OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

豪華な幻盤

2007-07-31 18:17:35 | Weblog

職場で急に体調を崩した者が出て、救急車騒ぎになりました。なんと心臓が悪くなっていて緊急入院! 一応、命に別状がなくてホッとしたんですが、手術が必要だそうです。う~ん、まだ40歳になっていないからなぁ……。

全く健康そうに見えても、病は突如、襲ってきますね。健康は本当にありがたいことです。

ということで、本日は――

Minor Move / Tina Brooks (Blue Note)

これはジャズに限った話では無いんですが、何時でも買えると思っていたレコードが、あっという間に廃盤になり、その後は中古も出てこないという惨劇が、確かにあります。

私にとっては、このアルバムもそのひとつでした。

内容はブルーノートならではのハードバップ作品でありながら、何故か長年オクラ入りしていたという因縁があり、1980年頃に我国優先で発売された未発表シリーズの中では、特に気になる1枚でした。

なにしろリーダーのティナ・ブルックスは、如何にも黒人というアーシーな感覚を持ったテナーサックス奏者ですし、これまで公式発表されていたブルーノートでの録音は少ないながらも、その全てがハードバップ愛好者の琴線に触れる演奏ばかりです。

加えてこのアルバムは、後述しますが、共演者が魅力的なんですねぇ~♪ 発売された当時はジャズ喫茶でも頻繁に鳴っていたと記憶しています。

ところが私は、何故かすぐに買わなかったんですねぇ……。

で、ハッと気がついた時には廃盤状態でした。もちろん、そうなってみるとジャズ者の哀しいサガとでも申しましょうか、急激に入手意欲が刺激されてしまいます。そこで中古盤屋巡りでは、まず最初に発見すべく、必死になっていた時期がありました。

そして数年後、ようやく見つけたブツは、なんとジャケットの一部分に青インクの染みがあり、おまけに印刷までもが薄れたような……。どうやら店員が仕入れた時に、ジャケットに付着していたベタベタの汚れを拭き取ろうとしてアルコールを使ったのが致命的だったようです。う~ん……。

しかし値段が900円でしたし、盤質には問題が無かったんでゲットしたという、愛着の1枚になりました。

さて、お待たせしました。録音は1958年3月16日、メンバーはティナ・ブルックス(ts)、リー・モーガン(tp)、ソニー・クラーク(p)、ダグ・ワトキンス(b)、アート・ブレイキー(ds) という、震えがくるほどハードバップな面々です――

A-1 Nutville
 ティナ・ブルックスが書いた正統派ハードバップのブルースで、初っ端からのグルーヴィな雰囲気がたまりません♪ しかもアドリブ先発のソニー・クラークが、もうファンキーそのものの快調さ! この人のスタイルはシンプルで、ちょっと聞きには地味かと思いますが、その「間」の取り方とか、音の選び方のちょっとハズシ気味のところが、たまらなくファンキーなんですねぇ~♪ この感覚は虜になったら、もう最後まで抜け出せません!
 そしてリー・モーガンも最初からメチャ、ファンキーなフレーズを連発してくれます。全体としては、若干の不安定さもあるんですが、それが逆に素晴らしいという、まさに全盛期の良さが堪能出来ます。倍テンポ吹きも潔いカッコ良さですねっ♪
 肝心のティナ・ブルックスはR&Bに根ざしながらも、スマートな感覚も身につけた隠れ名手の実力を存分に発揮しています。それはハンク・モブレーにも近い感覚なんですが、そこまでのタメやモタレは無く、寧ろ素直なところに好感が持てるのです。
 それとダグ・ワトキンス&アート・ブレイキーのリズムコンビが、実に強力です。この野太いピートが醸し出す真っ黒な感覚こそ、ハードバップの醍醐味!

A-2 The Way You Look Tonight
 モダンジャズでは急速スピードで演じられることが多いスタンダード曲ですから、ここでもそれは裏切れないという熱演が展開されています。まずティナ・ブルックスがテーマ吹奏をリードして、途中のリー・モーガンの登場までが、いきなりの快感です。しかもティナ・ブルックスが、そこでも絶妙の絡みを聞かせるんですねぇ♪
 その快調さはアドリブパートでも大いに発揮され、流れるようなフレーズ展開は、全く見事だと思います。ただし、それ故の引っ掛かりの無さというか、黒っぽさが希薄な事が??? バックのリズム隊が物凄いだけに、やや勿体無い感じです……。
 しかし、そこへいくとリー・モーガンは流石というか、十八番のフレーズを吹きまくって、痛快なハードバップ天国を現出させていくのです。あぁ、これが当時、日常的に行われていたセッションの一場面なんですから、モダンジャズ黄金期の熱気には本当に感動させられます!
 そして絶好調のソニー・クラーク! 全く「ソニクラ節」しか出ないという恐ろしさは、これまた当たり前なんですが、今更ながらにハードバップの魅力に打ちのめされます。
 クライマックスでのアート・ブレイキー対2管の対決も、良いですねぇ~♪ ラストテーマの吹奏も纏まりすぎているほどです。

B-1 Star Eyes
 有名なスタンダード曲ですが、リー・モーガンのミュートトランペットによるイントロが珍しく、全体的には軽やかに演奏されていますが、ハードバップの魅力は失われていません。
 それはリズム隊が最高に強力だからでしょう。グイノリのダグ・ワトキンスや大技・小技を駆使するアート・ブレイキー、絶妙の伴奏というか、合の手がニクイほどのソニー・クラーク♪ こんな贅沢なサポートは、ブルーノートの保守本流を示すものでしょう。
 ですからティナ・ブルックスもリラックスした好演を聞かせていますし、ソニー・クラークはファンキーな歌心が全開♪ リー・モーガンもタメとモタレ、ボケとツッコミを出し惜しみせずに見事な展開です。ただし若干の不安定さが……。まあ、この纏まりの悪さもリー・モーガンの魅力ではあるんですが……。

B-2 Minor Move
 ラテンリズムも取り入れたティナ・ブルックスのオリジナル曲で、なかなか凝ったテーマ構成がカッコ良さに繋がっています。
 ただし何故か、作者自身のアドリブにその面白さが活かせていない感じです。全く当たり前の冴えないフレーズが多くて残念なんですねぇ……。
 それはリー・モーガンにも伝染した雰囲気でしょうか、やや精彩を欠いたマンネリが……。う~ん、このあたりがオクラ入りしていた要因なんでしょうか? けっして悪い演奏では無いんですが、ちょっとダレてしまったように感じます。
 ただしソニー・クラークは、地味に素敵ですよ♪

B-3 Everything Happens To Me
 さてオーラスは、このアルバム唯一のスローバラード演奏で、これが素晴らしい! 素材はマット・デニスが書いた有名な「泣き」のメロディということもありますが、それを存分に自分だけの「節」に変換していくメンバー全員の素晴らしさに乾杯です。
 まずソニー・クラークのイントロが絶品ですねぇ♪
 テーマ・メロディを素直に吹いてくれるティナ・ブルックスは、控えめなサブトーンも交えてながら、ソフトで黒い雰囲気描写が、もう最高です♪
 またリー・モーガンが思慮深い思わせぶりを発揮して、これも素晴らしいかぎり! こういうアドリブが出来るのは、当に天才の証明だと思います。
 さらにソニー・クラークが、これまた気分はロンリーなアドリブを聞かせてくれますから、私のような者にとっては、夢見心地の演奏です。そしてアドリブからラストテーマに場を締めていくティナ・ブルックスが、畢生の名演!
 個人的には、このアルバムの中で一番好きな演奏になっています。

ということで、実はデータ的にはティナ・ブルックスの初リーダーセッションらしいのですが、それにしても、この豪華なメンバーは会社側の期待の表れとしか言えません。またそれを惜しげなくオクラ入りさせる潔さにも驚愕です。

そのあたりは、このセッションを聞き込むと理解出来るところでしょう。確かに纏まり過ぎている部分やマンネリしている部分が無きにしも非ずです。

これが初登場した1980年頃のジャズ界は、フュージョンブームが一段落して4ビートに原点回帰しつつあった時期でしたから、必然的に大歓迎というムードがありましたけれど、モダンジャズの黄金期では当たり前過ぎる演奏だったのか? と私は不遜にも思ってしまいます。

まあ、それだけ当たり前の凄さ・良さが味わえる作品だと、ご理解願えれば幸いですが……。やはり今となっては豪華なメンバーが揃った、かけがえの無い演奏ということで楽しめると思います。

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待ち望んだ復刻盤

2007-07-30 18:33:55 | Weblog

いやはや、昨夜の与党敗北から本日の総理大臣の煮え切らない会見まで、これが日本の現実とは言いながら、個人的には若尾文子様が当選できなかったのが、悔しいところ……。

まあ、いいか……。

ところで昨日、久々にCD屋にネタを仕入れに行ったところ、やっぱり、ありました! これが本当にびっくりするようなブツだったんですねぇ――

Tommy Potter's Hard Funk (Metronome / Lonehilljazz)

トミー・ポッターは全盛期チャーリー・パーカー・クインテットのレギュラーだった黒人ベーシストで、このアルバムは1956年の巡業で訪れたスウェーデンで吹き込まれた演奏の復刻CDです。

