OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ディジー・リースとウォルター・ビショップ

2009-01-31 11:47:02 | Jazz

Soundin' Off / Dizzy Reece (Blue Note)

ハードバップの王道盤「Star Bright (Blue Note)」を聴いて以来、私はディジー・リースのファンになりましたから、満を持して発表されたような、このワンホーン作品の独特の味わいにも、捨て難い魅力を感じています。

結論から言うと、決して歴史に残るような名盤ではありません。しかしここには、なかなか素晴らしいリズム隊の活躍があって、愛好者にはたまらない仕上がりなんですねぇ~♪

録音は1960年5月12日、メンバーはディジー・リース(tp)、ウォルター・ビショップ(p)、ダク・ワトキンス(b)、アート・テイラー(ds) ですから、如何にも「らしい」ハードバップが楽しめるのです。

A-1 A Ghost Of A Chance
 トランペットではクリフォード・ブラウン畢生の名演がありますから、同じくワンホーンで演じるディジー・リースは最初っから苦難の道……。実際、サイケおやじにしても、やはり耳にしっかりと残っているクリフォード・ブラウンの輝きに満ちた吹奏ゆえに、ここでの演奏には些かの……。
 それでも、あえてスローテンポでじっくりと、それこそ「かみしめる」ように美しいメロディを追求していくディジー・リースの姿勢は潔く、時折の不安定さとか曖昧さにトホホ感は否めませんが、それは「味」の世界として許せると言えば、贔屓の引き倒しでしょうか。
 超一流のリズム隊が手堅い助演の中にも、各人の個性を聞かせてくれるのも、ハッとするほど良い感じ♪♪~♪
 当時のアルバム制作の定石として、セッションの中の一番良い演奏をトップに置くという方針を鑑みれば、尚更に意味深じゃないでしょうか。

A-2 Once In A While
 これまたクリフォード・ブラウンの大名演が歴史に残る名曲ですから、期待と不安が入り混じるわけですが、ウォルター・ビショップの味わい深いスローなイントロから一転、力強いミディアムテンポの4ビートでグイグイとテーマを吹奏していくディジー・リースの潔さ!
 そのスタイルは決してハードバップにどっぶりではなく、微妙にモダンスイングの雰囲気も感じられるのですが、ハードエッジで真っ黒なリズム隊の存在が強烈ですから、結果は見事なモダンジャズです。
 特にウォルター・ビショップは、あのピアノトリオの決定的な名盤「Speak Low (Jazz Time)」を吹き込む前年ということで、ほとんど同じ味わいを存分に聞かせてくれますよっ♪♪~♪
 またアート・テイラーのシンバルとハイハットは重量感とキレの良さが流石ですし、ダク・ワトキンスのヘヴィなウォーキングにも、グッと惹きつけられるのでした。

A-3 Eb Pob
 これまたモダンジャズの名トランペッターとして歴史に残るファッツ・ナバロの代表曲とあって、ディジー・リースの勇気ある挑戦には脱帽です。
 もちろんここではアップテンポでバリバリと吹きまくる姿勢を貫き、アート・テイラーのカッコ良いシンバルワーク、ファンキーなウォルター・ビショップ、グイノリのダグ・ワトキンスという、重量級リズム隊との一体感も王道の素晴らしさ!
 ディジー・リースとしては、前述した「Star Bright」の爽快感には些か及ばない荒っぽさが、逆に結果オーライだったと思われます。

B-1 Yesterdays
 ウォルター・ビショップが作りだすパド・パウエル調のイントロ、如何にもハードバップなアート・テイラーのシンバルワークが導く魅惑のテーマ演奏は、既にしてディジー・リースの魅力が全開です。
 演目は有名スタンダードということで、そのメロディフェイクの独特の味わい、ミディアムテンポでのグルーヴィな感覚、またそういう資質を見事に引き出すリズム隊の力量という、これが如何にもブルーノートらしい世界ですねぇ~♪
 そしてここでもウォルター・ビショップが絶妙の快演ですよ♪♪~♪ 前述した名盤「Speak Low (Jazz Time)」で、このピアニストの虜になった皆様は以降、同じ味わいの演奏を求めたであろうことは暗黙の了解でしょうが、このアルバムは相当に近いところまでいっていると思います。 

B-2 Our Love Is Here To Stay
 いきなり大らかに有名なメロディを吹き始めるディジー・リース、それをしっかりとサポートするリズム隊の強い印象が鮮やかです。特にウォルター・ビショップがハッスルしていますねぇ~♪ ダグ・ワトキンスの重心の低いグイノリグルーヴも大きな魅力です。
 そして素直なメロディフェイクから和みのアドリブへと繋げていくディジー・リースは余裕の歌心ですが、やはり幾分の不安定さが「味」と思わせられるのは、人徳でしょうか。まあ、これは自分に言い聞かせている部分もあるんですが……。
 しかしウォルター・ビショップの快演はノー文句の素晴らしさ♪♪~♪ ガンガンに展開していくブロックコードの力強さ、バド・パウエルをファンキーで煮〆たようなフレーズのハードな味わいが最高です。
 またダク・ワトキンスのペースワークとアート・テイラーのドラミングの相性も抜群で、まさに当時のハードバップの勢いが顕著に感じられると思います。

B-3 Blue Streak
 そのあたりのグルーヴィなムードを思いっきり楽しめるのが、このディジー・リースのオリジナルブルース! とにかく初っ端からノリノリというバンドの勢いが楽しめます。
 ディジー・リースにしても、このアルバムの中では一番の「らしさ」を聞かせてくれますし、リズム隊の豪快な煽りと躍動的な存在感は絶品ですねぇ~♪

ということで、あまり有名なアルバムではありませんが、個人的にはリズム隊中心に聴いて魅力満点を感じています。

と言うのも、既に述べたようにウォルター・ビショップが全篇で素晴らしく、翌年に超名盤の「Speak Low (Jazz Time)」を作ってしまうのも納得されます。それとアート・テイラーのシンバルワークやスネアが躍動的なドラミングも強い印象で、この人は残された録音が多い所為か、あまり評価されていませんが、やはり凄いと思います。

ちなみにディジー・リースは、このセッションからしばらくリーダー盤が途絶えてしまいますので、尚更に大切にしたいアルバムです。

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もうひとりのジーン・ハリス

2009-01-30 16:34:52 | Jazz

Our Love Is Here To Stay / The Gene Harris Trio (Jubilee)

