OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ソニーズ・ムード♪

2006-07-31 19:43:06 | Weblog

梅雨が明けたら、途端に熱いなぁ~!

梅雨が明けない時は、いろいろと文句をタレていたんですが、人間って本当に勝ってなもんです。

まあ、それはそれとして、夏こそジャズっていうのも、昔から???でしたが、ジャズを聴くのに季節や理屈はいらんわけです。

と苦しい言い訳から本日は――

Dial S For Sonny / Sonny Clark (Blue Note)

自分の愛聴盤から愛着盤に変化するアルバムを必ず持っているのが、ジャズ者でしょう。

何をもって愛着盤となすか、それは同じ内容のブツを、いろいろな理由をつけて集めてしまう行為に裏付けられた作品だと、私は思います。

例えばジャケット違い、プレス国違い、モノラルとステレオの違い等々、それは微細に拘っていくのが通例で、あぁ、泥沼だなぁ……、と気づいても止められないのが、この道です。

私にとっては本日の1枚が当にそれで、どうにか入手したオリジナル盤を筆頭に日本プレスの盤とかCDとか、いろいろと手を出したのですが、1997年に発売されたステレオ仕様のCD=ST-56585 には驚きました。

これはアメリカのキャピトルレコードから再発されたブルーノート復刻CDのひとつですが、まずリアル・ステレオ・バージョンというのが初出♪ しかも中身には、アッと愕く事実が隠されていたのですが、まずはオリジナルのモノラル・バージョンの演奏を定番として、その内容は――

録音は1957年11月10日、メンバーはソニー・クラーク(p) をリーダーに、アート・ファーマー(tp)、カーティス・フラー(tb)、ハンク・モブレー(ts)、ウィルパー・ウェア(b)、ルイ・ヘイズ(ds) というオールスターズによる、バリバリのハードバップです――

A-1 Dial S For Sonny
 ソニー・クラークが作った、思わせぶりがたっぷりの名曲で、全体に横溢する暗くて哀しい雰囲気が最高です。ミディアムテンポのネバリでドライブするバンドのグルーヴも、初っ端から素晴らしいですねっ♪
 アドリブの先発は、こういうノリなら十八番のハンク・モブレーで、そのモタレの美学を活かしきったファンキームードは、余人が真似出来る境地ではありません。ソフトでパワフルな音色も、たまりません。
 続くカーティス・フラーも持ち前のハスキーな音色で余韻が残る良いフレーズを連発していますし、アート・ファーマーが、これまた魅力のハスキーボイスから溌剌とした部分まで、「泣き」を含んだ名演を聴かせてくれるのですから、リーダーのソニー・クラークも気合が入っているようです。とくにかく、あのクラーク節がたっぶりです♪
 まあ、このあたりは、ちょっと聴きには地味なんですが、聴くほどに天国へ昇天するヤミツキ演奏だと思います。
 肝心のステレオのミックスはピアノが真ん中、ドラムスとベースが右、ホーン隊が左のチャンネルに定位しています。特に大きなミックス違いは無いのですが、ベースとドラムスのニュアンスが良く聴き取れるのが、ステレオ・バージョンの魅力かもしれません。

A-2 Bootin' It
 これもソニー・クラークが作った、とても調子の良いハードバップのブルースです。
 アドリブパートでは、まず作者がアップテンポで快調に飛ばしますが、バド・パウエル直系のビバップフレーズに独自のファンキー感覚を混ぜ込んだそれは小気味良く、本当にシビレます♪。
 続くカーティス・フラーも絶好調ですし、ハンク・モブレーは珍しくグイノリで迫ってきます。しかもこの時のバックでは、ソニー・クラークが最高のコード弾き!
 演奏はこの後、アート・ファーマーの闊達なトランペットが炸裂し、バックではホーンのリフまで付くノリノリ大会! クライマックスはドラムスとのソロ交換となるのですが……。
 実はここで事件が起こっていたのです。
 それは前述したCDが初出となったステレオ・バージョンに真相が残されており、何とアート・ファーマーのソロが終わってドラムスとのソロ交換になる直前に、ソニー・クラークがミスってシドロモドロの展開に! ハッと気づいて誰かが「ヒュー」と口笛まで吹いているのですが、なんとか格好をつけて演奏は続行されるのです。しかし何と最後の締めで、今度はルイ・ヘイズがコーラス数を見失うという大チョンボ!
 否、しかしこれが、瞬間芸のジャズだと思います。
 で、結局、この演奏テイクを巧みに切り貼り編集したのが、オリジナルとなったモノラル・バージョンという種明し♪ いやはななんとも……、というわけでした。
 
A-3 It Could Happen To You
 人気スタンダード曲がスローで演奏されますが、まずテーマを吹奏するアート・ファーマーが秀逸です。そのハスキーな音色を活かした甘い変奏が、完全な一芸主義だと思います。
 もちろんソニー・クラークもネクラというか、マイナー志向のピアノをたっぷり聴かせてくれますが、ここでバックをつけているウィルバー・ウェアのベースが、やや無神経か?
 しかしその部分は、次に登場するハンク・モブレーの仄かに暗い心情吐露の前では消失し、カーティス・フラーが丁寧にラスト・テーマを吹奏していくのでした。

B-1 Sonny's Mood
 これまたソニー・クラークが作った名曲、そして名演です。
 スラスラ~っと始まるテーマの素晴らしさ、ラテンリズムを用いたサビの展開の楽しさ、これぞハードバッブです。
 もちろんアドリブパートも大充実で、まずアート・ファーマーが原曲の持っているマイナー性を拡大解釈すれば、ハンク・モブレーは自分だけのソフトムードを全開させています。
 しかしカーティス・フラーは、ややノーテンキというか、そよ風の中の吹流しという雰囲気で、まあ、これも良いと思います。
 そしていよいよソニー・クラークの登場! これが全く素晴らしく、ネバリとタメ、歯切れの良さが渾然一体となった素晴らしいソロを聴かせてくれます♪ ピアノスタイルとしては地味なんですが、この味、このグルーヴは不滅だとっ!

B-2 Shoutin' On A Riff
 アップテンポの激烈ハードバッブで、作曲はもちろん、ソニー・クラークです!
 テーマ部分から随所にブレークが仕掛けられ、ホーン隊各人が腕を競いますが、アドリブパートの先発ではソニー・クラークが溌剌としたハードバップを作り出していきます。
 そしてその魂を受け継いだハンク・モブレーは、もうバカノリとしか言えません♪ 十八番のモブレー節で難局を乗り切れば、アート・ファーマーは余裕の展開から激情を爆発させ、カーティス・フラーも細かいフレーズを用いて応戦しています。
 さらにクライマックスではルイ・ヘイズのドラムソロ!
 しかしこのテイクはモノラル・ミックスの方が迫力があると感じます。それはリズム隊が、やや乱れているからで、こういう演奏は団子状でブリブリ迫ってくるモノラルに限ります。

B-3 Love Walkes In
 オーラスは、今までの熱気を和みに変換させるようなリズム隊だけの演奏です。もちろん主役はソニー・クラークで、そこはかとないファンキーな風情、どこか儚げなフレーズとノリは唯一無二の素晴らしさだと思います。あぁ、この歌心♪
 ちなみにこのステレオ・ミックスは左にベース、真ん中にピアノ、右にドラムスが定位しています。

ということで、今回は種明しに終始した雰囲気ですが、その内容は文句無しの傑作盤だと思います。ただし、繰り返しますが、やや地味な雰囲気もあって、ジャズの初心者には???かもしれません。

もちろん、これを歴史的な大名盤と言うつもりはありませんが、ソニー・クラークの魅力に目覚めたら最後、逃れぬことが出来ない愛着盤になること、請け合いです。

まさに「Sonny's Mood」の演奏集だと思います。

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ジス・ヒア~!