この音源は本来、EPとしてスウェーデン国内を中心に発売されていたものですが、アメリカでは6曲だけがアトランティックの傍系だった「East / West」という超マイナーレーベルからLPとして出されていましたし、我国でも収録曲を変えて発売されていた時期があったものの、現在では全てがウルトラ級の幻盤として人気を集めている一級品です。

というのも、このセッションに集められたのが、本場アメリカの実力者と地元の精鋭達ということで、当に一期一会的な名演になっているからです。

録音は1956年9月、メンバーはフレディ・レッド(p)、トミー・ポッター(b)、ジョー・ハリス(ds) という黒人リズム隊に加えて、ロルフ・エリクソン(tp)、オキ・ペルソン(tb)、エリック・ノーストレム(ts)、Hacke Bjorksten(ts)、Stig Garbrielsson(bs)、そしてベニー・ベイリー(tp) という顔ぶれが、様々に編成されて熱演を繰り広げています――

01 The Imp (1956年9月10日録音)
 フレディ・レッドが書いた得意の哀愁ハードバップ曲で、景気の良いリズム隊に煽られて、まずアドリブの先発は Hacke Bjorksten のテナーサックスが、なかなかに黒っぽく歌います♪ さらに続くトロンボーンのオキ・ペルソンは、明らかにフランク・ロソリーノ系の屈託の無いスタイルで、これも素晴らしいですねぇ。
 そしてフレディ・レッドがビバップに忠実ながら、愁いの滲むアドリブソロで、たまりません。次に出るロルフ・エリクソンのトランペットも歌心がたっぷりです♪
 リズム隊ではジョー・ハリスのメリハリの効いたドラミングが強烈ですし、トミー・ポッターは堅実なサポートで場を仕切っているのですが、全体の勢いが如何にもハードバップになっています。

02 Keester Parade (1956年9月13日録音)
 天才作曲家のジョニー・マンデルが書いたグルーヴィな隠れ名曲ですが、ここでは尚一層に明るく楽しく、黒っぽくを目標に演奏されています。
 もちろん、ここでもリズム隊が本場のノリを遺憾なく発揮していますから、スウェーデンの精鋭達も懸命の力演で、特にアドリブ先発のロルフ・エリクソンは相等に黒いです。
 またオキ・ペルソンの爆裂さ加減もイケていますし、フレディ・レッドはシンプルなフレーズの積み重ねで上手さを聞かせてくれます。トミー・ポッターのベースソロも味わい深いですねぇ~♪
 そしてここでのテナーサックスは、個人的にも大好きなエリック・ノーストレムで、そのズート・シムズとリッチー・カミューカの中間を行くスタイルは素晴らしい限り! 部分的にはスタン・ゲッツのフレーズまでも引用しながら、その本質はグルーヴィという隠れ名人です。

03 Russ And Arlene (1956年9月13日録音)
 これは西海岸派特有の明るく軽快な曲ですから、スウェーデンの連中にはジャストミートなんでしょう、流麗なスタイルのアドリブソロが連発されます。
 しかしリズム隊が黒いグルーヴを発散させていますから、油断がなりません。特にロルフ・エリクソンは、かなりハードバップに近いノリで、好感が持てます。
 あぁ、それにしてもエリック・ノーストレムのテナーは良いですねぇ~♪ スタン・ゲッツあたりが好きな人は、思わずニンマリでしょう。
 そしてトミー・ポッターのツッコミ鋭いベースソロと煽りまくるジョー・ハリスのドラムス、さらにデューク・ジョーダンに近くなっているフレディ・レッドの哀愁ピアノには、ジャズの素晴らしさが凝縮されていると感じます。

04 Punsch (1956年9月13日録音)
 ロルフ・エリクソンが書いた強烈なハードバップ曲ですから、リズム隊も対抗意識を丸出しにした激しさで、熱くなります。特にジョー・ハリスが大ハッスル! この人のドラムス中心に聴いているだけで、満足してしまいます。
 もちろんホーン陣も負けていません。溌剌と疾走するロルフ・エリクソン、流麗にスイングするエリック・ノーストレム、豪快なオキ・ペルソンと、一部のスキも無いのです。
 そしてフレディ・レッドの哀愁ピアノが、ここでも魅力絶大なんですねぇ~~♪ ちょっと聞きは地味なんですが、ジワジワと滲みてくる味わい深さは絶品です。バッキングも上手いですから、じっくり楽しんで下さいませ♪
 肝心のトミー・ポッターも大活躍のベースソロが強烈です。

05 T.N.T. (1956年9月10日録音)
 これも本来は明るく溌剌とした西海岸系のハードパップ曲なんですが、このリズム隊のおかげで、とんでもなく黒い演奏になっています。
 まずフレディ・レッドのピアノはファンキーの塊ですから、オキ・ペルソンも黒人の様式美を取り入れた熱演を聞かせてくれます。トロンボーンの音色そのものが、実にジャズっぽいんですねぇ♪
 また、ここでのテナーサックスは、再び登場した Hacke Bjorksten ですが、太めの音色でタフテナー系のブロー攻撃です。さらに倍テンポフレーズを多用するロルフ・エリクソンも、なかなかの好演ですから、トミー・ポッターもネバリのバッキングとアドリブソロで貫禄を見せつけるのでした。

06 Reets And I (1956年9月10日録音)
 これはビバップの定番曲なので、リズム隊は余裕たっぷりなんですが、ホーン陣は懸命なところが名演に繋がっています。
 特にノリが良いオキ・ペルソン、イキの良いロルフ・エリクソン、豪放な Hacke Bjorksten に対して小粋なフレディ・レッドが素晴らしいですねぇ。ちなみに Hacke Bjorksten のテナーサックスも基本はレスター派の白人系なんですが、その音色の黒っぽさが魅力です。

07 Spontanedus (1956年9月13日録音)
 ロルフ・エリクソンが書いた、これも隠れ名曲というハードバップです。ラテンリズムを使ったテーマが、ちょっとイカス雰囲気♪
 そしてアドリブのテナーサックスが、ここではまたまたエリック・ノーストレムに交代していますが、素晴らしいですねぇ~♪ 続くオキ・ペルソンとロルフ・エリクソンも熱演なんですが、ここはやっぱりエリック・ノーストレムの快演に拍手です♪ あぁ、このノリと歌心! バルネ・ウィランとか好きな皆様ならば、完全に虜になるでしょう。ソフトな音色とスマートなノリに加えて、そこはかとないグルーヴィな雰囲気が、私は好きでたまりません。
 気になるリズム隊は、ここでも余裕の展開ですが、決して手抜きではなく、恐さ丸出しの強烈な存在感が見事! ジョー・ハリスのドラムソロなんか、アフリカ原住民のノリがモロです。

08 Tunnelbanen (1956年9月16日録音)
 ここから以下の曲は、ベニー・ベイリーのトランペットを主役にしたワンホーン編成となりますが、リズム隊の快調さは継続され、いや、むしろ黒人ばっかりの統一されたノリが痛快です。
 特にベニー・ベイリーのスタイルは、ちょっとやんちゃな雰囲気がありますから、このリズム隊にとっても相性が良いというか、全体が溌剌とした楽しさに満ちている感じです。

09 Star Eyes (1956年9月13日録音)
 有名なスタンダード曲を、ここではゆったりと演奏していますが、リズム隊が生み出すグルーヴィなノリは、当にハードバップの醍醐味に満ちています。
 ベニー・ベイリーはミュートで端正に迫っていますし、思わせぶれも交えたアドリブは歌心もいっぱい♪ さらにフレディ・レッドのピアノが愁いを滲ませながらも、ちょっと突っぱねた感じですから、何度でも聴きたくなってしまいます。
 それとトミー・ポッターのペースソロも、良く歌っていますねぇ~♪ ジョー・ハリスのブラシが強すぎる感じですが……。

10 What Is This Thing Called Love (1956年9月13日録音)
 これもモダンジャズでは幾多の名演が残されているスタンダード曲ですが、またまたベニー・ベイリーのミュートが鮮やかですから、これも名演の誕生だと思います。
 ミディアムテンポでグルーヴィな雰囲気を醸し出すリズム隊も存在感がありますし、思わせぶりがたっぷりのベニー・ベイリーは、至福のアドリブに撤していて、本当に素敵です。

11 Guessin' (1956年9月13日録音)
 オーラスは楽しさ満点のハードバッブですが、その源はジョー・ハリスの調子の良いドラミングでしょう。ドドンパも入れながら、快適なビートを敲き出すあたりは、ジャズの楽しさがいっぱいです♪
 そして全てを任せきったベニー・ベイリーの屈託の無さに存分に応えるフレディ・レッドの伴奏が、これまた素晴らしいです。ただ、惜しむらくはベニー・ベイリーのアドリブ構成に、ちょっと破綻があるところでしょうか……。全体が快調なだけに勿体なかったですねぇ~。
 いや、それでも、やっぱりこれも名演です。

ということで、全曲が楽しく溌剌としたハードバップです。ただし似たようなテンポの曲が多いので、正直、CDを聴き通すと飽きが来るかもしれませんねぇ……。

しかし、このリズム隊の素晴らしさは聞いていて気持ちが良いです。特にジョー・ハリスは、一般的には無名に近い存在ですが、こんなにメリハリのあるドラマーは、ちょっと珍しいかもしれません。まあ、それゆえに、ひとつ間違えるとイモ扱いなんでしょうが……。

またフレディ・レッドの魅力である、そこはかとない哀愁は存分に楽しめますし、トミー・ポッターの実力も確認出来るでしょう。やはりこういう人たちが、地味ながらもモダンジャズの黄金期を作り出していた証のようなセッションだと思います。

そしてスウェーデンの精鋭達も、本場のリズム隊にビビリながらも嬉々として演奏を楽しんでいるようが、アリアリです。それは全く聴き手にとっては、ありがたい事♪

ちなみに、このCDジャケットは、前述した「East / West」レーベルから発売されたアメリカ盤LPのジャケ写を使っているらしいのですが、それにしても「Hard Funk」は言い過ぎたタイトルでしょう。けっしてホレス・シルバー(p) あたりの演奏を期待してはなりません。あくまでも正統派のハードバップであり、また同時に西海岸派の色合も強いです。

そして実は、この時の一連のセッションには、まだ続きがあって、それは後日、復刻発売されるらしいことが解説書に記してありました。あぁ、凄く楽しみだぁ~~~!