同姓同名の人はどこの国にもいますし、ジャズ界だけでも、例えばビル・エバンスというピアノ弾き、あるいはサックスプレイヤーが有名ですよね。

本日の主役、ジーン・ハリスもピアニストなんですが、黒人は有名なスリー・サウンズで活躍した人気者ながら、このアルバムのジーン・ハリスは、どうやら白人だと言われています。

もちろんそんな事を私は最初から知っていたわけではなく、友人が大金を出して入手したこの盤を聴かせてもらって、はじめて吃驚したというわけです。

録音データは不明ですが、原盤裏ジャケットに記載されたメンバーはジーン・ハリス(p)、マイク・ロング(b)、ジョージ・ハーマン(ds) という正統派のピアノトリオですし、演目も有名スタンダードと小粋な名曲がズラリとならんでいます。

 A-1 Let's Fall In Love
 A-2 I'd Do Anything For You
 A-3 Cheerful Little Earful
 A-4 A Foggy Day
 A-5 My Heart Belongs To Daddy
 A-6 There'll Never Be Another You
 A-7 The Girl Friend
 A-8 Love Me Or Leave Me
 B-1 Old Devil Moon
 B-2 Varsity Drag
 B-3 Our Love Is Here To Stay
 B-4 Almost Like Being In Love
 B-5 Try A Little Tenderness
 B-6 Out Of This World

オリジナル盤は、相当な値段がついていますが、過去にはフレッシュサウンドから再発もなされたという人気があるとおり、1曲あたりの演奏時間は2~3分前後で、その洒脱なムードが上手く楽しめる構成は秀逸です。

肝心の白人版ジーン・ハリスのピアノは、歌心優先主義にしてスイングしまくるスタイルですから、所謂カクテル系ということで、黒人版ジーン・ハリスが十八番のブル~スフィーリングなんてものは、ほとんど聞かれません。

しかし何も考えず、気楽にジャズピアノを楽しんで欲しいという意図は、両者共通のものでしょう。

また険悪な話を持ち込む来客との時間にも、ちょっと場を和ませる効果が抜群ですよ。

さて、私が今、聴いているのは、東芝から復刻されたCDなんですが、これがなかなかイヤミの無いリマスターですから、ここでのクセの無いジーン・ハリスのピアノスタイルには相性バッチリ♪♪~♪

まあ、それでもオリジナルが欲しいなぁ……、なんて念じていたら、前述の友人が譲ってくれることになりました。実は急に現金が必要なので、コレクションを少し処分したい云々というメールが届き、その中のリストに、このブツがあったのです。

もちろん速攻で返信しましたが、本日アップしたジャケットは、そこに添付されていた画像です。

あぁ、早く手にしたいなぁ~♪

コレクションを手放すマニアの心情は痛いほどにわかっているつもりですが、ちょっとウキウキして、申し訳ないと平身低頭です。

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コルトレーンの印象といえば、これっ!

2009-01-29 13:31:19 | Jazz

Impressions / John Coltrane (Impulse!)

生まれつきの体質なのか、ほとんど酒に酔わないサイケおやじは決して酒席を好みませんが、それにしても昨夜の酒は、思いっきり不味かったです。

というのも最近、縺れている仕事の内幕や裏事情という、知りたくもなかった話や泣き事を聞かされて、なんだぁ、マジでやっていたのは自分だけだったのか、という真相に愕然とさせられたから……。

本当に踊らされていた自分が情けないというか……。

それゆえに本日は朝っぱらか、こんな過激盤で憂さ晴らしです。

内容は皆様がご存じのとおり、ジョン・コルトレーンが自分のレギュラーバンドにエリック・ドルフィーを招き入れて敢行した、歴史的な1961年11月のヴィレッジ・ヴァンガードでのライブ音源に、少し後のスタジオセッションから選ばれた演奏を組み合わせて作られた名盤です。

A-1 India (1961年11月3日、ヴィレッジ・ヴァンガードでのライブ)
 オドロの情念が爆発した、如何にもコルトレーンな過激な名演で、メンバーはジョン・コルトレーン(ss)、エリック・ドルフィー(bcl)、マッコイ・タイナー(p)、レジー・ワークマン(b)、ジミー・ギャリソン(b)、エルビン・ジョーンズ(ds) という鬼の様なバンドです。
 もちろんライブセッションとあって、その場の空気の熱さと緊張感は怖いほどですが、それが聴き手の興奮と魂の高揚に密着しているのは言わずもがなでしょう。
 2人のベーシストがウネリまくった大波を作れば、エルビン・ジョーンズが強烈なポリリズムで空間を埋め尽くす土台があって、ジョン・コルトレーンもエリック・ドルフィーも忌憚の無い心情吐露に専念します。特にソプラノサックスでネクラなヒステリーを演じるジョン・コルトレーンに対し、バスクラリネットでそうしたドグマの呪縛から逃れんと咆哮するエリック・ドルフィーというコントラストが激しすぎますねぇ~。演奏が進むにつれてドロドロに煮詰まっていく展開には、ただただ、身を任せる他はありません。
 そういうわけですから、マッコイ・タイナーはほとんど演奏に入り込んでいくことが出来なかったのか、ポツンポツンとしか音を出せない引っ込み思案な伴奏ですが、それが意想外に効果的というか……。
 とにかく重量感満点、凄いとか言えない演奏には、金縛りにあってしまいます。

A-2 Up 'Gainst The Wall (1962年9月18日録音)
 前曲から1年ほど後のスタジオセッションからの短い演奏で、メンバーはジョン・コルトレーン(ts)、ジミー・ギャリソン(b)、エルビン・ジョーンズ(ds) というピアノレストリオによる、些かひねくれたブルースですが、これが如何にも「コルトレーンのブル~ス」になっています。
 ポリリズムでヘヴィなビートを敲き出すエルビン・ジョーンズは、何時ものとおりの爆裂エネルギーを噴出させ、ウネウネクネクネと身を捩るジョン・コルトレーン、それを冷ややかに支えるジミー・ギャリソンという構図は、本当に変な感じ……。
 しかしこういうクールな姿勢こそが、実は当時のモダンジャズ最先端というわけでしょうねぇ……。アトランティック期の「Plays The Blues」を引き継いで、さらに発展させようとした目論見かもしませんが、ちょいと物足りません。
 ただし前曲の激しさの後では、妙に心地良いのも確かです。

