OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

冬の訪れにアイク・ケベック

2008-11-30 12:47:26 | Jazz

Heavy Soul / Ike Quebec (Blue Note)

アイク・ケベックといえば、近年になってようやくその経歴や業績がきちんと紹介それるようになったテナーサックス奏者ですが、私がジャズを本格的に聴き始めた1970年代では、個人的に謎の人でした。

そのスタイルはスイング系の黒人スタイル、R&Bっぽい音楽性、しかし温故知新の魅力があって、なんでこんな人が名門ブルーノートにリーダーアルバムを、それも1960年代の録音セッションがあるんだろう……? という疑問が興味に進展したものです。

今となっては明らかになったように、アイク・ケベックはブルーノートの主催者だったアルフレッド・ライオンとフランシス・ウルフには有能な助っ人であり、優れた新人のスカウトやリハーサル&録音セッションの庶事万端、縁の下の力持ちだったというのです。

それは当時、人種差別が厳しかったアメリカにおいて、たとえモダンジャズのプロデューサーといえども、黒人地区でバリバリの最先端が演じられている現場へは容易に立ち入れなかった白人のアルフレッド・ライオンやフランシス・ウルフのアシスタントとしての仕事であり、多くの優れたセッションが可能になっていたのも、アイク・ケベックの存在があればこそなのでした。

う~ん、これを知った時には業界の現場の難しさとか、さもありなんの事情を痛感させられましたねぇ。

しかしアイク・ケベック本人は、1940年代からブルーノートと関わりがあって、SP用のレコーディングは残していたのですが、その後に悪いクスリで娑婆と塀の中を往復したり、健康を害して第一線から遠ざかったようです。そして前述の仕事を請け負ったようですが、アイク・ケベックは自身がモダンなスタイリストではなかったものの、当時の先進的な若手、例えばセロニアス・モンクやケニー・クラークあたりとは親密だったそうですし、おそらくは人望もあったのでしょう。それでなくては、白人の手先なんか信頼されるはずもありませんからねぇ。

さて、このアルバムはそんなアイク・ケベックがブルーノートで発売した本格的なLPレコードの最初の1枚です。録音は1961年11年26日、メンバーはアイク・ケベック(ts)、フレディ・ローチ(org)、ミルト・ヒントン(b)、アル・ヘアウッド(ds) という新旧混合のワンホーン体制――

A-1 Acquitted
 リズム隊がほとんどマイルス・デイビスのモード曲「Milestones」というリフが痛快4ビート! しかしアイク・ケベックはサブトーンとグイノリで古臭いフレーズを積み重ねるというミスマッチがなんとも魅力です。
 共演者ではベースのミルト・ヒントンが1930年代末からアイク・ケベックとは盟友だったベテランなのに、ここでは十分に新しいグルーヴを披露し、おそらくはブルーノートでは初セッションであろうフレディ・ローチがライト感覚のソウルオルガン♪ そしてアル・ヘアウッドの硬派なドラムスという実に上手いキャスティングが、アイク・ケベックの希望だったんでしょうかねぇ。流石の味わいだと思います。

A-2 Just One More Chance
 アイク・ケベックが本領発揮の甘いバラード演奏で、サブトーンの鳴りからは黒いソウルとテナーサックス本来の魅力が溢れだしています。フレディ・ローチのオルガンも実に良い雰囲気で、全体のゆったりしたグルーヴの源でしょうか。
 原曲はあまり知られていないスタンダードみたいですが、この演奏を聞いた私は、忽ち好きなメロディになっています。

A-3 Que's Dilemma
 なんと1曲目とクリソツな演奏で、同じようなリズム隊のリフとグルーヴが、これで良いのか???
 しかしアイク・ケベックはお構いなしに我が道を行く、ですよ♪ こういう開き直りを手抜きとするかは十人十色でしょうが、アドリブパートの熱気は相当なもんですから、納得するしかないでしょうねぇ……。

A-4 Brother Can You Spare A Dime
 これまたキャバレーモードというか、フロアショウで美人ダンサーが登場してきそうな名曲・名演です。あぁ、このメロディの歌わせ方はアイク・ケベックの真の実力と音楽性の表れでしょうねぇ~~~♪
 フレディ・ローチのオルガンも泣いていますし、ミルト・ヒントンのペースは味わいの小技がニクイところです。
 う~ん、それにしても、こんな曲を見つけ出して演じてしまうなんて、アイク・ケベックも昭和歌謡曲のルーツと思ってしまうほどです♪

B-1 The Man I Love
 ジャズ史ではテナーサックスの名演としてコールマン・ホーキンスのバージョンが決定版とされていますが、裏を返してここでのアイク・ケベックの演奏も実に味わい深いと思います。
 ゆったりとしたテンポで原曲メロディをフェイクしていくテーマ部分、そしてアドリブパートではグイノリでスイングしていく「お約束」を守っているだけとはいえ、この悠々自適な雰囲気には和みがいっぱいです。
 ただし、もう少し熱くなって欲しいという我儘も……。
 もちろん適度に下世話なフィーリングとかツボは外していませんが……。

B-2 Heavy Soul
 さて、これがアルバムタイトル曲にして、このアルバムの目玉演奏です♪
 妖しいムードがいっぱいのテーマメロディ、それをマレットを使ったアル・ヘアウッドのドラムスが最高に彩り、やがて演奏はグッと重心の低い4ビート♪
 アイク・ケベックのテナーサックスは男泣きの心情吐露ですし、フレディ・ローチのオルガン伴奏もジャストミートして、こういうムードは唯一無二、永遠に不滅のジャズの楽しみでしょうねぇ~♪
 実は告白すると、私が最初にアイク・ケベックを聞いたのは、ラジオから流れていたこの曲でした。そして忽ち、虜です♪
 セッションが行われた1961年としては、明らかに時代遅れの演奏だったかもしれませんが、アルフレッド・ライオンのプロデュースがそれを許したのは、今となっての結果オーライでは無く、ジャズの本質への愛情だったと思います。いや、そう思わざるをえない名演じゃないでしょうか。

B-3 I Want A Little Girl
 続くこの演奏もまた、ゆったりしたテンポでアイク・ケベックがソウルフルなサブトーンを鳴らすという、テナーサックス王道の響きがとても魅力的です。
 伴奏のオルガントリオも、普通はベースの代わりにギターというのが定番ですが、ここではあえてベースを起用したのが大正解で、がっちり芯の通ったグルーヴが出来上がっていますから、フレディ・ローチも思うままに魅惑のコードワークを聞かせて、最高のムードが楽しめるのでした。

B-4 Nature Boy
 オーラスはアイク・ケベックとミルト・ヒントンのデュオで演じられる有名スタンダードという、最高の仕掛けが用意されています♪ なにしろ最初っからテナーサックスの魅力というサブトーン、そして硬質なメロディフェイクが全開なんですねぇ~~♪
 静謐なムードをさらに上手くサポートするミルト・ヒントンのペースも、余計な手出しをしない潔さですから、アイク・ケベックの至芸にはすっかり酔わされてしまいます。
 はっきり言えば地味な演奏かもしれませんし、短いトラックですから、なんか物足りない感じが最初はするかもしれません。しかしこれ以上長くなったら、やっぱりイヤミなんじゃないでしょうか。ここではシンプルにして、全てを言いきった感があると思います。
 ちなみにこの曲はジョン・コルトレーンも、あの黄金のカルテットで重厚に演じていますが、それはそれとして、私はこちらの方が好きです。

ということで、これもジャズ喫茶よりは自宅で聴いて感涙のアルバムだと思います。特にB面を私は愛聴しているのですが、恥ずかしながら、実はそれも2曲目からというのが真相です。欲を言えばAラスの「Brother Can You Spare A Dime」がB面に入っていれば、最高だったんですが、その意味でCDを買おうか、何時も悩んでいる1枚でもあります。

ちなみにアイク・ケベックはこの時期、集中的にブルーノートで録音セッションを行い、シブイ輝きの放つリーダー盤の他にサイドメンとしても熱演を残していますが、1963年には40代半ばで天国へ召されたのが残念……。

またフレディ・ローチのオルガンが、オルガンといえばソウルフル! というイメージと同時に繊細な感覚を滲ませて実に秀逸です。この人があって、この名演が生まれたというのは、決して極言でも放言でも無いと思うのですが、それは皆様が鑑賞されてのご判断ということで、ご理解願います。

これからの時期、こういう「あったかいテナーサックス」は必需品じゃないでしょうか♪

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ドナルド・バードの気楽な好盤

2008-11-29 11:56:04 | Jazz

Mustang / Donald Byrd (Blue Note)

