OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

リー・モーガンの混濁と颯爽

2008-09-30 13:18:17 | Jazz

The Cooker / Lee Morgan (Blue Note)


モダンジャズのイメージ的花形スタアは、やっぱりトランペッターでしょう。実際、マイルス・デイビスやチェット・ベイカーあたりはジャズを超えて広く大衆に知られた存在でしょうし、例え演奏を聞いたことがなくても、イメージとしてのモダンジャズをカッコイイ音楽にしているのも、そういう花形スタアだと思います。

そしてリー・モーガンもまた、その中のひとりでしょう。

とにかくビシッとキメたファッションセンスの良さ、十代にしてジャズシーンのトップで活躍した実力、奔放にして繊細なフィーリングを秘めた音楽的才能! リアルタイムでは、まさに怖いもの知らずだったと思いますが、その天才が決して暴走しなかったのは周囲に良き理解者が居たからでしょう。

例えばそれは看板として在団していたジャズメッセンジャーズのボス=アート・ブレイキー、その参謀だったペニー・ゴルソン、そして専属契約を結んでいたブルーノートの主催者=アルフレッド・ライオンです。

特にキャリア初期のリーダーセッションにはペニー・ゴルソンのアレンジが大きなシバリとして存在し、リー・モーガンの弾ける若さを絶妙な纏まりに収斂させていたのが、成功のポイントだったろうと思います。

しかし流石はアルフレッド・ライオン! リー・モーガンの奔放な魅力を飼殺しにする事はせず、ついにブルーノートでは5枚目のリーダー盤となるセッションで、若き天才の自由意思を解き放ったようです。

録音は1957年9月29日、メンバーはリー・モーガン(tp)、ペッパー・アダムス(bs)、ボビー・ティモンズ(p)、ポール・チェンバース(b)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds) という魅力溢れるクインテットです――

A-1 A Night In Tunisia
 説明不要というモダンジャズの名曲として、リー・モーガンもディジー・ガレスピーの楽団やジャズメッセンジャーズで幾多の名演を残しているにもかかわらず、ここでまたまた録音を残した意義は聴いて吃驚です。
 まず執拗なラテンビートを敲き出すフィリー・ジョー、さらにその隙間を埋めようと奮闘するポール・チェンバースの存在感が異様に強く、またボビー・ティモンズの意地悪な伴奏はこれ如何に!
 そしてそんな空間を一気呵成に駆け抜けていくリー・モーガン! もはや混濁の中のひとり相撲という感じが圧巻です。誰一人妥協する者がいないんですねぇ~。いや、実際の現場では緻密な打ち合わせがあったのかもしれませんが、この全く和みの無い雰囲気は心底、怖いです。
 当然ながらペッパー・アダムスも修羅の道を歩みますが、驚いたことに、こんな演奏がリアルタイムではAB面に分割されたシングル盤として発売されていたんですねぇ~。う~ん、売れていたのか……!?
 まあ、そんな余計な御世話は別にしても、これだけ混濁したハードバップは前衛としか思えないのが私です。つまり聴くのには根性が必要かと……。
 どうにか正当的な4ビートに展開されるボビー・ティモンズのアドリブパートが救いといえば、それまでかもしれません。

A-2 Heavy Dipper
 一転して痛快無比なフィリー・ジョーのドラミングが楽しいイントロとなる、如何にも「らしい」ハードバップです。もちろんリー・モーガンはトリッキーなフレーズを使いまくって楽しく疾走する名演を披露♪
 ペッパー・アダムスも歌心があるんだか否か、言語明瞭なれど意味不明という得意技で力演ですし、ボビー・ティモンズの硬派な魅力もいっぱいですが、やはりここはどうしてもフィリー・ジョーのドラムスに耳にいってしまいますねぇ~♪ ハイハットやシンバルワークの冴えまくりが気持ち良すぎます。

B-1 Just One Of Those Things
 このアルバムのもうひとつのウリが、この演奏だと思います。
 曲は有名スタンダードというお馴染みのメロディがアクの強いイントロのアレンジとスピード感満点のテーマ吹奏、そして痛快なアドリブパートで再構成されていく展開は最高です。
 ほとんど決定的なリー・モーガンは畢生の名演ですし、ペッパー・アダムスも生涯の熱演アドリブじゃないでしょうか。とにかく強烈無比! 颯爽として潔いメンバー全員のジャズ魂が燃え上がっています。

B-2 Lover Man
 これまた興味深々の演目ですねぇ、ジャズの歴史では説明不要の経緯がありますから。まあ、そういう因縁で語られるのが、この曲の不幸と幸せな結末ではありますが……。
 しかしここでのリー・モーガンは真摯な演奏姿勢というか、殊更にそうした部分を意識させない見事な吹奏を聞かせてくれます。まあ、そんなところに拘って構える自分が恥ずかしくなります。名曲には名演が必要という見本かもしれません。
 虚心坦懐でボビー・ティモンズのピアノにもシビレますし、意外に過激なポール・チェンバースも強い印象を残します。またハードエッジなバリトンの魅力に白人らしい歌心のペッパー・アダムスも立派!
 しかしやっぱり、ここではリー・モーガンでしょうねっ♪ 特に中盤からのグルーヴィなノリと絶妙のメロディ展開には驚嘆して感涙するしかない、まさにジャズを聴く喜びがいっぱいです。
 
B-3 New-Ma
 オーラスは、これぞハードパップというダークでグルーヴィな演奏です。ただし、その魅力的なテーマ部分では、フィリー・ジョーが些かミスマッチなドラミングで賛否両論……? 正直言えば、こういう曲調にはアート・ブレイキーだよなぁ~。
 と、そんな不遜な事も浮かんでまいりますが、アドリブパートでは先発のポビー・ティモンズが十八番のゴスペルファンキーな感覚を全開させ、続くポール・チェンバースがエグイばかりのペースソロ! そして地底怪獣の蠢きというペッパー・アダムスの重厚なバリトンサックスが咆哮すれば、そんなモヤモヤはブッ飛びです!
 さらに満を持して登場するりー・モーガンがハードボイルドな「節」を聞かせてくれます。
 う~ん、しかしやっぱりフィリー・ジョーが、なぁ……。
 ちなみにこの曲はリー・モーガンのオリジナルですが、A面2曲目の「Heavy Dipper」も併せて、もしかしたら公式レコーディングでは初めての自作曲演奏になっているのかもしれません。

ということで、これはリー・モーガンの本格的な独立宣言! というよりも成人式でしょうか。ブロデューサーのアルフレッド・ライオンにも、あえてリー・モーガンを好き放題にやらせてみる思惑があったんじゃないでしょうか?

そして結果は奔放にして混濁と颯爽が同居した傑作盤になっています。

もちろん好き嫌いは十人十色でしょう。実際、私は最初、A面ド頭の「A Night In Tunisia」にどうしても馴染めず、B面ばかり聴いていましたし、これは今でも変わりません。しかしその「A Night In Tunisia」には、やっぱり凄いものが蠢いて噴出していく怖さを否定出来ません。ジャズメッセンジャーズでの演奏とは全然、別種のカリスマがあるというか、う~ん、上手く言えません。

これはぜひとも皆様に聴いて、感じていただきたいというアルバムです。

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ローランド・カークと美しきエディス

2008-09-29 14:40:13 | Jazz

Now Pleade Don't You Cry, Beautiful Edith / Roland Kirk (Verve)

ただレコードを聴いているだけでは盲目というハンディを感じさせず、また複数管楽器同時吹きや息継ぎ無し吹奏という超人技を披露するローランド・カークは、その実演の場での独特の佇まいもあって、ちょっとキワモノ扱いされる事もしばしばですが、ジャズの伝統を大切にしながらも、その幅広い音楽性の虜になったが最後、全てを楽しまざるをえないのがジャズ者の習性じゃないでしょうか。

しかし今でこそローランド・カークの残した音源はほとんどがCD化されていますが、1980年代初め頃までの我が国では、中古盤屋の隠れ目玉商品として人気を集めていたのです。

さて、本日の1枚は、その中でも特に人気の高いアルバムで、録音は1967年5月2日、メンバーはローランド・カーク(ts,fl,manzello,stritch,vo)、ロニー・スミス(p)、ロナルド・ボイキンス(b)、グラディ・テイト(ds) という比較的オーソドックスな編成になっていますが、その演奏は多彩で楽しいものばかり♪ ちなみにプロデューサーが、あのクリード・テイラーというのもポイントでしょうか――

A-1 Blue Rol
 典型的なジャズブルースというスローでグルーヴィな演奏ですが、原盤解説にも記載されているように、ローランド・カークは複数管楽器同時吹きを駆使して、ひとりデューク・エリントン楽団の趣に挑戦しています。
 しかもそれが全く憎めないんですねぇ~♪ アドリブソロでも自らの信じるブルース魂を臆することなく披露し、特にテナーサックスのパートはジャズの伝統に敬意を表した流石の名演だと思います。