B-1 Impressions (1961年11月3日、ヴィレッジ・ヴァンガードでのライブ)
 あまりにも有名なジョン・コルトレーンの定番演目の、これが公式初出バージョンという熱血ライブ演奏です。
 メンバーはジョン・コルトレーン(ts)、マッコイ・タイナー(p)、ジミー・ギャリソン(b)、エルビン・ジョーンズ(ds) という至高のカルテットとされていますが、実はラストテーマの最後の最後に一瞬だけ、エリック・ドルフィー(as) が参加しているのはご愛敬!?
 そして演奏は典型的なモードジャズの激烈な展開が存分に楽しめます。いや、今となっては楽しめるというのも一部のファンだけかもしれませんが、それでも私の世代のように、ジャズ喫茶で青春を過ごした皆様には、唯一無二の時間じゃないでしょうか。
 エルビン・ジョーンズのドカドカうるさいドラミングは痛快なほどにジャズ心を直撃してきますし、自分から険しい道を選んでしまうようなジョン・コルトレーンの苦行のアドリブ、それを後押しするジミー・ギャリソンのペースはブリブリブリ! さらにほとんど入り込む余地のないマッコイ・タイナーの心境は如何に!?
 とにかく疾風怒濤ですよっ、これは!

B-2 After The Rain (1963年4月29日録音)
 前曲の興奮と心のざわめきを静かに癒してくれる、ジョン・コルトレーンが書いた静謐なメロディが、なかなかに精神性を強くして演奏されます。
 メンバーはジョン・コルトレーン(ts)、マッコイ・タイナー(p)、ジミー・ギャリソン(b)、ロイ・ヘインズ(ds) という、諸事情でエルビン・ジョーンズが抜けていた時期の録音ですが、実に濃密な仕上がりになっています。
 率直に言えば、スローテンポながら重厚なリズム隊のグルーヴに思わせぶりなジョン・コルトレーンの表現がジャストミートした結果としての心地良さ♪♪~♪ このアルバムでは、ほとんど活躍していないマッコイ・タイナーも、いかにも「らしい」装飾フレーズで彩を添えていますし、気になるロイ・ヘインズも得意のオカズを押さえて堅実な助演には好感が持てます。

ということで、以前にご紹介した「Live At The Village Vanguard」と並び立つ名盤の中の大名盤です。しかも発売されたのが1963年ということで、この頃にはジョン・コルトレーンの過激な姿勢が業界からもファンからも認められていたらしく、最初から非難の対象となっていた前出盤とは比較にならないほど、発売直後から絶賛されたと言われています。もっとも売上は先行して世に出ていた「Ballads」には及びませんが……。

しかしタイトル曲はモダンジャズの定番となるほどのメロディとして知られ、またそのアドリブパターンやフレーズ構成は、コルトレーンと言えば、これっ! というほどに強いイメージとして残ります。

ジャズ喫茶の大音量で聴くのが、やはり一番好ましいと思いますが、自宅での鑑賞でもついついボリュームを上げざるをえませんから、高級ヘッドホーンが欲しくなったりします。

やっぱりアブナイなぁ、このアルバムは! でも、必ずスカッとしますよ。

ちなみにヴィレッジ・ヴァンガードでの音源は後に残された録音が集大成され、同じ演目でもさらに激しく、痛烈な結果を出したテイクも聴かれますが、やはり基本はこれと「Live At The Village Vanguard」でしょうね。

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痛快に裏切ったドナルド・バード

2009-01-28 10:58:03 | Jazz

Blackjack / Donald Bird (Blue Note)

大衆芸能の制作の基本は、所謂プログラムシステム、つまり「二番煎じ」とか「柳の下の泥鰌」なんですが、それが裏切られることが間々あります。そこには自分の好みに強い思い入れを抱くという、結果的に、ある意味でのスケベ心を逆手に取られる悔しさがあるわけですが、それが良い方向に裏切られる場合だと、非常な快感になってしまうのも、また事実じゃないでしょうか。

と、まあ、些かクドイ書き出しになってしまいましたが、本日ご紹介のアルバムはサイケおやじにとって、まさにそうした1枚でした。

録音は1967年1月9日、メンバーはドナルド・バード(tp)、ソニー・レッド(as)、ハンク・モブレー(ts)、シダー・ウォルトン(p)、ウォルター・ブッカー(b)、ビリー・ヒギンズ(ds) という、ジャズロック~ハードバップの快楽盤だった前作「Mustang」と極めて近いバンドによるものでしたから、同等の味わいを期待したのですが……。

A-1 Blackjack
 一応はロックビートが強い演奏とはいえ、このオトボケファンキーな味わいは、セロニアス・モンクがジャズロックをやったような、鋭角的でミョウチキリンなムードが……、しかし絶妙にカッコイイ! このあたりの感覚は、日活ニューアクションではホンワカ場面のサントラ音源とか、ブレイク直後の日野兄弟クインテットあたりにも受け継がれるものでしょう。
 そうしたビート感を素直に表したテーマ合奏からアドリブの先発を務めるソニー・レッドのブチキレた感じが、これまた常識外というか、チャーリー・パーカー直系という得意のビバップフレーズを封印してエキセントリックな節回しを演じるんですから、先入観の強いサイケおやじは吃驚仰天でした。これって……???
 するとドナルド・バードやハンク・モブレーまでもが、何時もの「お約束」を破ってしまったような新感覚で勝負してくるんですねぇ……。
 今になって思えば、実はそれもこれも、リズム隊の新しいグルーヴというか、厳しいまでにタイトなビート感とモダンジャズでは珍しいリズムパターンによるところだと思います。とにかくベースとドラムスのコンビネーションのカッコ良さは圧巻ですよっ!
 好き嫌いは十人十色でしょうが、こんな事は当時の最先端とされていたマイルス・デイビスのバンドでさえ出来なかった、極めてロックでジャズなニューモードじゃないでしょうか。聴くほどにゾクゾクさせられる不思議な快演だと思います。 

A-2 West Of The Pecos
 と、初っ端の賛否両論から一転、これはアップテンポでブッ飛ばした痛快なモード系ハードバップです。マイルス・デイビスでお馴染みの「天国への七つの階段」を焼き直したようなテーマアンサンブルから、とにかく全力疾走のアドリブパートまで、本当に熱くさせられまねぇ~♪
 特にドナルド・バードの大ハッスルは、この時期の代表的な名演ですし、ツッコミ鋭いソニー・レッド、マイルス・デイビスのバンドでは些か下手を打ってしまったハンク・モブレーにしても、その雪辱的な意味合いが感じられるほどです。
 もちろんリズム隊の爽快さは言わずもがな、キレの良いビリー・ヒギンズのメイチャイケ4ビートには溜飲が下がります。