最後に気になる音質ですが、なかなかシャープなマスタリングゆえに、元テープの劣化までも分かってしまうあたりが、賛否両論でしょう。ただし昔出た日本盤LPとは雲泥の差ですから、充分に納得して楽しめると思います。

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カークとバイアード

2007-07-29 17:18:28 | Weblog

今日は選挙! 国民の義務として私も投票してきました。

いろいろと国に文句を言う前に、まず選挙に参加しなければ始りません。

しかし投票したい人物が居なかったら、どうするか……?

白票も良いんじゃないでしょうか。棄権するよりは、ずっと!

ということで、本日は――

The Jaki Byard Experience (Prestige)

ジャッキー・バイアードはジャズ界きってのマルチプレイヤーで、一応、主楽器はピアノなんでしょうが、サックスは上手いし、トランペットや各種打楽器、管楽器を巧みに操っては、リスナーをケムに巻く様な活動をしていました。

もちろん音楽性も幅広く、例えばピアノでは元祖モダンピアノというアール・ハインズ~ビバップを創成したバド・パウエルのスタイルを完全吸収し、さらにデューク・エリントンやエロル・ガーナーあたりの洒脱な部分も取り入れて、全く正体を見せません。もちろんフリーは十八番の展開です。

つまりジャッキー・バイアードの作り出す音楽は、刺激的に楽しく、ジャズの伝統と革新をひとりでやってしまったようなゴッタ煮感覚が、たまらないのです。

そのあたりが高く評価されたのか、あのガンコ親分のチャールズ・ミンガス(b) が自分のバンドへ特に懇願して入団させた伝説が残されているほどです。

さて、このアルバムは、そのチャールズ・ミンガスのバンドでは同僚だったローランド・カークと組んだ、所謂ワンホーン物ですが、ご存知のようにローランド・カークもジャズに留まらない幅広い音楽性を自然体で身につけていた奇特な天才でしたから、ここでのコラボレーションもバッチリという傑作になっています。

録音は1968年9月17日、メンバーはローランド・カーク(ts,cl,manzello,etc)、ジャッキー・バイアード(p)、リチャード・デイビス(b)、アラン・ドウソン(ds) という硬派な面々です――

A-1 Parisian Thoroughfare
 バド・パウエルが書いたエキセントリックなビバップ曲なんですが、クリフォード・ブラウンが小粋なアレンジを用いてハードバップ化した演奏が有名でしょう。
 ここではローランド・カークが複数のホーンを用いたり、ジャッキー・バイアードがフリー寸前の錯乱ピアノを聞かせたり、アラン・ドウソンがやけっぱちドラムスを敲いたりする曲の導入部で、パリの街の狂騒を上手く表現して流石です。これはクリフォード・ブラウンのアレンジを、一層、進化させた鮮やかさです♪
 で、それが終わってからは痛快なモダンジャズに転換し、ローランド・カークがマンゼロというソプラノサックスの音色に近い楽器で、一気に吹きまくり! ジャッキー・バイアード以下の伴奏陣も烈しい自己主張と協調性のバランスを求めて止まないノリが見事ですし、ローランド・カークは途中からテナーサックスに吹き代えての熱演も、一瞬で虚しくなってしまうジャッキー・バイアードの突撃ピアノソロを聴けば納得でしょう。
 あぁ、フリーもラグタイムもゴッタ煮でありながら、間違いなくモダンジャズのピアノになっている恐ろしさ! また、それに全く怯むことの無いリチャード・デイビスのベースも流石ですし、大技・小技で対抗するアラン・ドウソンは、あのトニー・ウィリアムスが目標としていたドラマーだけあって、抜群の存在感を示しているのでした。
 とにかく、これ1曲だけで、このアルバムの全貌が濃縮された名演だと思います。

A-2 Hazy Eve
 ジャッキー・パイアードのオリジナル曲で、なんとなくデューク・エリントンが書きそうな雰囲気が滲んでいます。そしてここではピアノとベースのデュオという演奏が、心に滲みますねぇ……。
 前曲がド派手だったんで、これが同一のバンドか? と思わずにはいられません。このあたりが、ジャッキー・バイアードの真骨頂かと思います。

A-3 Shine On Me
 これは古いゴスペル曲ですから、ジャッキー・バイアードが初っ端から楽しく軽いピアノを披露すれば、ローランド・カークはクラリネットで明るい哀愁を追求していきます。
 ドラムスとベースはジャズロック調のグルーヴで、ますます楽しく、ニューオリンズのセカンドラインまでも敲くアラン・ドウソンが実に素晴らしいです。ドタバタした雰囲気を引き締めるリチャード・デイビスのベースも良いですねぇ♪
 肝心のジャッキー・バイアードは、ゴスペル本流の高揚感とチープスリルな音色を上手く表現したピアノが本当に見事で、全く唯一無二の自己主張が痛快です。
 それとローランド・カークが中盤で聞かせる豪放なテナーサックスのアドリブは、分かり易いフレーズが逆に凄みを感じさせるというルーツ志向が好ましい限り! これがジャズです!
 
B-1 Evidence
 さてB面は、セロニアス・モンク(p) の代表作にチャレンジするバンドの意気込みが強烈な名演になったトラックでスタートします。
 まずローランド・カークがダーティな音色のテナーサックスで吹奏するテーマメロディの背後では、ジャッキー・バイアードが大暴れ! それはアドリブパートに入っても続きますから、あたりはもう、最初っから地獄の様相です。
 そしてローランド・カークが長~い息使いでウダウダバリバリ吹きまくり! あぁ、心底、驚愕するほかはありません。
 するとジャッキー・バイアードがセロニアス・モンクのスタイルをさらに過激にしたようなフリー寸前のアドリブを披露するのですが、我関せずのりチャード・デイビスとアラン・ドウソンの伴奏がありますから、普通に聞こえてしまうのが、これまた恐いところ!
 最後の最後まで気を抜けない濃密さに疲れますが、それは心地良いものです♪

B-2 Memories Of You
 一転して信じられないような和みに満たされる演奏です!
 曲はベニー・グッドマンで有名な優しいスタンダードで、聴けば納得のメロディなんですが、ローランド・カークが幾分力んだテナーサックスでストレートに吹奏するバックでは、ジャッキー・バイアードが、これまた楽しいラグタイム調の伴奏をつけるんですから、たまりません。
 こうして文章にしているのが虚しくなるほどに、楽しく、せつなくなってしまう演奏としか書けませんが、ローランド・カークの歌心の素晴らしさと表現力は驚異的だと思います。特に終盤の息継ぎ無しの一気吹きには、愕くしかないでしょう。
 ちなみにこの演奏はテナーサックスとピアノのデュオなんですが、ジャッキー・バイアードの強烈なビート感も素晴らしく、アドリブパートでのハチャメチャさも痛快! もちろんそれは、やはり歌心に裏打ちされたものですから、一聴、虜になること間違い無しです。

B-3 Teach Me Tonight
 オーラスも、凝った演奏ながら、実は泣きたくなるほどに楽しい仕上がりになっています。
 曲はスタンダードなんですが、こんなに愛らしくて楽しい解釈は珍しいのではないでしょうか? 全く正統派のテナーサックスを聞かせるローランド・カークはもちろんのこと、リズム隊のアグレッシブで分かっている伴奏なんか、相等に自信が無いと出来ない力技もあって、流石です。
 あぁ、ジャズの素晴らしさに酔わされてしまいますねぇ~~~♪

ということで、これはコワモテのメンツが徹底的にジャズの楽しさを聞かせた名盤です。

人気者のローランド・カークは、何時も以上に歌心を大切にした名演を披露していますし、攻撃的な部分もきちんと発揮していますから、最高です。

またアラン・ドウソンの硬軟取り混ぜたドラミングの凄さ、リチャード・デイビスのマイペースな自己主張も個性的ですから、全体として、一部の隙もありません。

それでいて疲れないのは、ジャッキー・バイアードの幅広い音楽性が、わざとらしさに繋がっていないことだと思います。つまり作り上げた部分でさえ、自分の心に素直に演じたということでしょうか?

個人的には非常に偏愛している1枚です。機会があれば、ぜひとも聴いてみて下さいませ。目からウロコというよりも、なんでもありという、ジャズの楽しさに素直に浸れると思います。

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クセが無いのも良い感じ

2007-07-28 16:37:01 | Weblog

たまに実家に戻ると、メッチャ、忙しいです。選挙関連とか仕事がらみとか、はたまた私的野暮用が次々に重なって、ちっとも休みにならんじゃないか!