A-2 Alfie
 「アルフィ」という名曲にはバート・バカラックとソニー・ロリンズの、どちらもヒットした同名異曲があって、もちろん両方とも魅惑的なメロディを持っていますからジャズ者だって大好きという気持ちを見事にくすぐられた演奏です。
 つまり両方のメロディが楽しめるんですねぇ~~~♪
 それは甘さを含んだ正統派テナーサックスを見事に吹奏するローランド・カークの素晴らしさでもあります。3分に満たない短い演奏ですが、これが至福の一時として、永遠の和みになっています。
 最後まで敢然することのない名演! と、断言させて下さい。

A-3 Why Don't They Know
 これは楽しいボサノバのローランド・カーク的展開♪
 グラディ・テイトのドラミングも快適ですし、これも3分に満たない短さが勿体無いほど、何時までも聴いていたいですねぇ~♪

A-4 Silverlization
 一転して真摯なというか、当時最先端のブルーノートっぽいモード系の演奏です。しかしそこには如何にもローランド・カークというユーモア精神と軽妙洒脱な稚気が含まれていて、流石の味わい! テナーサックス以外にマンゼロやストリッチという特殊楽器でのアドリブパートも入れて、ひとり3管編成をやっているんですねぇ~♪
 ちっとも深刻にならない新主流派ジャズには、ニンマリさせられます。ちなみにリズム隊のパターンはホレス・シルバーのバンド!? すると曲タイトルも意味深ですが……?

B-1 Fallout
 さてさて、これまた楽しいジャズロックで、グラディ・テイトのドラミングが実にタイトにキマッています♪ もちろんローランド・カークのダーティで熱っぽい吹きまわし、ロニー・スミスの安全第一というピアノにはウキウキさせられますよっ♪

B-2 Now Pleade Don't You Cry, Beautiful Edith
 物悲しくも美しいメロディが心に沁みるローランド・カークのオリジナル曲で、しかも情熱と愛情の心情吐露は感動的でもあります。
 一説にはローランド・カークが妻(?)のエディスに捧げた曲とも言われているようですね。う~ん、さもありなん……。ジャケットに写っている女性が、その人なんでしょうか?
 共演のリズム隊も真摯で静謐なサポートを聞かせ、好感が持てます。
 
B-3 Stompin' Ground
 如何にもジャズという4ビートが、逆に新鮮な気持ちにさせてくれる名演です。つまり伝統と革新が上手く合致したというか、複数管楽器同時吹きの個性も決してキワモノではなく、ジャズの本質に迫らんとする手段にすぎない感じです。
 そして結果はもちろん見事なモダンジャズ! グラディ・テイトのドラムスも激しくスイングしまくったポリリズムで快調です。

B-4 It's A Grand Night For Swinging
 私はローランド・カークのフルートが大好きですが、それが存分に楽しめる快演です。唸り声を活かした楽しいフレーズと音色の妙、超絶のアドリブ構成、もちろんリズム感の良さも特筆すべきでしょう。
 リズム隊の緊張感もほどほどで、イヤミになっていません。

ということで、ローランド・カークの魅力が軽いタッチで楽しめる名盤だと思います。いや、というよりも、人気盤でしょうかねぇ、やっぱり♪

ローランド・カークというと、なんとなく構えて聴いてしまうところも否定出来ないのは認めますが、例えばこのアルバム中では「Alfie」や「Why Don't They Know」が喫茶店あたりで流れてきたら、これは気持ち良くて♪♪~♪

現在はCD化もされているようですから、容易に聴けると思います。シビレますよ♪

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アート・ペッパーと痛快な音の魅力

2008-09-28 11:02:36 | Jazz

Art Pepper + Eleven (Contemporary)

これは私が初めて聴いたアート・ペッパーのレコードですが、笑えない話がついています。

まずタイトルからして、アート・ペッパーがエルビン・ジョーンズ(ds) と共演している作品だと思い込んだこと!? ひぇぇぇぇ~☆▽●◆◎

つまり「Eleven」と「Elvin」を見間違えていたわけです。いや、全くお恥ずかしいかぎりなんですが、それと言うのも当時のジャズ喫茶では只今プレイ中のアルバムと次に鳴る予定のアルバムが並んで飾られるのが定番のディスプレイで、その時はエルビン・ジョーンズの「閃光 (Atlantic)」が鳴っており、次にプレイされるのが、このアルバムだったというわけです。

もちろん、ほとんどジャズに対する知識もない当時の私は、それでも全然エルビン・ジョーンズじゃない演奏に??? となったわけですが、それも当然ですね。まあ、後年には本当にペッパー&エルビンの演奏も作られましたが……。

で、実際に聴いてみると、これが颯爽として痛快なビックバンド演奏であり、しかもステレオ立体音響の素敵な録音盤ということで忽ち現物が欲しくなり、今は無くなってしまったハンターという中古盤店で安く入手したのですが……。

帰宅して早速聴いて吃驚! あのシャープでスマートな立体音響が出てきません。う~ん、ステレオが壊れたのか!? と思っていろいろと模索していたら、なんとレコードそのものがモノラル仕様だったんですねぇ~。 またまたの☆▽●◆◎~~~、です。

まあ、今となってはこれも僥倖だったのかもしれませんが、当時はガックリ……。結局、しばらく後になってステレオ盤も買ってしまったというオチがつきました。

まあ、そんなこんなの思い出のアルバムではありますが、内容はアート・ペッパーが全盛期のセッションですから、悪いはずがありません。

録音は1959年3&5月、メンバーはアート・ペッパー(as,ts,cl) 以下、ジャック・シェルドン(tp)、ピート・カンドリ(tp)、ボブ・エネヴォルゼン(v-tb)、ディック・ナッシュ(tb)、ハーブ・ゲラー(as)、バド・シャンク(as)、ビル・パーキンス(ts)、ラス・フリーマン(p)、ジョー・モンドラゴン(b)、メル・ルイス(ds) 等々の西海岸精鋭陣が大挙して参加♪ アレンジはマーティ・ペイチが担当し、アルバムタイトルどおり、アート・ペッパーを主役にして3リズムと8ホーンという編成が楽しめます。

しかもモダンジャズを代表する名曲揃い! 告白すれば本格的にジャズを聴き始めたばかりの私は、このアルバムでそうしたヒットパレードを知ったのです――

A-1 Move (1959年5月12日録音)
 元祖モダンジャズのビバップ時代から定番という楽しい曲ですが、モダンジャズ史では、そこにスマートなアレンジを持ち込んだマイルス・デイビスの所謂「クールの誕生」セッションの素材として有名です。
 もちろんそのバージョンこそが、後の西海岸派ジャズの元ネタになった証明が、この演奏です。なにしろ基本となるアレンジのミソは同じと言っていいでしょう。
 しかしこのアルバムを聴いた当時の私は、そんな事は知る由も無く、ただただカッコ良くて爽快な演奏にシビレていたのですから、後になって歴史的な評価が高いマイルス・デイビスのバージョンを聴いても正直、イマイチな感想でした……。
 肝心のアート・ペッパーはテナーサックスで誰の真似でもないペッパーフレーズを吹きまくり♪ バックのダイナミックスなアンサンブル、歯切れの良いリズム隊とのコンビネーションも気持ち良すぎる名演になっています。
 トランペットのアドリブはジャック・シェルドンでしょうか?
 そして何よりも録音の素晴らしさ! ステレオバージョンを聴くとなおさらに顕著なのですが、左チャンネルにベース、右チャンネルのドラムスが強烈な存在感ですし、真中から左右に広がったホーン隊のアンサンブルもひとつひとつの楽器が明確に聞きとれるのは凄いですねぇ~。
 ちなみに当時の私はロックやポップス、あるいは歌謡曲でステレオ録音を自然に楽しんでいたわけですが、ここまで綺麗な立体音響に接したのは、生まれて初めての経験でした。

A-2 Groovin' High (1959年3月28日録音)
 ディジー・ガレスピー(tp) とチャーリー・パーカー(as) という2人の天才がモダンジャズを創成した記録として歴史に残る名曲を、なんとそのアドリブフレーズまでもスマートなアンサンブルに活かしてしまった稚気が憎めない演奏です。
 それは聴いてのお楽しみなんですが、アート・ペッパーは殊更そこを意識することなく、自己のアドリブに専心して潔い感じです。

A-3 Opus De Funk (1959年3月14日録音)
 ホレス・シルバーが書いたハードバップの聖典ブルース♪ そしてアート・ペッパーが初っ端から独特の浮遊感で泣きじゃくりのアルトサックスを存分に聞かせてくれます。
 スピードがあってシャープなバンドアンサンブルも痛快の一言で、何度聴いても飽きません♪