A-3 Loki
 これまた痛快至極なモード系ハードバップの熱演で、前曲と似たようなムードが濃厚なのは、作者がシルベスター・カイナーことソニー・レッドだったというわけです。イントロもテーマもゴッタ煮のようなリフの作り方が、実にモダンジャズの王道ですよねぇ~♪
 そしてアドリブパートでは、作者のソニー・レッドがエリック・ドルフィー系の過激節! 失礼ながら、ここまでやれる人だとは思いませんでした。
 またドナルド・バードが、当時バリバリの気鋭だったフレディ・ハバードの牙城に迫るような勢いで吹きまくれば、ハンク・モブレーは持ち味のタメとモタレを失わずに突進、続くシダー・ウォルトンも颯爽としていますから、演奏時間の短さが残念なほどです。

B-1 Eldorado
 ほとんどギル・エバンスがマイルス・デイビスと共演したかのような曲で、実際、ドナルド・バードが聞かせるスタイルは、マイルス・デイビスのムードを強く感じさせます。
 このあたりを笑ってしまうのはリスナーの自由かもしれませんが、なんか憎めないんですよねぇ~。それだけギル&マイルスの作りだしていた世界が不滅の輝きなんでしょうが、臆面もなくそれをパクってしまったバンドには、それほどの目論見があったか否か……。
 その中では独特のファンキーさを打ち出したシダー・ウォルトンが、素敵だと思います。

B-2 Beale Street
 というモヤモヤを吹き飛ばすのが、この快楽的なジャズロックですが、これすらも一聴してリー・モーガンの「The Sidewinder」を強く連想させられます。
 ですからハンク・モブレーが余裕のブローを聞かせれば、ソニー・レッドはジャッキー・マクリーンがネボケたような節回しで痛快! ドナルド・バードは当然ながらリー・モーガンを意識しつつ、ここでも臆面の無い楽しさを追求するのでした。
 う~ん、ビリー・ヒギンズのドラミングが、やっはりミソなんでしょうねぇ~♪

B-3 Pentatonic
 相当なアップテンポで過激に走ったハードバップの王道名演で、まずは安定感抜群のリズム隊が作りだすスリルとサスペンスが気持ちE~~♪
 ビシッとキマッたテーマ合奏から痛烈に新しいフレーズしか吹かないソニー・レッド、自作のテーマを上手く変奏しつつもスケール練習に陥らないドナルド・バード、さらに縺れる寸前のハンク・モブレーが、火傷しそうなアドリブを堪能させてくれますが、シダー・ウォルトンの負けん気も良い感じです。
 あぁ、これも演奏時間がアッという間の夢のひととき♪♪~♪

ということで、なかなかにモダンジャズ王道の演奏集なんですが、既に述べたように前作「Mustang」の快楽性を期待すると些かハズレます。しかしデータ的にはそれから半年ほどしか経っていない、ほとんど同じバンドが、どうしてこんなに直線的な過激さへと方針転換したのか、ちょっと驚かされるほどの快感があるんですねぇ~♪

これこそ「裏切られた快感」というか、決してM的な意味ではなく、ほとんどガイド本でも無視されているようなアルバムが、これほどモダンジャズど真ん中の仕上がりだったという結果に満足させられたのです。

ちなみに原盤裏ジャケットには、その「Mustang」が写真入りで紹介されていますから、ますます同じ傾向の内容だと思わされる、これは一種の詐術を狙ったんでしょうか。

まあ、それはそれとして、特にここでのソニー・レッドは従来の保守的なイメージを一新する前向きな姿勢が素晴らしく、ドナルド・バードやハンク・モブレーまでもが刺激を受けたかのような新しさを聞かせてくれるのは、全く望外の喜びでした。

シダー・ウォルトンのフレッシュな感覚、またウォルター・ブッカーの密かな過激さ、ビリー・ヒギンズの上手さが化学変化的に融合したリズム隊も素晴らしく、特にタイトル曲「Blackjack」でのビート感は、本当に不思議な快感を呼ぶのでした。

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エバンスの耽美の極み

2009-01-27 11:33:30 | Jazz

You Must Believe In Spring / Bill Evans (Warner Bros.)

おそらくはビル・エバンスでは最高の人気盤にして、ピアノトリオ盤の大傑作! しかし驚いたことには、なんとビル・エバンスの死後、1年ほど後に発売されたという追悼盤にもなっています。

実際、1982年当時の我が国ジャズ喫茶は下降線でしたから、混み合うこともない暗い店内に、この淡い色彩のジャケットが飾られ、耽美の極北というピアノ演奏が流れる空間は、今でも忘れられない味わいがありました。

そうです、このアルバムこそが、ある意味ではビル・エバンスが目指した到達点だったのかもしれません。

録音は1977年8月22~25日、メンバーはビル・エバンス(p)、エディ・ゴメス(b)、エリオット・ジクムンド(ds) という当時のレギュラートリオで、しかもワーナーへ移籍後の初セッションだったと言われています。

A-1 B Minor Walts
 ビル・エバンスのオリジナルで、自身の美しいアドリブフレーズだけを抽出して書かれたような魅惑のメロディ、そして全てが華麗にして耽美な即興演奏の極致という演奏です。
 ゆるやかなテンポは、まさにビル・エバンスが十八番の世界てあり、これを完璧に表現できるのも、またビル・エバンスしかいないでしょう。
 ベースとドラムスも、その意図を完全に理解した、レギュラートリオならではの纏まりが全くの自然体♪♪~♪ 3分ちょっとの短いトラックですが、アルバム全体のムードを決定づける抜群の露払いになっています。

A-2 You Must Believe In Spring
 そして続くのがミッシェル・ルグラン畢生の名曲なんですから、たまりません。 陰鬱にして華麗なメロディの魔術という、ゆったりしたテーマ演奏からビート感を速めたベースソロ、そしてクールなピアノのアドリブへと展開されるあたりは、ビル・エバンスのトリオならではの定石ですが、明らかにマンネリを逆手にとった安心感は流石だと思います。

A-3 Gary's Theme
 ビル・エバンスの盟友だったゲイリー・マクファーランドが書いた、なかなか綺麗なメロディの佳曲ですが、このトリオの解釈によって、尚更に耽美な印象が強くなっています。
 なにしろビル・エバンスのピアノからは、せつないほどに美しいメロディしか出ないのです。
 これって、ほんとうにアドリブ!?
 その意味では、些か小賢しいようなエディ・ゴメスのペースワークが、効果的なスパイスになっているのかもしれません。
 
