今年も残り少なくなり、急に寒くもなりました、ということで本日は、ぷる~すな1枚です――
■Super Sessino / Al Kooper (Sony)
ロックの歴史を紐解く時、ギタリストの時代が間違いなく、ありました。
それは特に1960年代後半からの数年間で、ここにエリック・クラプトンやジェフ・ベックというジャンルを超越して凄い達人から、ブルースに拘り続けたり、あるいはスタジオワークで真価を発揮したり、はたまた、ライブステージで強烈な印象を残していた者まで、ロックといえば、まずギターという公式が成り立っていたのです。
で、このアルバムも突き詰めればギターアルバムに他なりません。その主役は天才的な白人ブルース・ギタリストのマイク・ブルームフィールドです。ご存知のように、彼はシカゴでポール・バターフィールドと共にブルース・ロックをやっていたのですが、あくまでも天才とキチ●イは紙一重という世の常を打ち破ることが出来ず、この時点でも自分がリーダー格となって結成したバンドのエレクトリック・フラッグを辞めた浪人状態でした。
ただし、このアルバムそのものの名義は、当時のトレンディ男、アル・クーパーになっています。この人もまた、飽きっぽいというか、潔いというか、とにかく流行を作ってはすぐにそれを放り出す人で、この時点では、自分で作り、人気上昇中のブラッド・スウェット&ティアーズを辞め、コロムビア・レコードのスタッフ・プロデューサーになっていたのです。
そして何か録音しなければならない羽目に陥り、急遽、昔馴染みのマイク・ブルームフィールドと共演セッションを目論み、出来たのがこのアルバムというわけです。ちなみに昔馴染みとは、この2人はボブ・ディランの「ライク・ア・ローリング・ストーン」等の、所謂、歴史的なフォークロックの録音セッションに参加していたという、縁故関係でした。
とはいえ、ここで録音されたのは、リラックスしたジャム・セッションで、それはちょうどジャズの現場に近いものでしたが、当時のロックはビジネスとしてジャズよりは権利関係が複雑だったことから、共に名前を成した者どうしが気軽にバンドを組むことは珍しい事とされました。それゆえに、そこを逆手にとったアルバム・タイトル「スーパー・セッション」はインパクトが強かったのです。
肝心の演奏、そしてメンバーは、マイク・ブルームフィールド(g)、アル・クーパー(key.vo,g)、バリー・ゴールドバーグ(p)、ハーヴィ・ブルックス(b)、エディ・ホー(ds) で、1968年5月に録音されています。
まずA面1発目の「Albert's Shuffle」から大名演で、ミディアム・テンポのブルース・インストが、マイク・ブルームフィールドの素晴らしいギターで綴られていきます。その透明感のある音色、心に突き刺さるフレーズ、素直に感情を爆発させたアドリブの組み立て等々、とにかく非の打ち所がありません。他のメンバーも頑張っているのですが、これはマイク・ブルームフィールドが全ての曲です。あぁ、ブル~ス♪
それは2曲目の「Stop」も同様で、ここでは8ビートのブルース・ロック・インストが演じられますが、溢れ出すブルース魂は、よりハードエッジに迫ってきます。
しかし、一転3曲目の「Man's Temptation」はアル・クーパーのボーカルを前面に出してホワイト・ソウル味に仕立てた、ある意味では息抜きの場になっていますが、個人的にはかなり好きです。
そして4曲目はサイケ・ジャズ・インストの「His Holy Model Makesty」で、4ビートも導入されていますが、中心となるアル・クーパーのキーボードのアドリブがペンタトニックばっかりで、退屈です。しかしマイク・ブルームフィールドのギターは鋭く、インドのラガ・モードまで使って刺激的にスケールアウトしたりして、健闘しています。
こうして煮詰まったところで辿り着くのがA面ラストの大ブルース大会「Really」です。ここでもマイク・ブルームフィールドのギターは凄い! と言う他はありません。まるっきり、コピーして下さい、と言わんばかりの永久不滅フレーズばかりで、どうやったらこんなインスピレーションが湧き出るのか、天才は違うという証明になっています。
ところが、これで燃え尽きたのか、マイク・ブルームフィールドは翌日のセッションには現れず、失踪……! どうやら不眠症と薬物依存が極限まで達していたらしく、そこで急遽起用されたギタリストが元ブッファロー・スプリングフィールドで、後にCSNを結成するスティーヴ・スティルスです。
演奏されたのはボブ・ディランの「悲しみは果てしなく」、ドノバンの「魔女の季節」、ブルースの古典「夜明けに恋は無い」、そして短い「ハーヴィの曲」で、正直に言うとA面よりもテンションの低い出来になっています。それでも「魔女の季節」は名演ですが……。
ということで、このアルバムはA面が全て! と言い切ってしまいます。否、極限すれば「Albert's Shuffle」だけでも良いんです♪ これこそ1960年代ロックのひとつの頂点かもしまれせん。
そこではホーン・セクションがダビングされていますが、近年のリマスターCDには、それを抜いたピュアなバージョンがオマケに入っていますし、残りテイクの「Blues For Nothing」が、どうしてこれがボツなのか? と思わせる凄さで屹立しています。またフィルモアのライブから、これも未発表の「Fat Grey Cloud」も貴重です。
ということで、マイク・ブルームフィールドは、けっして黒人ブルース・ギターそのものをやっている人では無いのですが、その美味しい部分を白人ロックの中で最良の形で表現した偉大なギタリストです。ジャケ写からネタ元に繋げてありますので、ぜひとも聴いてみて下さい。