2006-07-30 19:32:31 | Weblog

梅雨も明けたのか、微妙なところで暑苦しいですね……。

本来こういう時はボサノバとかビーチボーイズでも聴けばいいんでしょうが、天邪鬼の私は、こういうものを――

Cannonball Adderley In San Farncisco (Riveside)

モダンジャズ界の名物兄弟だったジュリアン・キャノンボールとナットのアダレイ兄弟が自分達のバンドで初めての成功を掴んだアルバムです。

この兄弟は1955年にフロリダからニューヨークに出てきて、有名ライブハウスの「カフェ・ボヘミア」のステージへ飛び入り出演し、忽ち注目の存在になったという伝説がありますが、その後しばらくは目が出ませんでした。

もちろん兄弟でバンドを結成し、レコード会社との契約もあったのですが、特に兄のキャノンボールは自分の才能を活かす術が上手くなかったのでしょう。自分の活動よりもマイルス・デイビスのバンドに参加した演奏や録音の方ばかりが、持て囃されては……。

そこでいよいよ、兄弟揃って再デビューという次第になったのが、このアルバムが製作される前後の状況です。

録音は1959年10月18&20日、サンフランシスコのライブハウス「ジャズ・ワークショップ」におけるライブセッションで、メンバーはナット・アダレイ(cro,tp)、キャノンボール・アダレイ(as)、ボビー・ティモンズ(p)、サム・ジョーンズ(b)、ルイ・ヘイズ(ds) という、レギュラーバンドです――

A-1 This Here
 当時のレギュラー・ビアニストだったボビー・ティモンズが作った、強烈なゴスペルワルツです。演奏前にキャノンボールがお喋り解説しているとおり、黒人教会音楽のノリが濃厚で、それはテーマ部分のビートと音の強弱が、如何にもコール&レスポンスの味に満ち溢れています。
 こういう所謂ファンキー・ジャズは当時爛熟していた流行物ですが、このバンドの演奏は、さらにエグミが強く、ウネリも強烈です。
 アドリブ先発はもちろんキャノンボールですが、ライブ特有の熱気に煽られながらも、以外に抑制の効いたソロが、逆にディープだと思います。
 そして続くナット・アダレイもコルネットに固有な泣き過ぎのようなハイノートを駆使して山場を作り、中音域ではマイルス・デイビス風になるという、なかなかジャズ者の琴線にふれるソロを展開してくれます。
 しかし、ここでの主役はリズム隊でしょう! ルイ・ヘイズのドラムスが飛び跳ね、サム・ジョーンズのベースが歪み、ボビー・ティモンズのピアノが咆哮するのです。特にボビー・ティモンズはジャズ・メッセンジャーズをファンキー天国に導いた実績があっての参加ですから、ここでのビアノはゴスペル満載の大暴走で、観客も手拍子&喝采の感極まり状態♪ これがジャズだと、痛切に思いますねぇ~♪
 そしてバンドは、その山場で間髪を入れずにラストテーマへ! なんとなく、この辺りには不思議なメロー感覚まで漂うのは、私の気の所為かもしれませんがっ♪ 実は正直言うと、最初に聴いた時は、何かイマイチ地味~な感じで、この感覚が分からなかったんですが、聴くほどにコクが出たというところです。 

A-2 Spontaneous Combustion
 キャノンボールが作ったハードバップで、既にスタジオ録音も残されているのですが、それに比べてこのライブバージョンは、当然ながらゴスペル味と迫力が増しています。
 それはリズム隊の暴れ方にも要因があるのですが、ホーン隊のアダレイ兄弟が異常なほどにノッています。
 まず先発する兄のキャノンボールが猛烈なドライブ感で突っ走れば、続く弟のナットは出だしでマイルス・デイビス(tp) をやってから、後半でハイノートの連発という得意芸を披露するのです。そして2人とも、アドリブが分かり易いというところが、良いですねぇ~♪
 さらに凄いのが、やはりリズム隊です! 3人がグルになってアダレイ兄弟を煽りまくりです。それ全く凄まじく、ビシッと決まった合の手も楽しく強烈! もちろんボビー・ティモンズはブロックコード弾きを炸裂させて、物凄い山場を築くのです。
 そしてクライマックスはアダレイ兄弟による魂のコール&レスポンス! もうこのあたりは、私の大好きな展開で、何度聴いても興奮と感動の嵐に翻弄されるのでした。この1曲だけで、アルバム百枚分の価値があるとは、言い過ぎ? 否、お客さんも随喜の涙ですよ♪

B-1 Hi-Fly
 ボビー・ティモンズの厳かなビアノのイントロから、楽しくて、やがて哀しきテーマが演奏されていきますが、そのビートの強さは「Blues March」の系列というファンキーなアレンジになっています。
 キャノンボールのアルトサックスは余裕の鳴りで波打っていますし、ナット・アダレイは、ここでもマイルス・デイビスの物真似というか、これが自然体のノリを聴かせてくれるので、憎めません。
 そしてここでも、やっぱりボビー・ティモンズ! もはや伝家の宝刀となっているブロックコード弾きは、タメと暴発の二重奏です♪ しかも、それをなかなか抜かないところが、流石の思わせぶりですねっ♪♪ おぉ、これはエリントンの曲か?

B-2 You Got It !
 キャノンボールが作った猛烈なハードバップです。
 ただしアクの強い曲が揃っているこのアルバム中では、あまりにも当たり前に聴こえてしまうという贅沢さ♪ もちろんキャノンボールは爆裂しているのですが……。
 
B-3 Bohemia After Dark
 前述したアダレイ兄弟のニューヨーク殴り込み伝説にちなんだ、有名ジャズ曲です。作曲は彼等を迎え撃ったベーシストのオスカー・ペティフォードという因縁がありますから、言わばバンドテーマのような扱いになっているようです。
 もちろん演奏はエキサイティングな快演で、キャノンボールがチャーリー・パーカー直伝のフレーズを交えて豪快にブッ飛ばせば、ナット・アダレイはスリルとスピードで対抗していきます。
 リズム隊も絶好調を維持しており、サム・ジョーンズの唯我独尊のウォーキング・ベースが、なんとも心地良いですし、ルイ・ヘイズも小気味良く、ボビー・ティモンズはビバップの伝統を蘇えらせているのでした。

ということで、あまり蒸し暑い季節には顰蹙かもしれませんが、真夏に炬燵で熱いラーメン、もちろんその後は汗、びっしょりの爽快感という逃げも有り、ですねっ♪

特に「Spontaneous Combustion = 自然発火」の熱気には完全KOでしょう。ぜひとも、お試し下さいませ。

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イン・サラ♪

2006-07-29 17:10:30 | Weblog

今日は学生時代に知り合いだった女性と再会したものの、失礼ながら、あまりの太り方に驚愕しました。

若い頃はスマートでスタイル抜群でしたが、身体に厚みが出ていたというか、二重顎になっていましたし、肩から腕は逞しく……。

最初、声をかけられても、誰だか分からなかったですね。人間って、こんなに変わるものなのか、と……。

若い頃のスタイル良さは、皆の憧れだったんだぞっ! 自覚していたのかっ!?

ということで、何時までも変わらぬ良さが魅力のアルバムを――

New York Scene / George Wallington (New Jazz)

モダンジャズは結局、真夜中のニューヨークの歓楽街の片隅で、ひっそりと生まれたアングラミュージックだと思います。

ですから、ニューヨークがジャズの本場という位置付けは間違っていませんし、ジャズメンはニューヨークで活躍してナンボの世界ですが、それゆえに広く大衆的な人気を得ることは容易ではありません。

それと歴史的に鑑みて、演奏の録音年月日が重んじられのは仕方ない面がありますが、セッションが完成したからといってすぐにレコードが出るわけではないので、最先端のジャズに関わろうとすれば、ますますニューヨークでのライブ活動が重要視されるのでしょう。

このアルバムは、そのあたりの事情を考慮したのか、そのものズバリになっていますが、実際に発売されたのはセッションから2年も後の事でした。その録音は1957年3月1日、メンバーはドナルド・バード(tp)、フィル・ウッズ(as)、ジョージ・ウォーリントン(p)、テディ・コティック(b)、ニック・スタビュラス(ds) というバリバリの実力者揃いです――

A-1 In Salah
 非常に隠れ人気が強い名曲・名演です。作曲はジャズフォーク歌手のモーズ・アリソン(p,vo) ですが、吹込みはこのセッションの方が早いというデータがあり、実際、ここでのハードバップ・バージョンは痛快です。
 それはホレス・シルバー(p) に通じるエキゾチックなメロディラインとノリが魅力です。ラテンリズムと4ビートの融合が鮮やかなアレンジと泣きのメロディが、もう最高なテーマから、まずフィル・ウッズが猛烈なドライブ感で烈しくグルーヴィン♪ 続くドナルド・バードも、お約束のフレーズを連発しながら山場を作るのです。
 しかしリーダーでピアニストのジョージ・ウォーリントンが、やや物足りません。と言うのも、伴奏でのコード弾きに今ひとつリズム的な興奮が無く、これは白人的と片付けられるには寂しすぎます。
 まあ、そのあたりはピアノソロのパートでも感じられるのですが、それでもこの演奏に活気があるのは、ベースとドラムスが最高だからで、ブンブン・グイグイとスイングしまくるのですから、たまりませんねっ♪