A-4 We Will Meet Again (For Harry)
 ビル・エバンスの実兄で、音楽家のハリーに捧げられたスタンダード曲の名演です。
 ゆるやかに原曲メロディをフェイクしていくテーマ部分の美しさ、そしてエディ・ゴメスの躍動的なペースソロから再び登場するビル・エバンスのアドリブは、感情の機微や人生の浮き沈みをも表現しているような深みが感じられ、エリオット・ジグムンドの素晴らしいドラミングもあって、数多い同曲のジャズバージョンでは最高級の仕上がりだと思います、

B-1 The Peacocks
 B面に入っては、これまた絶句するほどに素晴らしい大名演が続きますが、その最初に聞かれるのがモダンジャズでは隠れ名曲の誉れも高いジミー・ロウルズのオリジナル♪♪~♪ というよりも、丸っきりビル・エバンスが自作したようなムードに変奏されているところに強い印象が残ります。
 ジェントルなメロディ展開をクールに表現し、さらにハートウォームな余韻がたまりませんねぇ~~♪ 繊細なピアノタッチを完璧にとらえた録音も最高だと思います。

B-2 Sometime Ago
 これは私の大好きな名曲メロディなんですが、このビル・エバンスのバージョンは原曲を活かしつつ、それ以上の美メロが出まくった傑作バージョンになっています。
 ビートの芯を失わずに空間を浮遊するようなフェイクを聞かせるテーマ演奏から、既にしてトリオの一体感は抜群ですし、ビル・エバンスの究極の美学が完成されたピアノには、ジャズを好きになって良かった……! という感想しかありません。
 エディ・ゴメスの何時もは饒舌なベースソロも、ここではほどよい言葉の選び方で好感が持てますし、メロディ優先主義のビル・エバンスは、やっぱり素敵です。

B-3 Theme Form M*A*S*H
 そのあたりが大団円を迎えるのが、この有名映画音楽曲で、このアルバムの中では一番の力強い演奏になっていますが、あくまでもメロディを中心とした潔さが魅力です。
 疑似ボサロック調のリズムも心地良く、しかし決して定型ではない変幻自在な躍動感とジャズ的な面白さに満ちていますから、ビル・エバンスも相当にハードな一面を聞かせてくれますが、それはイヤミではありません。
 もしかしたら、このアルバムの中では最高に分かり易い演奏かもしれませんね。そして最後の最後であっけなく終ってしまうところが、何故か絶妙に感じられます。もちろんそれは、ビル・エバンスはもう、この世の中にはいないんだぁ……、という感傷が作用しているのですが……。

ということで、実はこの時のセッションには幾つかのアウトテイクも残されているのですが、その中から選び抜いた7曲で構成されたアルバムには、既に述べたように究極の美しき流れが顕著です。

ジャズ喫茶では店によってA面かB面かに人気が分かれていたのも、また事実であるように、耽美華麗で統一されたこの作品にも、アナログ盤ならではの個性が微妙に存在しているのも聞き逃せません。

告白すると発売直後に入手したアナログ盤を聴きまくり、さらにアウトテイク目当てにCDを買って、AB面を一気に聴き通したこともありますが、やはりA面を聴き終えてB面にひっくり返すというアナログ盤LP特有の儀式が、このアルバムにも必要なんじゃなかろうか……? なんて思っています。

ちなみにCDのボーナストラックには「Without A Song」「Freddie Freeloader」「All Of You」という、同日セッションからの3曲が聞かれますが、明らかにオリジナルLPの流れからは異質です。ただし、いずれも出来は最上級なんですから、苦笑いというか……♪

つまりこのアルバムは、プロデュースを担当したトミー・リピューマとビル・エバンスのマネージャーだったヘレン女史の手腕が抜群だったという証でもあります。なにしろトミー・リピューマはソフト&メロウな路線でジョージ・ベンソンを大ブレイクさせ、そのままフュージョンやAORをブームにした仕掛人のひとりですから、このアルバムの統一された耽美感覚はある意味のお洒落です。それゆえにリアルタイムではあまりジャズを聞かない女性にもウケたと言われていますし、当時流行のカフェバーでも御用達♪♪~♪

しかしそれにしても、これが死後に出たというのも意味深です。ここからは全くサイケおやじの妄想なんですが、ビル・エバンス本人は、ここまでやってしまったら最後……。なんて思っていたのかもしれません。

実際、鉄壁のレギュラートリオはこのセッションの直後にメンバーチェンジが行われ、長年の相棒だったエディ・ゴメスが去っていきました。

アガサ・クリスティは自らが生み出した名探偵ポアロの最後の事件を、発表された時期よりもかなり以前に書きあげていたそうですし、ビル・エバンスにしても、このセッション後には若手メンバーを起用して、新しい道のりを歩み始めたのですが……。

そんな現実を思い起こしながら聴くのも味わい深く、また、あまりの人気盤ゆえに様々な反論・反感も承知しておりますが、何も考えずに耽美な世界に浸り切る素晴らしい時間を提供してくれる名盤として、私は素直に好きだと、もう一度、告白しておきます。

寒い季節に聴いても、静謐な気分の中、心に温もりが広がりますよ。春も近い♪♪~♪

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若き日のペッパーの勢い

2009-01-26 12:08:40 | Jazz

The Late Show / Art Pepper (Xnadu)

自惚れや若気の至りとは違うところで、人間には誰しも怖いもの知らずの時期が必ずあるんじゃないでしょうか。今では怖いものがいっぱいというサイケおやじにしても、そんな頃がありました。

本日の主役、アート・ペッパーにしても、歴史に名を残す天才アルトサックス奏者ですが、その人生は波乱万丈……。芸術的なアドリブの才能を悪いクスリによって自滅させていったところから、復帰後の賛否両論の活動まで、常に多くのファンに支持されていたとはいえ、やはり1950年代の鮮烈な演奏に勝るものはないと思います。

それは同時に、アート・ペッパーが麻薬に深入りしていた事実をも容認することであり、しかし本人は怖いもの知らずの勢いというか、それゆえの天才性の発揮していたというのは、贔屓の引き倒しでしょうか……。

