■K + J.J. / Kai Winding & J.J. Johnson (Bethlehem)
同一楽器プレイヤー同士のバンドの演奏といえば、ジャズでは対決バトル物がお決まりですが、しかし中には飛びぬけて素晴らしい協調性を重んじたグループも確かにありました。
例えば本日の主役たるカイ・ウィンディングと J.J.ジョンソンの2人は、共に優れたトロンボーン奏者ですが、彼等が1954年秋頃から組んでいたレギュラーバンドも、そのひとつでした。
もちろんお互いを意識したライバル的なアドリブ合戦は、その端緒となったライプ盤「An Afternoon At Birdland (RCA)」にも記録されいるとおり、熱いものがあります。しかし基本は、対決よりもアンサンブルの面白さとかアドリブとアレンジの両立という、非常にスマートな楽しさが魅力だったと思います。
さて、このアルバムは、そうした長所が遺憾なく発揮された代表作でしょう。
録音は1955年2月26&27日、メンバーはカイ・ウィンディング(tb,arr)、J.J.ジョンソン(tb,arr)、ディック・カッツ(p)、ミルト・ヒントン(b)、ウェンデル・マーシャル(b)、アル・ヘアウッド(ds) という素晴らしいバンドです。
A-1 Out Of This World
A-2 Thou Swell
A-3 Lover
A-4 Lope City
A-5 Stolen Bass
B-1 It's All Right With Me
B-2 Mad About The Boy
B-3 Yes Sir, That's My Baby
B-4 That's How I Fell About You
B-5 Gong Rock
上記のような演目のアレンジはA面が J.J.ジョンソン、B面がカイ・ウィンディングということで、似て非なる資質が上手く別れて楽しめるようになっています。
もちろん演奏では両者のトロンボーンが素晴らしいアドリブの競演を聞かせてくれますが、そのスタイルは小刻みなフレーズを使い、メカニカルなキメを多用するのが J.J.ジョンソン、闊達で躍動的なのがカイ・ウィンディングという聞き分け方を、私はしています。
ただし私有のこのアルバムはモノラルミックスですから、そこに拘ると、ちょいと素直に楽しめません。ゆえに本日は曲毎の文章は割愛した次第です。
演奏そのものに仕込まれたアレンジの妙、ハーモニーの魔法、トロンポーンという楽器特有のホノボノ感と爆裂熱血の豪快な音の楽しみ♪♪~♪ そういうものに身も心も自然の委ねられてしまう傑作トラックばかりだと思います。
例えば冒頭の「Out Of This World」は良く知られたメロディのスタンダード曲ですから、ここでのアンサンブルは尚更に楽しめるわけですが、それを見越したかのように、明確なアドリブパートが現れないという潔さ!
そして続く「Thou Swell」では、アップテンポのアドリブ合戦という流れが最高の目論見として秀逸です。
その意味ではB面初っ端の「It's All Right With Me」が、数多残されているジャズバージョンの中でも一際の名演として誉れが高く、実際、シブイ思わせぶりから颯爽としたテーマアンサンブルと名人両雄の躍動的アドリブ合戦が堪能出来ますし、これは以降、例えばカーティス・フラーやジャズテット等々の元ネタ的な演奏としても有名でしょう。リズム隊のシャープな弾け方も良いですねぇ~♪
さらにこのアルバムの魅力となっているのが、スローな演奏で特に顕著な室内楽的なアレンジかもしれません。例えば「Stolen Bass」や「Mad About The Boy」ではリズム隊が陰の主役というか、ベースの働きが侮れません。
またピアニストとして参加のディック・カッツの歯切れの良いプレイは、そうしたアレンジを存分に活かす絶妙のスパイスになっていると思います。もちろん如何にもハードパップな伴奏の中で、キラリと光る知的な雰囲気も良い感じ♪♪~♪
ということで、隅々にまでビシッとキマッた演奏ばかりゆえに、いまひとつのスリルが無いというご不満もございましょうが、楽しくて和やかなムードは天下逸品のモダンジャズ!
ちなみに現行CDには別テイクも収録されているそうですが、もし全体がステレオバージョンだったら、ぜひとも聴いてみたいもんです。
今日はちょいと花冷えしていますが、こういう暖かいジャズは春の和みですね。