1のブラジルが勝てないのも、同じく組織で負けているからである。サッカーの強さとは、組織の強さなのであって、この間二つのW杯で示された勝つ組織とは「攻撃的守備」の一語につきる。世界サッカーの現趨勢であるこのことについて、改めてまとめてみたい。
キーワード「攻撃的守備」
① ブラジル大会のドイツも、ロシア大会のフランスも、ロシア大会に向かってぎりぎり最後に「強い組織」を身につけた日本も、その強さの淵源は「攻撃的守備」と言うに尽きる。そして、現在の攻撃的守備の有り様には、こういう表現が当てられてきた。
② まず、小さくまとまったという意味でのコンパクト。皆が一つにまとまって組織的にという意味のコレクティブ。その上で1対1(デュエル)に負けない個人の当たり強さ。そうして敵ボールを奪って、「縦に速く攻める」。そういう「攻守、守攻の速い組織的切替を皆が一糸乱れず行うよう常に意識していること」。などなどである。
③ こういう②のような戦い方を確立したのが2010年頃から急台頭したドイツのドルトムントであって、ここのゲーゲンプレスを理解できてこそ、②の意味も分かるというもの。守備即攻撃というその戦略思想はこういうものだった。
「敵陣に攻め入った身方ボールを敵が奪った瞬間こそ、そのボールが奪い返せるならばゲーム中最大の得点チャンスが出来る」
④ その「敵陣近くでボールを奪い返す」やり方は、こういうものだ。あらかじめDFラインを上げておいて前後陣を縦に詰めて密集した身方陣形を作っておいて、敵ボール保持者に近い身方がボールに突っかけ、後の身方は近くの敵がボールを受けるのを塞ぐという陣形である。ゲーゲンプレスとは、カウンタープレスのこと。敵がプレスでボールを奪って前に出てきた瞬間にこちらも前に詰めてプレスを掛けボールを奪おうとするそういう形をボクシングのカウンターパンチにたとえたわけである。
⑤ ゲーゲンプレス自身ははじめ、これを敵陣近くの高い位置で行ってショート・カウンター得点を狙ったが、やがてこういう「ボール強奪得点法」が中盤でも後陣でも、行われるようになっていった。要は、「敵が前掛かりになっているような時に何が何でもボールを奪って得点に結びつける」という発想、組織的やり方が、あらゆる位置、局面で行われるようになっていった。因みに、このやり方の普及によって。W杯得点が急に増えている。南ア大会まで、1ゲーム2・3ほどに下がって来た平均得点が、この2大会は2・7ほどに上がったのである。弱いと思われたチームも結構得点するようになったり、番狂わせが多かったりしたのもこういう流れが原因だろう。
今後の世界サッカー
さて、今後の世界サッカーはどうなっていくか。優勝したフランスなどを例にとって説明してみたい。
第一は、19歳のムバッペの出現である。ムバッペはロッベン・タイプのスプリント力を持つカウンター攻撃手と言えるが、猛烈なスピードでロングカウンターも出来るこういうタイプがどんどん重用されていくだろう。こんな選手がいて、彼が少々前目に構えていたりすると、相手陣形はラインアップも難しくなって、間延びせざるを得ないもの。その有形無形の圧力には凄まじいものがある。
第二は、エムゴロ・カンテという、コンパクトボール強奪陣形の要、象徴のような存在だ。走れて、スライディングなども上手い、インターセプトの名手。プレミア奇跡のレスター優勝の立役者こそ彼だったとは、既に世界周知の事実である。
第三に、グリーズマンや柴崎のような「絶好のシュート機会へのパス」が見える選手は、いつの時代にも貴重なものだ。ゴール前のスペースが無い時代だからこそ、こんな選手がさらに貴重になっている。というよりも、ゴール前にシュートスペースを作り出す目といった方がよいのかも知れない。昔から言うように「敵ゴール陣形を縦横に広げることによってゴール前にスペースを生み出す」。そんなパスから始まって1、2手未来の「絶好のシュート機会へのパス」が作り出せる選手「たち」と言った方が。
第四に、センターバックも足の速い選手が貴重になるだろう。日本対ベルギー戦の勝負を決した最後のベルギーカウンターの場面で、昌子にムバッペの脚があったら必ず追いついていたとは、誰もが思ったことのはずで、昌子もその事をどれだけ悔しがっていたことか! 地面に伏して身体を震わせていた昌子の姿を見て、そんなことを考えていた。
2010年W杯で優勝したスペイン(流の繋ぐサッカー)はその後後退して、2014年にはドイツが優勝した。ロシア大会では、このドイツが予選リーグで負けて、フランスが2度目の優勝。この間、個人技世界一と言って良いブラジルは、負け続けている。自国W杯では、優勝したドイツに7対1と惨敗だし、ロシア大会は3位のベルギーに準々決勝敗退である。