このアルバムはスタン・ケントン楽団から独立して結成したカルテットの、公式初リーダーセッション直前のライヴを発掘した貴重な1枚で、まさに全盛期真っ只中の演奏が楽しめます。

録音は1952年2月12日、メンバーはアート・ペッパー(as)、ハンプトン・ホーズ(p)、ジョー・モンドラゴン(b)、ラリー・バンカー(ds,vib) という凄いバンドですが、この時の録音からはもう1枚、「Th Ealy Show」というアルバムが出ていて、どちらも同等の素晴らしさ♪♪~♪

ちなみにこれを録ったのは、ポブ・アンドリュースという熱心なマニアだったそうですが、1970年代にレコード化されるにあたり、丁寧に音質の補正が行われ、余計な拍手等も削られていますので、その良し悪しは別としても素直に演奏そのものを楽しめます。

A-1 A Night In Tunesia
 モダンジャズの定番曲で、アルトサックスの演奏としてはチャーリー・パーカーの歴史的な名演が残されていますから、それをアート・ペッパーが演じるというだけでワクワクしてきますねぇ~♪ アルバムの初っ端に置かれたのもムベなるかなです。
 そして結果は、やはり名演!
 躍動的なリズム隊が作りだすエキゾチックなビートのリフと浮遊感が素晴らしいアート・ペッパーのテーマ演奏から、チャーリー・パーカーが有名にした、めくるめくようなブレイクを逆手にとったアドリブの入り方には独特の愁いが漂い、ここだけで完全に酔わされます。
 さらに続くアドリブパートの胸キュン感と熱いエモーションの、良い意味でひねくれた解釈は聴くほどに絶品ですし、ハンプトン・ホーズとの協調関係も抜群なのでした。

A-2 Spiked Punch
 アート・ペッパーのオリジナルで、ちょっと怠惰でせつないブルース感覚が最高の演奏になっています。ユルユルなのにビートの芯を失っていないバンド全体のグルーヴも凄いですねぇ~♪
 アート・ペッパーも決してそれに甘えない鋭さは流石ですし、ハンプトン・ホーズの意外にも白っぽい演奏が結果オーライというか、ほどよいファンキーさは曲想を大切にした証だと思います。

A-3 The Way You Look Tonigh
 これは定石どおり、アップテンポでブッ飛ばしたスタンダード曲の痛快演奏! 些か上滑りしたようなテーマアンサンブルから一転、アドリブパートは「ペッパーフレーズ」が出まくった大サービス♪♪~♪
 リズム隊はちょっと単調ですが、これでいいんでしょうねぇ~。

A-4 Minor Yours
 これもアート・ペッパーのオリジナル曲で、凝ったテーマアンサンブルとダークなメロディ、快適なテンポとメリハリを狙ったアレンジが、それなりに上手くいっています。
 ただしそんな目論見は、アート・ペッパーのアドリブフレーズには太刀打ち出来ていないようです。テキパキとしたハンプトン・ホーズも、なかなかの力演なんですが……。

A-5 Suzy The Poodle
 アート・ペッパー初期の名演として翌年にはスタジオバージョンも残された名曲の、それに先出す白熱のライブバージョンです。
 スピードのついたテーマアンサンブルをリードし、さらに舞い踊るが如きアドリブフレーズの乱れ打ちとなりますから、そこにはジャズを聴く喜びがいっぱい♪♪~♪
 ハンプトン・ホーズの力演からアート・ペッパーが絡んでいく後半の展開も強烈ですし、まさに怖いもの知らずの勢いが、ここにあります。

B-1 Easy Steppin'
 これまたアート・ペッパーのオリジナル曲ですが、実に秀逸なアドリブ構成と絶妙なリズム感に支えられたアドリブが芸術の名演です。
 ミディアムテンポで微妙に粘っこいリズム隊も素晴らしく、それゆえにアート・ペッパーが天才性を存分に発揮出来たのでしょう。もちろんハンプトン・ホーズも、これしか無いの得意技を完全に披露しています。

B-2 Chili Pepper
 これも初期アート・ペッパーを語る上では外せない曲のライブバージョン♪♪~♪ 浮き立つようなラテンビートと楽しいメロディが印象的ですが、ここではラリー・バンカーが、あえてヴァイブラフォンを演奏し、テーマアンサンブルでは絶妙の彩を添え、またアドリブパートも歌心がいっぱい♪♪~♪
 そしてアート・ペッパーが続く瞬間にはドラムスの席に戻り、快適なブラシのサポートですから、流石です。もちろんアート・ペッパーも出来すぎのアドリブソロで期待に応えますし、ドラムス抜きでも強靭なビートを生み出すピアノとベースの存在も実に強力だと思います。
 カチッと纏まったスタジオバージョンよりも、個人的はこちらが好きなほどで、特にアート・ペッパーのフワフワして鋭いアドリブソロは、隠れ名演の決定版じゃないでしょうか。ハンプトン・ホーズも好演です。

B-3 Lamjhp
 アート・ペッパーのオリジナル曲とされていますが、そのテーマメロディは明らかに自身のアドリブフレーズそのものというクールな佇まいが素敵!
 ですから、本番のアドリブパートでも唯一無二の「ペッパーフレーズ」が出まくりですよっ! しかしそれが、何故かリー・コニッツに近づいているのも興味深いところ……。
 それとハンプトン・ホーズがグイノリの快演で、個人的には、この当時が全盛期かもしれないと思うほどです。 

B-4 Everything Happens To Me
 マット・デニスが書いた、私の大好きな歌物スタンダードで、この時期のアート・ペッパーにとっても十八番にしていた曲ですから、いきなりのメロディフェイクから、もう泣きそうになりますよ。
 あぁ、この消え入りそうに弱気の表現♪♪~♪
 ただ、それだけの演奏にして、ファンには絶対の価値があると思います。

B-5 Move
 ビバップ時代からアップテンポで演じられる定番曲を、尚更に猛烈なスピードで吹きまくるアート・ペッパーの素晴らしさっ! その綱渡り的なスリルと絶対のリズム感は抜群のコントラストで、聴く者をゾクゾクさせます。
 ハンプトン・ホーズも懸命の熱演ですし、後半のソロチェイスの鮮やかさ!