これまたブルーノートの美女ジャケ有名盤ですが、中身は案外と聴かれていないというか、少なくとも1970年代ジャズ喫茶では無視されていたアルバムだと思います。

今にしてみれば、主役はドナルド・バード、共演者にはハンク・モブレーやマッコイ・タイナーと大物が揃っているので不思議だと思われるかもしれませんが、こんなの当時は普通を通り越してマンネリでした。しかもドナルド・バードはブラックファンクのシャリコマ路線、ハンク・モブレーは時代遅れの象徴というのが、1970年代のジャズ喫茶では常識でしたし、マッコイ・タイナーにしても強烈な意欲作を連発していた時期でしたから、なにも昔の「お仕事」っぽい演奏を聴かなくとも……、という雰囲気が濃厚だったのです。

しかし私は、こんな1960年代後半の大衆ジャズが大好きで、密かに自宅で愛聴し、今日に至っているというわけです。もちろん内容はご推察のようにジャズロックとリラックスしたハードバップ♪

録音は1966年6月24日、あらためてメンバーを記せば、ドナルド・バード(tp)、ソニー・レッド(as)、ハンク・モブレー(ts)、マッコイ・タイナー(p)、ウォルダー・ブッカー(b)、フレディ・ウェイツ(ds) という派手さの中にもシブイ面々です――

A-1 Mustang
 アルバムタイトル曲はフレディ・ウェイツのメリハリの効いたドラムス、特にリムショットとバスドラのコンビネーションが楽しいジャズロック♪ 意外なほどにファンキーなマッコイ・タイナーを軸としたリズム隊のリフの作り方もイカシています。
 そしてアドリブパートではソニー・レッドの曲調を壊さないシンプルさが如何にもですし、ドナルド・バードも伸びやかなフレーズばかりなのが結果オーライ♪ こういう、ある種のノンビリムードが実に良い感じで、それゆえにリズム隊の楽しいリフと痛快なグルーヴには腰が浮きます。
 もちろんハンク・モブレーも、これしか無いの十八番の「節」ばっかり吹いてくれますから、まあ1970年代前半の我が国ジャズ喫茶では言わずもがなの扱いだったのが納得されるでしょう。
 しかしマッコイ・タイナーの気合いの入ったファンキーグルーヴは、けっこう説得力に満ちています。実はこの当時のマッコイ・タイナーはジョン・コルトレーンのバンドを辞めたばかりでしたが、途端に仕事が無くなっていたとか!? ですからこうしたスタジオセッションは貴重な収入源だったと言われています。

A-2 Fly Little Bird Fly
 そのマッコイ・タイナーが初っ端から大ハッスルしたのが、この「Giant Steps」みたいなモード曲です。アップテンポでバンドが全力疾走していく爽快感は、まさにマッコイ・タイナーの参加があればこそ!
 ソニー・レッドも新しめのフレーズを心おきなく吹いていますし、ドナルド・バードが持ち前の流麗なスタイルで綱渡り的な快演を披露すれば、ハンク・モブレーも珍しく前のめりっぽい熱血のアドリブです。
 このあたりはモード系ハードバップの真骨頂というか、ついにはマッコイ・タイナーの饒舌なアドリブ、そしてベースとドラムスの必死の追走が天国と地獄の往復となる、実に熱いクライマックスです。

A-3 I Got It Bad And That Ain't Good
 デューク・エリントン楽団の大ヒットを伸びやかに歌いあげるドナルド・バードの隠れ名演がこれです。じっくりと構えて力強いリズム隊では、マッコイ・タイナーが些か出しゃばった感もありますが、ハンク・モブレーが素晴らしい和みのテナーサックスを聞かせてくれますから、たまりません。

B-1 Dixie Lee
 B面のド頭も、「お約束」の楽しいジャズロックという大サービス♪ もちろんドナルド・バードのオリジナルですが、こういう曲調は当時としては当たりまえだのクラッカーですから、素直に楽しんでノー文句の演奏だと思います。
 その要になっているのはウォルター・ブッカーとフレディ・ウェイツという、私の大好きなタッグチームで、それはレイ・ブライアントの人気盤「Gotta Travel On (Cadet)」での活躍で惹きつけられて以来の事でしたから、告白すればこのアルバムも彼等目当てというのが半分の真相です。
 もちろんここでもヘヴィなベースにガサツでスカッとしたドラムスというコンビネーションが冴えまくりですが、しかし残念なのはヴァン・ゲルダーの録音がベースのエグイ音を捕らえきれておらず、些か鈍重な雰囲気になっている事です……。
 その意味で、この演奏がアーゴやカデットのスタジオで録られていたらなぁ……、なんて我儘な妄想が抑えきれないほど、ここでのグルーヴは強烈なんですねぇ~♪ そういう人達が存在すればの話ですが、おそらくジャズロックマニアの間では人気が高いんじゃないでしょうか。
 生真面目に新しさを追求するソニー・レッド、力まないドナルド・バード、さらに何の変哲もないハンク・モブレーの潔さ! マッコイ・タイナーのファンキー節も意想外の良さが滲み出た名演かもしれませんねっ♪ 

B-2 On The Trail
 元々はクラシックの曲らしいのですが、モダンジャズでもお馴染みのメロディを、ここではモード系のアレンジで演奏しています。テーマ部分でのリフやマッコイ・タイナーの伴奏は、もう完全にそれもんですから、ドナルド・バードは些か神妙ですが、逆にソニー・レッドが強烈な自己主張! マイルス・デイビスのバンドにいた頃のキャノンボール・アダレイを想起させられるような変形モードフレーズが痛快です。う~ん、そう思えば、ドナルド・バードがマイルス・デイビスっぽくなっているのにも納得でしょうか♪
 と、くればハンク・モブレーにとっても面目躍如のアドリブは当然至極の名演で、続くマッコイ・タイナーが十八番の展開を聞かせても、全く違和感の無い仕上がりです。
 このアルバムの中では最も正統派ジャズっぽい傑作トラックだと思います。 

B-3 I'm So Excited By You
 オーラスはドナルド・バードが書いた明朗快活なハードバップ! メロディアスなテーマから流麗なアドリブに入っていくドナルド・バードが、やはり薬籠中の名演を聞かせてくれますが、リズム隊の躍動的な頑張りも流石だと思います。
 そしてハンク・モブレーがハードバップのお手本を示せば、ソニー・レッドが負けじとハッスル! マッコイ・タイナーの軽やかなアドリブもたまりませんねぇ~♪

ということで、実に中身は楽しいアルバムなんですが、それゆえに軽く扱われるのも時代の表れという1枚です。これは後にハードバップのリバイバルがあっても変わることがなかった事実でしょう。

しかし例えばリー・モーガンが似たような演奏を残したアルバムは、けっこう人気盤とかレアグルーヴとか称されて今日でも聴かれているのですから、何故だ!? と思いますねぇ。リー・モーガンが悲劇的な早世だった所為もあるかもしれませんし、あるいは魅惑の美女ジャケットが反感を……???

まあ、それは結論の出ないところでもありますし、やっぱり聴いて楽しければOK♪ というのが、この種のアルバムの所期の目的かもしれませんね。

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ジミー・クリーヴランドの疑似ジャズテット

2008-11-28 12:51:16 | Jazz

Cleveland Style / Jimmy Cleveland (EmArcy)

ジミー・クリーヴランドはビックバンドの一員、あるいはスタジオでの仕事で多くのアルバムにクレジットされている名前ですが、しかしそのトロンボーンの実力を存分に発揮するリーダー盤は極めて少ないのが残念な名手です。そして、その何れもが隠れ名盤だと私は思っています。

本日ご紹介の1枚は、おそらく2枚目の正式リーダー盤でしょう。

録音は1957年12月12&15日、メンバーはジミー・クリーヴランド(tb) 以下、アート・ファーマー(tp)、ペニー・ゴルソン(ts)、ウイントン・ケリー(p)、エディ・ジョーンズ(b)、チャーリー・パーシップ(ds) という疑似ジャズテット♪ しかもドン・バターフィールドとジェイ・マクァリスターというチューバ奏者がセッション毎に加わった7人編成で、アレンジはもちろんベニー・ゴルソン、さらにお馴染みのアーニー・ウィルキンスが担当しているのですから、これだけでゾクゾクしてきますねぇ~♪ ちなみにジャケットには、このバンドを「his orchestra」なんて堂々とクレジットする稚気も憎めません――