A-4 'Round Midnight (1959年3月14日録音)
 ご存じ、マイルス・デイビス(tp) の決定的な名演がモダンジャズ史に残るセロニアス・モンク(p) の代表ですから、アート・ペッパーは如何に!? というのが狙いだったんでしょう。
 個人的には些か煮え切らないという感想で、深夜というより白夜というムード……。まあ、それはそれとしての魅力かもしれませんが、むしろこういう曲はバンドアンサンブル抜きでアート・ペッパーを聴きたいという欲求が湧いてきます。

A-5 Four Brothers (1959年5月12日録音)
 ところが一転、これが痛快至極な大名演♪ オリジナルバージョンはウディ・ハーマン楽団がスタン・ゲッツやズート・シムズを擁したサックスアンサンブルをウリにしたスマートな快演でしたから、まさに西海岸派のジャズにはジャストミートの演目でしょう。
 実際、ここでのバンドアンサンブルは最高の一言! マーティ・ペイチのアレンジも原曲のキモを大切にして冴えまくりですし、気持良すぎるサックス陣の合奏、シャープなリズム隊にビシッとキメを入れるプラス陣にシビレます。
 もちろんアート・ペッパーはテナーサックスで熱演アドリブを展開していますが、まあバンドの勝利ということで♪

A-6 Shawnuff (1959年3月28日録音)
 これまたガレスピー&パーカー組が書いたビバップの傑作曲ということで、猛烈なスピードで突っ走る演奏になっていますが、一糸乱れぬバンドアンサンブルが強烈!
 そしてアート・ペッパーの燃えるアルトサックス! 鋭いフレーズの乱れ打ちには、ついついボリュームを上げてしまいます。

B-1 Bernie's Tune (1959年5月12日録音)
 所謂ウエストコーストジャズを決定付けたとされる、ジェリー・マリガン&チェット・ベイカーのコンビが放った初ヒット曲を同じ西海岸のスタアというアート・ペッパーが演じる好企画♪ そして全くの狙いがズバリと当たった演奏になっています。
 マーティ・ペイチのアレンジも気持ちが良すぎるキマリ方ですし、なによりもアート・ペッパーのアルトサックスが緩急自在、唯我独尊で冴えまくりなのでした。

B-2 Walkin' Shoes (1959年3月14日録音)
 これもジェリー・マリガンの代表曲で、マーティ・ペイチのアレンジは、そのキモとなる軽妙洒脱なノリとメロディフェイクを完全に活かしきって最高です。
 そして軽快なテンポで自在に浮遊するアート・ペッパーはもちろん素晴らしく、加えて意図的に作られたと思しきアンサンブルの隙間がありますから、際立つ録音の素晴らしさも堪能出来ると思います。

B-3 Anthropology (1959年3月28日録音)
 ちょっと大げさな曲名ですが、原曲はジャズ史上初めて、ビバップ演奏を完璧に録音したと言われる1945年11月のサボイセッションで、チャーリー・パーカーが自作自演した「Thriving From A Riff」でしょう。もちろん後にチャーリー・パーカー自身が曲名を変更して「Anthropology」となったのではないでしょうか?
 まあ、それはそれとして、ここでの演奏はシャープでスマートなアレンジをバックにアート・ペッパーがクラリネットで大名演! 温かみのある音色で哀愁と緩急自在のフレーズを綴るという、唯一無二の素晴らしさが満喫出来ます。
 あぁ、何を吹いても「ペッパー節」は不滅です。これは大好きっ♪

B-4 Airgin (1959年3月14日録音)
 ソニー・ロリンズが書いたハードバップの大名曲として、作者自身のバージョンを筆頭に幾多の名演がジャズの歴史には残されていますが、これもそのひとつでしょう。
 とにかくアート・ペッパーの鬼気迫るアドリブのツッコミが物凄く、ビシッとキメまくりのバックの演奏がそれに引っぱられて白熱していく様が痛快至極です!

B-5 Walkin' (1959年5月12日録音)
 これまたマイルス・デイビスのハードバップ宣言と言われる名曲ブルースをやってしまう潔さ! そのグルーヴィなムードを懸命に醸し出そうとするセッション参加の面々は、些か様式美に陥っている感じですが、テナーサックスを吹きながら蠢くアート・ペッパーのジャズ魂は実にリアルだと思います。
 それゆえにミスマッチなアレンジが勿体無いところで、安ぽっいハリウッド映画のハードボイルドな劇伴という……。まあ、このあたりが西海岸派の限界かもしれません。
 ところがこの演奏にはアート・ペッパーがクラリネットでアドリブをやった別テイクが存在し、それが黒っぽくて鳥肌もんの強烈な仕上がり! このアルバムがCD化された時にオマケとして登場したと記憶していますが、一聴してあまりの素晴らしさに絶句! 速攻でCDをゲットしたほどです。本テイクよりも私は好き♪

B-6 Donna Lee (1959年3月28日録音)
 元祖モダンジャズ=ビバップといえば決して外せない定番曲に果敢に挑戦するアート・ペッパーという、まさにジャズ者だけの「お楽しみ」が満喫出来る演奏です。
 当然ながら爽やかなフィーリングのアレンジとスリル満点のアドリブパートの対比は、そのまんまマーティ・ペイチとアート・ペッパーの個性が対比され、しかも見事に調和していると思います。
 一言でいえば、物凄くカッコイイ演奏♪
 そして脅威なのは、チャーリー・パーカーのオリジナル曲なのに、同じアルト吹きとして「パーカーフレーズ」を極力使わないアート・ペッパーの天才性です!

ということで、アート・ペッパーという稀代の天才アドリブプレイヤーの本質と協調性を上手く活かした名盤だと思います。ただし聴き方によっては、勿体ないという声も確かにあるでしょう。

それはアドリブパートが短く、流石の天才もカッコ良すぎるアレンジとスマートなアンサンブルに埋もれた感が無きにしもあらず……。

しかし逆に言えば、その天才を表看板にして西海岸の凄腕プレイヤー達が存分に実力を発揮したともいえるわけで、実際、当時からスタジオの仕事で音楽産業の歯車のひとつとなっていた参加メンバーのクレジットが、ここで明確に記載されたのは喜ばしいことでしょう。

ロックやR&B、ポップスといった一般大衆音楽の世界では、そうした裏方スタッフのクレジットがジャケットやレコードでは伏せられていることが当時は当たり前でしたし、それと同種の音がこのアルバムで楽しめ、なおかつ演奏メンバーが分かるという些かオタクっぽい楽しみの手掛かりとしても有用かと思います。

そしてアルバム全体としてはスカッとしてシャープな音を存分に楽しめる仕上がりで、個人的には圧倒的にステレオミックスが好きなんですが、モノラルミックスは当時風に言えばパンチのある音! 団子状であるにもかかわらず、直線的に向かってくる圧倒的な「音圧の矢」が最高の気持ち良さです。

それは1959年当時としては驚異的で、試しに同時期にステレオ録音で発売された他レーベルのアルバム、あるいは1960年代中頃からのロック全盛期に作られた名盤群と比べても、ここまで爽快に「音」が楽しめる、つまり音楽の素晴らしさを堪能出来る作品は稀だと思うのでした。

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インビテーションを吹くコルトレーン

2008-09-27 14:59:06 | Jazz

Standard Coltrane / John Coltrane (Prestige)

ジャズは素材を如何に料理するかという瞬間芸だと思いますが、やはり「素材」に魅力があったほうが美味しくなるのは、言うまでもありません。

ですから、如何に良い素材=曲を演じているかがレコード購入の大きな決め手となり、それに釣られてゴミが増えるという危険性もあるわけですが、アバタもエクボという諺どおり、やっぱり曲=素材の魅力は絶大です。

さて、私にとってのそのひとつが「Invitation」というスタンダード曲で、事の発端はジョー・ヘンダーソン(ts) の代表作にしてジャズ喫茶の人気盤「Tetragon (Milestone)」でしたが、その静謐な幻想性や如何様にも変化させていくことの出来る曲の味わいは、非常にたまらないものがありましたですね。

作曲したのはブロニスロウ・ケイパーという職業作家で、この人は他にも「On Green Dolphin Street」というモダンジャズでは定番となった名曲も書いているとおり、それらのミソはモード的な解釈にも耐えうる懐の深さかもしれません。

そしてこの曲を求める奥の細道で出会ったのが、アル・ヘイグ(p) やミルト・ジャクソン(vib) の同名タイトル盤でしたが、しかしジョン・コルトレーンがこれを演じていると知っては、聴かずに死ねるか! これが1970年代にジャズ的な青春を過ごしたサイケおやじの偽らざる心境です。

で、このアルバムは皆様が良くご存じのとおり、ジョン・コルトレーンがレッド・ガーランドを参謀役として膨大なセッションを残したプレスティッジの音源から編まれた中の1枚で、タイトルとは裏腹に、あまり有名ではないスタンダード曲が素材として選ばれています。

録音は1958年7月11日、メンバーはジョン・コルトレーン(ts)、ウィルバー・ハーディン(tp)、レッド・ガーランド(p)、ポール・チェンバース(b)、ジミー・コブ(ds) となっていますが、やはり当時のマイルス・デイビスのバンドではレギュラーを務めていたリズム隊の参加が嬉しいところでしょう――