ということで、全てが名演であり、「お宝」です。

しかもライブの現場とあって、スタジオ録音では感じることの出来ない一発勝負のスリルと緊張感、さらに気取らないリラックスした演奏姿勢が、ここでは完全に良い結果となっているのでしょう。

自伝や評伝でも公になっているように、この頃から悪いクスリに浸りきっていたアート・ペッパーやハンプトン・ホーズにしても、これだけの演奏が出来てしまえば、ウシロメタサ、なんてものは無かったのかもしれません。

ファンとしては、それゆえに以降の演奏活動が制限され、結果的に素晴らしい瞬間の多くが失われてしまったのは残念としか言えませんし、ここで聴かれる至福の桃源郷を、そんな愚行の賜物なんて思いたくもありません……。

ただ、怖いもの知らずの若さの勢いというのは、やはり素晴らしい結果に繋がることが多いという証だけは、間違いなくあるでしょう。

純粋にジャズ的な見地からすれば、ここに残された演奏は世界遺産だと思います。それを素直に楽しむことは、決して罪悪ではないのです。

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ブッカー・アーヴィンの歌本

2009-01-25 11:51:16 | Jazz

The Song Book / Booker Ervin (Prestige)

アクの強いタフテナーで新主流派の趣も強いブッカー・アーヴィでは多分、最高の人気盤がこのアルバムだと思います。

そのミソはもちろん演目の分かり易さで、アルバムタイトルどおりに有名スタンダード曲をワンホーンで吹きまくった痛快さ! しかも強烈無比にしてジャズ的なセンスに満ちたリズム隊も大活躍という魅力があります。

録音は1964年2月27日、メンバーはブッカー・アーヴィン(ts)、トミー・フラナガン(p)、リチャード・デイビス(b)、アラン・ドウソン(ds) という、実に決定的なカルテットです。

A-1 The Lamp Is Low
 トミー・フラナガンが作りだす緊張感と和みが共存した畢生のイントロから、アップテンポでバリバリにテーマを吹いていくブッカー・アーヴィンの潔さ! アラン・ドウソンの爽快なシンバルワークと怖いリチャード・デイビスの4ビートウォーキングも侮れません。
 そしてアドリブパートでは野放図なブローと歌心を見事に両立させたブッカー・アーヴィンがいきなりの快演を聞かせてくれますが、それも容赦無いリズム隊の煽りがあればこそでしょう。
 実際、アラン・ドウソンの小気味良いドラミングは十八番のビシビシ決めるハイハットが強烈ですし、グリグリに突っ込んでくるリチャード・デイビス、新しいセンスも混ぜ込んだトミー・フラナガンのピアノにはゾクゾクさせられます♪♪~♪
 全く間然することの無い名演で、特に後半、リズム隊の個人技が出るあたりでは、心底シビレがとまりません。

A-2 Come Sunday
 前曲のド派手な興奮を、すうぅぅぅ~と冷まして安らぎの世界を現出させてくれるのが、このデューク・エリントンの有名オリジナル♪♪~♪ 意外なほど静謐なムードでテーマメロディを吹奏するブッカー・アーヴィン、それに寄り添うトミー・フラナガンが流石のサポートですし、アドリブソロも素晴らしい限りですねぇ~♪
 またリチャード・デイビスの密かな自己主張、アラン・ドウソンの些か落ちつきの無いブラシも、ここでは問題ないでしょう。
 肝心のブッカー・アーヴィンは主題を吹くだけなんですが、それが結果オーライなのでした。

A-3 All The Things You Are
 そして続くのが、またまた嬉しいというモダンジャズでは定番の歌物スタンダードですから、トミー・フラナガンの上手すぎるイントロから快調のテンポが設定されれば、後は痛快なモダンジャズ天国!
 奔放な中にも歌心を蔑ろにしないブッカー・アーヴィンは、明らかに凄いリズム隊にリードされている感じですが、持前のヒステリックなフレーズ展開を忘れていないのは立派です。
 しかしそれもトミー・フラナガンのスイングしまくって、尚更に素晴らしい歌心というピアノに圧倒された感があります。もちろんベースとドラムスもグルになっていますから、いやはやなんともの結論とはいえ、やはり名演でしょうねぇ~♪

B-1 Just Friends
 チャーリー・パーカー(as) やソニー・ステット(as,ts) が十八番としている曲だけに、新進気鋭のブッカー・アーヴィンも油断ならないところですが、またしてもリズム隊の凄い煽りがありますから、名演は完全なる「お約束」になっています。
 とにかくブッカー・アーヴィンのテナーサックスはスピードとパワー、エキセントリックなフレーズの連発で押しまくるスタイルに徹していて、歌心は二の次になっていますが、好感が持てます。
 そしてその部分を補ってくれるのが、トミー・フラナガンの存在ということで、全てが歌のアドリブフレーズは流石の一言! 続くリチャード・デイビスのペースソロの怖さも特筆すべきでしょう。本当に凄いですよっ!
 またアラン・ドウソンもハイハットを中心に得意技を完全披露しています。

B-2 Yerterdays
 激しい曲の後には和みのバラードという定石の名演ですから、ここでのブッカー・アーヴィンはソフトな情感を前面に出したテーマの吹奏が見事です。そのダークでまろやかなテナーサックスは、ちょっと何時ものイメージとは異なる魅力がありますねぇ。
 しかしリズム隊は相変わらずの怖さ、厳しい姿勢を崩していませんから、幻想的な味わいも魅力なトミー・フラナガン、執拗なリチャード・デイビス、ジコチュウなアラン・ドウソソンという個性も、ここでは見事な纏まりに収斂していると思います。
 う~ん、トミー・フラナガン、最高っ!
 肝心のブッカー・アーヴィンも終盤では本領を発揮しています。
 
B-3 Our Love Is Here To Stay
 ここまで全てが名演ばかりというアルバムの締め括りが、これまた素敵なスタンダード曲なんですから、たまりません。
 まずはブッカー・アーヴィンのテーマ吹奏からして、なんとも言えない余裕と和みがたっぷり♪♪~♪ しかしそれがアドリブパートに移行すると、激しくヒステリックなフレーズも交えた、まさにブッカー・アーヴィンだけの世界に変質するのですから、強烈です。
 快適なテンポを維持しつつ、熱気溢れる煽りを展開するリズム隊も強い印象で、ビシバシにキメまくりのアラン・ドウソン、リラックスしてスイングするトミー・フラナガンの中庸感覚、過激と安定感のバランスが秀逸なリチャード・デイビスという3人の個性には、もはや脱帽する他はありません。

ということで、「Book」シリーズ4作を含みプレスティッジで制作された9枚の中では、最も聴き易く、纏まったアルバムでしょう。それは特にトミー・フラナガンの参加が大きいと思いますねぇ~♪ 実際、ここでの上手いイントロ作りから巧みな伴奏、スイングしまくったアドリブソロは、トミー・フラナガンにしても代表的な名演じゃないでしょうか。