A-1 Out Of This World (1957年12月12日録音/ Ernie Wilkins arr.)
 日活映画のオープニングテーマみたいな彩豊かでハードボイルドなイントロのテーマアンサンブル、そして一転、快適なハードバップの合奏というコントラスが最初っから描かれたニクイ演奏です。
 アドリブパートはアート・ファーマーのジェントルにして痛快なトランペット、それに続くジミー・クリーヴランドがバカテク系の滑らかトロンボーンという素晴らしさですし、背後には常に凝ったアンサンブルが配されています。
 そして最後に登場するベニー・ゴルソンが、あのハスキーでモゴモゴした音色と温故知新のフレーズで、なんと中近東音楽みたいなアドリブを! ここは好き嫌いがあるかもしれませんし、私はどうも……、なんですが、ここから冒頭に提示されていたアンサンブルに戻していく仕掛けは、通常のハードバップとは一味違った感じで賛否両論でしょうねぇ……。
 しかし力強いリズム隊のスイング感は強烈で、特にチャーリー・パーシップのシンバルは「嵐を呼ぶ男」です。

A-2 All This And Heaven Too (1957年12月12日録音/ Benny Golson arr.)
 我が国ではあまり知られていないスタンダード曲ですが、その甘いメロディを活かしたベニー・ゴルソンの秀逸なアレンジ、またソフトに歌うジミー・クリーヴランドのトロンボーンには最初から感涙させられます。
 もちろんアドリブパートでもベニー・ゴルソンが十八番のサブトーンを完全披露すれば、アート・ファーマーのトランペットは内気な片思い、そしてジミー・クリーヴランドは驚異的なテクニックで忌憚のない心情吐露♪ さらにウイントン・ケリーが胸キュンの粘っこいスイングですから、もらい泣きするしかありません。
 チューバの参加も最高に効果的なハーモニーを生み出していますし、ユルくてグルーヴィなビートを弾き出すリズム隊も存在感を示していますから、ちょっと中毒症状が怖い名演だと思います。つまり完全なジャズテット前奏曲なのでした。

A-3 Posterlty (1957年12月15日録音/ Ernie Wilkins arr.)
 冒頭からチューバを効果的に使ったメリハリの効いたアレンジ、それに続くテーマ合奏とリズム隊の凝ったアレンジ、特にウイントン・ケリーが実にシブイです。
 そのあたりはアート・ファーマーのアドリブへの入り方とミュートの妙技、ベニー・ゴルソンの口ごもってハスキーなテナーサックス、ソフトな音色で驚きのフレーズを綴るジミー・クリーヴランドと、全員が歌心を大切にした名演へと結実しています。
 こうした小型オーケストラ的な演奏は、まさに「his orchestra」の証明かもしれません。

B-1 Long Ago And Far Away (1957年12月15日録音/ Ernie Wilkins arr.)
 良く知られたテーマメロディのスタンダード曲ですから、凝ったアレンジでのバンドアンサンブルとアドリブの妙技というコントラストが聞きどころでしょうか。安定したバンドの力量は見事ですが、それにしてもジミー・クリーヴランドのトロンポーンは圧倒的ですし、ウイントン・ケリーはスイングしまくって痛快です。
 また演奏が進むにつれて熱くなっていくリズム隊と全体の雰囲気もハードバップど真ん中! アート・ファーマーがスリル満点のブレイクを聞かせれば、ベニー・ゴルソンはモリモリと突進するのですから、所期の目的というよりは結果オーライの仕上がりだったのかもしれませんねっ♪ このグイノリが凝ったアレンジをブッ飛ばしたというか♪

B-2 A Jazz Ballad (1957年12月15日録音/ Ernie Wilkins arr.)
 そのものズバリの曲タイトルはアーニー・ウィルキンスのオリジナルですが、なんとなく映画のサントラ音源のような……。まあジミー・クリーヴランドにしても、そんな仕事も多かった人ですが、アンサンブルの中から浮かびあがってくるアドリブの素晴らしさは、やはり絶品です。
 ウイントン・ケリーも弾みまくった胸キュンアドリブが冴えていて、短いのが勿体無いほどですが、もう少し全体の雰囲気が良かったらと悔やまれるかも……。

B-3 Jimmyie's Tune (1957年12月15日録音/ Ernie Wilkins arr.)
 これまた何の芸もない曲タイトル、しかし冒頭からアップテンポで繰り広げられるトロンボーン対チューバの低音域バトルにメリハリの効いたリズムアレンジ、さらにスマートな合奏、そして豪快なアドリブパートへと至ってみれば、その場は完全にハードバップの桃源郷! ジミー・クリーヴランドからベニー・ゴルソン、さらにアート・ファーマーへと続くあアドリブのゾクゾク感は、まさにモダンジャズの醍醐味だと思います。
 そしてウイントン・ケリーの颯爽としたピアノとリズム隊のハードエッジなドライブ感も、唯一無二の黄金時代なのでした。

B-4 Goodbye Ebbets Field  (1957年12月12日録音/ Ernie Wilkins arr.)
 オーラスはネクラなチューバの響き、さらに陰鬱なバンドアンサンブルという全く楽しくない雰囲気から一転、これぞっ、ハードボイルドというカッコ良いテーマメロディの合奏が、またしても映画のサントラ音源のような演奏です。
 う~ん、それにしても力強いリズム隊の素晴らしさ! 特に基本に忠実なエディ・ジョーンズのウォーキングベースは、この演奏だけでなく、アルバム全体をがっちりと支えた縁の下の力持ちでしょうねぇ~。
 ですからベニー・ゴルソンもアート・ファーマーも、思いっきりハードバップに専心して最高ですし、ウイントン・ケリーの粘っこいファンキー節は言わずもがな、ジミー・クリーヴランドの静かな闘志が抑えきれない興奮を呼ぶのでした。

ということで、これは明らかに疑似ジャズテットだと思いますが、実はこのセッションの直前には、ここでのバンドと良く似たメンツによるベニー・ゴルソンのリーダー盤「New York Scene (Contemporary)」が吹き込まれており、これはその兄弟アルバムという真相もあろうかと思います。

それは当時、この一派が目論んでいたハードバップのひとつの形態だったのでしょう。ちなみにここに参加のメンバーは、ほとんどがディジー・ガレスピーやライオネル・ハンプトンの楽団では同時期にレギュラーを務めていた盟友でした。

ガンガンとツッコミの激しいハードバップを期待すると些か肩透かしとなりますが、ジャズテット系のソフトバップがお好みの皆様には絶対のアイテムとなるでしょう。特に「All This And Heaven Too」は一聴して虜になること請け合いの名演だと思います。

その意味でベニー・ゴルソンのアレンジが、これ1曲だけなのは残念というご意見もあろうかと思います。しかし全体のムードはソフトパップの真髄というか、基本的にソフトな音色で驚愕のフレーズを吹きまくるジミー・クリーヴランドには、アーニー・ウイルキンスの凝り過ぎアレンジでも、それが自然にゴルソンハーモニーとなるんですからねぇ♪

そしてハードボイルドなカッコ良さも秘められていますから、私はこの先も愛聴していく所存です。

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グランツのジャムの美味しさ

2008-11-27 12:55:36 | Jazz

Norman Granz' Jam Session #1 (Mercury / Verve)

ジャズは多士済々の個人芸がウリでもありますから、いろんな名手達の演奏を聴いてみたいのは言わずもがな、しかし先立つものが無いという苦しさよ……。そこで幕の内弁当の如く、様々な味が楽しめるジャムセッション物に手を出していた時期が、私にはありました。

本日の1枚は、そうした制作姿勢が十八番のノーマン・グランツがプロデュースした名作で、ご存じJATPと称されたジャムセッション興行をスタジオで再現した企画アルバムです。

もちろんこれはセッション当時に実用化されていたレコードのLP化という、長時間録音の技術があればこそ! 参加した名手達が存分に披露するアドリブを、がっちりと記録出来るのですから、これほどぴったりの企画はありませんねっ♪

メンバーはチャーリー・シェイヴァース(tp)、ベニー・カーター(as)、ジョニー・ホッジス(as)、チャーリー・パーカー(as)、フリップ・フィリップス(ts)、ベン・ウェブスター(ts)、オスカー・ピーターソン(p)、バーニー・ケッセル(g)、レイ・ブラウン(b)、J.C.ハード(ds) という超豪華! ちなみに録音年月日には諸説があり、1952年6月5日、あるいは7月17~22日の間ではないかとされていますが、いずれにせよ、これだけのメンツが集合しているのですから、おそらくはJATP巡業のある日だったのではないでしょうか――

