OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

素敵なジャズテット、CDで帰る

2009-03-19 14:27:31 | Jazz

Big City Sounds / The Jazztet (Argo)


皆様はレコードを割ってしまったことが御有りですか?

なんてお尋ねするまでもなく、レコードは必ず割れてしまうものですよね。私にとっては、そういう悔恨の1枚が本日ご紹介のアルバムです。

内容はアート・ファーマーとベニー・ゴルソンが運営していたジャズテットの人気盤ですから、私も愛聴することが度々ながら、そんなある日、うっかりと手を離れて空中に浮遊したアナログ盤が垂直落下! 見事にフチが欠けてしまいました……。

う~ん、こうも見事に割れるもんですかねぇ……。と、思わず呆れるほどですよ。

しかし捨てる神あればなんとやらで、丁度その頃、我が国では紙ジャケ仕様の復刻CDが出たので、速攻入手という顛末があります。

実は結果論ではありますが、このアルバムの録音はアーゴ特有のゴリゴリした雰囲気よりは、鋭さとソフトなフィーリングが上手く融合した微妙な感じでしたから、例えばベースの音が極端に細いという、なんだか納得し難いものでした。

それがCDでは、どのようにリマスターされているのか、興味深々! いや、これは決して負け惜しみではなく、アナログ盤に事故が無くとも、個人的には偏愛盤ですから、いずれはCDをゲットしていたはずなのです。そして……

録音は1960年9月16&19~20日、メンバーはアート・ファーマー(tp)、トム・マッキントッシュ(tb)、ベニー・ゴルソン(ts)、シダー・ウォルトン(p)、トミー・ウィリアムス(b)、アルバート・ヒース(ds) という名手揃い♪♪~♪ ちなみにジャズテット名義としては4作目になると思います。

A-1 The Cool One
 タイトルどおりにクールなフィーリングがそのまんまというベニー・ゴルソンのオリジナル曲で、その真相はジャズテット結成時のヒット曲「killer Joe」の焼き直しでもあり、またジャズメッセンジャーズで名演を残した「Along Came Betty」の味わいも深い魅力です。
 ニヒルなムードがカッコ良いテーマアンサンブルは、ビシッとしたリズムアレンジとアート・ファーマーのミュート、さらに如何にもベニー・ゴルソンというハーモニーに加え、作者のモゴモゴしたテナーサックのアドリブが新感覚のファンキーど真ん中♪♪~♪
 続くアート・ファーマーとシダー・ウォルトンのアドリブも、短いスペースの中にきっちりとツボを押さえているようです。
 で、気になるCDリマスターの状態は、ステレオミックスで各楽器の分離も良好ですし、低音域が上手く補正されていますので、アナログ盤では本来の生音が小さいのでしょうか、細身だったトミー・ウィリアムスのペースも全面に出ていると感じます。
 演奏そのものは3分ほどですから、フェードアウトで終わってしまうのが残念ですが、それなりに密度の濃い仕上がりになっていますよ。

A-2 Blues On Down
 グルーヴィなムードが横溢したベニー・ゴルソンのオリジナルというファンキー曲ですから、じっくりと4ビートを醸し出していくリズム隊とフロント陣のアドリブが、ハードバップの王道路線!
 ソフト&クールなアート・ファーマー、ブリブリにサブトーンを鳴らすベニー・ゴルソン、冷静さを装うトム・マッキントッシュと続くアドリブの流れは、当たり前の素晴らしさに満ちています。
 しかしトミー・ウィリアムスのベースソロからは、静かな熱気が広がって行くんですねぇ~♪ そしていよいよ登場するシダー・ウォルトンが小気味良いスイング感と絶妙のゴスペルムードで絶品のアドリブ! そこに絡んでくるホーンのリフも、ハッとするほど良い感じですよ。
 さらにラストテーマのアンサンブルに至っては、シビレが止まらないです。これがハード、というよりもソフトパップの真髄かもしれません。

A-3 Hi-Fly
 そのシダー・ウォルトンが会心の名演を披露するのが、このランディ・ウェストンのオリジナル有名曲です。
 独特の哀愁が滲むテーマメロディとマーチビートを活かした力強いアンサンブルも秀逸ですが、完全に主役を任されたシダー・ウォルトンが、キャリア初期を代表する決定的な快演アドリブを聞かせてくれますよ♪♪~♪
 サポートするベースとドラムスのコンビネーションも溌剌として力強く、特にトミー・ウィリアムスは小技が得意なタイプだと思いますから、シダー・ウォルトンの相棒としては最適でしょうねぇ。ここでも地味ながら素晴らしいペースを響かせています。
 ちなみに「響かせて」と書いたのは、紙ジャケット仕様で復刻されたCDに限ってのことで、アナログ盤では残念ながら、そこまではいきません……。ただし全体の纏まりと雰囲気の良さは、アナログ盤ならではの「音」がありますから、決して侮れないのです。