A-2 Up Tohickon Creek
 これまたスピード感あふれる典型的なバードバップで、作曲はフィル・ウッズです。とにかくテーマのカッコ良さは情熱の塊ですが、アドリブ先発のジョージ・ウォーリントンのテンションが低過ぎというか、タッチが弱いというわけでもないんですが、輝きが足りないように思います。
 この人も実はモダンジャズ創成期から活動している偉人で、バド・パウエル(p) と比較されてはソンをしてきたところがありますが、如何にも中途半端なスタイルながら、優れたサイドメンを得てリーダーとして活躍し、幾多の名盤を残しているので、やはり只者ではないのでしょう。逆に言うと、それゆえに気になる存在です。
 肝心のここでの演奏では、ドナルド・バードが絶好調でブッ飛ばせば、フィル・ウッズはどこまでもドライブして、泣きじゃくるのです。
 それとドラムスのニック・スタビュラスが、このセッションを通じて、非常に良いですね♪ ここでもアート・テイラーとフィリー・ジョーの良いとこ取りという叩きっぷりです!

A-3 Graduation Day
 地味目のスタンダード曲がリズム隊だけで演奏されていきます。それはスローな展開ですが、ビートの芯がビシッと極まっているので、ダレません。
 むしろ、こういう曲や展開の方がジョージ・ウォーリントンのピアノスタイルにはぴったりで、随所にキラリと光るフレーズや変奏が聞かれて、和みます。
 個人的には、これも大好きなのでした。

B-1 Indean Summer
 邦題は「小春日和」という有名スタンダード曲です。
 テーマはドナルド・バードがリードしてフィル・ウッズが絡むという展開から、アドリブパートではフィル・ウッズが逆に先発し、テーマを巧みに変奏しながら歌心をたっぶりと披露します。
 続くドナルド・バードも好演で、原曲の和みを存分に引き出していますし、ジョージ・ウォーリントンは元気の無さを逆手にとった演奏に終始しています。
 そしてもちろん、ここでもリズム隊の2人が最高のグルーヴを弾き出しており、しかもテディ・コティックは最高のベースソロを聞かせてくれますよっ♪

B-2 'Dis Mornin'
 ドナルド・バードが書いた真っ黒な大ファンキーブルース!
 ですからアドリブ先発のジョージ・ウォーリントンには、嫌な予感が漂うのですが、失礼ながら、意外な好演♪ 「間」の活かし方が何ともファンキーなんですねぇ~♪ あぁ、こういう展開もあったのかっ! という、当に目からウロコの名演だと思います。
 そして続くドナルド・バードは十八番のフレーズとノリで大爆発となって、さらに凄いのがフィル・ウッズです。思わせぶりな黒っぽさと激烈なウナリでリスナーを圧倒してくれます。
 もちろんベースとドラムスのグルーヴは鉄壁ですし、ラストテーマに入る瞬間のホーンの雄叫びとピアノの合の手の息の合い方は、ハードバップ全盛期の証です。

B-3 Sol's Ollie
 フィル・ウッズが書いた激情のハードバップがアップテンポで演奏されています。
 アドリブの先発は当然、作者が務めてお手本を披露していますが、続くドナルド・バードも絶好調で負けていません。ただし曲調がそうなっているのか、2人とも歌心をイマイチ発揮出来ない雰囲気が……。
 すると何ということでしょう! ジョージ・ウォーリントンが会心のピアノソロを聞かせてくれます♪ 流れような右手のメロディラインと左手の時に烈しいコード弾きが、バランスを失う寸前の場面が逆に刺激的です。
 そしてクライマックスではニック・スタビュラスの爆発的ドラムスを要にソロの応酬が!

ということで、これはハードバップの充実盤です。

ジョージ・ウォーリントンというと、「カフェ・ボヘミア」か「キャリッジ・トレード」ばかりが持て囃されますが、個人的にはこの盤が一番好きですねっ。なにしろ曲が良いですし、テディ・コティックとニック・スタビュラスのリズム隊が最高にグルーヴィ♪ その録音も素晴らしいと思います。

ところが肝心のリーダーは、このセッションの直後から徐々に引退モードに入っていくのです。確かにハードバップという、リズムやビートに力強いものが要求される演奏形態では、自己の資質を存分に発揮出来ないウラミがあったのかもしれませんが、ここでの「Graduation Day」のような味のピアノトリオ演奏は最高の魅力なのですから、失礼ながり生き残る道もあったはずですが……。

まあ、それはそれとして、モダンジャズの魅力、ここに有りっ、です。

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アストラッド&ワンダレー♪

2006-07-28 17:04:13 | Weblog

昨日はPCが不調……。

しかもバックアップをしばらく取っていなかったので、焦りまくりました。

なんとか復調はしたものの、汗びっしょり、喉はカラカラ、うへぇ、ビールが美味いという、ケガの功名もありましたけど……。

それはそれとして、夏はボサノバっ♪

当たり前のように決め付けて、何の問題も無いでしょう。

数多い名演・名盤の中で、私が特に愛聴しているのが、これです――

A Certain Smile A Certain Sadenss / Astrud Gilberto & Walter Wanderley (Verve)

ボサノバの人気スタア2人、アストラッド・ジルベルトとワルター・ワンダレーの共演盤というだけで、ワクワクしてくるでしょう♪ しかもその高まる気分を涼やかにしてくれる爽やかな演奏は、もう、お約束の世界です。

録音は1966年9月、メンバーはアストラッド・ジルベルト(vo) をメインに、ワルター・ワンダレー(org,p)、ホセ・マリノ(b)、クラウディオ・スロン(ds) というトリオに加えて、ボビー・ローゼンガーデン(per) とジョアン・ジルベルト(g) が加わっています。しかもその演目が、お馴染みのものばかり――

A-1 Certain Smile / ある微笑 (1966年9月20日録音)
 まず出だしから儚げに歌うアストラッド・ジルベルトにグッときます。しかし一転、軽快なリズムに乗ってせつないメロディを素直にフェイクしていく彼女にも、シビレますねぇ~♪ ちょっとモタれるあたりが、たまりません♪ 短い演奏ですが、もう、最高です!

A-2 Certain Sadness (1966年9月21日録音)
 ここではジョアン・ジルベルトのギターとアストラッド・ジルベルトのデュエットから、ワルター・ワンダレーがピアノでしょうか? トリオの揺るかや伴奏が付いて、リスナーは完全に夢心地です♪ あぁ、いつまでも浸っていたい世界です。

A-3 Nega Do Cabelo Duro (1966年9月20日録音)
 シャープなボサビートで歌われる、ちょっと意味不明なスキャットか唄なのか分からない歌詞が、逆に魅力です。
 ここではようやく、ワルター・ワンダレーのオルガンがクールに熱いソロを聴かせてくれます。う~ん、見事ですねっ♪
 
A-4 So Nice / Summer Samba (1966年9月20日録音)
 これはお馴染み、ワルター・ワンダレーの大ヒット曲のボーカルバージョンです。もちろんツポを押さえた爽やかさで、アストラッド・ジルベルトの魅力が存分に発揮されています。というよりも、この組み合わせならば、聴かずに済ませられる人は少ないでしょう。全く期待どおりの歌と演奏が展開されています。
 ただしオリジナルバージョンで聞かれたワルター・ワンダレーの出来過ぎアドリブは無く、それが逆にジャズの本懐でもありますが……。

A-5 Voce Ja Foi Bahia (1966年9月20日録音)
 これも軽快でせつないボサノバの真髄が♪
 あぁ、このセツナチズムとでも申しましょうか、ワルター・ワンダレーのオルガンも最高の出来ですし、アストラッド・ジルベルトの良さは言わずもがなのキュートさです。

A-6 Portuguese Washerwoman (1966年9月20日録音)
 そして、これもキュートなボサノバ・スキャットがっ♪
 この手ものは1970年代エロ映画のサントラで頻発されるのですが、分かりますねぇ。何とも言えないお色気が、アストラッド・ジルベルトの持ち味です。 