A-1 Don't Take Your Love From Me
 ほとんど有名ではない曲ですから、我が国ではスタンダードとは呼べないのかもしれませんが、なかなか魅惑的なメロディです。というか、ジンワリしたスローなテンポで魂の吹奏を聞かせるジョン・コルトレーンが本当に素晴らしいかぎり!
 いきなりのなめらかな滑り出しから、独特の「泣き」を含んだ音色の魅力、素直さに心がこもるテーマメロディの解釈、アドリブパートでの緊張と緩和♪ もちろん得意技の音符過多フレーズも適度に混ぜ込んで飽きさせません。
 それにしてもこんな地味な演奏をアルバムトップに持ってくる編集方針は、現代の視点からすれば???なんでしょうが、アナログ盤時代はA面ド頭に一番良い演奏を置くのが「お約束」でしたし、実際、このLPの中では最高の仕上がりになっています。
 ウィルバー・ハーディンもハスキーな音色と繊細な歌心で出色ですが、リズム隊のサポートの上手さも特筆されます。
 ちなみに一連のプレスティッジセッションではレッド・ガーランドが演目を選んでいたそうですから、こういう地味でも素敵なメロディが聞けるのは喜ばしく、レッド・ガーランドもジョン・コルトレーンの引き立て役に徹して潔いと思います。

A-2 I'll Get By
 ビリー・ホリデイの名唱が有名な古いスタンダード曲を、ここではミディアムテンポのハードバップに焼き直そうとした目論見なんでしょうが、メンバー全員が低調な雰囲気……。
 もっさりとして煮え切らないジョン・コルトレーン、全くインスピレーションが冴えないウイルバー・ハーディン、ありきたりのレッド・ガーランド……。なんとかその場を盛り上げようと奮闘するジミー・コブのリムショットも虚しく響くだけです。
 しかし後半に入って、ようやく奮起したジョン・コルトレーンが聞けるのは、救いというよりも現実の厳しさでしょう。
 実はこのアルバムが発売されたのは1960年代中頃だと思われますが、これがオクラ入りしていたのも無理からんところとはいえ、当時は既に神様に祀り上げられていたジョン・コルトレーンの演奏はフリー街道を驀進中でしたから、こういうダレ場演奏も案外と一般のファンにはウケていたのかもしれませんね……。

B-1 Sprig Is Here
 繊細にして粋なメロディが魅力の人気スタンダードを、これもハードバップに焼き直した演奏ですが、それにしてもテーマ合奏のダサダサの雰囲気は???です。
 しかしアドリブパートではジョン・コルトレーンがスピード感満点の過激節を展開し、ウネウネと迷い道を彷徨いながらも、痛快な時間を提供してくれます。
 またウィルバー・ハーディンは「アート・ファーマーもどき」かもしれませんが、ポール・チェンバース&ジミー・コブというクールで熱いリズムコンビに煽られての必死さが、なかなか良い感じです。もちろんポール・チェンバースのベースソロのバックではジミー・コブのドラミングが、まさにコンビネーションプレイの至芸を聞かせてくれますよ♪

B-2 Invitation
 さて、これが私のお目当ての演目だったわけですが、まずジョン・コルトレーンがじっくりと腰を据えてのテーマ吹奏! 所謂スピリチュアルな雰囲気がジワジワと空間を支配していく、このあたりは往年のジャズ喫茶に親しんだ皆様には、本当にたまらないところかと思います。
 もちろんジョン・コルトレーンはテーマメロディの変奏にフレーズの圧縮と解凍を用いながら、こみあげる想いの心情吐露! そしてバックではポール・チェンバースが思い切ったペースワークを披露していますから、レッド・ガーランドが些か浮いてしまったような……。
 後年の名演「Naima」の予行演習としても立派ですが、もちろんここでの些か饒漫なところは、未完成の魅力です。ちなみにウィルバー・ハーディンの出番は、ほんのちょい、です。

ということで、アルバム単位としてはジョン・コルトレーンの諸作中、それほどの人気盤ではないと思います。実際の仕上がりも良いとは言えません。

しかしA面1曲目の「Don't Take Your Love From Me」だけは名演だと思います。もしジョン・コルトレーンのベスト盤を作るとしたら、私は迷わず選んでしまうでしょう。

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ピーターソンと至福の一時

2008-09-26 12:56:32 | Jazz

Girl Talk / Oscar Peterson (MPS)

不滅の天才ピアニストだったオスカー・ピーターソンの全盛期を何時にするかは、大変に難しい問題ですが、個人的には1960年代中頃から1970年頃の録音が残された「MPS」期だと思っています。まあ、こんな事はオスカー・ピーターソンという偉人に関して、不必要ではありますが、そこはそれ……。

で、このアルバムは1965年から1967年にかけて、「MPS」のオーナーで熱狂的なジャズマニアのハンス・ブルナーシュワーが自宅スタジオで録っていた音源から選びぬいて作った1枚です。ちなみに現場はドイツですから、オスカー・ビータンソンが巡業で訪れたスケジュール中のセッションは、けっこう日常的に自然体な演奏が良い感じ♪

もちろんメンバーはトリオ編成ながら、レイ・ブラウン(b)、サム・ジョーンズ(b)、ルイス・ヘイズ(ds)、ボビー・ダーハム(ds) という名手が入り乱れの時期ということで、楽しみも倍加していますね――

A-1 On A Clear Day (1967年11月録音)
 オスカー・ピーターソンの豪快な魅力が存分に楽しめる快演で、サポートメンバーはサム・ジョーンズ(b) とボビー・ダーハム(ds) というハードエッジなトリオですから、最初から最後まで十八番のフレーズを連発してのグイノリは「お約束」です。
 あぁ、このグルーヴィで歯切れの良い演奏は本当に至福の一時ですねぇ~~~♪
 一気呵成に弾きまくるオスカー・ピーターソンの勢いが素晴らしい録音で楽しめるわけですが、ここでのミックスは左にベースとドラムス、右にピアノという「泣き別れ」状態ながらも、オスカー・ピーターソンのピアノが鳴りまくって、真中からも残響ではない音が聞こえるという凄さに絶句です。

A-2 I'm In The Mood For Love (1966年11月録音)
 オスカー・ピーターソンが神業のテクニックで聞かせる独り舞台から始まり、ベースとドラムスを従えてグルーヴィに展開する中盤、そして再びスローな終焉を演出していくという、まさに「オスカー・ビーターソン・トリオ」の真髄が、ここにあります。
 共演メンバーはサム・ジョーンズ(b) にルイス・ヘイズ(ds) という、キャノンポール・アダレイ(as) のバンドから来た真正ハードバップコンビですから、粘っこい雰囲気も濃厚に滲み出ていますが、同時にメリハリの効いたコンビネーションも素晴らしいですねぇ~♪
 もちろんオスカー・ピーターソンは緩急自在! 左に低音域、右の高音域がミックスされたピアノ響きは言わずもがなの凄さです。

B-1 Girl Talk (1967年11月録音)
 ジャズではボーカル物として人気の高い名曲ですが、インストならば、絶対にこのバージョンでしょう。その洒脱で粋な原曲メロディを活かした演奏は素晴らしすぎ! アルバムタイトルに用いられるのもムベなるかな、です♪
 じっくりとテーマメロディの味わいを引き出していくところから、ファンキーなフレーズも混ぜ込んだアドリブパート、それがグルーヴィに盛り上がっていくジャズ的な喜びが痛快至極なんですねぇ~~~♪
 ちなみにサポートするのはサム・ジョーンズ(b) とポピー・ダーハム(ds) というコンビですが、その物分かりの良さも好演に結びついていると思います。

B-2 I Concentrate On You ~ Moon River (1967年11月録音)
 コール・ポーターとヘンリー・マンシーニの有名曲をメドレーにして、オスカー・ピーターソンが神業のピアノを存分に聞かせる独り舞台です。
 饒舌な中にも伝統を大切にした表現は流石に秀逸としか言えませんし、圧倒的なグルーヴの凄さ! 左右に広がったピアノの鳴りの良さを楽しめる録音の素晴らしさも特筆物ですね♪

B-3 Robbins Nest (1965年録音)
 オーラスはレイ・ブラウン(b) とルイス・ヘイズ(ds) を従えて豪快にドライヴするオスカー・ピーターソンが楽しめます。
 いゃ~、流石にレイ・ブラウンは芸が細かいというか、オスカー・ピーターソンの意図を確実に先読みしたサポートが素晴らしいと思います。ルイス・ヘイズも前任者のエド・シグペンを意識したドラミングを披露して、多分、このあたりはオスカー・ピーターソンのアレンジに従っているのかもしれません。

ということで、良いとこどりしたような名演集! プロ意識という以前に手抜きをしないオスカー・ピーターソンの姿勢は、「性分」というところでしょうか。

こういう安心感に身をまかせる一時って、本当に貴重で幸せな時間だと思います。

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アレン・ハウザーのピュアハート

2008-09-25 14:21:26 | Jazz

No Samba / Allen Houser (Stratght Ahead)

