■Soundin' Off / Dizzy Reece (Blue Note)
ハードバップの王道盤「Star Bright (Blue Note)」を聴いて以来、私はディジー・リースのファンになりましたから、満を持して発表されたような、このワンホーン作品の独特の味わいにも、捨て難い魅力を感じています。
結論から言うと、決して歴史に残るような名盤ではありません。しかしここには、なかなか素晴らしいリズム隊の活躍があって、愛好者にはたまらない仕上がりなんですねぇ~♪
録音は1960年5月12日、メンバーはディジー・リース(tp)、ウォルター・ビショップ(p)、ダク・ワトキンス(b)、アート・テイラー(ds) ですから、如何にも「らしい」ハードバップが楽しめるのです。
A-1 A Ghost Of A Chance
トランペットではクリフォード・ブラウン畢生の名演がありますから、同じくワンホーンで演じるディジー・リースは最初っから苦難の道……。実際、サイケおやじにしても、やはり耳にしっかりと残っているクリフォード・ブラウンの輝きに満ちた吹奏ゆえに、ここでの演奏には些かの……。
それでも、あえてスローテンポでじっくりと、それこそ「かみしめる」ように美しいメロディを追求していくディジー・リースの姿勢は潔く、時折の不安定さとか曖昧さにトホホ感は否めませんが、それは「味」の世界として許せると言えば、贔屓の引き倒しでしょうか。
超一流のリズム隊が手堅い助演の中にも、各人の個性を聞かせてくれるのも、ハッとするほど良い感じ♪♪~♪
当時のアルバム制作の定石として、セッションの中の一番良い演奏をトップに置くという方針を鑑みれば、尚更に意味深じゃないでしょうか。
A-2 Once In A While
これまたクリフォード・ブラウンの大名演が歴史に残る名曲ですから、期待と不安が入り混じるわけですが、ウォルター・ビショップの味わい深いスローなイントロから一転、力強いミディアムテンポの4ビートでグイグイとテーマを吹奏していくディジー・リースの潔さ!
そのスタイルは決してハードバップにどっぶりではなく、微妙にモダンスイングの雰囲気も感じられるのですが、ハードエッジで真っ黒なリズム隊の存在が強烈ですから、結果は見事なモダンジャズです。
特にウォルター・ビショップは、あのピアノトリオの決定的な名盤「Speak Low (Jazz Time)」を吹き込む前年ということで、ほとんど同じ味わいを存分に聞かせてくれますよっ♪♪~♪
またアート・テイラーのシンバルとハイハットは重量感とキレの良さが流石ですし、ダク・ワトキンスのヘヴィなウォーキングにも、グッと惹きつけられるのでした。
A-3 Eb Pob
これまたモダンジャズの名トランペッターとして歴史に残るファッツ・ナバロの代表曲とあって、ディジー・リースの勇気ある挑戦には脱帽です。
もちろんここではアップテンポでバリバリと吹きまくる姿勢を貫き、アート・テイラーのカッコ良いシンバルワーク、ファンキーなウォルター・ビショップ、グイノリのダグ・ワトキンスという、重量級リズム隊との一体感も王道の素晴らしさ!
ディジー・リースとしては、前述した「Star Bright」の爽快感には些か及ばない荒っぽさが、逆に結果オーライだったと思われます。
B-1 Yesterdays
ウォルター・ビショップが作りだすパド・パウエル調のイントロ、如何にもハードバップなアート・テイラーのシンバルワークが導く魅惑のテーマ演奏は、既にしてディジー・リースの魅力が全開です。
演目は有名スタンダードということで、そのメロディフェイクの独特の味わい、ミディアムテンポでのグルーヴィな感覚、またそういう資質を見事に引き出すリズム隊の力量という、これが如何にもブルーノートらしい世界ですねぇ~♪
そしてここでもウォルター・ビショップが絶妙の快演ですよ♪♪~♪ 前述した名盤「Speak Low (Jazz Time)」で、このピアニストの虜になった皆様は以降、同じ味わいの演奏を求めたであろうことは暗黙の了解でしょうが、このアルバムは相当に近いところまでいっていると思います。
B-2 Our Love Is Here To Stay
いきなり大らかに有名なメロディを吹き始めるディジー・リース、それをしっかりとサポートするリズム隊の強い印象が鮮やかです。特にウォルター・ビショップがハッスルしていますねぇ~♪ ダグ・ワトキンスの重心の低いグイノリグルーヴも大きな魅力です。
そして素直なメロディフェイクから和みのアドリブへと繋げていくディジー・リースは余裕の歌心ですが、やはり幾分の不安定さが「味」と思わせられるのは、人徳でしょうか。まあ、これは自分に言い聞かせている部分もあるんですが……。
しかしウォルター・ビショップの快演はノー文句の素晴らしさ♪♪~♪ ガンガンに展開していくブロックコードの力強さ、バド・パウエルをファンキーで煮〆たようなフレーズのハードな味わいが最高です。
またダク・ワトキンスのペースワークとアート・テイラーのドラミングの相性も抜群で、まさに当時のハードバップの勢いが顕著に感じられると思います。
B-3 Blue Streak
そのあたりのグルーヴィなムードを思いっきり楽しめるのが、このディジー・リースのオリジナルブルース! とにかく初っ端からノリノリというバンドの勢いが楽しめます。
ディジー・リースにしても、このアルバムの中では一番の「らしさ」を聞かせてくれますし、リズム隊の豪快な煽りと躍動的な存在感は絶品ですねぇ~♪
ということで、あまり有名なアルバムではありませんが、個人的にはリズム隊中心に聴いて魅力満点を感じています。
と言うのも、既に述べたようにウォルター・ビショップが全篇で素晴らしく、翌年に超名盤の「Speak Low (Jazz Time)」を作ってしまうのも納得されます。それとアート・テイラーのシンバルワークやスネアが躍動的なドラミングも強い印象で、この人は残された録音が多い所為か、あまり評価されていませんが、やはり凄いと思います。
ちなみにディジー・リースは、このセッションからしばらくリーダー盤が途絶えてしまいますので、尚更に大切にしたいアルバムです。