日本はというと、直前のパラグアイ戦で自分の戦い方、組織を見つけることができて3度目の決勝トーナメントに進み、ブラジルを負かしたベルギー相手に好勝負を演じた。
さて、あれだけ弱かった日本が急に強くなったのは明らかに組織が変わったからだ。個人技世界1のブラジルが勝てないのも、同じく組織で負けているからである。サッカーの強さとは、組織の強さなのであって、この間二つのW杯で示された勝つ組織とは「攻撃的守備」の一語につきる。世界サッカーの現趨勢であるこのことについて、改めてまとめてみたい。
キーワード「攻撃的守備」
① ブラジル大会のドイツも、ロシア大会のフランスも、ロシア大会に向かってぎりぎり最後に「強い組織」を身につけた日本も、その強さの淵源は「攻撃的守備」と言うに尽きる。そして、現在の攻撃的守備の有り様には、こういう表現が当てられてきた。
② まず、小さくまとまったという意味でのコンパクト。皆が一つにまとまって組織的にという意味のコレクティブ。その上で1対1(デュエル)に負けない個人の当たり強さ。そうして敵ボールを奪って、「縦に速く攻める」。そういう「攻守、守攻の速い組織的切替を皆が一糸乱れず行うよう常に意識していること」。などなどである。
③ こういう②のような戦い方を確立したのが2010年頃から急台頭したドイツのドルトムントであって、ここのゲーゲンプレスを理解できてこそ、②の意味も分かるというもの。守備即攻撃というその戦略思想はこういうものだった。
「敵陣に攻め入った身方ボールを敵が奪った瞬間こそ、そのボールが奪い返せるならばゲーム中最大の得点チャンスが出来る」
④ その「敵陣近くでボールを奪い返す」やり方は、こういうものだ。あらかじめDFラインを上げておいて前後陣を縦に詰めて密集した身方陣形を作っておいて、敵ボール保持者に近い身方がボールに突っかけ、後の身方は近くの敵がボールを受けるのを塞ぐという陣形である。ゲーゲンプレスとは、カウンタープレスのこと。敵がプレスでボールを奪って前に出てきた瞬間にこちらも前に詰めてプレスを掛けボールを奪おうとするそういう形をボクシングのカウンターパンチにたとえたわけである。
⑤ ゲーゲンプレス自身ははじめ、これを敵陣近くの高い位置で行ってショート・カウンター得点を狙ったが、やがてこういう「ボール強奪得点法」が中盤でも後陣でも、行われるようになっていった。要は、「敵が前掛かりになっているような時に何が何でもボールを奪って得点に結びつける」という発想、組織的やり方が、あらゆる位置、局面で行われるようになっていった。因みに、このやり方の普及によって。W杯得点が急に増えている。南ア大会まで、1ゲーム2・3ほどに下がって来た平均得点が、この2大会は2・7ほどに上がったのである。弱いと思われたチームも結構得点するようになったり、番狂わせが多かったりしたのもこういう流れが原因だろう。
今後の世界サッカー
さて、今後の世界サッカーはどうなっていくか。優勝したフランスなどを例にとって説明してみたい。
第一は、19歳のムバッペの出現である。ムバッペはロッベン・タイプのスプリント力を持つカウンター攻撃手と言えるが、猛烈なスピードでロングカウンターも出来るこういうタイプがどんどん重用されていくだろう。こんな選手がいて、彼が少々前目に構えていたりすると、相手陣形はラインアップも難しくなって、間延びせざるを得ないもの。その有形無形の圧力には凄まじいものがある。
第二は、エムゴロ・カンテという、コンパクトボール強奪陣形の要、象徴のような存在だ。走れて、スライディングなども上手い、インターセプトの名手。プレミア奇跡のレスター優勝の立役者こそ彼だったとは、既に世界周知の事実である。
第三に、グリーズマンや柴崎のような「絶好のシュート機会へのパス」が見える選手は、いつの時代にも貴重なものだ。ゴール前のスペースが無い時代だからこそ、こんな選手がさらに貴重になっている。というよりも、ゴール前にシュートスペースを作り出す目といった方がよいのかも知れない。昔から言うように「敵ゴール陣形を縦横に広げることによってゴール前にスペースを生み出す」。そんなパスから始まって1、2手未来の「絶好のシュート機会へのパス」が作り出せる選手「たち」と言った方が。
第四に、センターバックも足の速い選手が貴重になるだろう。日本対ベルギー戦の勝負を決した最後のベルギーカウンターの場面で、昌子にムバッペの脚があったら必ず追いついていたとは、誰もが思ったことのはずで、昌子もその事をどれだけ悔しがっていたことか! 地面に伏して身体を震わせていた昌子の姿を見て、そんなことを考えていた。