1970年代のジャズ喫茶はクロスオーバー~フォージョンの大ブームによって様変わりも激しく、その店独特の雰囲気がますます強くなった時期でした。

例えば新宿周辺では何時の間にかフュージョン専門店になった「ポニー」、頑固にハードバップな「ビザール」、保守本流の最先端という「ディグ」、落ち着いた雰囲気の「イーグル」、さらに質が高ければ何でもありの「イントロ」というのは氷山の一角でしょう。

まだまだ多くのジャズ喫茶が日本独自の文化を形成していた幸せな時期だったと思います。

そしてその中には「ジャズ喫茶の名盤」というジャンルがあって、ジャズマスコミには大きく紹介されなくともリクエストが多いというアルバムが、確かに存在していたのです。

例えば本日の1枚は、その代表格というか、チープなジャケットに盤質の粗悪さまでもが目立つアナログLPでしたが、内容はグッと濃厚な主流派ジャズ! もちろんリーダーのアレン・ハウザーなんて、今に至るも全く無名扱いのトランペッターですから、聴いて得したような♪

しかしこのブツはご推察のように自主制作盤でしたから、聴いて気に入り、レコード屋へ行ったって容易に手に入るはずも無く……。こまめに中古屋巡りをして、ようやくゲットしたとしても、盤質の悪さゆえに針飛びやプレスミスがあったりして……。

それが先日、久々に中古屋巡礼をしていたら紙ジャケ仕様のCDで復刻されているのを発見! 即ゲットしてきました。

録音日の記載はありませんが、アルバムが発売されたのは1973年で、我が国に入ってきたのは翌年だったと言われていますから、そのあたりの時期の演奏でしょう。メンバーはアレン・ハウザー(tp)、バック・ヒル(ts)、ヴィンス・ジェノバ(p)、スティーヴ・ノボセル(b,el-b)、テリー・ブルーメリ(b)、マイク・スミス(ds) という、ほとんど無名の面々ですが――

01 (A-1) Mexico
 タイトルどおり、エキゾチックな香りが濃厚なメキシコ風味のメロディ、ボサロックもどきのリズムが熱い演奏です。もちろんこれは、1960年代のブルーノートあたりで良く聞かれた味わいなんですねぇ~♪
 アレン・ハウザーのトランペットは些か細い音色ながら張り切った音出しと熱血のフレーズ、バック・ヒルのテナーサックスは、もっさりした音色と野暮ったいフレーズが逆にジャズの本質に迫った感じです。
 そして続くベースのアルコ弾きによるアドリブは、もはや「哀愁の」という形容詞しか当てはまらない「泣き」の世界ですよ。プログレのデイヴィッド・クロスとかエディ・ジョヴスンのバイオンりのような味わいさえ感じられ、私はここで胸キュンの世界へ行ってしまいます。
 さらにピアノのヴィンス・ジェノバが饒舌な音使いで、せつない美メロの乱れ撃ち♪ 全篇で真摯な姿勢を崩さないマイク・スミスのドラミングにも好感が持てますから、クライマックスの熱血大会も潔いです。

02 (A-2) Charlottesville
 うっ、これはマイルス・デイビスの某曲の演奏に似ていないか!? というか1960年代末期の模索期の雰囲気が濃厚で、じっくりと構えたテンポの中でメンバー全員が、いかにも「らしい」試行錯誤を繰り広げています。
 中でもピアノのヴィンス・ジェノバはハービー・ハンコックがモロ出しの部分から、なんとか個性を出そうと奮闘し、これがジャズ者にはグッと琴線に触れる演奏じゃないでしょうか。

03 (B-1) No Samba
 アルバムタイトル曲は思わせぶりなスタートから熱血のハードバップへと転進する、全く「ジャズ喫茶の名盤」的な演奏です。ラテンのリズムとロックビートがゴッタ煮となったクルーヴィなノリが実に楽しく、アレン・ハウザーも本領発揮のハイノートを炸裂させる、まさに渾身のアドリブを聞かせてくれます。
 ちなみに付属解説書によれば、この人の正体はワシントンで活躍するローカルミュージシャンらしく、このアルバムを出した時は三十代前半という、ある意味では充実期だったようです。

04 (B-2) Causin Rae's 3-Step
 ワルツビートを使った快適なハードバップ、というよりも新主流派にどっぷりの演奏で、ちょっとエコーが効いたトランペットの響きが妙に心地良いです♪ まあ、このあたりの手法は賛否両論かもしれませんが……。
 リズム隊も熱い好演で、特にドラムスのマイク・スミスが大ハッスル!

05 (B-3) 10 Years After
 なんか有名ロックバンドみたいな曲名ですが、これまたモード期のマイルス・デイビスを意識した演奏が憎めません。実はこのアルバムが出た当時の我が国ジャズ喫茶では、こういうスタイルが一番、好まれていたんですねぇ。これが出来たのは、他にウディ・ショウ(tp) ぐらいしか居ませんでした。
 なにしろリー・モーガンは突然に亡くなり、フレディ・ハバードはクロスオーバーにどっぷり、マイルス・デイビスは電気にシビレて隠遁寸前だったのですから、このアルバムがウケたのは当たり前というわけです。
 肝心の演奏はヴィンス・ジェノバのピアノが疾走し、アレン・ハウザーのトランペットがモダンジャズへの真剣勝負を披露! そしてバック・ヒルのテナーサックスがウェイン・ショーターを意識しつつも熱く咆哮すれば、マイク・スミスのドラムスがトニー・ウィリアムスの如き暴れを聞かせて、スカッとします。う~ん、ベースがロン・カーターに聞こえてきたぞっ!

ということで、どこまでも保守本流に拘った演奏集なんですが、1973年の時点でこんな事をやっていたら、本場アメリカでは表舞台に登場出来ないのも納得するしかありません。

アレン・ハウザー自身にもいろんな事情があって、例えばニューヨークでの活動は無理だったのかもしれませんが、それゆえにピュアな演奏を貫き通せたといっては贔屓の引き倒しでしょうか。

このアルバムを聴いていると、「正直者はバカをみる」とは言いたくありません。ただただ、こういう演奏を残してくれたアレン・ハウザーに感謝するのみです。

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キャノンボールとレイ・ブラウン

2008-09-24 12:01:37 | Jazz

Ray Brown with The All-Star Big Band (Verve)

レイ・ブラウンといえば、オスカー・ビーターソンの相方として黄金時代を築いた名人ベーシストですから、単独リーダー盤も傑作揃いで、中でも大編成作品が私は大好きです。

それは圧倒的に多いピアノトリオ物、つまりオスカー・ピーターソンとの演奏では聴くことの出来ないホーンアンサンブルとの絡みとか、バンドの仕切りが抜群に上手いという魅力にシビレているからで、そのあたりはクインシー・ジョーンズが1970年代初頭に率いていたツアーバンドの現場監督を任されていた事でも証明済みです。

さて、このアルバムはタイトルどおり、本格的なビッグバンド作品で、しかも「gest soloist:cannonball adderley」というサブタイトルも嬉しい傑作盤です。

録音は1962年1月22~23日、メンバーはレイ・ブラウン(b,cello) 以下、キャノンボール・アダレイ(as)、ナット・アダレイ(tp)、ジョー・ニューマン(tp)、アーニー・ロイヤル(tp)、クラーク・テリー(tp)、ジミー・クリーブランド(tb)、メルバ・リストン(tb)、バド・ジョンソン(ts)、セルダン・バウエル(ts)、ユセフ・ラティーフ(ts,fl)、ジェローム・リチャードソン(bs,fl)、ハンク・ジョーンズ(p)、トミー・フラナガン(p)、サム・ジョーンズ(b)、オシー・ジョンソン(ds) 等々、とても書ききれない豪華な面々が勢ぞろいしています。さらにアレンジがアーニー・ウィルキンスとアル・コーンというのも嬉しいかぎり――

A-1 Work Song (アーニー・ウイルキンス編曲)
 ご存じ、キャノンボール・アダレイの大ヒット曲が初っ端というサービス精神が嬉しいところですが、演奏の充実度と熱気も最高! 力強くてマイナーかメジャーか、よく分からないほどに魅力的なゴスペルっぽいメロディ、カラフルなテーマアンサンブル、粘っこいピートが上手くミックスされ、もちろんレイ・ブラウンはその要となっています。
 そして当然ながらアドリブパートではキャノンボール・アダレイが豪快にうねり、期待を裏切りません。またグルーヴィで凝ったアレンジを巧みに利用したレイ・ブラウンのペースソロも流石に秀逸♪ トランペットのソロはナット・アダレイでしょうか?
 う~ん、それにしても楽しすぎるアレンジにはグッと惹きこまれます。聴けば忽ち虜になりますよっ!