B-1 Goodbye Sadness / Tristeza (1966年9月21日録音)
 あぁ、またまたアストラッド・ジルベルトのスキャットから、こんな有名ヒット曲がこのメンツで演奏されていくのですから、悪いはずがありません!
 ワルター・ワンダレーのオルガンも完璧なら、ジョアン・ジルベルトのギターのリズムも素晴らしい限りです♪

B-2 Call Me (1966年9月23日録音)
 これはイギリスのポップスが元ネタですが、アストラッド・ジルベルトは例の棒のような歌い方で、完全に薬籠中のものとしています。特にサビの解釈は最高ですねっ♪
 それとワルター・ワンダレー・トリオのバック演奏が、素直な良さに溢れています。もちろんアドリブパートは考え抜かれたような痕跡もありますが、それもジャズ&ボサノバの魅力でしょうねぇ♪

B-3 Here's That Rainy Day (1966年9月23日録音)
 またまた有名曲の極みつきですが、ここではワルター・ワンダレーのオルガンとピアノの多重演奏が効いています。ちょっとミステリアスなカラオケのようですが、こういうスローな展開ではアストラッド・ジルベルトも、全てはお見通し! という歌唱で良いですねぇ~♪ もちろん儚いスキャットも聴かせてくれますよ。

B-4 Tu Mi Delirio (1966年9月21日録音)
 これもしっとり系の歌と演奏で、またまたワルター・ワンダレーはピアノとオルガンの両刀使いです。ただしアストラッド・ジルベルトの歌唱が物足りないというか……。魅力のモタレが裏目に出たという……。

B-5 11 It's a Lovely Day Today (1966年9月20日録音)
 しかしこれは、素敵ですっ♪
 元ネタはスタンダード曲ですが、ヘタウマというか、かなり危ういメロディ解釈が最高の結果になってしまったと言えば、言いすぎかもしれませんがっ! 個人的には、これ、大好きです。
 ワルター・ワンダレーのオルガンは、少し力みが入っていますが、それも結果オーライで、こういう選曲のセンスが、プロデュースも含めてボサノバの魅力かもしれません。 
 
ということで、あまりボサノバには執着していない私でも、夏にはこのアルバムを取り出す機会が増えてしまいます。クーラーじゃなくて、扇風機にあたりながら、冷たい飲物にアストラッド・ジルベルトの歌♪

これも日本の夏じゃないでしょうか!?

全くルックスどおりの歌を聞かせてくれる彼女は、神様の贈り物かもしれません。

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年貢の納め時?

2006-07-27 18:11:34 | Weblog

ちょっとPCが不調なので、本日は休載致します。

嫌な予感に満たされていますが、まずはバックアップとらないとなぁ……。

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カーク&テテ!

2006-07-26 16:41:19 | Weblog

今日は爽やかに晴れました。梅雨もいよいよ明けるのでしょうか?

本日は久々にDVDのご紹介です――

■‘Rahsaan’Roland Kirk In Europe 1962-1967 (Impro Jazz)

ジャズの虜になると必ずや気になる存在なのが、ローランド・カークという人でしょう。

ここからはお叱りや顰蹙を覚悟で書かせていただきますが、この人は盲目のサックス吹きで、しかも一度に複数の管楽器を操り、その音楽性はジャズを超越していながら、ジャズにどっぷりという超人です。

つまり、とても目が見えない者が演奏しているとは思えないほど、それは凄まじく、そして実際に目が見えないと知った瞬間、そんなハンデを克服して、よくぞここまでっ! と驚愕するのです。

それは映画の世界のヒーロー「座頭市」の存在にも似ていますし、独自に考案した管楽器を使ったり、ジャズ以外の音楽を堂々と演奏したりするところから、見世物的な面白さに満ちているのが、正直な感想でしょう。

しかしローランド・カークの作り出す音楽は、決してゲテモノではありません。どんなジャズメンよりもジャズらしい演奏、どんな音楽家よりも豊かな発想、抜群のテクニックとフィーリング! それは残された演奏を聴く度に、感動を呼ぶのです。

ただしローランド・カークを徹底的に楽しむためには、やはり生演奏に接するのが一番でしょう。前述したように、盲目でありながら一度に複数の楽器を操る超人ぶりを見てこそ、ローランド・カークの凄さ、恐ろしさ、そして天才性に、我々は打ちのめされるのです。

私は初めてローランド・カークの写真を見た時、サングラス姿のゴッツイ黒人が、複数のサックスを咥えながら吼えたような表情に驚愕し、忽ちその演奏を聴きたくなりました。そして多くのレコードを聴くにつれ、底が見えないディープな世界に惹きこまれていったのですが、残念ながらライブに接する機会がありませんでした。

ところが最近、ローランド・カークの1960年代のライブを集めたDVDが登場♪ 全篇が白黒ですが、世界初パッケージ化を含む怒涛の75分間! 本当に強烈至極でした。

内容は2つのパートに分かれており、まず最初が1962年11月15日、イタリアはミラノでのライブから3曲で、メンバーはローランド・カーク(reeds)、テテ・モントリュー(p)、トミー・ポッター(b)、ケニー・クラーク(ds) というオールスターズです――

01 Blues In F
 まず司会がなんとJ.J.ジョンソン! トロンボーンを持っていることから、ちょうど自分達の演奏が終り、次のバンドを紹介している雰囲気です。
 で、まずテテ・モントリューが登場しますが、ご存知のように、この人も盲目なので、まずピアノの前に連れられてきて鍵盤に触り、それで椅子の位置を確かめるという、失礼ながら、ある種の疑問が氷解する場面が見られます。
 そして続いてケニー・クラーク、さらにトミー・ポッターに導かれたローランド・カークが、色々な楽器を体中にぶらさげて現れます。
 そしてチューニング吹奏から、いきなりブルースがスタートし、それはテナーサックスでオーソドックスに始めながら、すぐにジョン・コルトレーンも真っ青な音の洪水! 恐るべき肺活量とタンギングの上手さ、指使いの激しさ! おまけにクライマックスでは、マンゼロというソプラノサックスのような楽器とテナーサックスを同時に咥えてのダブル吹き!!! もう、強烈で絶句ですっ!
 また続くテテ・モントリューが、ウィントン・ケリーとマッコイ・タイナーを混ぜたような強烈なスイング感で大爆発! こんなん、ありっ! もう、演奏が止まらないという、これを見られただけで、私は感涙悶絶です。
 しかもこの後を引き継いで、またまたローランド・カークが怪気炎を上げれば、テテ・モントリューは演奏が終りの合図も見えぬまま、スイングの嵐を巻き起こし続け、ローランド・カークに制止されるオチがついています。
 あぁ、恐ろしさと凄さに身震いが止まりません♪

02 A Cabin In The Sky
 ローランド・カークが十八番のスタンダード曲で、ここではストリッチという独自に考案した巨大ソプラノサックスのような楽器が使われます。
 そしてテーマが軽快に吹奏された後、ホイッスルの合図でテテ・モントリューが豪快にグルーヴィン♪ この時代は、まだ、ほとんどウィントン・ケリーがモロ出しのスタイルですが、その颯爽としたスイング感は本家に引けを取らない颯爽としたもので、もう最高♪ けっこう派手な音も使っています。
 そして続くローランド・カークが、またまた強烈! 巨大な楽器を派手なアクションで操りながら、驚愕の音符の洪水を撒き散らしますが、歌心が完全に一体になった物凄さです! 実はステージ上のローランド・カークの周囲には複数のマイクが立てられているのですが、その理由が、ここで分かります。
 う~ん、それにしてもローランド・カークの体力と馬力は凄すぎます。体中に様々な楽器を身に付けての派手なアクションと爆発的な吹奏! 本当に超人的だと思います。

03 3-In-1 Without The Oil
 これはローランド・カークのバンドテーマというオリジナル曲です。基本はブルースとモードのゴッタ煮ですが、演奏は如何様にも発展出来る汎用性があるようです。
 まずアドリブ先発のテテ・モントリューが強烈なスイング感を爆発させ、続くローランド・カークはフルートに肉声を混ぜた得意技を存分に披露しますが、途中では鼻息で竹笛を同時に吹くという、余人にマネの出来ない妙技までもっ♪
 そして無伴奏のフルートソロの場面では、あまりの楽しさにケニー・クラークがニンマリという表情が印象的です。
 またそれを引き継ぐテテ・モントリューの疾走ハードバップピアノが気持ち良く、クライマックスはローランド・カークの複数管楽器吹奏から、テナーサックスの息継ぎ無しのノンブレス奏法が披露され、おまけにピアノ前に歩み寄り、一人で伴奏のブギウギピアノ! もちろんその間、テナーサックスは鳴りっ放しです! どうやら鼻から息を吸い込み、口から出しての吹奏だと思われます。
 もちろん演奏はまだまだ続き、ポケットから時計を出して時間を確認すると鳩笛を鳴らして突如ストップ! ケニー・クラークの分かっているアクセントも、たまりません。

