■My Labors / Nick Gravenites (Columbia / Sony = CD)
ブルースロックはイギリス人の発明かもしれませんが、どっこい、アメリカにだって本物の黒人ブルースに深く帰依し、少しでも迫ろうとしていた白人ミュージシャンが大勢存在しています。
そして結果的にブルースロックというジャンルを生み出したのは、決して偶然では無いと思います。
サイケデリックロックやニューロックと称された1960年代中頃からのブームに、そのブルースロックが保守本流として流れているのは無視出来ず、しかもそれらを聴き進めていく中で頻繁に登場するのがニック・グレイヴナイツという、ちょいとスターとは思えない人物でした。
というのも、ルックスは冴えないし、シングルヒットも無く、さらにソングライターなんだか、歌手なんだか、当時はシンガーソングライターなんていう便利な言葉がありませんでしたから、如何にも中途半端なイメージが強かったと思います。
ところがその実績は強烈で、まずポール・バターフィールドやジャニス・ジョンプリン等々への曲提供! マイク・ブルームフィールドと組んだエリクトリック・フラッグや様々なライプセッション活動! サンフランシスコを代表するサイケデリックバンドだったクイックシルバー・メッセンジャー・サービスのプロデュース等々、まさに当時のアメリカで胎動していた新しいロックの形態を実践していたのです。
さて、本日ご紹介の1枚は、そんなニック・グレイヴナイツが1969年に出した傑作リーダーアルバムで、もちろん本人のボーカルと曲作りは味わい深いのですが、本当のお目当は全盛期だったマイク・ブルームフィールドの素晴らしいギターが存分に楽しめること♪♪~♪
もうこれは筆舌に尽くし難く、高校生だったサイケおやじは先輩から譲り受けたLPを今日まで死ぬほど愛聴してきたんですが、なんと驚いたことに我国で復刻された紙ジャケット仕様のCDには、2曲のライヴ音源がボーナストラックで入っていたのです。しかもマイク・ブルームフィールドがっ!!!
01 Killing My Love (A-1)
02 Gypsy Good Time (A-2)
03 Holy Moel (A-3)
04 Moon Tune (A-4)
05 My Labors (B-1)
06 Throw Your Gog A Bone (B-2)
07 As Good As You've Been To This World (B-3)
08 Wintry Country Side (B-4)
まず、ここまでがオリジナルLPに収録された歌と演奏で、それはズバリ、ブルースとソウルに彩られたニューロック♪♪~♪ しかも基本はライプレコーディングで、それをスタジオ加工したような仕上がりゆえに、なかなか自然発生的なブルースフィーリングが楽しめますよ。
まずは初っ端の「Killing My Love」がファンキーソウルな味付けも嬉しいヘヴィロックならば、「Gypsy Good Time」は丸っきり全盛期のB.B.キングがやってくれそうな正統派アーバンブルース♪♪~♪ どちらもマイク・ブルームフィールドのギターが泣きじゃく、歌いまくっていますが、特に後者は本人にとっても代表的な名演になるんじゃないでしょうか。これほど情感豊かなブルースギターって、ちょっとありませんよ。もう左右の手と指のコンビネーションは憎たらしいほどですし、ピックの当て方で弦の振動そのものを加減し、強弱をつけているであろう奏法は、コピー不可能の世界でしょうねぇ。
とにかく「Gypsy Good Time」を聴けただけで、このアルバムに巡り合ったことを神様に感謝! ほどよいラテンビートのグルーヴはアルバート・キングの「Crosscut Saw」的でもありますね♪♪~♪