A-2 It Happened In Montrey (アーニー・ウイルキンス編曲)
 明るいメロディに溌剌としたアレンジが冴えた名曲・名演で、ちょっとカウント・ベイシー楽団という趣が楽しさの証明です。
 レイ・ブラウンのペースは終始冴えまくりで聴きどころも満載ですが、それにしてもキャノンボール・アダレイの協調性を上手く活かしたアレンジが最高ですねぇ~♪ これもヤミツキになるトラックだと思います。

A-3 My One And Only Love (アル・コーン編曲)
 これも有名過ぎる素敵な歌物メロディ♪ レイ・ブラウンはチェロでテーマを弾きますが、ここでもリラックスして膨らみのあるアレンジが素晴らしく、また短いながらも、キャノンボール・アダレイの落ち着いたアルトサックスが良い味出しまくりです。

A-4 Tricrotism (アル・コーン編曲)
 残念ながら早世してしまいましたが、レイ・ブラウンと並んで偉大なベース奏者だったオスカー・ペティフォードのオリジナルですから、レイ・ブラウンは敬意を表して素敵なオマージュを捧げます。なにしろベースの音色やピチカート弾きのニュアンス、そしてアドリブのキモまでもが素晴らしくコピーされ、活かされているんですねぇ~~♪ もちろんレイ・ブラウン本人の個性もしっかり出ていますから、流石です!
 演奏が終わった後、スタジオ内のバンドメンバーから思わず楽しい掛け声や笑い声があがるのも当然でしょう。
 キャノンボール・アダレイのアドリブも最高のノリですし、トミー・フラナガンも良い仕事♪ さらにアル・コーンのアレンジも痛快という、まさにホノボノとしてジャズの本質を楽しめる仕上がりになっています。

B-1 Thumbstring (アーニー・ウイルキンス編曲)
 いきなり不穏な空気を醸し出すレイ・ブラウンのペース、さらに真っ黒で深刻なキャノンボール・アダレイのアルトサックスが独り言……。
 しかし演奏は徐々にグルーヴィな雰囲気に移行して、これでリズムギターが聞こえたら完全にカウント・ベイシー楽団という雰囲気が濃厚な名演です。トランペットのアドリブはミュートがジョー・ニューマン、オープンがクラーク・テリーでしょうか? なかなか熱い快演だと思います。

B-2 Canon Bilt (アーニー・ウイルキンス編曲)
 これまたカウント・ベイシー楽団っぽい演奏ですが、アレンジが同楽団選任のアーニー・ウイルキンスですからねぇ~。
 しかしレイ・ブラウンのペースとキャノンボール・アダレイのアルトサックスがなかなかに過激ですから、前向きな仕上がりです。

B-3 Two For The Blues (アーニー・ウイルキンス編曲)
 これは確かカウント・ベイシー楽団も演じていたと思われますから、またしてもその味わいが濃厚とはいえ、時代的に独特のファンキーな雰囲気が滲み出ています。特にキャノンボール・アダレイは十八番のダーティな節まわし♪

B-4 Day In, Day Out (アル・コーン編曲)
 ちょいと凝りすぎというアレンジが、原曲の楽しさをイマイチ出しきれていない無念さも滲みます。しかしレイ・ブラウンの、あくまでもリーダーとしての矜持が見事でしょう。演奏そのものがビシッと纏まっていると、苦しい言い訳……。

B-5 Baubles, Bangles And Beads
 オーラスはチェロとアルトサックスの楽しいアンサンブル、アドリブの掛け合いが実に良い雰囲気で、このアルバムの締め括りには最適の演奏です。
 キャノンホール・アダレイのハッスルぶりも微笑ましく、レイ・ブラウンの職人技も奥が深い感じで、イヤミがありません。

ということで、個人的には圧倒的にA面が気に入っています。まあ、こういう作品は大音量での鑑賞が必要とされる側面もありますから、我が国の住宅事情では些か厳しいところもあって、なかなか一般的な名盤扱いにはならないでしょう。

しかしジャズ喫茶で聴けば、瞬時に納得の傑作だと思います。特にA面は最高です♪

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ケッセル&エリスの華麗な逆襲

2008-09-23 14:14:18 | Jazz

Poor Butterfly / Barney Kessel & Herb Ellis (Concord)

クロスオーバー~フュージョンの嵐が吹きまくった1970年代のジャズ界では、しかし往年の4ビートスイングに拘ったレーベルが、しぶとく制作を続けていた事を今も忘れていません。

例えばアメリカ西海岸を本拠地にしていた「コンコード」は、モダンスイングというか、リラックスしたモダンジャズの素敵なアルバムをどっさり発売しています。

特にその初期にはギターをメインに据えた作品が多く、これはレーベルオーナーの趣味もあるのかもしれませんが、同時期のフュージョンがラリー・カールトンやりー・リトナー、エリック・ゲイルやアル・ディメオラ、さらにジョン・マクラフリンやラリー・コリエル、そしてジョージ・ベンソン等々の花形ギタリストをウリにしていた姿勢と、結果的に上手くリンクして対比出来るアルバムが作られたのは僥倖でした。

さて、このアルバムはバーニー・ケッセルとハーブ・エリスという、ともにモダンジャズ全盛期から活躍してきたベテランギタリストの共演盤♪ 丁々発止のやりとりから協調性が見事な演奏まで、流石の名演がたっぷりと楽しめます。

録音は1976年、メンバーはバーニー・ケッセル(g)、ハーブ・エリス(g)、モンティ・バドウィッグ(b)、ジェイク・ハナ(ds) というカルテット編成です――

A-1 Dearly Beloved
 快適なテンポで演じられるスタンダードの隠れ名曲で、2人のギタリストによるスピード感溢れる個性の激突が興奮を煽ります。左チャンネルがハーブ・エリス、右チャンネルがバーニー・ケッセル、そして真ん中からドラムス&ペースというステレオミックスにも安心感がありますねぇ~。
 こういう基本を大切にした姿勢こそが「コンコード」というレーベルが当時、多くのジャズ者から支持されていた理由のひとつでしょう。まあ、ちょっとひっかかるのが、如何にも電気増幅致しましたというベースの響きなんですが、これは1970年代の流行でしたから……。
 肝心のギター対決は、あまり上手くいっていないテーマアンサンブル、調子がイマイチのバーニー・ケッセルというところから、先が思いやられる感じですが、ハーブ・エリスはノリノリの快演ですし、バーニー・ケッセルにしても独特の「音の端折り」が、やっぱり魅力的なのでした。 

A-2 Monsieur Armand
 些か気負いが目立った前曲から一転、和みとスイング感に満ちた名演で、テーマアンサンブルの絶妙さ、パッキングの上手さが光るバーニー・ケッセル、それに負けじとアドリブが熱いハーブ・エリスという対比が流石だと思います。
 もちろんその逆もまた真なり! 十八番のフレーズを出し惜しみしないバーニー・ケッセルのノリは、本当に独特ですねぇ~♪

A-3 Poor Butterfly
 アルバムタイトル曲は、ちょいと古いスタンダードで、サラ・ヴォーンの名唱は有名ですが、インストならば、このバージョンが代表になるかもしれません。
 しっとりとした情感を上手く表現していく2人の名人ギタリストは、お互いのアドリブソロよりも伴奏のパート、そしてアンサンブルで真価を発揮するという、抜群の技量と懐の深さを披露しています。

A-4 Make Someone Happy
 これも良く知られたメロディが魅力のスタンダード曲を素材に、和みとジャズのスリルを堪能させてくれる名演♪ 個人的には、このアルバムの中で一番好きなトラックです。
 イントロからテーマのリードを最高のメロディフェイクで聞かせるハーブ・エリス、それを受け継いで素晴らしいアドリブを展開するバーニー・ケッセル! グルーヴィでリラックスしたリズム隊の存在も確実性が高いと思います。
 あぁ、それにしても歌いまくりのバーニー・ケッセル♪ 絶妙の合の手を入れるハーブ・エリス♪ この2人は共に前後してオスカー・ピーターソンのトリオではレギュラーを務めていたという、つまりは似た資質があるわけですが、カントリーや白人ブルースのフレーズとノリを意図的に用いるハーブ・エリスに対し、ジャズの保守本流に拘りながらコード弾きや低音域を複合的に使うバーニー・ケッセルという、お互いの異なる個性が実はひとつのルーツに収斂していく、ここでのそんな感じが私は大好きなのでした。

B-1 Early Autumn
 スタン・ゲッツが畢生の名演を残したウディ・ハーマン楽団のヒット曲ですから、そういうソフトでお洒落、幻想と豊かな情感を2人のギタリストがどのように表現しているかが、大いに楽しみな演奏です。
 そして結論は、これでいいのだっ!
 ゆったりしたテンポ、奥行きのあるリズム&ビートを基本に、息の合ったギターアンサンブルとアドリブパートのバランスが絶妙です。淡々とした中に、余人の入り込むスキなんて、有りはしないのです。この、ホンワカした音色の妙♪