ということで、以上の3曲は驚愕と感動の連続です。トミー・ポッターとケニー・クラークというモダンジャズを創成した巨匠2人のサポートも素晴らしい限り♪

画質は残念ながらB級ですが、この演奏の充実度の前には問題にならないでしょう。この3曲は世界初出ではないでしょうか? とにかく全ジャズファンが必見と、断言致します。個人的にはテテ・モントリューの激しさに興奮させられました。

さて後半は1967年10月19日、プラハでのライブで、メンバーはローランド・カーク以下、ロン・バートン(p)、スティーブ・ノボセール(b)、ジミー・ホップス(ds) という、当時のレギュラーバンドです――

04 Ode To Billie Joe
 挨拶代わりの楽しいジャズロックと言うか、当時流行っていたヒット曲をテナーサックスでフリーソウル化しています。もちろん2管同時吹奏やジョン・コルトレーンも真っ青というシーツ・オブ・サウンドの乱れ撃ち! さらに熱い咆哮と溢れ出る歌心のバランスの絶妙さが、本当に秀逸です。
 サポートするバンドの面々では、まずロン・バートンが何でも弾ける実力者なので、ここでは正統派ジャズロックに専念していますが、ややセンが細いのが残念です。

05 My Ship
 美メロで有名なスタンダード曲を、ローランド・カークはフルートで聴かせてくれます。もちろん独自の肉声入り解釈になっており、元メロディの変奏と対比が鮮やかです。
 そのフルートには妙なアタッチメントが付いています。なんでしょうね?。
 バックのトリオの崩れ落ちる寸前という繊細さも、また素晴らしいと思います。

06 Creole Love Call
 デューク・エリントン作曲による古典ながら、ここではマイルス・デイビスの「All Blues」のアレンジを借用しているのですから、油断がなりません。
 ここではクラリネットとテナーサックスの同時吹きでテーマが演奏され、柔らかさと奥行きの深さが、まず最高です。
 そしてアドリブパートではクラリネットで正統派の本領を発揮、続いてテナーサックスでは新主流派~フリーに接近した、当時の最先端を聴かせてくれますが、ジャージみたいな衣装で身を捩りながら吹奏するローランド・カークは、やはり凄い人です。
 またロン・バートンは繊細で押さえた表現のピアノから深いエモーションを披露していますが、やや考えすぎか……。

07 The Inflated Tear / 溢れ出る涙
 ローランド・カークの代表的名曲・名演が、ここで演奏されます。もちろんオリジナルのスタジオ・バージョンは、このバンドでのレコーディングでしたから、息の合い方と仕掛けの処理は抜群です。
 スタートはローランド・カークの一人舞台で、妙なバネ仕掛けの打楽器をイントロに使い、テナーサックス、マンゼロ、ストリッチの3管同時吹きで哀切のテーマを聴かせてくれるその映像は、感動的です。
 トリオの繊細で劇的な伴奏も素晴らしいと思います。

08 Lovellevelliloqui
 一転、ジョン・コルトレーンに挑戦したかのような烈しい演奏で、その曲調はもちろん、アップテンポでモード全開! 垂れ流し寸前のスケール変奏に終始するローランド・カークは、これをパロディ演奏としているのでしょうか? 投げやりな雰囲気が横溢していますが……?
 リズム隊も1970年代前半の新宿ピットインという雰囲気です。分かってもらえますかねぇ……。ここではジミー・ホップスのドラムスが最高! ちなみにこの人は、1970年代にチャールズ・トリバー(tp) のバンドで大活躍した正統派の名手で、ここではその本領発揮という烈しいドラムソロが♪

09 Making Love After Houres
 なんとも凄いタイトルの曲ですが、この上も無く楽しいジャズロックです。
 映像では、ここで花束贈呈に出てきた美女が、いきなり予定に無かった演奏が始まって戸惑う様子が映っており、これがまた楽しいところ♪
 肝心の演奏はローランド・カークが十八番の肉声フルートが素晴らしく、バンド全体のノリも最高♪ なんか、ここにきて、やっと本来の調子が出たような雰囲気さえ漂います。
 もちろんリーダーは鼻笛まで繰り出して大奮闘! リズム隊は擬似ラムゼイ・ルイス・トリオになっていますよ♪ クライマックスは3管同時吹奏です。

10 Free Interlude / Bessie's Blues
 オーラスは大歓声の中でスコットランドのバグパイプのような演奏が、ローランド・カークの2管吹奏で再現されます。そして最後は全身痙攣からバンド全体はフリーの大嵐を巻き起こし、アッという間に大団円という鮮やかさなのでした。

ということで、偏見は百も承知の楽しさ満載♪ これを見ずしては死ねないが、ジャズファンの本懐ではないでしょうか?

特に前半の3曲は強烈至極! この世の果てまで飛ばされてしまいそうなエネルギーに満ちています。二大盲人ジャズメンの共演というだけでは済まされない物凄さです。

それゆえに後半の7曲のインパクトが、やや弱いのですが、実はこのパートは以前ビデオ化された時には大反響だったのですから、今回のDVD復刻の意義は計り知れないものがあります。もちろん後半の映像はAランクの画質です。

最後にローランド・カークについては、生まれて間もなく失明したために音楽の道に進み、複数の管楽器を同時に吹奏するアイディアは夢の中から得たと、本人は語っています。

その演奏の土台は黒人らしいファンキーさ、ゴスペルやブルースのみならず、広範囲に良いものは良いとして自分の領域に取り込んでしまう、度量の大きさから成り立っています。

ですからレコードよりも生演奏の方が何倍も楽しめるミュージシャンなのですが、来日は1964年の唯一度でした。しかも1977年に急逝したため、人気絶大ながら再来日が叶わず、個人的にもライブを観られなかった悔しさがありましたので、今回の映像復刻には期待していたのですが、全く期待以上の素晴らしさで、夢見心地でした。

特に前半が強烈で、テテ・モントリューも最高♪

皆様には激オススメのDVDです!

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ミステリオーソ!

2006-07-25 17:21:25 | Weblog

昨日の誤配騒動、宅急便屋の計らいにより、事なきを得ました。なんか、こういうミスとドジは良くあるらしいですが、決して誤配が多いということでは無いと、特記しておきます。

だいたい、良く確かめもせずに受け取りにサインするぬる~い秘書がイカンのだっ! こいつは履歴書に猫耳のコスプレ写真を貼ってきたバカ娘! まあ韓国語とかタイ語とか、中国語が話せるので使っているだけで、常識の無さは……。

と自分の事は棚に上げた本日の1枚は――

Misterioso / Theronious Monk (Riverside)

コワモテが大勢いるジャズ界でも、特に誰も文句を言えないのが、セロニアス・モンクでしょう。いや、おやじギャグじゃ無しに!