ということで、そんな時は和みのピアノトリオが聴きたくなります――

Like Taht / Dino Losito (?)

ジャズの発祥はニューオリンズかもしれませんが、モダンジャズの本場はニューヨークなんでしょうか? とにかくニューヨークで活躍してナンボ、というのがジャズメンの評価になっていますね。

ですから、そこには有名無名を問わず、ジャズをやっているミュージシャンが世界中から大集合! えっ、こんなっ! という意外な人から、全く無名でも実力で伸し上がろうとする者が連日連夜、腕を競っているようです。

う~ん、これは1960年代後半からの十数年間とは雲泥の差というか、当時はニューヨークでさえジャズは時代遅れの風潮が蔓延していたことを思えば、当にジャズライブ天国でしょう。

さて、このアルバムは、そんな状況下で地道に活動していると思われるピアニストのCDなんですが、実は友人からのお土産として5年ほど前に貰ったものです。

どうやら自主制作らしいですね。なんでもエリック・アレキサンダー(ts) を聞きにいったら、そのクラブで売っていたとか……。もちろん当人も出演していて、全く正統派ハードバップのピアノを聞かせていたんで、気に入って買って来たと……。

で、ジャケットは2枚目風のポートレートだけという潔さですが、中身も地味に良いという好ましさです。

録音は2000年12月20日&2001年8月28日、メンバーは Dino Losito(p)、Neil Miner(b)、Mike Melto(ds) という無名のビアノトリオです――

01 Happy Times
02 There It Is
03 Skylark
04 Our Delight
05 Soul Eyes
06 Like That
07 When You Wish Upon A Star
08 I'll Close My Eyes
09 Stars Fell On Alabama

――という演目は、有名スタンダード+モダンジャズの人気オリジナル曲という構成に加えて、Dino Losito のオリジナルも入った、これもなかなかに正統派の作りがニクイところ♪ つまり安心してプレイボタンを押せるわけです。

冒頭の「Happy Times」はフレディ・ハバードが書いた痛快なハードバップのオリジナルですから、Dino Losito も奇を衒ったようなフレーズや音使いは全然していなくて、小気味良いピアノタッチで明快なアドリブに撤しています。というよりも、あまりのクセの無さが逆に楽しい感じなんですねぇ~♪

そのあたりは、同じモダンジャズの定番曲である「Our Delight」でも言えることで、ビバップ伝来のフレーズばかりで、しかも歌心溢れるアドリブの妙技は、バリー・ハリス系と言っていいかもしれません。ただしエキセントリックや所やガンコな部分は、全然、無いんです。

もちろん黒っぽい感覚も抜かりなく、自作のブルース「Like That」では、ミディアムテンポでも粘っこい味わいも聞かせてくれますし、マル・ウォルドロンが書いた情念の名曲「Soul Eyes」では、ちょっと重くて意地悪な展開も、後味の悪くない演奏にしています。

つまり全体的に軽い雰囲気なんですが、そのあたりが存分に発揮さたのが、ボサノバのアレンジで「泣き」が強調された名演となった「I'll Close My Eyes」でしょう。トリオとしての纏まりも素晴らしく、全てが「歌」になっている Dino Losito のピアノは最高♪ 何度聴いても、飽きません。

また続く「Stars Fell On Alabama」も、ゆったりしたテンポ設定で「歌」の魅力をたっぷりと聞かせた名演になっています。このあたりは、ちょっとビル・チャーラップ(p) あたりと似ていますが、Dino Losito にはあそこまでの華麗さは無くて、素朴な真心で弾くという感じです。いゃ~ぁ、それが実に良いんですねぇ~、心底、和みます♪

ということで、我国でも全然ブレイクしていないところをみると、やっぱり燻り組だったんでしょうか……? まあ、ニューヨークには、この程度のピアニストはゴマンと居る証かもしれませんが、このアルバムは自分の感性にジャストミートした1枚です。

ちょっと聴きには全然、引っ掛かりが無いし、派手さとは無縁のスタイルなんですが、私にとっては、死ぬまで聴き続ける愛聴盤! 残念ながら自主制作らしいので入手が難しいかもしれませんが、見つけたら即ゲットして間違いのないブツです。

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煮詰まりの魅力

2007-07-27 15:34:07 | Weblog

今日はセミが煩いなぁ~。まあ、夏だから仕方ないのかもしれませんが、それにしても、今年はセミが多すぎるような気がしますねぇ。

それと異常に暑いです。ほとんど麦茶をガブ飲み状態……。なんか最近は体力が落ちているのを痛感しています。

ということで、本日は――

Silver's Serenade / Horace Silver (Blue Note)

全盛期ホレス・シルバー・クインテットの1枚ですが、傑作・人気盤が多いその時期の中では、おそらく一番地味な作品でしょう。

というのは、もちろん全てをホレス・シルバーが書いたんですが、派手で覚え易い曲が入っていなんいですねぇ……。しかし、それでも充分に聞き応えがあるのは、ジャズの世界では珍しいレギュラー形態だったバンドメンバーの纏まりの良さ! 特にブルー・ミッチェルとジュニア・クックの分かり易いアドリブと阿吽の呼吸で盛り上げるリズム隊の存在感が、本当に良い味です。

録音は1963年5月7&8日、メンバーはブルー・ミッチェル(tp)、ジュニア・クック(ts)、ホレス・シルバー(p)、ジーン・テイラー(b)、ロイ・ブルックス(ds) という、B級グルメっぽい面々です――

A-1 Silver's Serenade
 明るくて、やがて哀しき宴の後のような、ジンワリと心に染み入るテーマメロディが、地味ながら味わい深い名曲です。
 アドリブパート先発のブルー・ミッチェルは、何時ものように分かり易いフレーズを積み重ね、じっくりと聞かせる背後では、ジーン・テイラーのベースが実に印象的! それは続くジュニア・クックのパートでも同じですし、ホレス・シルバーの沈み込んだような伴奏も???ながら、やっぱり聴き入ってしまいますねぇ。これがモダンジャズの魔法なのかもしれません。
 肝心のホレス・シルバーのアドリブは、当然、ビアノトリオ形式になりますが、ロイ・ブルックスのブラシとジーン・テイラーのベースが妙に目立つほど、地味~な展開です。もちろん十八番のリズミックなノリもやっているんですが、こんなに落ち込んでいるホレス・シルバーは珍しいのでは?

A-2 Let's Get To The Nitty Gritty
 ゴスペル調も入ったミディアムテンポのハードバップ曲なんですが、ここでも落ち込みモードが継続という雰囲気です。
 もちろんブルー・ミッチェルは明るくファンキーなフレーズを吹きまくり、ジュニア・クックはダークな音色でゴリゴリに迫っています。さらにロイ・ブルックスのゴスペル味のドラミングは最高なんですが、う~ん、何故か演奏そのものが煮えきりません。
 ホレス・シルバーにしても、得意のゴンゴン鳴らすコード弾きに加え、暗く蠢くような伴奏と飛び跳ねるアドリブソロで、なんら問題は無いはずなんですが、こんな黒い情念の表出は似合っていないと感じます。
 ただし、何度か聴くうちに中毒症状になるのも、また事実です。明らかに自己矛盾した快感に浸ってしまう演奏という……。

B-1 Sweet Sweetie Dee
 これも重たいような、煮え切らないような、はっきりしない曲なんですが、ブルー・ミッチェルとジュニア・クックの踏ん張りで、どうにかハードバップの体裁を保ったような演奏です。
 もちろんホレス・シルバーは伴奏、アドリブソロともに個性的なんですが……。ちょっと煮詰まったゴッタ煮のような、私には味が濃すぎます。

B-2 The Dragon Lady
 これまたリズム隊の重たいグルーヴが要注意の演奏です。
 全体にはスローな部分ばかりなんですが、突如、明るいパートが表れたして、疲れます。
 ただしバンド全体での表現としては、これで良いのかもしれません。通常のハードバップのような、アドリブソロの競演や個人技の応酬よりも、グループとしての完成された演奏を目指したホレス・シルバーの目論見なんでしょうか?

B-3 Nineteen Bars
 オーラスになって、ようやくホレス・シルバーのバンドらしい、痛快な曲が登場しました。あぁ、今までの苦行は、この一瞬のための布石だったんでしょうか……?
 とにかくアップテンポで炸裂するホレス・シルバーのド迫力伴奏に煽られて、ジュニア・クックが直線的に疾走すれば、ブルー・ミッチェルは単純明快なボケとツッコミを連発し、その場を完全にハードバップ色に染上げていきます。
 そしてホレス・シルバーが、これぞっ♪ という鬱憤を晴らしてくれる大暴走です。あぁ、スカッとしますねぇ!