B-2 Hello
 アップテンポで演じられるハーブ・エリスのオリジナル曲ですから、作者本人がいきなりの大ハッスル! ちょいとメリハリの効きすぎたドラムスが賛否両論かもしれませんが、負けじと飛ばすバーニー・ケッセルには苦笑いが出てしまいます。
 いゃ~、これこそがジャズの醍醐味というか、何時までも若さを失ってはいけませんねっ。

B-3 Blueberry Hill
 ニューオリンズ系R&Bスタイルで大ヒットしたファッツ・ドミノのボーカルバージョンが一番有名だろうという、お馴染みのメロディが心地良い快演です。
 実際、何とも言えない和みが横溢したテーマアンサンブル、原曲メロディを巧みに活かしたアドリブパートの旨み、楽しさがいっぱいの伴奏♪ ベンチャーズあたりにも通じるエレキインストっぽい仕上がりが憎めないのでした。

B-4 I'm A Lover
 如何にもジャズっぽい歌謡曲みたいなハーブ・エリスのオリジナルで、もうテーマを聴いているだけで満足してしまいます。このジンワリしたグルーヴは、しかしジャズ以外の何物ではありません。
 アドリブパートでもバーニー・ケッセルが十八番のコード弾きとチョーキングも絶妙に入れた素晴らしいフレーズを連発♪ ハーブ・エリスも作者の強みを活かした「泣き」の美メロを存分に聞かせてくれます。
 それゆえにベースソロが、ちょっと違和感……。

B-4 Brigitte
 オーラスはどこかで聞いたことのあるような、フォークロックみたいな素敵なメロディ♪ 初っ端からハーブ・エリスがオクターヴ奏法も使いながら、抜群のフェイクとアドリブを披露しています。ワルツビートの伴奏にも和みますねぇ~♪
 もちろんバーニー・ケッセルも素晴らしく、このグルーヴィなノリは名人というよりも、完全に「味」の世界でしょう。
 大団円に繋がるギターアンサンプルとベースの絡みも絶妙のスパイスとなって、またまた素敵なラストテーマのメロディに胸キュンの演奏なのでした。

ということで、ギターアルバムとしてはフュージョン全盛期に発売されたがゆえに地味な評価に甘んじた感もありますが、私は当時から密かに愛聴している1枚です。

リラックスしているようで、実は難しすぎるフレーズと奏法を楽々と弾きまくる2人のギタリストは、やはり名人としか言えません。このあたりは少しばかりギターに触っている私だけの感想かもしれませんが、ギターテクニックとかアンプや使用機材の云々について、様々に推察してしまう雑念は余計な御世話というところでしょう。

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怖いパウエルも必要!?

2008-09-22 08:45:24 | Jazz

Jazz Giant / Bud Powell (Norgran / Verve)


パド・パウエルは説明不要の天才で、モダンジャズのピアノスタイルを確立させた偉人ながら、そのリアルな絶頂期に接する機会は案外少ないのではないでしょうか。

まあ、絶頂期を何時にするかで考え方も異なるわけですが、一般的には1947年から1951年頃までとするのが妥当なところでしょう。しかしこの間にも精神障害や悪いクスリ等々で病院とシャバを往復していたパド・パウエルは、その凄味に満ちた演奏を存分にレコーディングしていたとは言えません。

つまりこの間に残されたレコードは、その偉業からすれば本当に少なく、また時代的にも決して良い音で残された演奏ばかりではありませんから、なかなかきちんと聴く気がしないというバチあたり……。

これはジャズ喫茶でも同様かと思われます。なにしろ定番として鳴っているのは後期の人気盤、例えば「The Scent Changes (Blue Note)」や欧州録音の「In Paris (Reprise)」あたりでした。確かにそれらは素敵なアルバムではありますが……。

そして同時にジャズの歴史では必聴とされるブルーノートセッションから作られた12インチ盤「The Amazing Vol.1 & 2」にしても、例えば「第1集」の冒頭に置かれた「Un Poco Loco」の三連発で疲れ果て、後はどうでも良いという雰囲気は免れません。

また、これも歴史的に決して無視出来ない1947年のルーストセッションは、録音も今日のレベルから聴けば稚拙ですし、なによりもパド・パウエルの演奏に鬼気迫る勢いがありすぎて、鑑賞が修行に転嫁する雰囲気も……。

その所為でしょうか、何故か同じ絶頂期を記録していたノーマン・グランツ制作によるノーグラン&ヴァーヴのセッションも、それほど聴かれているとは言えないと思います。その一番の要因は、同レーベルが1950年代中頃のパド・パウエルを録音した作品の質について、あまりにも無頓着にポロポロの演奏が多かったからでしょう。つまり「ヴァーヴのパウエルはダメ……」という定説が残ったのです。

しかし、それはあくまでも1950年代中期のパド・パウエルの姿であって、絶頂期を否定するものではありません。実際、本日の1枚を聴けば、目からウロコだったのが、私の体験です。

ということで、このアルバムはパド・パウエルが絶頂期だった1949年2月と1950年2月という、ふたつのセッションを纏めた12インチLPです。もちろん各収録曲はSPによる初出が多く、後に10インチ盤として再発されたものの再収録というのが真相ですから、演奏は3分前後のトラックばかりですが、その密度は文句無し! 聞くほどに圧倒されるほかはありません――

1949年2月録音
 A-1 Tempus Fugueit
 A-2 Celia
 A-3 Cherokee
 A-4 I'll Keep Loving You
 A-5 Strictly Confidential
 A-6 All God's Chillun Got Rhythm
 メンバーはパド・パウエル(p)、レイ・ブラウン(b)、マックス・ローチ(ds) という凄いトリオ! 演目も今や「パウエルのクラシック」となったオリジナルを4曲も含む、魂のセッションです。
 まずド頭のオリジナル曲「Tempus Fuguei」からしてテンションが高すぎるほどで、強靭な左手のコード弾き、スピード感満点の右手の指! その音選びにも気迫と熱気が満ちています。
 それはビバップ創成のカギとなったスタンダード曲「Cherokee」でも同様で、猛烈なスピード感と幻想性が奇跡の融合! マックス・ローチのブラシも凄いですねぇ~。このあたりは溢れんばかりの情熱で演じられた「All God's Chillun Got Rhythm」でも圧倒的ですから、もう、感動するしかありません。
 また有名な「Celia」や「Strictly Confidential」というパド・パウエルによるオリジナルバージョンは、和みモード優先ながら、ハッとするほど新鮮な音使い、そこはかとなく滲み出る哀感がたまらないほどです。
 そしてパド・パウエルが畢生の名曲・名演とされる「I'll Keep Loving You」は、完全なソロピアノで美しいメロディを力強く、さに夢見る如く奏でてくれますから、これも本当に感動的!
 ちなみにこれらの音源は一部、他社にも貸し出されていた事情がありますし、年代的にマスターが劣化している事もあって、アナログLP化された時は決して良好な再発とは言えませんでした。正直、雑音も混じっています。もちろん失礼ながら、日本盤はモヤモヤした音で煮え切らず、このあたりにも聴かれていない要因があるのですが、同じ再発でもモノラル仕様のアメリカ盤は、けっこう良い感じですし、CDであれば相当にハッキリしたリマスターになっていますので、これはぜひとも聴いていただきたい音源です。

1950年2月録音
 B-1 So Sorry Please
 B-2 Get Happy
 B-3 Sometimes I'm Happy
 B-4 Sweet Georgia Brown
 B-5 Yesterdays
 B-6 April In Paris
 B-7 Body And Soul / 身も心も
 こちらは前セッションから1年後の録音で、メンバーはパド・パウエル(p)、カーリー・ラッセル(b)、マックス・ローチ(ds) という、1947年のルーストセッションと同じトリオというだけで演奏の質は保証付き♪ 実際、本当に充実しきった名演ばかりです。
 それは猛烈な勢いや幻想性という、パド・パウエルというピアニストの天才性を証明する部分ばかりではなく、例えば「So Sorry Please」では絶妙のユーモア、「Sometimes I'm Happy」のファンキーな感覚、そして「Sweet Georgia Brown」では猛烈なスピードの中で伝統への回帰も感じさせる等々、進化したパウエル節の確立が楽しくも凄いところです。
 もちろん破滅的に爽快な「Get Happy」はハードバップへの足掛かりでしょうし、ソロピアノで演じられる狂気と偏執の「Yesterdays」は、余人を寄せ付けない境地を感じますが、それでいて、ちゃ~んと、和みもあるんですねぇ~~♪
 また一転して穏やかな「April In Paris」の優しい感情表現、十八番の幻想性が心に沁みる「Body And Soul」と、まさに名演ばかり! もちろんA面同様にノイズや雑音が混じっているマスターの劣化もありますが、これこそ聴かずに死ねるか、というセッションでしょう。

ということで、これぞパド・パウエルという真髄盤だと思います。しかし自発的に聴くためには、相当の覚悟というか、その日の気分やジャズに対する夢中感が必要なのは、紛れもない事実!

