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随筆紹介 「複 雑」  文科系

2013年01月23日 05時01分30秒 | 文芸作品
 複 雑     坂口 安子   

 娘家族が年始に来て一週間が経過。まだ居る。たいがいそれぐらいは滞在するので覚悟はしていたが、それでもだんだん嫌になってくる。大人六人の三度の食事の世話に、山ほどの洗濯物。それに孫の赤ん坊のものまで増えた。生後半年ほどの女児が、まるで着せ替え人形のように着替えさせられ、私はそれを洗う。娘たちは赤ん坊が可愛くてたまらない。
 当然私たちにも可愛さを分かち合うかのように押し付けてくる。赤ん坊は可愛いが、人見知りをし始めたので世話は大変である。だいたい私は、夫や息子たち、老犬たちの世話と家事で忙しく、近頃は里の母の介護まである。それでもう手いっぱいなのだ。
 空いた時間に、読書に映画・美術鑑賞、友人たちとお喋りやランチもしたい。興味のある学習会にも参加をしたい。年をとつたら自分のための時間ができる。そう思い描いていただけに、まったくの想定外に苛立つ日々だ。
 松がとれたころ、やっと娘が帰り支度を始めた。「まだ帰りたくないなあ」なんて独り言を言っているが聞こえぬふりをする。「もうちょっと、居たいよねえ」と、今度は赤ん坊に話しかけている。しかたがない。「また、いつでもおいで」と心と裏腹なことを言ってやる。私は娘たちが帰ることにホッとして嬉しさが顔に出てしまう。と、娘が突然真顔になって言った。
「もし、私が死んだら、この子は絶対お母さんが育ててね」。
 えっ! また唐突に。しかも帰り際になんてことを言い出すのだ。
「だってこのうちの家系って、代々みんな女の人が短命でしょ。ちょっと不安なの」
 そういえば伯母や、夫の姉も妹も病気で、みな若くして幼子を残したまま亡くなっている。娘にしても生後すぐに実母を亡くしている。その後、いくつかの親戚に預けられていた。二歳になるころ、彼女の父親と再婚した私が引き取ったのだった。
「何をバカなこと言ってるの。正月早々そんなこと言いっこナシ」と私は一笑したが、娘の胸中が妙に切なかった。
「万一、そんなことになっても、赤ちゃんはパパがいるじゃない。彼なら大丈夫よ」。
 私は人のいい、穏やかな婿さんのことを持ち出した。
「だって、彼、そのうち再婚して、その相手の人にこの子は虐められるかもしれないもの」
 おいおい、それって私とあんたの立場と同じでしょ。
「それに、彼の実家であのお義母さんに育てられるのも嫌。だから、お母さんしかいないの。お願い。」そう妙な具合に見込まれた。いやあー、私も、もう子育てはお断りしたい。そんなことより、娘よ。絶対私より長生きしてよね。お願い。

コメント (4)
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