ということで、イマイチ、精彩の感じられないアルバムなんですが、個人的には「Let's Get To The Nitty Gritty」のドロドロした演奏が好きでたまりません。というか、中毒に侵されている感じです。

ちなみに、このバンドはアルバム発売直後に解散しているようです。そしてホレス・シルバーはジョー・ヘンダーソン(ts) やカーメル・ジョーンズ(tp) を雇い入れた新編成で「ソング・フォー・マイ・ファーザ (Blue Note) 」のメガヒットを飛ばし、ブルー・ミッチェルとジュニア・クックは盟友として明るく楽しい活動を共にしていくのです。

その意味からして、このアルバムの煮え切らなさは必然が当然という雰囲気でしょうか。つまりレギュラーのバンドとしては煮詰まっていたんでしょうねぇ……。

しかし、そういうギリギリの腐りかけが、クセになる美味しさといったら顰蹙でしょうか。

追伸:本日は天知茂の23回忌です。そこで本サイト「サイケおやじ館」にて、追善掲載を行いました。「乱歩・美女シリーズ / 黒真珠の美女」です。よろしければ、ご一読願います。

 

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ブルックマイヤーと豪華な友達

2007-07-26 18:42:43 | Weblog

最近、暑さの所為か、やたらに空腹感を覚えます。

と言っても、食事はそんなに大量に食えませんからねぇ……。

ということで、本日は――

Bob Brookmeyer And Friends (Colubia)

ジャズでは珍しくもないオールスタア・セッションも、ここまで来ると流石に唸るという1枚です。

リーダーは一応、ボブ・ブルックマイヤーになっていますが、相方が当時、ボサノバで人気絶頂だったスタン・ゲッツですから、たまりません。しかも、この2人は1953年頃にはレギュラーのバンドを組んでいた仲であり、それが解散となった後にも、ひとたび顔を合わせれば絶妙のコンビネーションを聞かせてくれるという名コンビ♪ 実質は2人の双頭リーダー盤だと思います。

録音は1965年5月、メンバーはボブ・ブルックマイヤー(v-tb)、スタン・ゲッツ(ts)、ハービー・ハンコック(p)、ゲイリー・バートン(vib)、ロン・カーター(b)、そしてエルビン・ジョーンズ(ds) という、絶句するような豪華布陣! 発売されたのは1966年です――

A-1 Jive Hoot (1965年5月26日)
 ボブ・ブルックマイヤーが書いたウキウキするほどに爽やかな名曲てす。エルビン・ジョーンズの小刻みなドラミングが、ややミスマッチの妙を感じさせますが、覚え易いテーマメロディのノリの楽しさは最高ですねぇ~♪ 一緒に口ずさんでも、全然、OKです。
 温か味が魅力のボブ・ブルックマイヤーに対してクールなスタン・ゲッツとゲイリー・バートンが素晴らしく、各人ともに歌心を大切にしていますから、好感が持てます♪ 煮え切らないリズムも、妙に引っ掛かりがあって飽きません。
 そしてハービー・ハンコックの尖がった姿勢がエルビン・ジョーンズに火をつけたような展開も、流石だと思います。

A-2 Misty (1965年5月27日)
 エロル・ガーナーが書いた有名なメロディは、ジャズの世界を超えて、今や世界のスタンダードになっていますが、ここでは初っ端からクールにキメまくるスタン・ゲッツのテーマ吹奏が素晴らしいがぎり! 静謐でブルーな吐息というか、透明感溢れる表現には感動させられます。
 またボブ・ブルックマイヤー以下の面々が脇役に徹しているあたりも、逆に凄いと思います。ですから、スタン・ゲッツはアドリブパートに入っても本領発揮の大名演♪ 本当に涼やかな演奏で、夏の夜にはぴったりですね。
 もちろんボブ・ブルックマイヤーも、短いながら歌心全開のソロを聞かせてくれますが、ここはあくまでもスタン・ゲッツにシビレて異議なしだと思います。

A-3 The Wrinkle (1965年5月26日)
 一転して黒くて力強いハードバップ! 作曲はボブ・ブルックマイヤーですが、エルビン・ジョーンズとロン・カーターの頑張りが目立ちます。
 アドリブパートでは、まずゲイリー・バートンがクールで流麗な得意技を存分に聞かせてくれます。う~ん、ビル・エバンス(p) の流儀を用いている感じでしょうか、流石ですねぇ♪
 また続くスタン・ゲッツも十八番のフレーズを出しまくりというノリの良さですし、ハービー・ハンコックはファンキー味までも滲ませた快演です。
 そしてボブ・ブルックマイヤーは、幾分もっさりした味わいながら、歌心優先のフレーズしか吹きませんから、やっぱり最高です!

A-4 Bracket (1965年5月25日)
 これもボブ・ブルックマイヤーのオリジナルで、エルビン・ジョーンズのアクが強いドラムスを活かしたモダンジャズです。
 もちろんアドリブパートにも激しさがあって、ボブ・ブルックマイヤーのウダウダと繋がる不思議なフレーズ展開が快感としか言えません。それはスタン・ゲッツとても同じことで、流麗な「ゲッツ節」に思い切った音使いを混ぜ込んだ大熱演! 背後で嬉々として煽るエルビン・ジョーンズも強烈な存在感です。
 そしてハービー・ハンコックもバカノリ寸前ですが、クライマックスはホーン対エルビン・ジョーンズ! まさに大団円が、熱いです。

B-1 Skylark (1965年5月27日)
 B面は、これもお馴染みのスタンダードですが、もちろんこういう曲調になれば、スタン・ゲッツが面目躍如のクール節をたっぷり聞かせてくれます。スローな展開における溜息のような思わせぶりが最高です。涼しいですねぇ~~~♪
 また歌心がいっぱいのボブ・ブルックマイヤーは、トロンボーンの音色を活かしきった演奏ですし、ゲイリー・バートンの淡々としたところも憎めません。エルビン・ジョーンズの粘っこいブラシも良い感じです。
 しかし、ここはやっぱりスタン・ゲッツでしょう。
 さらに途中でキレた様な伴奏に走るハービー・ハンコックは、どうしたんでしょう? これもジャズの醍醐味でしょうか……。

B-2 Sometime Ago (1965年5月25日)
 これも個人的に大好きな名曲の所為か、知らず知らずのうちに和んでしまう演奏だと思います。テーマ部分から鮮やかなボブ&ゲッツの穏やかなスイング感には、本当に脱帽です。
 しかしリズム隊は容赦無い雰囲気で、特にエルビン・ジョーンズは鬼気迫るドラミングですから、油断なりません。刺激されたスタン・ゲッツがアドリブパートで熱くなってしまうのは、ご愛嬌!? クライマックスでの2管の絡みも、短いのが残念なほどに秀逸だと思います。

B-3 I've Grown Accustomed To Her Face (1965年5月27日)
 テーマメロディをスローで聞かせるボブ・ブルックマイヤーのジャズ魂が素晴らしい演奏です。もちろん絶妙の存在感を示すスタン・ゲッツも最高ですねぇ♪ ほんとうに心がジンワリとしてくる仕上がりだと思います。
 スタン・ゲッツのクールな歌心も嫌味になっていませんし、余計な手出しをしないリズム隊も、分かっている感じです。
 当に白人ジャズの真髄に迫った出来なんでしょうが、リズム隊が黒人というあたりが、キモかもしれません。やっぱりジャズは、良いですねぇ♪
 
B-4 Who Cares (1965年5月27日)
 オーラスはスタンダード曲を素材に、楽しく陽気に盛り上がる演奏を披露してくれます。そしてこういう場面では、ハービー・ハンコックが実に味の伴奏で、たまりません。エルビン・ジョーンズの力感溢れるドラミングも最高♪
 ですからスタン・ゲッツも絶好調、と書きたいところなんですが、実はリズム隊に押しまくられているという、ちょっと珍しい雰囲気になっています。と言うか、エルビン・ジョーンズが凄すぎるんですねぇ~。ほとんどドラムソロ状態のバッキングなんです。
 するとボブ・ブルックマイヤーは初めっから諦めているような感じながら、実は周到に「読み」を働かせたアドリブ構成で、思わず唸ります。う~ん、これにはエルビン・ジョーンズも熱くなったか、ますます激烈に叩きまくるポリリズムの恐ろしさ!

ということで、如何にも大手レコード会社らしい企画というか、本音は人気絶頂だったスタン・ゲッツを録音したかったのかもしれません。というのは、当時のスタン・ゲッツはヴァーヴレコードと契約中でしたから……。

しかし、そういう思惑を超えたところで、あえてボサノバを避けた純ジャズのセッションを敢行したのは流石だと思います。おそらくスタン・ゲッツ本人にしても、そろそろボサノバから脱して次の展開へと、暗中模索していた時期だったのかもしれません。強靭なリズム隊の存在に、思わず嬉々として吹きまくった感があります。

ただし、このアルバムの弱点は、録音の貧弱さとでも申しましょうか、リバーサイドやブルーノートのような如何にも力感溢れるジャズの音になっていないのが、勿体無いところ……。まあ、これはこれで、良く纏まった音作りなんですが、個人的にはインパルスあたりの音だったらなぁ……、と聴く度に思います。

もちろん、それだからと言って、演奏そのものがダメということはありません。ジャズ喫茶の大音量でも、自宅での鑑賞でも、はたまた洒落たカフェで流れていても、ちゃ~んとその場を空気をジャズにしてしまう、粋な迫力がある名盤でしょう。

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燃え上がるケッセル

2007-07-25 17:26:47 | Weblog

最近の女性のヘアスタイルは、髪の毛の先がボサボサというか、揃っていないのが、気になります。

まあ、それは流行なんでしょうが、妙に首筋や頬のあたりがヒクヒクしているようで、鬱陶しさを感じてしまうのは、私が古い人間だからでしょう……。

ということで、本日は――

On Fire / Barney Kessel (Emeral)

バーニー・ケッセルはジャズギターの王道をいく名手ですが、同時にハリウッドでのスタジオの仕事でも、音楽史に名を残しているのは有名でしょう。

特に1950年代後期から1960年代半ば頃までは、アメリカ西海岸で量産されるポピュラー~ロック、ポップス系のセッションでファーストコールの実力を発揮していました。尤も、それらのレコードにクレジットが記載される事はほとんどありませんでしたが……。

ちなみにそういう境遇を選んだのも、ケッセル本人が巡業嫌いだった所為と言われています。なにしろそれでオスカー・ピーターソンのレギュラートリオを辞めてしまったほどですから!