ですから、こういう演奏こそ、強制力のあるジャズ喫茶で聴かされるという「幸運」が必要かもしれません。残念ながら今日では堂々と営業しているジャズ喫茶という文化が廃れつつありますから、怖いパド・パウエルに接する機会は、ますます減少しているのではないでしょうか……。

しかし強制的に聞かされながら、何時しか自発的に演奏を聴いている自分に覚醒するのは、ジャズ者の快感に他なりません。ここに収められた演奏には、確かにそれがあると思います。

ジャズはあくまでも娯楽、と日頃から思っているサイケおやじにしても、たまにはこういう真剣勝負の極北にあるような演奏を朝から聴いて精神の修養、テンションを上げねばならない日もあるということで、本日はご容赦願います。

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日活モードのドナルド・バード

2008-09-21 11:47:57 | Soul Jazz

Up With Donald Byrd (Verve)

私にとってのドナルド・バードは、バリバリのハードバッパーであり、楽しいジャズをやってくれる人に他なりませんが、ジャズ雑誌やレコードの付属解説書を読んでいくうちに、ドナルド・バードは「知性派」とか「大学で博士号」なんていうことが強調されているんですねぇ……。

う~ん、わからん……。

だってドナルド・バードはファンキーやって、その挙句、1970年代にはファンクのメガヒット盤「Black Byrd (Blue Note)」まで出していますし、そこに至る1960年代中頃からの路程にしてもジャズロック~ソウルジャズの演奏を多数残していますからねぇ~♪

尤も、そこが我が国のジャズ喫茶じゃ、ほとんど無視状態なんですけど……。

さて、本日の1枚は私が愛聴して止まないアルバムで、中身は女性コーラス隊も従えた楽しい、楽しすぎる快楽盤♪ まあ、イノセントなジャズファンからしたら、ドC調極まりない演奏かもしれませんが……。

録音は1964年11&12月、メンバーはドナルド・バード(tp,arr) 以下、ハービー・ハンコック(p,key,arr)、ケニー・バレル(g)、ボブ・クランショウ(b)、ロン・カーター(b)、グラディ・テイト(ds)、キャンディド(per)、ジミー・ヒース(ts)、スタンリー・タレンタイン(ts) 等々が入り乱れ♪ そして「ザ・ドナルド・バード・シンガーズ」と称された女性コーラス隊、さらにアレンジャーとしてクラウス・オガーマンの参加も嬉しいところです――

A-1 Blind Man, Blind Man (1964年11月録音 / クラウス・オガーマン編曲)
 ハービー・ハンコックが自らのリーダー盤(Blue Note)にタイトル曲として発表していた典型的なジャズロック♪ もちろんそこにはドナルド・バードが参加していたという因縁は言わずもがな、このバージョンは、あのグルーヴィなリズムパターンにテーマメロディが女性コーラス隊のスキャットという、イカシたアレンジと演奏がたまりません。
 この「トュ~リテュ、テュ~」という、絶妙に脱力したコーラスが実に良いんですねぇ~。シンプルなフレーズに徹するドナルド・バードのトランペットも、それなりの味わいですが、ケニー・バレルのカッコイイ小技、3分に満たない演奏時間が大きな魅力でもあります。聴けば、ヤミツキ♪♪~♪
 ちなみにアルバムはステレオミックスですが、シングルカットのバージョンは当然、モノラルミックスが潔い感じです。

A-2 Boom, Boom (1964年11月録音 / クラウス・オガーマン編曲)
 これまたご存じ、黒人ブルースマンのジョン・リー・フッカーの代表曲にして元祖ブルースロックとも言うべき、一度聞いたら納得のメロディとブンブンブンのビートが楽しい演奏です。
 もちろんテーマは女性コーラス隊によって脱力気味に歌われ、ケニー・バレルが凄い名演を披露しています。これも、本当にカッコ良いですよっ!

A-3 House Of The Rising Sun (1964年11月録音 / クラウス・オガーマン編曲)
 邦題「朝日のあたる家」として、あまりにも有名な曲ですが、このアルバムが吹き込まれた1964年といえば、イギリスから多くのロックバンドがアメリカに殴りこんだ英国産ビートポップスの大ブーム期で、この曲も本来は古いアメリカの黒人民謡だったと言われているものの、やはり英国のアニマルズが強烈なR&Bロックにアレンジしたバージョンが大ヒット!
 ですからここに取り上げられるのもムベなるかな、しかしドナルド・バード以下のバンドは決して一筋縄ではいかない演奏を聞かせてくれます。決して「歌のない歌謡曲」になっていないんですねぇ。
 ドナルド・バードのアドリブはシンプルにして分かり易く、しかしリズム隊がコクのあってシャープな伴奏をつけていますし、ここでも女性コーラス隊が良い仕事♪ 完全に日活ハードボイルドな世界がなんともたまらない雰囲気で、まるで長谷部安春監督が撮るモノクロ映像って感じです。

A-4 See See Rider (1964年11月録音 / クラウス・オガーマン編曲)
 これも有名なR&Bのスタンダード曲ですから、女性コーラス隊も良い感じでノリノリ、ケニー・バレルのカントリー&ソウルなギターが鳴りわたり、グラディ・テイトの楽しいドラミング、そして簡単明瞭なドナルド・バードが潔いです。
 まあ、それゆえにこのアルバムは軽視されるんですが……。

A-5 Cantalope Island (1964年12月6日録音 / ハービー・ハンコック編曲)
 おそらく今日のジャズファンというよりも、クラブ系の音が好きな皆様にとっては、これがお目当ての演奏でしょう。そしてご安心ください、完全にその手の期待を裏切らないグルーヴィで雰囲気満点の仕上がりです。
 もちろんここでもコーラス隊が絶妙のスパイスになっていますし、中間部では短いながらもキマッたスタンリー・タレンタインのテナーサックスが聞かれます。

B-1 Bossa (1964年12月6日録音 / ドナルド・バード編曲)
 そのズバリの曲タイトルが嬉しいボサロック♪
 このアルバムの中では最も長い、8分近い演奏で、スタンリー・タレンタインのタフテナー、リズム隊のチャカポコグルーヴも実に楽しく、ドナルド・バードも気負いの無い好演だと思います。
 ただし同時期のブルーノート制作による趣向と比べると、お気楽度が高く、それゆえにケニー・バレルやハービー・ハンコックの存在が眩しく輝くのでした。
 正直に告白すれば、聞いているうちにキャノンボール・アダレイ(as) が聴きたくなりますよ。

B-2 Sometims I Feel Like A Motherless Child (1964年12月6日録音 / ドナルド・バード編曲)
 邦題が「時には母のない子のように」とはいっても、カルメン・マキじゃなくて、これも黒人霊歌を元ネタにしたソウルジャズです。ソフトにジンワリと歌うコーラス隊、そこにハービー・ハンコックが最高の伴奏、さらにドナルド・バードの丁寧なトランペットがあって、実に雰囲気が盛り上がります。
 ちなみにこのセッション全体をプロデュースしたのは、あのクリード・テイラーですからねぇ~♪ さもありなんと言えばそれまでですが、単なるムードジャズには陥っていないと思います。

B-3 You've Been Talkin' `bout Me Baby (1964年11月録音 / クラウス・オガーマン編曲)
 なんとも下世話なコーラス隊の歌いっぷり、ハービー・ハンコックのヤクザな伴奏もイカシたジュークボックス用の演奏です。実際、この曲はシングルカットされて、それなりにヒットしていたそうです。
 ちなみに男性のハミングボーカルはドナルド・バードでしょうか? なにしろ演奏中には全然、トランペットの音が聞こえませんから……。

B-4 My BaBe (1964年11月録音 / クラウス・オガーマン編曲)
 楽しいアルバムのラストを飾るに相応しいゴスペル系のジャズロック♪ ここでも女性コーラス隊が実に良い雰囲気で、この作品全体の成功は、そこにあると感じています。
 鳴り続ける手拍子、ふっきれたようなリズム隊のグルーヴ、ホーンのアレンジもシンプルでツボを外していません。

ということで、冒頭でも述べたとおり、我が国のジャズ喫茶では完全に無視されて当然の内容です。しかし私は、こういうのが本当に好きで、それは1960年代、あるいは昭和40年代の映画サントラに通じる演奏のキモが好きでたまらないからです。

それはジャズロックであり、ボサロック、あるいはソウルフルな歌謡曲の雰囲気でもあり、その下世話な感覚とグルーヴィなリズム&ビートが私の感性にジャストミートしているんですねぇ。

このあたりは少年時代から今に至るまで、全く変わらない私の本質で、周囲からは大いにバカにされていますが、まあ、リアルタイムから居直っていましたですね。

だから私は軽く見られているのですが……。

しかし全く懲りない私は、車の中でも聴くためにCDまで買ってしまったほどです。あぁ、愛おしい♪ 気分は日活ニューアクション♪

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