A-1 Jam Blues
 即興的に常套手段のブルースリフをテーマに用いたアップテンポのブルース大会で、特筆すべきはリズム隊がモダンな所為もあるでしょうが、全体のノリがオフビート感覚に変化していることです。これは1940年代後半から始まり、ここまで続いてきたJATPの録音を聴けば尚更に明白で、個人的にはそれゆえにスイング派のミュージシャンも違和感無く楽しめたのだと思っています。
 そして何と言っても目玉はチャーリー・パーカーの参加でしょう。モダンジャズを創成した天才でありながら、その全盛期と言われる1940年代後半はレコーディング技術の問題から、得意のアドリブが短い時間でしか残されなかったスタジオセッションも、ここではLPという新企画で解消されたのは嬉しいプレゼントです。
 さて、肝心の演奏はオスカー・ピーターソンの歯切れの良いイントロからワクワクするような合奏、そしてまずはレスター派のフリップ・フィリップスが流麗にしてグルーヴィなアドリブで全体の雰囲気を決めつけます。また同時に、背後に控える面々がつけるリフも、完全にその場を盛り上げていきます。
 続くアルトサックスは大ベテランのペニー・カーターですが、なかなかモダンなスタイルでカッコ良いですねぇ~♪ するとオスカー・ピーターソンが煌びやかな指使いで冴えわたりのアドリブがこれまた楽しく、いよいよ登場するチャーリー・パーカーへの見事にモダンな橋渡しです。
 そしてもちろんチャーリー・パーカーは十八番のフレーズと独壇場のハードドライブでその場を圧倒! 他のベテラン達に比べると小節毎の区切りが自在というアドリブフレーズのノリには、本当にゾクゾクさせられます。J.C.ハードのドラミングも、当然ながらビシバシ度数が上がっての感度良好♪
 演奏はこの後、バーニー・ケッセルのギターソロがチャーリー・クリスチャン直伝のスタイルで楽しい限りですが、真空管アンプならではの音の歪みとピッキングの微妙な関係が、個人的にはたまりません。
 さらに力んだベン・ウェブスターの豪放にして下品なテナーサックスも、ジャムセッションならではの楽しみですし、対照的に持ち前のソフトな音色で品格が漂うジョニー・ホッジスのブルース感覚は、これを初めて聞いた私を夢中にさせたものです。
 こうして最後に登場するのが大ハッスルのチャーリー・シェイヴァースですが、個人的には些か古臭く聞こえて……。ちょっとトリにはなぁ、という感じですが、これもジャムセッションならでは結果論でしょうね。全体的には楽しくて熱い演奏になっているのでした。

B-1 Ballad Medley
    a) All The Things You Are / Barney Kessel
    b) Dearly Beloves / Charlie Parker
    c) The Nearness Of Youe / Ben Webster
    d) I'll Get By / Jonny Hodges
    e) Evrything Happens To Me / Oscar Peterson
    f) The Man I Love / Ray Brown
    g) What's New / Flip Phillips
    h) Somemone To Watch Over Me / Charlie Shavers
    i) Isn't It Romantic / Benny Carter
 さて、B面はJATPのライブ興業ではウリになっていた、参加メンバー各人が腕比べというバラードメドレーです。こういう趣向は誰が思いついたのかわかりませんが、このアイディアは実に秀逸だと思います。なにしろジャズの世界では、スローバラードに説得力があって一人前という掟がありますからねぇ~。
 気になるここでの仕上がりは、やはりベン・ウェブスターの繊細にしてハートウォームな表現が流石ですし、彩豊かな思わせぶりを演じるジョニー・ホッジス、忍び泣きの真髄というフリップ・フィリップス、艶やかに歌いあげるチャーリー・シェイヴァース、さらに素直な大人の表現が潔いペニー・カーターというベテラン勢が見事です。
 そして気になるチャーリー・パーカーはハードボイルドにダークな心情吐露ですが、些か生硬な感じがしています。まあ、これは他のメンバーの年季と貫禄に気圧されたのかと思えば微笑ましくもありますが……。
 全体の演奏では、やはりオスカー・ピーターソンを要としたリズム隊の上手すぎる伴奏が素晴らしく、要所で他の管楽器奏者がつけるハーモニーも味わい深いところ♪ 本当に良い雰囲気で纏まっています。ちなみに、ある個所では誰かがグラスを落としたような音が入っていますから、これは聴いてのお楽しみとさせていただきます。

ということで、たっぶりと聴きごたえがある1枚です。

ちなみに、この頃のノーマン・グランツは自分で企画制作した原盤を他社、例えばマーキュリー等に貸し出してリリースする方法をとっていたようです。これはインディーズの宿命というか、レコードプレスは現金決済、配給システムからの利益は後払いというアメリカの業界では常識がありましたので、後に自分のレーベルを起こしてからはヴァーヴで再発することになります。

しかしマーキュリーという会社は自前でプレス工場を持っており、また録音技術も傍系のエマーシーで明らかなように、相当に明るくてパンチのある音作りが特徴的でしたから、このジャムセッション盤の好感度も高いと思います。

今となっては、やはりチャーリー・パーカーの参加が目玉かもしれませんが、リアルタイムの現状ではジョニー・ホッジスやベン・ウェブスターがバリバリの大スタアでしたから、果たしてノーマン・グランツは何を目論んでいたのか、そんな推察も楽しいアルバムだと思います。

もちろんそれは、聴けば納得じゃないでしょうか♪

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流麗にして華麗なサル・サルヴァドール

2008-11-26 12:42:32 | Jazz

Sal Salvador Quintet Quintet (Blue Note)

白人ギタリストには流麗なテクニシャンが多いジャズ界において、殊更に私が呆れてしまうほど凄いのがサル・サルヴァドールです。

この人は最初、スタジオでの仕事をメインにしていましたが、その腕前を買われてスタン・ケントン楽団のレギュラーとなり、一躍有名になったようです。そしてそこに在籍中か、もしく退団した直後にレコーディングされたのが本日ご紹介のアルバムで、これは10インチ盤です。

録音は1953年12月24日というクリスマスイヴ♪ メンバーはサル・サルヴァドール(g)、ジョニー・ウィリアムス(p)、ケニー・オブライエン(b)、ジミー・キャンベル(ds)、そしてフランク・ソコロウ(ts) が加わっています――

A-1 Gone With The Wind / Quintet
 ジョニー・ウィリアムスのピアノが幾分ダークなイントロをつけた後、快適なミディアムテンポで和みのテーマが流れてくれば、気分は完全にモダンジャズ♪ メロディを華麗にリードするサル・サルヴァドールのギターに寄り添うフランク・ソコロウのテナーサックスというコンビネーションは、典型的な白人ジャズの美味しい部分かもしれません。
 アドリブパートでは各人が自然体にソロを回しますが、もっさりしたスタン・ゲッツという印象のフランク・ソコロウが良い感じ♪ ピアノのジョニー・ウィリアムスは後年、そのスタン・ゲッツのバンドレギュラーとして大活躍するジョン・ウィリアムスと同一人物でしょうね。その躍動的で楽しく歌うスタイルは、やはり魅力的です。
 肝心のサル・サルヴァドールは、難しいフレーズでも全く破綻しない抜群のテクニックを披露し、その安心感が和みに繋がるという名人芸です。

A-2 Get Happy / Quartet
 これが呆れかえるほどに気持ちの良い演奏で、バンドが一丸となってアップテンポの全力疾走! 特にジョニー・ウィリアムスが完全に期待に応える素晴らしさです。ジミー・キャンベルのブラシも爽快ですし、サル・サルヴァドールのギターは細かい音使いもごまかしの無い潔さで、歌心も絶妙だと思います。

A-3 My Old Flame / Quintet
 一転して有名スタンダードのスローな演奏は、サル・サルヴァドールの繊細にしてハートウォームな表現が絶品です。う~ん、これは抜群に上手いピッキングがあればこそでしょうねぇ~♪ 特に後半のアドリブからラストテーマへの繋げ方にはシビレる他はありません。
 けっこうダイナミックなジョニー・ウィリアムスも好演です。

B-1 This Can't Be Love / Quintet
 さて、B面に入るとバンドはますます絶好調! これもお馴染みのスタンダード曲を猛烈なスピードで料理した名演で、テーマのアンサンブルからして爽快感がいっぱいに広がります♪
 安定して痛快なジミー・キャンベルのブラシに乗せられるアドリブパートでは、ジョニー・ウィリアムスが躍動的にスイングしまくり、またサル・サルヴァドールは決してスケールに逃げない早弾きを完全披露! きちんと歌になっているそのフレーズ構成は圧巻です。
 そして相当にハードバップっぽいフランク・ソコロウのテナーサックスも、時間が短いのが残念なほどですが、ビシッとキメるラストテーマの合奏で全ては許されるのでした。

B-2 Too Marvelous For Words / Quintet
 これも幾分早めのテンポで演じられるスタンダード曲で、まずはフランク・ソコロウが素晴らしい歌心とグルーヴィなノリで最高! もっさりとした持ち味が逆に愛おしいほどですねぇ~♪
 するとサル・サルヴァドールが歌心満点のスマートなフレーズを巧みに繋げながらのアドリブは、これって本当にアドリブかっ!? 全く唖然とするほどの名演を披露してくれます。そして続くジョニー・ウィリアムスもウキウキするようなジャズピアノの本質を聞かせてくれるのでした。

