昨日の大相撲、優勝決定に絡む取組みは、美しくなかったです。
まず横綱が本割で変化すれば、決定戦では、それを逆手にとった大関が変化!
もちろん反則では無いし、充分な心理戦があってこそ成り立った真剣勝負なんでしょうが……。
私的には全く美しくないという決着でした。真剣勝負って、こんなつまらんもんだったんでしょうか?
ということで、本日は――
■Strike Up The Band / Pete Jolly & His West Coast Friends (Atlas)
ピート・ジョリーのリーダー作になっていますが、実はアート・ペッパーのワンホーン盤というのが、発売当時から暗黙の了解でした。というか、アート・ペッパーを録音したかった製作会社が、契約関係をクリアするための手段としたと、ジャズマスコミは堂々と伝えていましたですね。
なんかピート・ジョリーがダシに使われた気がして、このピアニストが大好きな私は複雑な気分になっていましたが……。
それはそれとして、やっぱりこのアルバムが出た時は嬉しかったですねぇ~♪ もちろん内容にも期待していました。というのは、1970年代中頃に本格的にカムバックしたアート・ペッパーが、ヒステリックなモード色に染まったスタイルから少しずつ往年の歌心と情緒を取り戻し、両方がバランス良く交じってきていたという、いよいよこれから「もう一花」の時期でしたから! ちなみに発売は日本優先で、1980年でした。
録音は1980年2月26&27日、メンバーはアート・ペッパー(as)、ピート・ジョリー(p)、ボブ・マヌグッセン(b)、ロイ・マッカーディ(ds) という、やっぱり「アート・ペッパー・カルテット」です――
A-1 Strike Up The Band
お約束のマーチドラミングから始まるアップテンポの演奏ですが、個人的にはこのアルバムの中で一番ガックリきた出来でした……。
まあ、こちらの期待が大きかった所為もあるんでしょうが、アート・ペッパーの吹くフレーズには、何か1音足りない雰囲気があります。やれやれ、大丈夫かなぁ……。
またピート・ジョリーは粋でグルーヴィなピアノを弾かせたら天下一品の存在ですが、ここでは「お仕事」のような雰囲気で、これも???……?
ところが終盤、ドラムスとアート・ペッパーの対決あたりから、俄然、その場に熱い空気が漲っていくのですから、ジャズは本当にわからんものです。
A-2 You Go To My Head
そして、この有名スタンダードのスローバラードで、雰囲気が一変します。
アート・ペッパーは「泣き」の心情吐露に撤しますが、それは様々な苦難に満ちた人生が滲み出たといったら、生意気でしょうか。とにかく、今、この歳になった私には、リアルタイムで聴いていた1980年当時よりも感情移入出来る部分が多くなっています。
そのスタイルは往年の手数の多い変幻自在なフレーズよりは、訥弁ながらも鋭い音選びと往年のファンが忌み嫌う、あのヒステリックなゲロ吐きの音色を交えたものですが、その歌心というか曲解釈の奥深さは絶品だと思います。
決して原曲を蔑ろにしない姿勢も最高です♪
A-3 I Surrender Dear
この曲は1956年にアート・ペッパー自身が決定的な名演を残しているので、些か分の悪さが隠せません。実際、ベースがヌルイ雰囲気ですし、アート・ペッパーのテーマ解釈~アドリブに入るブレイクも、往時のインスピレーションには及びません。
残念ながらリズム隊にも精彩が……。
しかしピート・ジョリーが新しい感覚を入れながらも本領発揮♪ 終盤でのアート・ペッパーとの掛け合いも結果オーライです。
まあ、ここまでにしておきます。
A-4 Y.I.Blues
ところが一転して、これがなかなかの名演です。
曲はブルースを基本にした幾何学的なテーマの擬似ジャズロックなんですが、妙な緊張感があって、気に入っています。
アート・ペッパーも気分がノッたというか、アドリブパートは快適な4ピートでグルーヴィに吹きまくり♪ それは新しいフレーズとノリを主体にしながらも、往年の「ペッパー節」が随所に飛び出す嬉しい展開なんです♪
リズム隊も勢いがあって鋭く、失礼ながら決して一流とは言えないロイ・マッカーディが奮戦すれば、ピート・ジョリーも余裕で実力発揮です。また如何にもこの時代らしい電気増幅系の音色でグルーヴしているボブ・マヌグッセンもOKでしょう。
B-1 Night And Day
有名スタンダードをボサロックで解釈していますが、初っ端から脱力したアート・ペッパーが心地良く、マヌケ寸前のベースも良い味という変態的な和みが好きです♪
そのあたりはピート・ジョリーにも伝染し、先発するアドリブでは華麗なフレーズに緩いビート感がたまりません。何時しか4ビートに移行している全体のノリも最高です。
肝心のアート・ペッパーは、全盛期を思わせる手の込んだフレーズと緩急自在のアプローチでリズム隊を翻弄していますよ。一瞬、場がシラケ気味になって、再び纏まっていくような雰囲気が、スリル満点です。
B-2 Everything Happens To Me
個人的に大好きなスタンダード曲なので、大いに期待し、また聴くのが恐かった演奏です。
しかしアート・ペッパーは若かりし日の名演を差し置いて、中年者の苦界境を見事に表現していると思います。もちろん、こんな気持ちはリアルタイムの私には感じなかったものですが、その頃でさえ、けっこう感動した演奏でしたから、今になって感慨もひとしおという老いの境地には、まだ早いと思いたいのですが……。
やっぱり、良いです♪
B-3 Out Of Nowhere
全員がリラックスした雰囲気で臨んだスタンダード曲の解釈に、ゾッコン、惚れなおす快演です。
まずピート・ジョリーの粋なイントロからロイ・マッカーディのブラシが入る瞬間、そしてアート・ペッパーが躊躇いがちにテーマを吹奏していくあたりからして、グッときます♪ あぁ、泣きのフレーズが、心地良いです♪
それはアドリブパートでのタメの効いた展開とか、完全に曲想を読みきったような歌心の妙、おまけに緩いテンポを自在なノリに変えていくという、完全にアート・ペッパー十八番の展開です♪
またピート・ジョリーが素晴らしいです! 何の変哲も無い雰囲気でありながら、この粋な感覚は、この人の持ち味としか言えません。一応、この盤ではリーダーでありながら、製作者側の意図に従って引き立て役に回っているという物分りの良さは、自分の実力に相当な自信がなければ、出来ないでしょう。流石です。
ということで、全体には往年の演奏に及ばない部分が多々あるのですが、何か憎めないというか、大多数のファンが求めるアート・ペッパーというイメージに、かなり近づいた出来栄えだと思います。
特に「You Go To My Head」や「Everything Happens To Me」というスローな歌物には、独自の哀感が漂っていて、おそらく自然体で演じたアート・ペッパーそのものという演奏だと思います。
些か苦しくて、独り善がりの言い訳ばかり書き連ねましたが、中身はとっても気に入っているアルバムなのでした。