で、このアルバムは久々に作られた本格的ジャズのリーダー盤で、製作レーベルの「エメラルド」は、当時のポップス界では大プロデューサーだったフィル・スペクターが立ち上げたとされています。もちろんバーニー・ケッセルは、フィル・スペクターのセッションには欠かせない人材でした。

しかし「エメラルド」で作られたアルバムは、これ1枚しか発見されていません。実はこの作品が発売された1966年頃のフィル・スペクターは、アメリカでは完全に落目になっており、自己のレーベル「フィレス」も消滅寸前でした。

そこで新機軸を狙ってジャズの分野に進出しようとしたのか? はたまた、これまでの功績に報いるためにバーニー・ケッセルのリーダー盤を作ったのか? いろいろな妄想・因縁が尽きないアルバムです。

しかし内容は流石に素晴らしい♪ 録音は1965年、ハリウッドにあった「P.J's」というクラブでのライブセッションで、メンバーはバーニー・ケッセル(p)、ジェリー・シェフ(b)、フランク・キャップ(ds) というトリオ編成です――

A-1 Slow Burn
 バーニー・ケッセルが書いたブルースで、グルーヴィな雰囲気が横溢した名演です。とにかくモダンジャズにおけるブルースギターの解釈としては、これ以上無い素晴らしさとでも申しましょうか、タメとモタレの黒い感覚に加えて、絶妙のアタックを聞かせるピッキングの上手さやフレーズ展開とアドリブ構成の凄さは、他の追従を許さぬものがあります。
 もちろん今日の感覚からは地味でイナタイところも目立ちますが、実はそれこそがモダンジャズ黄金時代の「味」だと思います。
 また野太いジェリー・シェフのベースも素晴らしいですねぇ。この人もまた、スタジオの世界ではトップクラスの名手で、エルビス・プレスリーからドアーズまで、どんなセッシッョンでも確実な仕事をこなした偉人です。エレキベースも最高に上手いんですよっ♪
 それと的確なサポートに撤するフランク・キャップも、やはりセッションドラマーとして、ずぅ~っとトップをとっていた名人であり、ジャズの世界ではアンドレ・プレヴィン(p) とのトリオ盤で有名でしょう。
 そういう3人ですから、まあ、ここでの快演はあたりまえだのクラッカーかもしれませんが、私なんかにすれば、聴くほどに凄いと唸るしかありません。

A-2 Just In Time
 有名スタンダート曲ですが、バーニー・ケッセルは思い切ったアップテンポでバリバリ弾きまくっていて、爽快です。もちろん荒っぽい部分もあるんですが、それこそがライブセッションの醍醐味でしょう。ガンガン鳴らすコード弾きや撫でるようなギャロップ奏法も鮮やかですし、後半でのドラムスとの対決でも、全く怯むことなくブッ飛ばすあたりは、最高です。

A-3 The Shadow Of Your Smile
 1965年に製作・公開された映画「いそしぎ」のテーマ曲で、ボサノバにアレンジした演奏も多いのですが、ここではそれが煮えきっていません。というか、バーニー・ケッセルはスローな解釈に撤しているのですが、ドラムスが妙なラテンビートを使い、間に入ったベースが迷い道……。
 まあ、それでもちゃ~んと纏まっていくんですから、やはり名手は違うんだなぁ……、と思ってしまう私です。ちょっと苦しいでしょうか?

B-1 Recado Bossa Nova
 ハンク・モブレー(ts) でお馴染みの名曲ですが、ここでも痛快なボサロック仕立てになっていて、最高です。フランク・キャップのリムショットが痛快なんです♪
 もちろんバーニー・ケッセルのギターも素晴らしく、あくまでもジャズに拘るフレーズばっかりを弾いてくれます。あぁ、この潔さがバーニー・ケッセルの魅力かもしれません。
 バンドとしての纏まりも申し分なく、ギターのフレーズを読みきって先回りしたようなオカズを入れるドラムスと上手いリフで対抗するベースの凄さ♪ これぞ名手達の競演です。

B-2 Sweet Baby
 バーニー・ケッセルが書いた愛らしいメロディのオリジナル曲です。ソフトな感性とジャズの悪魔性が上手く交じり合った、なかなかの名曲・名演だと思います。
 特にジェリー・シェフのベースが曲の要所をしっかりと押さえているようですし、フランク・キャップの力強いドラムスも地味ながら凄いと思います。
 肝心のバーニー・ケッセルは、絶妙のチョーキングとコード弾きで駆使して、正統派のモダンジャズを聞かせてくれるのでした。

B-3 Who Can I Turn To
 ボーカリストが好んで取上げるスタンダード曲ですから、バーニー・ケッセルも歌心優先のスローな解釈で、真っ向勝負しています。う~ん、それにしても背後でガヤガヤと喋り続けているお客さんは、贅沢の極みですねぇ。グラスや食器の触合う音や笑い声も良い感じ♪ まあ、これがクラブでの日常なんでしょう。素晴らしきアメリカです♪

B-4 One Mint Julep
 レイ・チャールズやクローバーズで有名なR&Bのヒット曲を烈しいモダンジャズにした名演が、これです。
 まず快適なリズムが素晴らしく、シャッフル気味の4ビートに乗って、ジャズギターの真髄に迫っていくバーニー・ケッセル! あぁ、何度聴いてもシビレます。特にチョーキングが絶妙ですし、コード弾きの上手さも凄いですねぇ~~~♪ ちょっと聞きには危なっかしいような早弾きも、ケツがピタッと収まってしまうのは、驚異的です! リフの作り方も上手いですねぇ♪
 それとジェリー・シェフのベースが、これまた最高です。ぜんぜん難しく聞こえないんですが、それでいて、如何にもジャズを聴いてる気分にさせてくれるんです。大団円直前に入るメンバー紹介も、実に良い感じです♪

というこのアルバムは、フィル・スペクター関連ということで、モノラル盤しか出ていないと思いきや、私有盤はステレオ仕様です。というよりも、ジャケットにはステレオなんて単語は無いのに、中身がステレオ盤だったんです。

これはロスの某中古屋で買ったんですが、こんなこともあるんですねぇ~。

ちなみにこのアルバムは、1982年頃に日本盤が出たんですが、音質の酷さは伝説になっているほどです。また後にCD化されたらしいのですが、それはステレオ仕様になっているとか……。

結局、このアルバムはモノラル仕様がオリジナルなんでしょうねぇ。しかし負け惜しみでは無くて、このライブの臨場感は、ステレオ仕様だからこその良さが感じられます。もしかしたら、フィル・スペクターのことですから、そのあたりはオーバーダビングで作ってあるのかもしれませんが!?

まあ、それはそれとして、ジャズギターのアルバムとしては極上品です。バーニー・ケッセルは、ちょうどこの頃からスタジオの仕事をセーブして、再びジャズの活動を本格化させていきますが、1970年代に発表した名盤群に負けず劣らずの傑作だと思います。

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ウッズ対リズムマシーン

2007-07-24 17:06:50 | Weblog

ようやく夏らしく、カラッとしてきましたですね♪

様々な災害やゴタゴタ、混乱も尽きませんが、今日の青空のような気分は忘れたくありません。

ということで、本日は――

Woods Plays Woods / Phil Woods & The Italian Rhythm Machine (Philology)

情熱のアルトサックス奏者=フィル・ウッズの偉大なる発明は、○○リズムマシーンという企画じゃないでしょうか? これはまず最初に「ヨーロピアン・リズムマシーン(Patha)」という欧州で結成したバンドの大成功が決定的となり、1970年代には「ジャパニーズ・リズムマシーン(RCA)」という来日公演から作られたライブ盤も出ています。

つまり単身で赴いた演奏旅行でも、そこで現地調達したリズム隊と組めば、フィル・ウッズのウリが出来てしまうという素晴らしさです。もちろんリスナーは、それでどんなコラボレーションが生まれるのか、スリルと期待でワクワクさせられるんですねぇ~。

このアルバムもイタリアを訪れた際に吹き込まれた、そのものスバリの「イタリアン・リズムマシーン」という企画物ですから、たまりません♪

録音は2000年5月17日、メンバーはフィル・ウッズ以下、Stefano Bollani(p)、Ares Tavolazzi(b)、Massimo Manzi(ds) という、物凄い実力者が揃っています。そして演目もタイトルどおり、1曲を除いてフィル・ウッズのオリジナルばかり――