なにしろその巨体、無口で何かを秘めた瞳、そして作り出される音楽はモダンジャズの極北という唯一無二の存在です。

音楽性については聴いてもらう他はないんですが、朴訥としたピアノから弾き出される不協和音の嵐! スタンダード曲を元ネタにしながら、全くユダヤ人モードでは無い作曲、幾何学的でありながら人間味が強く感じられる生演奏、それゆえに取っつき難くく、しかし半面、物凄い人気者でもあるのです。

このアルバムは、いつも出演していたクラブでのライブ盤で、そんなセロニアス・モンクの日常の一幕が記録されています。

録音は1958年8月7日、当時根城にしていたニューヨークの有名クラブ「5スポット」におけるセッションで、メンバーはジョニー・グリフィン(ts)、セロニアス・モンク(p)、アーマッド・アブダル・マリク(b)、ロイ・ヘインズ(ds) という、恐怖の4人組です――

A-1 Nutty
 リズミックで楽しいブルース曲ながら、ベタなファンキー感覚が無いのが特徴でしょうか、それでもアドリブ先発のジョニー・グリフィンは自分の領域である猛烈ハードバップに持ち込もうと奮闘します。
 しかしどうしても、セロニアス・モンクのシバリから逃れることが出来ません。なにしろジョニー・グリフィンが十八番の展開に入りかけると、待ってましたとばかりに意地悪なコードやカウンターのメロディをぶっつけてくるのですから!
 さらに自分のアドリブパートでは、音符過多だったジョニー・グリフィンにあてつけるかのような最小限の音符で「間」の妙技を聞かせ、さらに独自のメロディ変奏、ここぞっ、と炸裂させる不協和音♪ 全くのエゴに終始する潔さが、最高です。
 もちろん演奏はそのコントラストがあってこそ、緊張感漂う白熱の演奏になっているのでした。
 
A-2 Blues Five Spot
 このセッションのためにセロニアス・モンクが書いた新曲で、これも変態ブルースですが、妙なファンキー感覚がクセになります。
 アドリブパートでは、もちろんジョニー・グリフィンがハート&ソウルの吹きまくり! そしてこれにはセロニアス・モンクもサジを投げたか、途中でピアノ伴奏を止めていますが、どうやらそこでは踊りだしているらしいとか……。
 ですから途中の3分9秒目あたりからのジョニー・グリフィン一人舞台が最高にスリリング♪ そして山場から滑り込んでいくセロニアス・モンクのピアノとリズム隊のカッコ良さ♪ これがジャズの醍醐味ですねっ! もちろん観客は大喜び、私もいっしょに拍手喝さいです。
 で、続くセロニアス・モンクのピアノは怖ろしいアドリブの連続です。「間」を協調してロイ・ヘインズのオカズ過多のドラムスを誘発させ、アーマッド・アブダル・マリクの裏街道的なベースソロを導いていくのです。
 あぁ、ロイ・ヘインズ! 和太鼓みたいなソロが最高ですぜっ♪

A-3 Let's Cool One
 一抹の哀愁が漂うセロニアス・モンクのオリジナルで、個人的には好きな曲です。
 ここでの演奏はテーマに仕掛けられたキメを活かしながら、まずジョニー・グリフィンが定石どおりに泣きのハードバップを繰り広げてくれますが、伴奏のセロニアス・モンクは容赦無く恐いコードを叩いています。
 実はセロニアス・モンクの管楽器入りのバンドの面白さは、誰かがアドリブソロを吹いているバックで、セロニアス・モンクがどういう動きをするかにあると思うのです。執拗に意地悪な変態コードが連発されたかと思うと、突如、何も弾かなくなったり、間延びしたビートやウラのウラから入ってくる妙なイントネーションのフレーズを出されたら、余程の力量がなければ演奏が続けられないでしょう。
 その点、ここでのジョニー・グリフィンは流石です。4分7秒目からは無伴奏での吹きまくりを許すという、花を持たせてもらうほどですから、その実力の物凄さをご堪能下さい。決してテングになっていないジョニー・グリフィンには好感が持てます♪
 そしてセロニアス・モンクは絶好調のモンク節! 何時もの訥弁スタイルにストライド風の弾奏も交えて、最高のアドリブを聴かせてくれます。

B-1 In Walked Bud
 モダンジャズを創成した天才ピアニストのバド・パウエルについて書かれた、セロニアス・モンクの有名オリジナル曲です。その所為か、比較的ビバップ色の強いテーマ構成なので、ジョニー・グリフィンもマイペースでハードバップを吹きまくりです。
 セロニアス・モンクも、ここでは物分りの良いみたいですし、例によって途中でビアノを弾かなくなったパートでは、ロイ・ヘインズとアーマッド・アブダル・マリクがグルになって、好き放題にジョニー・グリフィンを煽ります。もちろんここでは主役のテナーサックスが豪放に唸り、ストレス発散の大ブロー大会! 物凄い早撃ちフレーズから、肉声による苦悶の呻き、歓喜の叫びと情念の吐露!
 そしてヤルだけやった祭の後を引き継ぐセロニアス・モンクは、全くの異次元へ聴き手を連れ去ろうと奮闘しますが、やはり自分以外の3人がハードバップどっぷりという空気を如何ともしがたい諦観が、逆に潔い演奏になっています。
 またベースのアーマッド・アブダル・マリクは、あまり評価されていない隠れ名手ですが、良いですねっ♪ ロイ・ヘインズも終盤では正統派のドラムソロをたっぷり聴かせてくれますよ♪

B-2 Just A Gigolo
 古いスタンダード曲がセロニアス・モンクのソロピアノで演じられます。曲そのものは、ロックファンならばデビッド・リー・ロス(vo) が超産業ロックとしてカバーしたバージョンで知っているはずですが、ここではセロニアス・モンクの訥弁のピアノスタイルが寂寥感いっぱいで、泣けてきます。

B-3 Misterioso
 そして間髪を置かずにスタートするのが、このタイトル曲! まず、この流れが最高です♪
 肝心の演奏は、ミディアム・テンポでネバリを強調したジョニー・グリフィンのブルース・フィーリングが素晴らしく、この熱い迸りこそがジャズの魅力ですねっ!
 またセロニアス・モンクは烈しくプログレとでも申しましょうか、これまで以上にブッ飛んだフレーズや装飾音、独自のリズム感覚や変態コードを聴かせてくれますが、やや消化不良が残念です。
 と言うか、ジョニー・グリフィンが凄過ぎる!?
 しかし不思議な余韻が残る演奏なので、アルバムのラストには相応しいかもしれません。

ということで、これは傑作盤としか言えませんが、取っ付きの悪さも天下一品でしょう。ただ救いは、バリバリのハードパップ野郎=ジョニー・グリフィンの参加故に、ジャズファンならば気になる作品だと思います。

内容は独断と偏見に基づいて書いたとおりですが、もうひとつの魅力として、キリコの絵画が使われたジャケットの存在感! この前衛性が最高のカッコ良さとして、セロニアス・モンクの音楽に直結しているイメージだと思います。

それとこの日の録音からは、もう1枚のアルバム「イン・アクション」が作られていますが、そちらも熱い魂の爆発が楽しめるのでした。

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間違えられたブツ

2006-07-24 17:15:37 | Miles Davis

ネットで頼んでいたブツがドカッと入荷♪ 昼飯もそこそこにルンルンしながら開封していたら、全く身に覚えの無いものが……!

宛名を見たら、誤配でした。

でも、そのブツが問題なんですよ。夫婦生活に使うと思われるような物品とか下着類、精力剤……等々が!

まあ、よく確かめもせずに開封した私のミスなんですが、相手に謝るにしても、お互いに顔が悪いというか、なにせ本当の受取人はカタイ人という評判ですからねぇ……。

いやはや、困ったと思いつつ、猫耳のバカ秘書に口止めをして宅急便屋に電話した私ではありますが、まずは本日の1枚として、これを――

Filles De Kilimanjaro / Miles Davis (Columbia)

ジャズの帝王と呼ばれたマイルス・デイビスの諸作中、最も聴かれていないアルバムが、本日の1枚じゃないでしょうか? まあ、「オン・ザ・コーナー」という怪盤もありますが、そっちはラップの元祖扱いでの人気もありますから。

で、この邦題「キリマンジャロの娘」というアルバムは、マイルス・デイビスが1960年代に黄金のクインテット=ウェイン・ショーター、ハービー・ハンコック、ロン・カーター、トニー・ウィリアムスと共に極限まで追求した王道ジャズを、さらに進化させようと悪戦苦闘した記録から作られたものだと思われます。

それは結論から言うと、この後に発表される名盤「イン・ナ・サイレントウェイ」や「ビッチズ・ビリュー」という歴史になった作品を鑑みて、この「キリマンジャロの娘」は別に出なくても何ら問題無いとさえ、私には思えるのです。

まあ、最初からあまりにも極論で額に汗が滲むわけですが、しかし実際、このアルバムの魅力はリーダーが煮え切らないところでは?