B-3 After You've Gone / Quintet
 オーラスは、これまたスマートな白人ジャズの典型的な快演♪ 楽しいテーマメロディを最初っから巧みにフェイクしつつ、それでも軽く吹いてしまうフランク・ソコロウの上手さはニクイほどです。そしてサル・サルヴァドールの流麗にして華麗なフレーズと繊細な音色の妙は、ジャズギターの素敵なエッセンスをさらに凝縮したものでしょう。
 またジョニー・ウィリアムスの弾みまくった伴奏とメリハリの効いたアドリブソロが、流石に絶品♪ バンドの纏まりも最高ですし、一聴して、やはりジャズって楽しいもんだと実感されるんじゃないでしょうか。

ということで、一般的にイメージされる「ブルーノート」という名門レーベルの色合いからすれば、かなり浮いた作品かもしれませんが、そこはアルフレッド・ライオンが直々に出馬してのセッションですから、充実度は保証付きでしょう。

ちなみにこれは多分、サル・サルヴァドールの初リーダー盤だと思われますが、実は同時期に親分だったスタン・ケントンがプロデュースしたキャピトル盤もあって、聴き比べるのも一興でしょう。

ただしギタリストとしてのサル・サルヴァドールの本質は、常に変わっていないと思います。その流麗にして繊細なスタイルは、レス・ポールとチャーリー・クリスチャンの良いとこ取りかもしれませんし、もちろん自らのスマートな感性があってこその自己確立だと思います。

これは、例えばダイナミックなタル・ファーロゥや職人的上手さのマンデル・ロウあたりと比較することさえ不粋ではありますが、そういう問答の面白さもジャズの魅力かもしれません。サル・サルヴァドールには他にベツレヘムにもリーダー盤があって、そこではタル・ファーロゥの相方だったエディ・コスタ(p,vib) との共演作もありますから、一層に興味深いのです。

またスタジオ出身で繊細華麗なテクニシャンといえば、フュージョン期に注目されたりー・リトナーが有名ですが、なんとなくサル・サルヴァドールの再来と思ったのは私だけでしょうか? ちなみにその頃のサル・サルヴァドールは指導者的な活動をしていたそうですが、なんと1970年代末頃から現役に復帰して、ハードバップっぽいアルバムを出してくれたのは、嬉しいプレゼントでした。

私有は再発の10インチアナログ盤ですが、CD化は未確認ながら、これもギター好きには欠かせないアルバムだと思います。

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ルー・レヴィーの和みのメロディセンス

2008-11-25 11:30:04 | Jazz

Lou Levy Plays Baby Grand Jazz (Jubilee)

日頃からガサツなサイケおやじにしても、連日連夜、ハードなアルバムばかり聴いてるわけではなく、特に最近のように仁義なき戦いをやっていると、やはり和み盤に手が伸びてしまいます。

そして、そうなると当然、ピアノトリオの歌物アルバムでしょうねっ♪

本日のご紹介は、ちょっと前に我が国で復刻された紙ジャケット仕様のCDですが、ご覧のとおり、まずジャケ写がその雰囲気にどっぷりです♪ ピアノに向かっている主役のルー・レヴィーの目線が、寄り添う美女の胸の谷間にいっているのは瞭然という正直さが、このアルバムの内容の良さを現していると、サイケおやじは思います。

録音は1958年、メンバーはルー・レヴィー(p)、マックス・ベネット(b)、ガス・ジョンソン(ds) という練達の名人トリオ♪ 付属解説書によれば、ちょうどこの時期はエラ・フィッツジェラルドの歌伴をやっていたとかで、コンビネーションも全く最高です――

01 (A-1) Little Girl
02 (A-2) I'll Never Smil Again
03 (A-3) Undecided
04 (A-4) Lover Man
05 (A-5) The Gypsy
06 (A-6) A Sundy Kind Of Love
07 (B-1) I've Found A New Baby
08 (B-2) Sleepy Serenade
09 (B-3) The End Of A Love Affair
10 (B-4) Under Paris Skies
11 (B-5) Comme Cl Comme Ca
12 (B-6) You Don't Know What Love Is

――、という演目については、稚拙な筆を弄するまでもなく、すべからく「手」は同じなんですが、ルー・レヴィーの奇麗なピアノタッチと全てが「歌」のアドリブが極めて自然体♪ 気負いのないスイング感はまさに絶品です。

快適なテンポで演じられる「Undecided」の気持ちの良さ、アップテンポながら小粋なフィーリングが滲む「Little Girl」や「I've Found A New Baby」、さらにグルーヴィな「The End Of A Love Affair」には、躍動的なジャズの魂がいっぱい♪

しかしこのアルバムの魅力は、やはり「I'll Never Smil Again」や「A Sundy Kind Of Love」、「Sleepy Serenade」といった隠れ人気曲の、大人の解釈の素晴らしさでしょう。とにかく原曲メロディの歌わせかた、フェイクの上手さ、トリオがひとつの意図を大切にして、じっくりと醸し出しいてく雰囲気の良さ♪ それはお馴染みの「Under Paris Skies」での清涼としてせつない表現にも頂点として演じられています。

そして当然ながら、有名スタンダード曲の「Lover Man」や「You Don't Know What Love Is」においても、全く王道を外さない潔さ♪ 特に後者は、数多ある同曲のジャズバージョンの中でも、特に私が好きでたまらない演奏で、完全にこちらが思うとおりのフレーズと展開が終世の好みになっています。

さらに皆様がご推察のように、全ての演奏にアドリブが演じられているわけではありません。おそらくは慎重に選らばれたであろうその演目のメロディを、素直に彩りながら聞かせてくれるセンスの良さ♪ それこそが、このアルバムの魅力だと思います。

ちなみにルー・レヴィーは決してムード派のピアニストではなく、歌伴の仕事の他にもウディ・ハーマン楽団やスタン・ゲッツのバンドではレギュラーも務めたバリバリの硬派です。そこで披露されるハードにドライヴするスタイルは、自己のリーダー盤よりは助演として多くのレコーディングで楽しめますから、要注意かもしれません。

しかし現実は、そんな活動では食っていけないのがジャズ界の恐ろしさで、ルー・レヴィーほどの実力者でもカクテルラウンジやスタジオの仕事、あるいは歌伴の巡業がメインだったそうですし、当然ながら、クラブ出演の時にはリハーサルでダンサーのレッスンにも付き合うのが仕事の内だったとか!? まあ、手抜きをしないで丁寧にやれば、それなりの余禄もあったそうですから、このジャケットの雰囲気の良さも納得ですよねっ♪

ただし、それにしても、この手のオリジナルアナログLPは、盤質やジャケットが良好なブツに巡り合うのは至難です。おそらくホームパーティとかで日常的に使い回されるのが、アメリカでは当たり前の聞かれ方だったのかもしれません。実際、純粋に鑑賞用となっている、例えばブルーノートあたりの新主流派のオリジナル盤の方が、質の高いブツの入手は容易!

ですから、例え何であろうとも、こういう再発は大歓迎♪ まあ、欲を言えばジャケットが素敵ですから、LPサイズのアナログ盤復刻が望ましかったわけですが、それを言ったらバチがあたるほど、これは和みの名品だと思います。

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ルー・ドナルドソンと猫と美女

2008-11-24 11:52:29 | Soul Jazz

Midnight Creeper / Lou Donaldson (Blue Note)

美女ジャケットが多い後期ブルーノートの中でも特に有名な1枚ですよねっ、これは♪ レオタード系のセクシーな衣装、太股にいるのは黒猫ですね♪ 見開き仕様のダブルジャケットを開くと完全なお楽しみになるデザインも洒落ていますが、蝋燭も意味深というのは、あくまでもサイケおやじ的な嗜好でもあります♪

さて、内容は当時、ファンキーアルトサックスの第一人者だったルー・ドナルドソンの楽しい傑作で、データ的にはブルーノートに復帰しての大ヒット作「Alligator Bogaloo」に続くものとされますが、その密度はさらにディープで妖しいものになっています。

録音は1968年3月15日、メンバーはルー・ドナルドソン(as)、ブルー・ミッチェル(tp)、ジョージ・ベンソン(g)、ロニー・スミス(org)、レオ・モリス(ds) というワクワクしてくるバンドです――