そして期待のスローブルースでは「Wintry Country Side」が、なんと13分を超す圧巻の演奏で、シミジミとしたピアノソロをイントロにジワジワと盛り上がっていく展開には、本当に身も心も揺さぶられてしまいます。とにかくマイク・ブルームフィールドのギターが絶妙の思わせぶりから血の涙が滲むような苦闘の心情吐露! ボーカルに呼応した絡みのフレーズも、その持ち前の天才性を存分に発揮していると思います。
ちなみに演奏メンバーには他にマーク・ナフタリン(p,org)、ジョン・カーン(b)、ボブ・ジョーンズ(ds) 等々、ニック・グレイヴナイツ所縁の面々が参加していますが、ホーンアレンジも含めた各曲の纏め方は、やっぱりリーダーの手腕でしょうねぇ~♪ 収録トラックの全てが自らのオリジナルという強みもありますが、ブルースやR&Bの狭義に拘らない姿勢も潔いと思います。
そのあたりの面白さがシカゴソウル風の「Holy Moel」、ちょっとBS&Tを想起させられる「Moon Tune」、スワンプ~レイドバックを先取りしたような「My Labors」に強く感じられ、う~ん、これってアル・クーパー!? とさえ思う瞬間が絶対にありますよ。
結局、マイク・ブルームフィールドもアル・クーパーも、ニック・グレイヴナイツと一蓮托生のサークルということなんでしょうかねぇ。サイケおやじにとっては、もちろん嬉しいわけですが、つまりはニック・グレイヴナイツのソングライターとしての実力証明に違いありません。
それはジャニス・ジョプリンにも提供された「As Good As You've Been To This World」で楽しめる、まさにノンジャンルなゴッタ煮ソングにも表れていると思います。
また肝心のボーカリストとしてのニック・グレイヴナイツは、ストレートなハードロックの「Throw Your Gog A Bone」で、その一本調子な楽曲を様々な味わいで歌いこなすところに独得の個性が感じられますし、アルバム全篇を通しての歌いっぷりにも迷いは無いでしょう。もちろん、であればこそ、マイク・ブルームフィールドのギターと妥協の無い協調関係が構築されたのです。
いゃ~、初めて聴いてから既に40年近く経っていますが、全く飽きないですねぇ~♪
09 Work Me Lord
10 Bone In Chicago
さて、いよいよ復刻CDの本命という上記ボーナストラックですが、どうやら名盤「Live At Bill Graham's Fillmore West」からのアウトテイクのようです。ということはノー文句の決定的な名演!
まず「Work Me Lord」がゴスペルロックの王道路線ということで、またまたBS&T風のアレンジも面映ゆいんですが、マイク・ブルームフィールドの繊細なバッキングは流石に上手く、そして後半のクライマックスに向けて爆発していく圧巻のギターソロ!
いゃ~、こんなん生で聴かされたら悶絶して発狂するかもしれませんよ。
そしてさらに激ヤバなのが、おそらくはニック・グレイヴナイツのオリジナル曲では一番に有名であろう「Bone In Chicago」が、ポール・バターフィールド・ブルース・バンドのやった正調ブルースロックとは大きく異なるファンキーロックで展開され、重厚なホーンアレンジや粘っこいリズム隊の活躍もさることながら、やっぱりマイク・ブルームフィールドのギターやテナーサックスのアドリブが暑苦しいほどの興奮を誘います♪♪~♪
う~ん、モードやフリーもがっちり導入された、これは真性ロックジャズ!?!
ニック・グレイヴナイツの歌いまわしも本領発揮の鬱陶しさが全開です。
ということで、ブルースロック周辺がお好みの皆様は、ぜひともゲットしていただきたい秀逸な復刻です。気になる音質も私有のアメリカ盤LPに比べて、なかなか厚みのあるマスタリングが良い感じですよ。また、ニック・グレイヴナイツのプロフィール等々についても、付属解説書が丁寧です。
もしかしたら蒸し暑い時期には封印すべきアルバムかもしれませんが、夏場の我慢大会という趣向もあり、またツンツンにカラシの効いた冷やし中華は梅雨時にも美味い♪♪~♪ という嗜好性からしても、避けているのは勿体無いと思うばかりです。