録音は1968年6月と9月、メンバーはマイルス・デイビス(tp)、ウェイン・ショーター(ts)、ハービー・ハンコック(p,key)、ロン・カーター(b,el-b)、トニー・ウィリアムス(ds) に加えて、チック・コリア(p,key)とディブ・ホランド(b,el-b) が新たに参加し、入り乱れたセッションになっています――

A-1 Frelon Brun / Brown Hornet (1968年9月24日録音)
 チック・コリアとディブ・ホランドという新作組が参加した演奏で、そこにトニー・ウィリアムスが入ったリズム隊によるドドスコ・ビートのイントロから、ジャズでもロックでも、ましてやジャズロックでもないリズムに煽られて、ネクラの作り笑いのようなテーマが提示されます。
 アドリブの先発はもちろんマイルス・デイビスで、どこか苦しそうに十八番のフレーズばかりを吹いていきますが、チック・コリアの不気味な伴奏が印象的です。
 しかしウェイン・ショーターにとっては、こういう雰囲気は得意中の得意ということで、後のウェザー・リポートのようなフレーズまで繰り出しています。
 そしてチック・コリア! フリーとロックの狭間に存在するブラックホールを捜し求めるような味が、完全に……???
 全体に試行錯誤から抜け出せない迷い道だと思いますが、これをアルバム冒頭に据えたプロデュースは流石なんでしょうか……? ただしトニー・ウィリアムスのトラムスは壮絶! 大音量で聴くと印象が変わってしまう魔法が秘められています。
 やっぱりド頭で正解か!?

A-2 Tout De Suite (1968年6月20日録音)
 ここではハービー・ハンコックがエレキピアノ、ロン・カーターはエレキベースを弾いているようです。つまりバンドが新しい挑戦を始めた記録ですが、演奏そのものは全く今までの王道路線で、テーマはスローテンポで神秘的なものが追求されています。
 またアドリブパートでは全員が自在なリズムを使いながら、あくまでもマイルス・デイビスの目論見を看破しようと奮闘しますが、当の本人はそうした緊張感を楽しんでいるかのような快調さです。その鋭さにはトニー・ウィリアムスが一番良い反応を聴かせていることも、特筆すべきだと思います。
 そしてウェイン・ショーターが、また物凄いです。トニー・ウィリアムスの激烈なドラムスを物ともしない泰然自若ぶりには、呆れ果てる他はありません。リズム隊も完全にキレています。暗黙の了解を超えた心的交歓♪
 そこへいくとハーヒー・ハンコックは保守的というか、それが長所ですねっ♪ ジャズ者は和み、ロック&ソウルファンは驚愕でしょう。あぁ、最後はゴスペル!
 さらにトニー・ウィリアムスは、後のライフタイムを彷彿させる爆発ぶり! これではロン・カーターが可哀想というか、終始、細切れ状態なのでした……。

A-3 Petits Machins / Little Stuff (1968年6月19日録音)
 マイルス・デイビス作となっていますが、実はギル・エバンスから大きなヒントを貰った演奏で、従来の4ビート路線を継承しつつ、ジャズの王道を突っ走るバンドは最高です。
 もちろんハービー・ハンコックはエレキピアノを弾かされていますし、ロン・カーターも純粋4ビートはやってくれませんが、トニー・ウィリアムスのドラムスがどうしても暗黙の了解で、オフビートから抜け出せないようです。
 それゆえに烈しい演奏が逆に安らぐというか、ガチガチのジャズファンなればこそ、これは安心できる仕上がりになっています。
 ジャズは最高だぁ! と声を大にして宣言出来ますねっ♪

B-1 Filles De Kilimanjaro / Girl Of Kilimajaro (1968年6月21日録音)
 このアルバムタイトル曲は不思議な明るさがあり、次作「イン・ナ・サイレントウェイ」への繋がりが感じられます。
 なにしろトニー・ウィリアムスのドラムスがモロですし、一応データではハービー・ハンコックがエレキピアノとなっているのですが、私にはチック・コリアのように聞こえてしまうという……。
 肝心のマイルス・デイビスは煮えきっていません。尻つぼみというか……。
 しかしそれをバネに反撥するのが、ウェイン・ショーターのディープなテナーサックスで、もう完全にウェザーリポートになっていますねっ♪

B-2 Mademoiselle Mabry / Miss Mabry (1968年9月24日録音)
 思わせぶりが先行したソウルゴスペルで、どこまでもスローな展開にはイライラさせられますが、反面、時折入るキメのフレーズやショック療法的なビートの嵐が、待ちきれない快感になっています。
 こういう展開はマイルス・デイビスが散々やってきたものと、ビート感覚は違っても本質は同じなので、ウェイン・ショーターも安心して自己中心の美メロアドリブを存分に聴かせてくれます♪
 さて、問題はリズム隊で、このエレキピアノはデータではチック・コリアとされていますが、本当か? ハービー・ハンコックじゃないのか? 曲調からすればジョー・ザビヌルかキース・ジャレットが最適なんでしょうが!
 まあ、それはそれとして、ここでもトニー・ウィリアムスが最高ですねっ♪ もちろん4ビートなんて叩いてくれませんが、激情にまかせたように見せかけた計算づくの一撃が、たまりません!

ということで、これは全曲がマイルス・デイビスのオリジナルという意欲作ですが、肝心のリーダーがオトボケをかましたり、脱力する部分があったりで、いやはやなんともです。

しかしトニー・ウィリアムスとウェイン・ショーターが物凄い出来栄えで、存在感満点なんですねぇ~♪ それゆえにマイルス・デイビス名義で出す必要があったのか? という疑問がつきまとうのです。

まあ、契約問題とかもあったのでしょうが……。

結局、次作の「イン・ナ・サイレントウェイ」があまりにもカッコ良く、出来すぎだったのが、このアルバムの致命傷というか、後追いで聴くと如何にもジャズのドロ臭味が目立ちます。

ただしトニー・ウィリアムスが本当に凄まじく、大音量で聴くとスカッとするのも、また事実♪ いつの日か傑作盤へと衣替えする可能性を秘めているのでした。

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クリーンファイト

2006-07-23 16:05:07 | Jazz

ガソリンが、また値上がりしたようです……。大好きな鰻も高いみたいだし……。

だんだん我侭も通らなくなるんでしょうか……。

自分の人生を楽しみたいだけなんですが……。

という暗い嘆き節しか出ない休日ではありますが、楽しさの追求は人生の意義と考えて、これを聴きました――

An Afternoon At Birdland / Kau Winding & J.J.Johnson (X / RCA)

同一楽器の対決セッション、所謂バトル物こそ、ジャズならでは人気企画です。

そこでは丁々発止の掛け合いから協調性を大切にした和みの瞬間まで、当にスリルとサスペンスの醍醐味が味わえるのですから、たまりません。

ですからジャズの歴史の中では多くの人気チームが誕生していますが、このアルバムの主役であるJ&K=J.J.ジョンソンとカイ・ウィンディングはトロンボーンという、モダンジャズではなかなか難しい楽器でそれに臨み、見事に人気を爆発させた名チームでした。

もちろん彼等は多くの録音を残し、その全てが名演になっていますが、この作品は全盛期のライブ盤とあって、活き活きとした楽しさが詰まっています。

録音は1954年10月、メンバーは、J.J.ジョンソン(tb)、カイ・ウィンディング(tb)、ディック・カッツ(p)、ペック・モリソン(b)、アル・ヘイウッド(ds) です――

A-1 Funnybone
 カイ・ウィンディング作曲による明るく楽しいハードバップです。
 アドリブソロの先発はカイ・ウィンディングで、分かりやすくウキウキするようなフレーズを連発すれば、続くJ.J.ジョンソンは細かい音符まで追求した超絶技巧を披露しています。もちろんその対比は、どっちが優れているとかいう問題では無く、それぞれの持ち味対決として楽しいのです。
 そしてクライマックスでは、お約束の4小節交換からラストテーマに雪崩込むのでした。

A-2 Cornerstone
 ラテンリズムを使ったテーマが、これも楽しいカイ・ウィンディングのオリジナル曲です。
 ここでのアドリブ先発はJ.J.ジョンソンで、技巧を優先しながらも独自の歌心を追求していますが、続くカイ・ウィンディングは分厚い音色と悠然としたアドリブの構成力で勝負しています。
 またリズム隊が本当に躍動的で、堅実なペック・モリソンのベースを要にして暴れるアル・ヘイウッドのドラムスと歯切れの良いディック・カッツのピアノが最高です。ただし録音状態からピアノが引っ込んでいるのが残念!
 演奏はこの後、J&Kのウリであるトロンボーン・バトルが展開され、当に丁々発止の白熱です♪