A-1 Midnight Creeper
 アルバムタイトル曲は「Alligator Bogaloo」の完全なる二番煎じですが、さらに重心が低くなったビートがたまりません。オルガンのドヨドヨ~とした響き、粘っこくて歯切れの良いドラムス、微妙にサイケロックっぽいギターのオカズとリズムが、テーマ部分から最高の魅力となっています。
 そしてルー・ドナルドソンがオトボケのフレーズでアドリブをスタートさせれば、早くもバンドのグルーヴは最高潮! このイナタイ雰囲気の良さは筆舌に尽く難いですねぇ~♪ 絶妙のユルフンファンクとでも申しましょうか。
 すると後を引き継ぐジョージ・ベンソンが持ち味を完全披露♪ 実はこのレコーディング直前にはマイルス・デイビスとのセッションにも呼ばれていた当時の尖鋭派でありながら、俺はやっぱり、こっちだよ~ん、と自己主張しているような潔さが最高です。
 またブルー・ミッチェルの気抜けのビールようなアドリブも、この弛緩した黒っぽさの中ではかえって心地良く、ロニー・スミスのハッスルオルガンが浮いてしまうほどです。
 あぁ、これが最高っ! なんて台詞は、昭和のジャズ喫茶では禁句でしたねぇ。尤も鳴ることも、ほとんどありませんでしたが……。

A-2 Love Power
 レイ・チャールズあたりが十八番にしているカントリー&ウェスタンのR&B的解釈とあって、ここでのバンドの勢いも止まりません。レオ・モリスのドラムスがキメまくりのビートは実に気持ち良く、ロニー・スミスのオルガンが軽やかに疾走すれば、ルー・ドナルドソンは正統派ビバップをお気楽に変質させた楽しいフレーズを連発してくれます。
 そしてタイトル曲ではイマイチの調子だったブルー・ミッチェルが本領発揮♪ 全体のノリがホレス・シルバーのバンドに近くなっているのも要注意でしょうか。ジョージ・ベンソンもツッコミ鋭いアドリブで、その場をさらに熱くするのでした。

A-3 Elizabeth
 さて、これがこのアルバムの中のハイライト! と私が勝手思い込んでいる名曲にして名演です。それはズバリ、ルー・ドナルドソンが書いた妖しいラテンのキャバレーモード♪ ユル~いビートとモタレのグルーヴの中で、ルー・ドナルドソンの艶やかなアルトサックスが魅惑のメロディを歌いあげるテーマ部分だけで、気分は最高♪
 アドリブパートではジョージ・ベンソンが、これまた雰囲気を大切にしてジンワリと歌う素晴らしさですし、ロニー・スミスの思いっきりラウンジ系のオルガンも、何故か胸キュンです♪
 あぁ、素敵な美人ダンサーが目の前に現れてくるような♪♪~♪

B-1 Bag Of Jewels
 ロニー・スミスが書いた、ちょっとモードが入ったブルースということで、まずは作者本人が手本を示したような硬派なソウルを披露♪ レオ・モリスとジョージ・ベンソンが作りだすグルーヴにもハードな雰囲気が滲ます。
 ブルー・ミッチェルの神妙なアドリブは、些か???な気分も漂いますが、リズム隊の重いビート感がそれを十分に補っていますから、結果オーライでしょうか。
 そしてジョージ・ベンソンが正統派としての実力を見事に発揮しています。そのスタイルは、この時点では相当に新しかったのじゃないでしょうか。今でも古びていないのですからっ!
 肝心のルー・ドナルドソンは適度な力み、自然体の背伸びが全くベテランの味わいで、好感が持てます。こういう、ほどよく尖鋭的なところも本人の持ち味のひとつなんでしょうねぇ~。あまり評価はされていないのが不思議なほどです。

B-2 Dapper Dan
 オーラスは粘っこいシャッフルビートで演じられるソウルフルなハードバップです。
 もちろんこういう雰囲気なら、俺に任せろ! というメンツばかりが集合していますから、まずはブルー・ミッチェルが得意の分かり易いフレーズでムードを設定すれば、ルー・ドナルドソンは居眠り運転のような誘惑のユルフンファンク♪
 しかしジョージ・ベンソンがブルースロックっぽいギターで刺激してくれますから、ハッと気がつく赤信号という感じでしょうか。それを引き継ぐロニー・スミスが、これまたブルースロックのオルガンですからねぇ~~♪ これって本当にモダンジャズ?
 はい、これぞ、モダンジャズだと思いますねぇ~。ジャズ喫茶じゃ、本当に気持ち良い居眠りモードへ突入してしまうでしょう。

ということで、弛緩したグルーヴが許せないというのならば、これは失格盤かもしれません。しかしこの重心の低いビートでユルユルな演奏こそが、新しいソウルグルーヴじゃないでしょうか?

スピーカーに対峙するよりも、所謂「ながら聞き」には最適というのは苦しい言い訳かもしれませんが、そうしていても自然に腰が浮いてきますし、ジャズ喫茶ならば思わず飾ってあるジャケットを確認してしまうかもしれません。

ちなみに冒頭で述べたとおり、このアルバムジャケットは見開き仕様で眺めるとさらに素敵なデザイン♪ ぜひともご確認下さいませ。絶対、現物が欲しくなるはずです。

そうした魅力も含めて、このアルバムは私の大切な偏愛盤のひとつですが、CD化はされているんでしょうか? 車の中でもイケるような気がしています。

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欧州ジャズの素敵なトリオ・コンセプション

2008-11-23 12:30:54 | Jazz

Trio Conception Recorded “Live” At Blue Note Berln (Philips)

今では普通に聴けるようになったヨーロッパ産のジャズアルバムも、1980年代までは活字による紹介、そして廃盤店の壁にミステリアスなプライスで飾られるという状況でした。

そしてバブル期の頃からは欧州盤ブームと連動した企画により、各レコード会社は本格的な復刻に力を入れ始めるのですが、そうした火付け役となった名作のひとつが、本日の1枚です。

ジャケ写からもご推察のように、これはピアノトリオによるライブ盤で、録音は1963年12月16&17日、当時の西ベルリンにあった「ブルーノート」という店でのセッションが収められています。

メンバーはヤン・ハイツ(p)、ピーター・トランク(b)、ジョー・ネイ(ds) という、我が国では一般的な紹介もされていなかった面々ですが、あえてヤン・ハイツ・トリオではなく、「トリオ・コンセプション」というバンド形態が存在するようなアルバムタイトルは、ジャズ者への味わい深い「くすぐり」でしょう。実際はジャケットに「The Jan Huydts / Peter Trunk / Joe Nay Trio」とクレジットされているわけですが、ピーター・トランクとジョー・ネイは店の専属リズム隊であり、ヤン・ハイツはオランダをメインに活動していた当時注目の新鋭! そしてこの時は単身ベルリンにやって来て「ブルーノート」に出演し、このトリオを組んでレコーディングに臨んだというわけです――

A-1 Autumn Leaves
 ご存じ、モダンジャズではマイルス・デイビス(tp) の十八番であり、ピアノトリオではビル・エバンスやウイントン・ケリーの決定的な名演が残されて以降、星の数ほどジャズバージョンが誕生しているわけですから、安易な選曲とはいえ、ユルフンな演奏は許されません。
 このトリオにしても、それは重々承知だったんでしょう、なんとイントロでは、あのモードの名曲「Milestones」みたいなアレンジを使っているところから期待が高まります。
 そしてジョー・ネイのヘヴィなブラシ、ピーター・トランクのジコチュウなベースが上手く絡みあって、ヤン・ハイツは自在なメロディフェイクとツボを押さえたアドリブで空間を浮遊していくのです。
 全体の快適なスイング感は言わずもがな、極限すればウイントン・ケリーとビル・エバンスの中間のようなピアノスタイルが、実にこの曲にはジャストミート♪ 完全なる確信犯でしょうねぇ~~♪ 本当に気持ちが良いほどの狙いがズバリ!
 もちろん中盤からはジョー・ネイのハードなドラミングに煽られて、演奏はグイノリのハードバップと化していきます。

A-2 In A Mellow Tone
 デューク・エリントンがジャズの真相をシンプルなメロディに託した名曲を、ここではベースのピーター・トランクが主役となって、なかなかディープな解釈で聞かせてくれます。
 もちろん相棒のジョー・ネイも、どっしり構えてシャープなスティックが潔いですから、ヤン・ハイツも軽妙なスイング感で彩を添えます。
 そしてピーター・トランクが秀逸なペースソロを披露すれば、これが当時最新のモダンジャズ! 西ベルリンからの発信は意味深かもしれませんが、これが我が国ならば、市川秀男がピアニスト時代のジョージ大塚トリオでしょうか。