01 Samba Du Bois
 躍動的なリズム隊に煽られてフィル・ウッズが情熱的に吹きまくり! と書きたいところなんですが……。う~ん、確かにそのとおりとはいえ、リズム隊とのコンビネーションがイマイチ、良くありません。というか、リズム隊そのものが、3者バラバラという雰囲気が隠せないのです。
 しかし流石はフィル・ウッズ! 自作という強みはあるにしろ、曲のツボをしっかりと抑え、ウネリまくりです♪ 最初はミソをつけてしまったリズム隊も、中盤からはフィル・ウッズのやりたいことを把握したのでしょう、絶妙のサポートを展開し、Stefano Bollani のアドリブパートに入ってからは、最高の纏まりを聞かせてくれます。
 う~ん、Stefano Bollani のピアノが実に良いですねぇ~♪ アグレッシブで歌心もあり、ジャズ者の琴線をしっかり掴んだ感性の素晴らしさ! また打ち震えるようなベースソロを披露する Ares Tavolazzi、巨体に似合わず小技が上手いドラマーの Massimo Manzi も好演です。

02 Goodby Mr. Evans
 張り切ったフィル・ウッズの一人舞台から、一転してシミジミモードの情熱節に入る展開が、たまりません。タイトルからしてビル・エバンスにでも捧げた曲なんでしょうか、一抹の哀愁と豊かなエモーションを滲ませて、じっくりと曲を展開させていくフィル・ウッズの面目躍如という名演になっています。あぁ、完璧な構成と歌心♪
 またリズム隊では、Massimo Manzi の粘りのビート感が強いブラシが素晴らしく、Stefano Bollani が、またまた歌心全開の大名演を聞かせています。綺麗なピアノタッチが実に爽快ですねっ♪

03 Sittin' Here
 如何にもフィル・ウッズという和み系のモダンジャズ曲です。早くて烈しいフィル・ウッズも当然素晴らしいですが、こういうミディアムテンポにおける歌心とドライブ感のバランスの良さは、この人の一番の持ち味ではないでしょうか。
 もちろんキメるところは極めるというアクの強さも抜群ですから、リズム隊も油断がなりません。徐々にグイノリに変化していく演奏全体のノリは素晴らしいばかりで、まさに「イタリアン・リズムマシーン」と名乗って恥じないところでしょう。
 
04 And When We're Young
 前述した「ヨーロピアン・リズムマシーン(Patha)」では決定的なウリになっていた名曲でしたから、ここでも期待していたんですが……。私にはそれが大き過ぎたのか、イマイチ、ノリきれていない演奏に感じられます。
 もちろん全員が力を出し切っているはずなんでしょうが、それゆえに余裕が無いというか……。スローな思わせぶりからラテンビートになっていくという楽しい展開が、噛合っていません。リズム隊が「01」同様、ややバラバラなんですねぇ。
 これには流石のフィル・ウッズも困り顔、と思いきや、あまり気にしないで吹きまくっていますから、現場は混乱していく雰囲気が濃厚です。あぁ、聴いていて、イライラしてきますねぇ。
 ところがリズム隊だけの演奏パートになると、それが見事に収まってしまうんですから、罪深いです。Stefano Bollani のピアノは情熱全開ですし、Ares Tavolazzi は呻きながらの真情吐露、おまけに Massimo Manzi が繊細で豪胆なバッキングを聞かせてくれるんですから、やっぱりこのリズムマシーンは只者ではありません。

05 Pensive
 これも優しさが滲むスローな名曲で、フィル・ウッズが心に染み入るように吹奏してくれるテーマメロディが、実にハードボイルドです。あぁ、ギリギリの臭味が、この人の持ち味なんでしょうねぇ。たとえ何と言われようとも、私はやっぱり好きです。
 また Stefano Bollani 以下、グッと抑えた表現に撤するリズム隊の懐の深さも素晴らしいと思います。

06 It's You Or No One
 オーラスのこれだけが、モダンジャズではお馴染みのスタンダードで、もちろんフィル・ウッズにとっても十八番なんでしょう、素晴らしい快演を聞かせてくれます。
 まず、なによりも素晴らしいのがリズム隊のノリの良さ! ですからフィル・ウッズも心置きなく、好き放題に吹きまくりという痛快な仕上がりになっています。
 とはいえ、フィル・ウッズにしても、往年のエネルギッシュなとこは、やや衰えているようです。しかし、それでちょうど良いと思えるんですから、やっぱり凄い人! 「ウッズ節」を出し惜しみしない姿勢には、拍手喝采しかありません。
 そして繰り返しますが、リズム隊も快演♪ 私はこのアルバムで Stefano Bollani を知ったんですが、最近の人気が分かりますねぇ♪

ということで、ジャケットはイケていませんが、中身はそれなりに楽しく聴きどころも満載です。ただし、過大な期待は禁物! というのは、どういうわけかフィル・ウッズに少しばかりの遠慮が感じられるからです。もしかしたら、私の気のせいかもしれませんが……。

ちなみに製作レーベルの「Philology」は、フィル・ウッズにちなんで名付けられたという経緯がありますから、ファンとしては、やはり持っていたいアルバムなのでした。

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快楽盤が何故悪い?

2007-07-23 17:37:41 | Weblog

昨日の話で申しわけありませんが、千秋楽の横綱・白鵬の無気力ぶりには絶句でした。横綱のプライドも、お客さんを楽しませようというプロ意識も感じられません。

白鵬には、猛反省を望みたいですねっ!

という、面白く無い気分をブッ飛ばすには、これしかありません――

Down With It / Blue Mitchell (Blue Note)

フリーやモードに侵されて、すっかり難しくなってしまった1960年代中頃からのジャズ界には、しかし、それに反撥する勢力が確かにありました。

ただし、ジャズ喫茶という文化がある我国では、ジャズは悩んで聴くものという風潮がありましたから、快楽的な演奏は下賎な……、という扱いがコアなジャズファンの気分でした。

というか、ジャズロックやブーガルー、あるいはR&Bインストに近い演奏なんか、ジャズ喫茶じゃ、お呼びで無いという感じでしょうか……。それゆえにリアルタイムのアメリカで量産されていたジャズロックやソウルジャズのアルバムは、1990年代に入ってからのレアグルーヴと称されたブームの中で再発見されるまで、ジャズファンの個人的な楽しみになっていたのが、本当のところでしょう。

つまりジャズ喫茶やジャズマスコミで認知されない領域には、素晴らしいアルバムがあっても、それは所詮、個人が自宅で密かに聴いていたというわけです。

このアルバムも恐らく、そうした中の1枚でしょう。

録音は1965年7月14日、メンバーはブルー・ミッチェル(tp)、ジュニア・クック(ts)、チック・コリア(p)、ジーン・テイラー(b)、アル・フォスター(ds) という、今となってはハッとするほどの意外性を含んでいますが、ミッチェル、クック、テイラーの3人はファンキー大王=ホレス・シルバー(p) のバンドから独立した者達ですから、演奏されているのは、あくまでも快楽主義に徹したものです――

A-1 Hi-Hell Sneakers
 R&B歌手のトミー・タッカーが自作自演して1964年にヒットさせた楽しい名曲ですから、ここでも強烈なジャズロックのビートを炸裂させた名演が楽しめます。
 そのキモは、もちろんリズム隊の弾けるビートの素晴らしさ♪ それゆえにジュニア・クックの分かり易くて迫力満点のテナーサックスは限りなくブローし続けて爽快です。またブルー・ミッチェルも難しいフレーズなんか、ひとつも吹いていない潔さ! 愉快な合の手を入れてくるジュニア・クックとグルになって快楽を追求してくれるのです。
 それとチック・コリアは、やっぱりネアカなんでしょうねぇ~。リズミックなコード弾き主体のアドリブからは、こういう演奏を出来る喜びが満ち溢れているようです。
 いやぁ~、実に楽しいですねぇ♪

A-2 Perception
 ブルー・ミッチェルとチック・コリアが共作した哀愁系の名曲です。もちろんラテンリズムの使用はお約束というか、ちょっと難しい方向に行きそうになるアドリブを、グッと楽しさに繫ぎ止める役目を果している感じです。
 そのアドリブパートでは、先発のブルー・ミッチェルが若干、アブナイ雰囲気ですが、続くジュニア・クックが脂っこい音色のテナーサックスで存分に自己主張してくれますし、チック・コリアは完全に俺に任せろ! ハードバップに止まらない新しい感覚のフレーズとノリは、既にして充分、個性的です。
 アル・フォスターのリムショットも、なかなかの「味」の世界!

