九条バトル !! (憲法問題のみならず、人間的なテーマならなんでも大歓迎!!)

憲法論議はいよいよ本番に。自由な掲示板です。憲法問題以外でも、人間的な話題なら何でも大歓迎。是非ひと言 !!!

随筆紹介  「孤 老」  文科系

2013年01月15日 00時06分46秒 | 文芸作品
 思うところあって、続々紹介。

【 孤 老 (ころう)
                              柴田 紀子

 「うちにモヤシがあるけど、色が変わってしまったんだわ。食べても大丈夫だろうか」
スーパーで野菜を選んでいると、突然、話かけられた。八十歳に近いだろうか、小柄で、どことなく五代目の故柳家小さんに似ている。以前からの知り合い、とでもいう口ぶり。
 こういう場合、なんて言えばいいのだろう。大丈夫、と言って腹をこわされてもいけない。やめておいた方がいいですよ と言ったほうが無難かな。とっさに、あれこれと考えていた。
「俺は一人暮らしだから、何を買っても余っちゃって困るんだわ」 そうですか……。早く買い物をして帰りたい私は少しずつ歩を進めるが、小さんも、あれこれと話しながらついてくる。そして、私だけじゃ物足りないのか、近くにいた主婦にも話しかけた。今だ。私は、その主婦が相づちを打っている間に雲隠れ。
 スーパーで、お年寄りから話しかけられることが時々ある。駐輪場で、隣に停めた自転車の老女が、身の上話をしていたこともある。楽しそうに話す顔は仏のようだが、名前も知らず、その場限りの他人に、なぜこういう話をするのだろう。
 一人暮らしのお年寄りが多い今、スーパーなど人が集まる所で人と話すことで、世間とつながっていると感じたいのだろうか。齢を重ねてきた柔和な顔の裏に、孤独な日常がちらついている気がした。】
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随筆紹介「古い人形」  文科系

2013年01月15日 00時04分35秒 | 文芸作品
 またまた、同じ同人の随筆紹介。


【   古い人形
                          北 かおる

「おばあちゃん? バービー人形ほしいの」孫娘から、必死に訴える電話。彼女も五歳になった。そろそろ着せ替え人形に興味を持つころである。買ってもいいけれど、何でもすぐ与えるのもよくない。少しは我慢させないと……。でも、彼女の声が耳に残る。
 そうだ、もしかして、私が子どものころ使っていた人形が、生家にまだあるかも。何でも捨てられないで、取っておく両親だから。車で十分ほどの生家へ走る。
 父が旅立ち、母も老人ホームへ入り、今は空家である。時々、母がホームから外出した時に寄るので、そのままにしてある。私の使っていた部屋へ。押し入れの奥から、ほこりがつまった箱を取り出す。蓋を開けると「あった」思わず声が出た。服は色あせて使えそうもないが、金髪の人形は洗えば大丈夫。
 端布で服を作ってみよう。チクチクと縫う。赤と白のギンガムチェックで、フリルのたくさんついたドレス。もう一つは、レースのカーテンの残り布で、白いふわふわドレス。作っているうちに、私の方が人形遊びをしている気分になってきた。でも、気に入ってくれるかな? 顔も古いし、服もしゃれていない。「違うよ」と、嫌がるかな……。
 次の週末。孫娘のはしゃいだ声と足音が聞こえ、玄関に飛び込んで来た。「おばあちゃん、バービーちゃんある?」靴もぬがずに聞く。手作りを渡す。「わあ、かわいい、うふふ」目を輝かせ、抱っこしながらくるくる回る。忘れられていた人形が蘇った。 
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