A-3 When Lights Are Law
 これもジャズでは有名曲ながら、このトリオは最初っから欧州色というか、なかなか幻想的なアレンジを用いて自由な演奏を心がけているようです。まさにタイトルどおり、「トリオのコンセプション」が全開♪
 そしてスローで力強いビートに支えられ、ジワジワと本領の歌心優先主義を表出させていくヤン・ハイツの実力は流石だと思います。はっきりとテーマメロディが浮かび上がる瞬間の気持ち良さ、それに続く和みのスイングは絶妙としか言えません。
 また最後まで安易に妥協しないピーター・トランクのペースワークも頑固で好感が持てます。エンディングの律儀なアレンジも微笑ましいですよ♪

A-4 Tune
 これは勢い満点の短いトラックで、つまりはバンドテーマでしょうね。LP時代ならではのお楽しみでしょうか♪

B-1 I Could Write A Book
 これまた軽妙なスイング感が楽しいスタンダードの歌物曲で、マイルス・デイビスのクインテットバージョンがあまりにも有名ですが、ピアノトリオならばジーン・ハリスのスリー・サウンズが決定版!
 ですからここでのヤン・ハイツは、またまた確信犯を演じてウイントン・ケリーをやってしまうのですが、そこには如何にもというヨーロッパの味わいが滲みますから憎めません。
 しかもピーター・トランクとジョー・ネイという重量級のコンビが頑固な自己主張に徹した強靭な4ビート! 煽られたヤン・ハイツがゴスペルっぽいグルーヴに変質していく瞬間まで楽しめます。
 そして秀逸なピーター・トランクのペースソロに他の2人が絡みつつ、快適なハードバップを作り出す展開は、ピアノトリオの美味しいエッセンスだと思います。

B-2 Softly, As In A Morning Sunrise
 ピーター・トランクのペースソロによるネクラな独白がヘヴィな4ビートに変化し、このグッと重心の低いグルーヴは、例えばソニー・クラークのトリオパージョンに近い感じですが、ピーター・トランクの執拗な絡みつきが、如何にも1963年という雰囲気を醸し出しています。
 ヤン・ハイツのピアノにも必要以上の黒い感覚はなく、既に述べたようにビル・エバンスっぽい味わいが上手いところでしょう。まあ、これは結果論かもしれません。けっこうウイントン・ケリーの路線を狙っている気もしますから♪
 その意味で個人的には、やや盛り上がりに欠ける雰囲気が悔しいところです。

B-3 Tune
 これもアナログ盤ならでは趣向というラスト宣言!

ということで、どうもヨーロッパのピアノ物というと、なにかしら幻想的とかフリー感覚が先入観としてありますが、これはストレートに楽しめる名演集です。既に述べたように、マイルス・デイビスのバンドに在籍していた頃のウイントン・ケリーやビル・エバンスというスタイルが心地良く、トリオ3者のインタープレイも厭味の無い充実度!

ですから欧州盤プームを牽引したのもムベなるかな、某有名コレクターが主催した観賞会で初めて聴かせていただいた日から、私の心を捕らえて離さない幻の名盤となり、ついに15年ほど前に我が国でLPが復刻された時には速攻でゲットしています。

ちなみにその付属解説書によれば、なんとこのアルバムは1964年にも日本盤が出ていたとか! おそらく当時はかなり進歩的な作品として新鮮な衝撃を与えたと思われますが、それは今も全く古びていないと思います。録音のバランスも秀逸♪

もちろんCDでも復刻されているはずですから、選曲も良いですし、ピアノトリオ好きの皆様にはイチオシの名盤だと確信しております。

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ジョー・ワイルダーとハンク・ジョーンズ

2008-11-22 11:48:59 | Jazz

Wilder 'N Wilder / Joe Wilder (Savoy)

聴いてみたいのに、なかなか手が出せないアルバムは、どなたにもあろうかと思います。私にとってのそうしたひとつが、これでした。

主役のジョー・ワイルダーが黒人のトランペッターというのはジャケ写でわかりますし、カウント・ベイシーやペニー・グッドマンの楽団アルバムにもクレジットがあったり、またスタジオの仕事として歌伴オーケストラの一員となっていたりして、地味ながらレコーディングも相当多い人なんでしょうが、わざわざリーダー盤が出るほどなんですから、どんなに凄い名手なのか!?

そういう思いを持ち続けていながら、実はジャズ喫茶でリクエストしても置いていない店が1970年代前半までは当然という雰囲気でした。

う~ん、なんかスイング派の人なのか!?

しかし国内盤も出ているしなぁ……。

そして時が流れました。ちょうどその頃、我が国ではグレート・ジャズ・トリオなんていう冠ピアノトリオがジャズ喫茶を媒体にしてブームとなり、そのピアニストだったハンク・ジョーンズという、どちらかといえば地味なベテランの名人が一躍、派手な人気を獲得したのですが、そこであらためて過去の名演が再評価され、突如として浮かび上がった中の1枚が、このアルバムでした。

録音は1956年1月19日、メンバーはジョー・ワイルダー(tp)、ハンク・ジョーンズ(p)、ウェンデル・マーシャル(b)、ケニー・クラーク(ds) というワンホーン編成です――

A-1 Cherokee
 モダンジャズ創成のカギとなったスタンダード曲で、チャーリー・パーカーの十八番でもあり、またトランペットが主役の演奏としてはクリフォード・ブラウンの決定的な名演が残されていますから、この演目がド頭というのには期待と不安が並立していました。
 ところがここでの演奏は、クリフォード・ブラウンのバージョンとは異なり、あの魅惑のインディアンリズムが出てこず、極めて正統派の快適4ビート♪ しかも趣味の良いハンク・ジョーンズのイントロからジョー・ワイルダーが原曲メロディを断片的にしか出さない見事なフェイクで、つまり初っ端からアドリブを演じるという禁断の裏ワザです! しかもこれが歌心の塊なんですねぇ~~~♪
 伴奏のリズム隊も気持ち良すぎるソフトスイングの極致ですから、ハンク・ジョーンズのアドリブも冴えまくり♪ 優雅なピアノタッチ、全てが「歌」というアドリブフレーズの見事さ、ビートのメロウな黒っぽさ♪ まさしく桃源郷です。
 演奏はこの後、トランペット対ドラムス、ピアノ対ベースというソロチェンジがたっぷりと演じられ、ケニー・クラークのブラシの妙技とウェンデル・マーシャルの隠れた実力が披歴されるのです。決して手に汗という興奮度ではありませんが、実はジャズのリアルなスリルが存分に味わえます。
 全体で10分を超える演奏ですが、全く飽きることがなく、ジャズはアドリブという悪魔の所業にシビレるだけです。

A-2 Prelude To A Kiss
 デューク・エリントンが書いたお馴染みのスタンダード曲ということで、このメンバーならではのジェントルな雰囲気が横溢した、これも名演だと思います。特にジョー・ワルイダーの歌いまわしも絶妙ながら、やはりハンク・ジョーンズの優雅なスタイルは最高♪
 やはりジャズには歌心が大切という見本のような仕上がりです。

A-3 My Heart Stood Still
 これも有名スタンダード曲の楽しい演奏で、力強いリズム隊のハードバップグルーヴに歌心優先のフレーズで対抗するジョー・ワイルダーという構図ですが、やはりハンク・ジョーンズが素晴らしすぎます!
 そしてアドリブパートでは、この2人の対決が軸となって、まさに「歌心」の応酬となりますが、ブラシを主体にケニー・クラークも名手の証が嬉しいところでもあります。

B-1 Six Bit Blues
 タイトルどおり、粘っこいブルースで、もちろんここでもハンク・ジョーンズが導入部から、言わずもがなの名演です。あぁ、なんて良い雰囲気なんでしょう♪
 ですからジョー・ワイルダーのダーティな音使いも憎めません。
 う~ん、しかしハンク・ジョーンズは最高♪

B-2 Mad About The Boy
 幾分地味なスタンダード曲ですが、ジョー・ワイルダーは原曲のキモであるせつないメロディを、これ以上ない表現力でジンワリと吹いてくれます。もちろんハンク・ジョーンズの絶妙のサポートとアドリブも言うことなし!
 こんな素敵なバラード演奏は他人には教えたくないのですが、そこはやっぱり……、ですよ♪

B-3 Darn That Dream
 オーラスもシンミリ系の歌物パラード演奏ながら、力強いビート感と歌心がバンド全体を支配した名演になっています。
 これは原曲の強いムードゆえのことだと思うのですが、それを変にカッコつけずに素直に演じていくメンバー各々の懐の深さは流石ですねっ♪

ということで、冒頭で述べたとおり、とにかくハンク・ジョーンズが驚異的な素晴らしさ! まあ、本人の実力からしたら、こんなの普通なんでしょうが、それにしても歌心満点のアドリブとジェントルなピアノタッチには完全降伏させられます。

もちろん伴奏やインタープレイの妙技も冴えわたりですから、数多残されたハンク・ジョーンズの名演の中でも決して聞き逃せないセッションでしょう。というよりも、こんな凄い演奏は埋もれさせては勿体ないと思うほどです。

肝心のジョー・ワイルダーも流麗なフレーズと歌心が流石の名人で、その中間派でもハードバップでもないスタイルは、モダンジャズそのものでしょうねっ♪ 

また日頃は地味な印象しかないベースのウェンデル・マーシャルも実力を完全披露していますし、ケニー・クラークの快適なドラミングもセッション成功に大きな働きだと思います。

名盤ガイド本には掲載されていないかもしれませんが、目からウロコの1枚として、ぜひとも聴いてみてくださいませ。

申し訳なくも、ハンク・ジョーンズ、最高♪♪~♪

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コルトレーンの過激に貫け!

