梅雨が明けたら、途端に熱いなぁ~!
梅雨が明けない時は、いろいろと文句をタレていたんですが、人間って本当に勝ってなもんです。
まあ、それはそれとして、夏こそジャズっていうのも、昔から???でしたが、ジャズを聴くのに季節や理屈はいらんわけです。
と苦しい言い訳から本日は――
■Dial S For Sonny / Sonny Clark (Blue Note)
自分の愛聴盤から愛着盤に変化するアルバムを必ず持っているのが、ジャズ者でしょう。
何をもって愛着盤となすか、それは同じ内容のブツを、いろいろな理由をつけて集めてしまう行為に裏付けられた作品だと、私は思います。
例えばジャケット違い、プレス国違い、モノラルとステレオの違い等々、それは微細に拘っていくのが通例で、あぁ、泥沼だなぁ……、と気づいても止められないのが、この道です。
私にとっては本日の1枚が当にそれで、どうにか入手したオリジナル盤を筆頭に日本プレスの盤とかCDとか、いろいろと手を出したのですが、1997年に発売されたステレオ仕様のCD=ST-56585 には驚きました。
これはアメリカのキャピトルレコードから再発されたブルーノート復刻CDのひとつですが、まずリアル・ステレオ・バージョンというのが初出♪ しかも中身には、アッと愕く事実が隠されていたのですが、まずはオリジナルのモノラル・バージョンの演奏を定番として、その内容は――
録音は1957年11月10日、メンバーはソニー・クラーク(p) をリーダーに、アート・ファーマー(tp)、カーティス・フラー(tb)、ハンク・モブレー(ts)、ウィルパー・ウェア(b)、ルイ・ヘイズ(ds) というオールスターズによる、バリバリのハードバップです――
A-1 Dial S For Sonny
ソニー・クラークが作った、思わせぶりがたっぷりの名曲で、全体に横溢する暗くて哀しい雰囲気が最高です。ミディアムテンポのネバリでドライブするバンドのグルーヴも、初っ端から素晴らしいですねっ♪
アドリブの先発は、こういうノリなら十八番のハンク・モブレーで、そのモタレの美学を活かしきったファンキームードは、余人が真似出来る境地ではありません。ソフトでパワフルな音色も、たまりません。
続くカーティス・フラーも持ち前のハスキーな音色で余韻が残る良いフレーズを連発していますし、アート・ファーマーが、これまた魅力のハスキーボイスから溌剌とした部分まで、「泣き」を含んだ名演を聴かせてくれるのですから、リーダーのソニー・クラークも気合が入っているようです。とくにかく、あのクラーク節がたっぶりです♪
まあ、このあたりは、ちょっと聴きには地味なんですが、聴くほどに天国へ昇天するヤミツキ演奏だと思います。
肝心のステレオのミックスはピアノが真ん中、ドラムスとベースが右、ホーン隊が左のチャンネルに定位しています。特に大きなミックス違いは無いのですが、ベースとドラムスのニュアンスが良く聴き取れるのが、ステレオ・バージョンの魅力かもしれません。
A-2 Bootin' It
これもソニー・クラークが作った、とても調子の良いハードバップのブルースです。
アドリブパートでは、まず作者がアップテンポで快調に飛ばしますが、バド・パウエル直系のビバップフレーズに独自のファンキー感覚を混ぜ込んだそれは小気味良く、本当にシビレます♪。
続くカーティス・フラーも絶好調ですし、ハンク・モブレーは珍しくグイノリで迫ってきます。しかもこの時のバックでは、ソニー・クラークが最高のコード弾き!
演奏はこの後、アート・ファーマーの闊達なトランペットが炸裂し、バックではホーンのリフまで付くノリノリ大会! クライマックスはドラムスとのソロ交換となるのですが……。
実はここで事件が起こっていたのです。
それは前述したCDが初出となったステレオ・バージョンに真相が残されており、何とアート・ファーマーのソロが終わってドラムスとのソロ交換になる直前に、ソニー・クラークがミスってシドロモドロの展開に! ハッと気づいて誰かが「ヒュー」と口笛まで吹いているのですが、なんとか格好をつけて演奏は続行されるのです。しかし何と最後の締めで、今度はルイ・ヘイズがコーラス数を見失うという大チョンボ!
否、しかしこれが、瞬間芸のジャズだと思います。
で、結局、この演奏テイクを巧みに切り貼り編集したのが、オリジナルとなったモノラル・バージョンという種明し♪ いやはななんとも……、というわけでした。
A-3 It Could Happen To You
人気スタンダード曲がスローで演奏されますが、まずテーマを吹奏するアート・ファーマーが秀逸です。そのハスキーな音色を活かした甘い変奏が、完全な一芸主義だと思います。
もちろんソニー・クラークもネクラというか、マイナー志向のピアノをたっぷり聴かせてくれますが、ここでバックをつけているウィルバー・ウェアのベースが、やや無神経か?
しかしその部分は、次に登場するハンク・モブレーの仄かに暗い心情吐露の前では消失し、カーティス・フラーが丁寧にラスト・テーマを吹奏していくのでした。
B-1 Sonny's Mood
これまたソニー・クラークが作った名曲、そして名演です。
スラスラ~っと始まるテーマの素晴らしさ、ラテンリズムを用いたサビの展開の楽しさ、これぞハードバッブです。
もちろんアドリブパートも大充実で、まずアート・ファーマーが原曲の持っているマイナー性を拡大解釈すれば、ハンク・モブレーは自分だけのソフトムードを全開させています。
しかしカーティス・フラーは、ややノーテンキというか、そよ風の中の吹流しという雰囲気で、まあ、これも良いと思います。
そしていよいよソニー・クラークの登場! これが全く素晴らしく、ネバリとタメ、歯切れの良さが渾然一体となった素晴らしいソロを聴かせてくれます♪ ピアノスタイルとしては地味なんですが、この味、このグルーヴは不滅だとっ!
B-2 Shoutin' On A Riff
アップテンポの激烈ハードバッブで、作曲はもちろん、ソニー・クラークです!
テーマ部分から随所にブレークが仕掛けられ、ホーン隊各人が腕を競いますが、アドリブパートの先発ではソニー・クラークが溌剌としたハードバップを作り出していきます。
そしてその魂を受け継いだハンク・モブレーは、もうバカノリとしか言えません♪ 十八番のモブレー節で難局を乗り切れば、アート・ファーマーは余裕の展開から激情を爆発させ、カーティス・フラーも細かいフレーズを用いて応戦しています。
さらにクライマックスではルイ・ヘイズのドラムソロ!
しかしこのテイクはモノラル・ミックスの方が迫力があると感じます。それはリズム隊が、やや乱れているからで、こういう演奏は団子状でブリブリ迫ってくるモノラルに限ります。
B-3 Love Walkes In
オーラスは、今までの熱気を和みに変換させるようなリズム隊だけの演奏です。もちろん主役はソニー・クラークで、そこはかとないファンキーな風情、どこか儚げなフレーズとノリは唯一無二の素晴らしさだと思います。あぁ、この歌心♪
ちなみにこのステレオ・ミックスは左にベース、真ん中にピアノ、右にドラムスが定位しています。
ということで、今回は種明しに終始した雰囲気ですが、その内容は文句無しの傑作盤だと思います。ただし、繰り返しますが、やや地味な雰囲気もあって、ジャズの初心者には???かもしれません。
もちろん、これを歴史的な大名盤と言うつもりはありませんが、ソニー・クラークの魅力に目覚めたら最後、逃れぬことが出来ない愛着盤になること、請け合いです。
まさに「Sonny's Mood」の演奏集だと思います。