A-4 My Funny Valentine
 ジャズでは定番の有名スタンダード曲を、ここではアート・ファーマーが最高の歌心で、決定的なバージョンに仕上げています。もちろん同じトランペッターとしてはマイルス・デイビスの歴史的な名演もありますから、安易な云々はお叱りを頂戴するわけですが、個人的にはこの演奏が好きでたまらないのです。
 シンミリとほどよいアンサンブルに彩られたアート・ファーマーのメロディフェイクの上手さは筆舌に尽くし難く、さらに全てが「歌」というアドリブの輝きは永遠に不滅だと信じます。
 あぁ、このハートウォームで素直な表現♪♪~♪ 何度聴いても感動しますねぇ~♪ 本当にたまらんですよ♪♪~♪

B-1 Wonder Why
 素敵な泣きのメロディが所謂シブイというスタンダードの隠れ名曲ですが、一聴して、これほどジャズテットに最適の旋律もないでしょう。とにかく穏やかなムードでテーマをリードしていくアート・ファーマーの名人芸と寄り添うベニー・ゴルソンの雰囲気の良さ♪♪~♪ これぞっ、ゴルソンハーモニーの秘密とジャズテットの魅力を認識させられます。
 ミディアムテンポで力強いビートを打ち出してくるリズム隊も素晴らしいサポートですから、ベニー・ゴルソンからアート・ファーマーと続くアドリブパートも、「歌」と「ジャズ魂」の完全融合! 特にアート・ファーマーは、どうしたらこんなフレーズが即興で吹けるのか!? 答えの出ない疑問にシビレるのがサイケおやじです。
 また小粋なタッチも嬉しいシダー・ウォルトン、繊細なペースワークのトミー・ウィリアムスも良いですねぇ~♪
 そしてさらにシビレるのが、ラストテーマへの橋渡しをするソフトファンキーなホーンのリフ、それをビシッと後押しするリズム隊の潔さ! あぁ、最高としか言えませんよっ♪♪~♪

B-2 Con Alma
 ディジー・ガレスピー(tp) やレイ・ブライアント(p) の定番演目というラテン系ビート&メロディがニクイ、これもまた人気曲♪♪~♪ そこへ如何にものアレンジを施し、ジャズテットならではの演奏に仕立てたあたりは、些かの欺瞞も感じられるのですが……。
 しかし、それにしてもゴルソンハーモニーの魅力は絶大ですねぇ。アドリブパートとバンドアンサンブルが同等の比重で表出した快演だと思います。

B-3 Lament
 ジャズ史に残る名人トロンボーン奏者だった J.J.ジョンソンの代表作ですから、同じ楽器プレイヤーであるトム・マッキントッシュに全てを委ねるには、あまりにも意地悪な趣向なんですが……。
 そこはちょっと面白いアレンジで、じっくりとした演奏を聞かせるジャズテットの面目躍如♪♪~♪ シンミリと胸に染み入るメロディを真摯に吹奏するトム・マッキントッシュも、重責を全うするべく、非常に丁寧なトロンボーンを聞かせてくれます。
 まあ、このあたりは物足りないのも確かなんですが、この生真面目なムードはやっぱりモダンジャズ全盛期の証かもしれませんねぇ。個人的には感度良好です。

B-4 Bean Bag
 一転してアップテンポでブッ飛ばしたハードバップど真ん中の演奏で、ちょいとホレス・シルバー調なのが面白いところかもしれません。
 しかし演奏そのものはアドリブ主体の熱いもので、ファーマー&ゴルソンの名コンビが激しく対峙すれば、続くシダー・ウォルトンも負けじと大ハッスル! その全力疾走のアドリブに被ってくるゴルソンハーモニーのジャズ的な興奮度も素晴らしく、さらにアルバート・ヒースのドラムソロがハードバップを極めんと奮闘するのでした。

B-5 Five Spot After Dark
 アルバムの締め括りは、もはや説明不要というベニー・ゴルソンの超有名オリジナル曲ですが、ここではカーティス・フラー(tb) を主役に据えたヒットバージョンよりも、遥かにテンポアップしているのが賛否両論でしょうか。
 あの魅力的なテーマメロディが威勢良く演奏されるのは、確かに違和感を否定出来ません。
 しかしアート・ファーマーのアドリブは見事の一言に尽きますし、ベニー・ゴルソンの踏ん張りも流石だと思います。
 またリズム隊の厳しく、タイトなビート感も素晴らしいですねぇ。
 まあ、このあたりは十人十色の好き嫌いでしょうが、個人的には……。

ということで、実にスッキリとしたモダンジャズが楽しめます。そうしたスマートでソフトな感覚というのが、ジャズテットの魅力だと思うんですよ。しかし決して黒人的なビートは蔑ろにしていないはずで、それはリズム隊の充実でも明らかです。

ジャズは曲か?、それともアドリブか? なんて論争は昔っから続いていますが、ジャズテットこそは、その論争にケリをつけるバンドだったのかもしれません。全体をコンパクトに纏めた演奏密度の濃さと曲そのもののメロディの良さ、それを活かしたアレンジの妙という、なかなか出来そうで出来ない実績があったと思われます。

まあ、そういう分かり易さがジャズは悩んで聴くという風潮の我が国ジャズ喫茶には馴染まず、また硬派なジャズ者からも軽視されがちだったバンドですが、今ではモダンジャズ愛好者には必要十分条件でしょう。

このアルバムあたりからジャズテットの魅力に惹きこまれるのも、良いですね。アメリカプレスのアナログ盤も、そんなに入手は難しくないはずですが、紙ジャケット仕様のCDも相当にイケると思います。

コメント
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