A-3 Lullaby Of Birdland
 このライブが行われたクラブ「バードランド」のテーマ曲が、終始J&Kの絡みで演奏されていきます。お馴染みのメロディをユニゾンで演奏した次の瞬間、裏になり表になりながら、2人のトロンボーンがジャズの醍醐味を満喫させてくれるのです。
 リズム隊のサポートも絶妙で、短い演奏ですが、いつまでも聴いていたい魅力に溢れています。

B-1 Bone Of Contention
 編曲も得意なJ.J.ジョンソンが書いただけあって、かなり複雑なアレンジが施されたテーマ構成から、熱いハードバップが展開されています。
 アドリブはJ.J.ジョンソン~カイ・ウィンディングの順ですが、いずれも自己のペースを全く崩さずに対決意識を聴かせているのは流石です。もちろんクライマックスのソロ交換は熱気の渦巻き状態!
 そんな中でセンスの良さが全開というディック・カッツのピアノソロが痛快です。

B-2 Birdland Festival
 カイ・ウィンディングが書いた名曲で、このアルバムのハイライトとも言うべき熱い快演になっています。
 それは力強いリズム隊に煽られて、まずカイ・ウィンディングが最高に豪快な歌心を披露すれば、続くJ.J.ジョンソンは繊細なフレーズを積み重ねてディープに対抗していくのです。もちろん2人ともアドリブ構成の上手さは天下一品です♪
 そしてクライマックスのソロ交換はバトルと言うよりも、相手フレーズに敬意を払いつつ、それを巧みに継いでいくという協調が良いですねぇ~♪

B-3 Vista
 J.J.ジョンソンが書いた、このアルバムで唯一のスロー曲で、ここではバンド全体のスマートな取組みが素晴らしい出来です。おそらく元ネタはスタンダード曲の「Yesterdays」だと思われますが、テーマよりもアドリブの方が素敵なメロディになってしまったというオチがついています♪

ということで、これは本当に楽しいアルバムです。バトル物といっても相手を打ち負かしてやろうという意識は薄く、むしろ協調しながら対決の場を盛り上げていこうという、クリーンファイトのプロレス名勝負ような趣があります。

ただし残念ながら録音のバランスがイマイチで、ディック・カッツの素敵なピアノを堪能出来ないのが悔しいところ……。

またJ&Kとしての録音は沢山残されていますが、初期のコロンビア・セッションが手軽に聴けない現状も残念ですねぇ……。

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ソプラノ♪

2006-07-22 19:29:12 | Jazz

1週間が早いですねぇ……。こうして仕事に追われて、歳をとっていく私はいったい誰でしょう……。

なんてことが、フッと心を過ぎることもあるという本日の1枚は――

Zoot At Ease / Zoot Sims (Famous Door)

ズート・シムズと言えば、テナーサックスの大名人♪ レスター・ヤングの影響が強いスタイルながら、淀みの無い歌心と強烈なドライヴ感が魅力です。

そのズート・シムズがソプラノサックス!

というのが、このアルバムのウリで、こんなに堂々とジャケット写真にソプラノサックスを吹奏する勇姿が載っていたのは、リアルタイムで衝撃でした。なにしろソプラノサックスと言えば、ジョン・コルトレーンというのが当時の常識で、つまりモード~新主流派の演奏スタイルには必須! 裏を返せばハードバップやモダンスイングには不向きという思い込みがあったのです。

はてさて、これはどんな演奏かというと、録音は1973年5月30日&8月9日、メンバーはズート・シムズ(ts,ss)、ハンク・ジョーンズ(p)、ミルト・ヒントン(b) が不動、そして5月のセッションにはルイ・ベルソン(ds)、8月のセッションにはグラディ・テイト(ds) が参加しています――

A-1 Softly, As In A Morning Sunrise (1973年5月30日録音)
 ノッケから強烈な印象が残ります。
 なにしろソプラノサックスでこの曲と言えば、ジョン・コルトレーンが1961年にビレッジバンガードのライブ盤で怖ろしいばかりの名演を残しているのですから、ここでは聴く前から悪い予感に満たされています。
 しかし、これが全く別種の快演♪
 リズム隊の緊張感溢れるイントロから、素直にテーマを吹奏するズート・シムズのソプラノサックスは爽やかさと暖かさがいっぱいです。もちろんアドリブパートはズート・シムズ流儀の「歌」が、これでもかと飛び出すのですから、ジャズを聴く楽しみが極まっています。
 リズム隊も快調そのもので、ルイ・ベルソンのツボを押さえたシンバル、豪胆にスイングするミルト・ヒントンのベース、センスの良さが全開したハンク・ジョーンズのピアノは、当に名人芸です。
 あぁ、ジョン・コルトレーンのバージョンと聞き比べても、間然することのない名演だと思います。

A-2 In The Middle Of A Kiss (1973年8月9日録音)
 スタンダードの隠れ人気曲を、ズート・シムズはテナーサックスで見事に聴かせてくれます。つまり安心感たっぷりのズート節♪ サブトーンのブスススススス~という響きが、もう感涙ですねっ! もちろんアドリブでの美メロも止まりません。
 緩やかなミディアムテンポを刺激的に彩るリズム隊とのコンビネーションも、秀逸です。歌心の塊♪

A-3 Rosemary's Baby (1973年5月30日録音)
 再びソプラノサックスを操るズート・シムズの凄さが堪能出切る演奏です。
 曲調はラテンリズムを入れたアレンジで、ややモード調ですが、あくまでも全員がメロディに拘る演奏が最高です。
 またここでもリズム隊が絶好調で、ルイ・ベルソンの古くてモダンなドラミング、絡みまくりのミルト・ヒントン、怖ろしいまでにテンションが高いハンク・ジョーズは、本当に強烈です。
 そしてこれではズート・シムズも油断出来ない雰囲気で、男気に満ちた哀愁のメロディを紡ぎ出していくのでした。

A-4 Beach In The A.M. (1973年8月9日録音)
 ハンク・ジョーンズが書いたモダンなハードバップ曲を、ズート・シムズはテナー・サックスでハードボイルドに解釈しています。
 ここでのドラムスはグラディ・テイトなんですが、そのハードドライブな煽りが素晴らしく、全体に力感溢れる仕上がりなだけに、演奏時間が短いのが残念です。

B-1 Do Nothin' Till You Hear From Me (1973年5月30日録音)
 デューク・エリントが書いた黒~い名曲を、ズート・シムズはテナーサックスで豪快かつ繊細に吹き綴ってくれます。サブトーンの響きも味の世界ですし、ここでのゆったり感覚はミルト・ヒントンの野太いベースに支えられ、一層、深みをましていくのです。
 地味ながらアルバム中でも特に秀逸な演奏だと思います。
 
B-2 Alabamy Home (1973年8月9日録音)
 これもデューク・エリントン作曲の古典ですが、ズート・シムズはソプラソサックスでモダンな解釈に挑戦しています。
 まずグラディ・テイトのブラシを多用したドラムスが快感♪ そこにオトボケとツッコミを1人で演じるズート・シムズが絡んでいくのですから、アドリブパートではグラディ・テイトもタイトなステックワークで応戦するという、擬似ハードバップになっています。

B-3 Cocktails For Two (1973年5月30日録音)
 ズート・シムズがテナーサックスで素晴らしい快演を聴かせてくれます。曲は1934年に発表された古いスタンダードとあって、ズート節には最高の素材なのでしょう。テナーサックスのふくよかな音色と出来すぎのアドリブを堪能しているうちに、演奏が終わってしまうのでした。

B-4 My Funny Valentine (1973年5月30日録音)
 お馴染みの名曲をテナーサックスで演じるズート・シムズは、もはや余裕の世界というか、通常よりは早くて力強いビートに乗り切った快演を聴かせてくれます。
 そして繰り返しなりますが、ここでもテナーサックスのふくよかな音色が、もう最高なんですねぇ~♪ これもジャズから抜け出せない魔力です!

という事で、個人的にはズート・シムズの名盤ベスト5に入れているほど、好きなアルバムです。ちなみにそのベスト5は、気分によって違うのですが、これは必ず入るという激愛盤ということを、ご理解願います。

そしてこれもジャズ喫茶の人気盤で、モードとフュージョンに犯されていた1970年代の店内では、これが鳴り始めるとホッと一息という空気に満たされるのでした。特にA面1曲目で完全降伏♪

そしてこの成功で、ズート・シムスは堂々とソプラノサックスも吹くようになり、後にはそれに専念したアルバムをパプロ・レーベルに残すのでした。

コメント (2)
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