2008-11-21 14:01:53 | Jazz

John Coltrane Live At The Village Vanguard (Impules!)

ジョン・コルトレーンが一番過激だったのは何時頃でしょう?

一般的には集団でドシャメシャをやった「Ascension (Impulse!)」、あるいはバンド演奏の極北を演じた「Transition (Impulse!)」や「Sun Ship (Impulse!)」あたりでしょうか? それとも新しい地平に挑んだ「Giant Steps (Atlantic)」……?

と、まあ様々な作品が浮かんでくるわけですが、私はエリック・ドルフィーと組んでいた1961年後半の演奏に一番の凄味を感じています。

そしてその最初の公式記録が本日の1枚で、タイトルどおりに今では聖地となったニューヨークのクラブ「ヴィレッジ・ヴァンガード」でのライブ盤! 自分のバンドを結成し、信じる道を邁進していたジョン・コルトレーンのさらなる挑戦が厳しい姿勢で残された傑作です! と断言する他はありません。

メンバーはジョン・コルトレーン(ts,ss)、マッコイ・タイナー(p)、レジー・ワークマン(b)、エルビン・ジョーンズ(ds)、そしてエリック・ドルフィー(as,bcl) とされていますが、実は後に明らかにされた、その驚くべき全貌によれば、録音は1961年11月1~5日に行われ、参加メンバーも多彩に入り乱れていたのです。それは追々、別の機会に譲りますが、このアルバムはその音源から抜粋された3曲のみで構成され、ジミー・ギャリソン(b) も参加しています――

A-1 Spiritual (1961年11月3日録音)
 タイトルどおり、厳かな雰囲気に充ち溢れたジョン・コルトレーンのオリジナル曲ですが、ここでの演奏は低音域で蠢くエリック・ドルフィーのバスクラリネット、そしてドロロロロロォ~~と下地を作るエルビン・ジョーンズのドラムスがオドロのムードを醸し出すテーマ部分で、気分は高揚します。もう、ほとんどここだけで、演奏全体が決まってしまった感まであるんですねぇ~♪
 もちろんコルトレーンの真摯な吹奏も素晴らしく、テーマメロディをこれ以上ないほどディープに変奏していく前半のテナーサックスの響きは、以降の演奏からすれば地味なほどですが、ひとつひとつの音を大切にして自己の熱い心情を吐露していくジンワリした表現は圧巻だと思います。
 またそれをサポートするレジー・ワークマンの重厚にして挑戦的なペースワークも侮れず、エルビン・ジョンーズのポリリズムも冴えまくり♪
 ですからエリック・ドルフィーは、それとは対極的なエキセントリックでネクラなアドリブに終始して、特に最初のフレーズは衝撃的ですから、続くマッコイ・タイナーも十八番の饒舌な暗さが全開♪
 当然ながら、このアルバムはジャズ喫茶の定番になっていますが、この演奏のダークな情熱は暗い「昭和のジャズ喫茶」にはジャストミートですし、もうひとつ、あくまでも個人的な想いですが、1960年代中頃からのドラッグ系サイケロックの味わいまでも含んでいると感じます。というか、例えばサンフランシスコで活動していた多くのサイケロックバンドは、相当にジョン・コルトレーンの演奏を好んでいたそうですから、さもありなんですね。
 演奏は後半に入ってジョン・コルトレーンがソプラノサックスに持ち替え、短いアドリブを演じた後には、再び重厚なテーマアンサンブルで盛り上がります。あぁ、やっぱり私はシビレが止まらないのでした。 

A-2 Softly As In A Morning Sunrise (1961年11月2日録音)
 マッコイ・タイナーのスイングしまくったピアノからスタートするスタンダード曲の演奏で、これも名演の中の大名演だと思います。エルビン・ジョーンズの粘っこいブラシもたまりませんし、レジー・ワークマンの地鳴りのようなベースも基本に忠実ですから、マッコイ・タイナーも音符過多なスタイルの中に歌心も満点♪
 そしていよいよ登場するジョン・コルトレーンはソプラノサックスで強烈なアドリブの乱れ打ち! エルビン・ジョーンズもスティックに持ち替えて煽りも一層に苛烈となり、バンドとしての一体感も申し分ありません。
 暴虐の中から浮かんでは霧散していく歌心は、特にジョン・コルトレーンの持ち味のひとつですが、それが最良のパターンとしてラストテーマの吹奏は最高に好きです。テーマメロディがサビのところでハラホレヒラヒラと裏返っていく瞬間には、歓喜悶絶しかありませんねっ♪
 ちなみにエリック・ドルフィーは登場しませんが、結果オーライだと思います。

B-1 Chasin' The Trane (1961年11月2日録音)
 さてこれが、問題と言うか、熾烈なブルースのコルトレーン的解釈は極北! マッコイ・タイナーは参加しておらず、ベースもジミー・ギャリソンに交替していると後年のデータでは明らかになっていますが、そんな事は関係ないほどにジョン・コルトレーンはどこまでも暴走していきます。
 一説によると、この時のライブレコーディングには担当のヴァン・ゲルダーがステージ前のテーブルに機材を設置し、激しいアクションで吹きまくるジョン・コルトレーンのテナーサックスをスタンドマイクを竿のように腕で持ちながら追いかけたというほどですから、その勢いと熱気は完全降伏して当然でしょうねっ!
 エルビン・ジョーンズも必死のドラミングですし、ジミー・ギャリソンの余裕の無さが逆に熱いものに変化して、まさにジャズが最良の時代を追体験出来ると思います。
 しかしリアルタイムの現実は、これほど凄いジョン・コルトレーンのバンドに対して辛辣な評価が多く、レコードは売れないし、クラブ主体の巡業にしても一部のスノッブなファンにしかウケないという状況だったようです。つまり明らかに浮いていたんですねぇ……。まあ、今となっては時代に先んじていたのですが。
 それでもジョン・コルトレーンは常に前向きで、このライブレコーディングも最初の企画では一晩だけの予定だったものが、セッションの前に様々な新趣向を持ち込むジョン・コルトレーンの情熱に感銘を受けたプロデューサーのボブ・シールは、ついに連続しての録音に踏み切ったと言われています。
 ただし後に公となった音源は、明らかに当時としては斬新過ぎたようで、まずはこのアルバムの3曲だけが世に出たのです。
 そのあたりの事情は、コンプリートの音源集で尚更にはっきりしますが、このアルバムにしても、何時までも古びない新鮮な演奏ばっかりですし、エリック・ドルフィーという、やはり当時の過激分子を加えてのバンドは熱すぎて危ない雰囲気が濃厚すぎます。
 もちろん前述した後年の作品群も激烈ですが、それは時代が許していたところが無きにしもあらずかと思います。まあ「Giant Steps」に関しては別格でしょうが、それだってこの時期への助走という意味合いが強いのではないでしょうか。
 ちなみにエリック・ドルフィーは、この演奏ではラストテーマの最後の最後に、一瞬だけ絡みに出るだけというのも味わい深いと思います。

ということで、既に述べたように残り音源を聴いてしまうと、このアルバムは無難な演奏しか収められていないような気も致しますが、それは錯覚でしょうねぇ。当時としたら、こんな危険極まりない、ある意味では醜悪とまで貶された作品だったとか……。

ですから以降のジョン・コルトレーンは歌物バラード集を出したり、ステージでも激しい演奏から和みのスタンダード曲を予定調和っぽくやるしかない状況になるのです。

しかしその限られた中に燃え上がる意欲と熱血は確かに存在し、例えばこのアルバムと同じセッションからは「Impressions (Impulse!)」と「The Other Village Vanguard Tapes (Impulse!)」いうアナログ盤のLPが、後年に発売されました。

それは時代が追いついたというよりも、ジョン・コルトレーンの信念と行動が時代を作ったというのは今更、確認する必要も無いと思います。

やっぱりジョン・コルトレーンの過激な部分も、私は好きです。

コメント (2)
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