A-3 Alone, Alone And Alone
 我国の日野晧正が書いた、畢生のオリジナル曲ですが、実はこの当時、日野晧正のバージョンはレコーディングされていなかったのが真相ですから、これがファーストレコーディングのバージョンというわけです。
 それはどうやら、このレコーディングの半年ほど前に来日したブルー・ミッチェルが日野晧正の演奏を聴いて気に入り、スコアを入手して、ここに録音されという事情があるようです。
 で、ここでの演奏は、日野晧正が書いた哀切のオリジナルメロディを大切にしたブルー・ミッチェルの吹奏に始り、情熱的な解釈を聞かせるジュニア・クックと新鮮な響きを感じさせるチック・コリアの名演に彩られた、やっぱり素敵な仕上がりになっています。
 ちなみに日野晧正の演奏は、やはりこの年の秋に出演したベルリンジャズ祭の直後に現地でスタジオレコーディングされた白木秀雄クインテットのバージョンがあって、聴き比べるのも一興でしょう。まあ、個人的には、その白木秀雄バージョンの方が好きですが♪

B-1 March On Selma
 B面に入っては、いきなり楽しいチック・コリアのピアノからゴスペル調のハードバップが展開されますから、たまりません。特にジュニア・クックはテーマ部分からバカノリ状態! そのまま突入するアドリブパートでも、ブルースフィーリングとハードバップ魂を存分に披露する快演です。背後から絡んでくるブルー・ミッチェルのリフも実に楽しい限り♪
 そのブルー・ミッチェルも、当然、楽しさ優先モードですし、背後でジュニア・クックが吹きまくるリフは、キャノンボール・アダレイの「自然発火」という曲からの引用という芸の細かさです。
 さらにチック・コリアがファンキーな雰囲気の中で、思う存分に自己主張するあたりが、痛快です。ゴスペルドラムに撤するアル・フォスターと地鳴りのように蠢くジーン・テイラーのベースも潔いですねぇ~♪ もちろんバックで炸裂するホーン陣のファンキーリフは文句無しの楽しさなのでした。

B-2 One Shirt
 アップテンポで、ちょっとモードになりかかったハードバップ曲ですから、チック・コリアが大ハッスル! アル・フォスターも実に斬新なドラミングを聞かせてくれますが、ブルー・ミッチェルはモダンジャズの王道を決して踏み外しません。幾分、細い音色のトランペットが、妙に心地良く聞こえてしまいます。
 しかし、それとは逆にパワー全開のジュニア・クックのテナーサックスは強烈で、かなり尖がったフレーズを駆使しての熱演は、先鋭的なリズム隊とバッチリ息の合った名演でしょう。そして前述したように、チック・コリアが最高です! アルバム全体がジャズロック指向なんで、見逃されがちですが、これもチック・コリアが最初期の隠れ名演じゃないでしょうか?
 クライマックスで展開されるホーン対ドラムスのバトルも熱戦です。

B-3 Samba De Stacy
 タイトルどおりに哀愁のボサロックで、何よりも痛快なアル・フォスターのリムショット、せつないテーマメロディ、さらにイナタイ感じが凄いというジーン・テイラーのベースがたまりません。
 ブルー・ミッチェルも泣きそうになるほど良いアドリブメロディを吹きまくりですし、ちょっと不思議な儚さが漂うノリなんか、他のトランペッターでは出せない味かと思います。
 またジュニア・クックが重厚な音色とグルーヴィな雰囲気を横溢させて、流石の存在感です。しかし、お目当てのチック・コリアはアドリブソロの持ち時間が短くて、残念無念……。それが不満とは贅沢でしょうか……。

ということで、快楽ジャズの1枚なんですが、実は何時聴いてもビシッとした魂を感じてしまうのは、私だけでしょうか? 繰り返しますが、ブルー・ミッチェルとジュニア・クックは、何時の時代も分かり易い演奏を心がけていたと思います。それがある意味では軽んじられるところかもしれません。

しかし聴き手を突き放したような演奏は、ジャズに限らず、時代を生き残ることが出来ないのは、自明の理でしょう。今日、ジャズは完全に伝統芸能の域に達していますが、その中で末永く聴き継がれるのは、このアルバムのような演奏だと思います。

コメント (4)
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エバンス派の1枚

2007-07-22 16:13:23 | Weblog

昨夜はオールナイトでDVDを鑑賞したので、ちょっと疲れていますが、気分は爽快です。やっぱり人間は好きな事をやるに限ります。

ということで、本日は――

Dark Street / Zigmund, Berkerman & Richmond (Free Lance)

ジャズピアノの世界で決定的な影響力を持つ偉人のひとりが、ビル・エバンスです。それはピアノの演奏スタイルだけに止まらず、ピアノトリオで演じるジャズのありかたさえも変えてしまったところから、今日では所謂「エバンス派」と称して、すぐに納得してしまう分野になっているほどです。

当然、例えばジョン・コルトレーンがそうであったように、そのエッセンスどころか演奏スタイルやバンドの存在意義までもコピーしたレコードは、夥しく世に出ています。そして本日の1枚も、その中のひとつというわけです。

録音は1993年12月15日、メンバーは David Berkerman(p)、Mike Richmond(b)、Eliot Zigmund(ds) となっていますが、特に Eliot Zigmund は1970年代中頃のビル・エバンス・トリオではレギュラーでしたから、思わずニヤリの編成♪ 演目は3者のオリジナル主体ですが、如何にもという雰囲気が横溢した名曲・名演ばかりです――

01 Dark Street
 ちょっと重いドラムスとメロディアスなピアノの対称が面白い展開です。そして間に入って蠢くベースの素晴らしさ!
 David Berkerman のピアノは綺麗なタッチでビル・エバンスの奥儀に迫るべく奮闘していますし、本当にメロディアスで良いフレーズばっかり弾いてくれるんですねぇ~♪ もちろん力強さもあって、最高です。
 もちろんそのあたりは、テンションの高いドラムスとベースの存在があっての事ですから、ミディアムテンポで自然体に盛り上げていくトリオとしての一体感が本当に見事だと思います。

02 Gradually I Inserted Myself Into The Conversation
 抽象的で早いテンポの演奏なんですが、ある種の暗黙の了解が間違いなくありますから、ジャズ者にはスリル満点の演奏と理解されるでしょう。あぁ、これぞ「エバンス派」というよりも、キース・ジャレットかハービー・ハンコックに近いのかもしれません。
 とにかくジャズを聴いているという気分になっちゃいますねっ♪ 特に唸りながら強靭なベースソロを聞かせてくれる Mike Richmond が凄いと思います。

03 Fragment
 おぉ、これはキース・ジャレットか!? あの「ケルン」あたりで聞かせてくれた美メロ主義から生み出されたようなテーマの変奏が、抽象的ながらも素敵です。
 確かにフリーなピート感に彩られていますが、自由度が高いようで、実は綿密な約束事があるようなベースとドラムスのアグレッシブな演奏が、実にジャズそのものだと思います。ここでも Mike Richmond が凄いですねぇ~~♪ それと Eliot Zigmund のブラシも強烈なのでした。

04 Blue In Green
 はっはっはっ、ビル・エバンスであまりにも有名な曲ですからねぇ~♪ こういう選曲は嬉しいプレゼントです。もちろんストレートにテーマを演奏してくれると思わせて、自在のピアノソロを展開する David Berkerman は、分かっています♪
 また Eliot Zigmund も良い感じ♪ というよりも、一時は毎日のようにビル・エバンスとこの曲をやっていたはずですから、本当に薬籠中の名演! それに支えられたトリオは、静謐な部分から躍動的な盛り上げまで、間然することの無いトラックに仕上げています。

05 Fairy Tale
 単調なビート感で演じられる綺麗なメロディのテーマ解釈が、力強い面白さに溢れています。そしてそれがアドリブパートで微妙に変化していく部分を楽しめば良いのでしょうが、やや消化不良でしょうか……。
 ただし Mike Richmond の凄さは相変わらずですし、David Berkerman も奮闘しているのですが、個人的には???です。

06 Brooklyn Song
 これも非常に抽象的な曲ですが、ビル・エバンス~キース・ジャレットのラインで楽しむと理解出来るという、ちょっと意地悪な演奏です。第一、スローな展開で蠢き過ぎるベースとドラムスが???でしょう。
 ただし妙にエネルギッシュなところは、ちょっと感動しても良いのでしょうか……。否、やっぱり私には???です。

07 Time Is Just
 一転して爽快な演奏が、これです。Mike Richmond の正統派4ビートと Eliot Zigmund の繊細にして豪胆なドラムスが、まず最高♪ ですから David Berkerman も心置きなく自分の信じるところを弾きまくりです。あぁ、やっぱりハービー・ハンコックなんでしょうか、この人は!? それはそれとして、全く痛快なピアノトリオ演奏になっています♪ 普通に凄いとでも申しましょうか、ジャズ者には、こういう演奏が必要だと本当に思います。

08 When You Wish Upon A Star / 星に願いを
 説明不要の有名スタンダードを素直に演奏してくれたのが、まず嬉しいところです。もちろんアドリブパートは、オリジナルのメロディを大切にしつつも絶妙の抽象性を出していくという、このトリオには一番合っている展開が流石だと思います。

09 Werner The Other
 どこかで聞いたようなフレーズで作られた抽象的な曲です。そしてアドリブパートはフリーな様相も呈していますから、これも意地悪な演奏なんですが、それが「エバンス派」的な約束事の中で烈しい演奏に収斂していくあたりが、痛快です。
 軽やかなステック捌きで躍動する Eliot Zigmund、ここでも唸る Mike Richmond のベースが、たまりません♪ あぁ、このベーシストのコンプリートを目指したい気分になりますねぇ。

10 Brooklyn Song (reprise)
 オーラスは Eliot Zigmund のドラムスを主体とした短い演奏ですが、印象的なメロディを力強く弾く David Berkerman も強い印象を残しています。

ということで、「エバンス派」好きならば間違いなくシビれるCDなんですが、流石にあそこまでの耽美な感覚は表現出来ていません。しかし逆に力強さと抽象性のバランスが秀逸で、もちろんメロディが大切にされていますから、聴いていて疲れません。

全くイケてないジャケットがマイナスではありますが、機会があれば聴いてみて下さいませ。特に最後期ビル・エバンス・トリオがお気に入りの皆様には、オススメです。CDならではの曲順では「04」→「07」→「03」→「01」を愛聴しています。

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