それとアラン・ドウソンの素晴らしさも特筆もの! 私なんかは、このアルバムでアラン・ドウソンに目覚めたほどで、特にビシッとキメるハイハットの気持良さ、ドシンと響くパスドラのタイミング、ジコチュウ寸前の目立ちたがりには夢中にさせられました。

また怖いイメージを崩さないリチャード・デイビスも流石の存在感だと思います。

ですから、何時もはツッコミが激しすぎてバランスを崩したり、あるいはリーダーセッションということで考え過ぎるのか、持前の奔放なスタイルが裏目に出ることも多いブッカー・アーヴィンにしても、忌憚の無いところを表現出来たじゃないでしょうか。

アルバム全部が名演揃いの中にあって、まずはA面ド頭の「The Lamp Is Low」に、このセッションの成功がしっかりと刻まれていますから、後は夢中になって聴いていくだけという、真の人気盤になっているのでした。

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マリガンを聴く怠惰な休日

2009-01-24 11:29:45 | Jazz

A Profile Of Gerry Mulligan (Mercury)

チェット・ベイカー(tp) とのバンドが有名なので、ジェリー・マリガンは西海岸の人だと長い間思っていたら、実は東海岸出身だと知ったのは、かなり後の事でした。

つまりそれほど作編曲が緻密でスマートなウエスト系にどっぷりの印象ですが、それも思えばマイルス・デイビスが例の「クールの誕生」で打ち出したスタイルの後追いであり、その成り立ちにはジェリー・マリガンが大きな役割を果たしていたという歴史的事実があるのですから、さもありなんと納得する他はありません。

さて、このアルバムはジェリー・マリガンがチェット・ベイカーとのコンビを解消し、ニューヨークへと戻って組んだレギュラーバンドによる幾つかの吹き込みから作られた1枚ですが、レギュラーといってもメンツ構成は流動的だったようです。しかしジェリー・マリガンの優れたリーダーシップと巧みな作編曲によって、見事に纏まった演奏はスジが通った気持良さが楽しめます。

録音は1955年9月から翌年の9月にかけて、約1年の間に行われた3回のセッションから、メンバーはジェリー・マリガン(bs,p,arr) 以下、ポブ・ブルック・マイヤー(v-tb)、ズート・シムズ(ts)、ジョン・アードレイ(tp)、ドン・フェララ(tp)、ペック・モリソン(b)、ビル・クロウ(b)、デイヴ・ベイリー(ds) が入り乱れて参加しています。

A-1 Makin' Whoope (1956年9月26日録音)
 チェット・ベイカーとのコンビでヒットさせたスタンダード曲の再演ですが、ここではドン・フェララ、ポブ・ブルック・マイヤー、ズート・シムズを加えての6人編成バンドというのがミソでしょうか。
 しかしオリジナルのピアノレスカルテットが持っていた軽妙洒脱な魅力を、そのまんま受け継ぎ、単にアドリブパートが増えているだけという雰囲気が否定出来ません。
 厳しいことを言えば、セクステットにした効果があまり感じられないというか、それだけチェット・ベイカーとの演奏が魅力的な完成度だったという証にもなるんでしょうか。
 バンドアンサンブルではハーモニーの妙とかも聞かれるのですが……。
 あえてこの演奏をアルバムのド頭に持ってきたのは、やはり「再演」というウリだったんでしょうかねぇ……。

A-2 Demanton (1955年10月31日録音)
 というモヤモヤをブッ飛ばすのが、この痛快なアップテンポの演奏です。
 カチッと纏まったバンドアンサンブルは小型オーケストラ的な、如何にもジェリー・マリガンが十八番のスタイルですから、リーダー自らがバリトンサックスで奔放に歌いまくり、ドライヴしまくって最高です。それを彩るバックのリフやハーモニーも素晴らしく、またハードバップ系のドラムスとベースが作るグルーヴも力強いですねぇ~♪
 ジョン・アードレイのトランペットもツッコミ鋭く、後半で聴かれる集団アドリブやドラムスとのソロチェンジには、本当にウキウキさせられるのでした。

A-3 Duke Elington Madley (1955年9月21日録音)
 これまたジェリー・マリガンの冴えたアレンジとバンドの演奏能力の高さが堪能出来る名演です。
 曲はタイトルどおり、デューク・エリントンの代表作「Moon Mist」から「In A Sentimental Mood」へと続きますが、我が国ではそれほど馴染みのない「Moon Mist」の和みのメロディ感覚を再認識させられる上手いアレンジには脱帽♪♪~♪
 そのホノボノとしてゆったりとした展開は後半の「In A Sentimental Mood」でさらに深まり、ジェリー・マリガンのバリトンサックスが最高級のメロディフェイクを聞かせてくれます。その音色の深みと力強くてまろやかなムードは、本当に素敵ですね。

B-1 Westward Walk (1955年9月22日録音)
 この曲は以前に10人編成のハンドによるバージョンも残されていますが、ここでは6人編成ということで、よりアドリブが全面に出た仕上がりになっています。
 中でもズート・シムズがやはり素晴らしく、続くジェリー・マリガンもハッスルせざる得ませんから、後半の盛り上がりは楽しい限り♪♪~♪

B-2 La Plus Que Lente (1956年9月26日録音)
 ジェリー・マリガンのオリジナル曲ながら、どっかで聞いたことがあるような、些か煮え切らない演奏です。3分半ほどの短めな構成でアレンジの妙を聞かせる趣向なんでしょうが、明確なアドリブパートも無いに等しく、???

B-3 Blues (1955年9月22日録音)
 という鬱憤を消し去ってくれるのが、オーラスのブルース大会♪
 とはいっても、ハードバップ的な熱血演奏ではなく、各人のアドリブはモダンスイングから西海岸系のホンワカムードなんですが、それゆえに実に和みます♪♪~♪
 ジェリー・マリガンのピアノにも決して隠し芸ではない個性的なグルーヴがありますし、ズート・シムズやボブ・ブルックマイヤーの我が道を行くアドリブも流石だと思います。
 それを支えるペック・モリソンとデイヴ・ベイリーというコンビも存在感満点ですし、こういう味わいの深さは地味ですが、ジャズ者にとっては「お宝」かもしれません。

ということで、これは名盤ではありませんが、ある日突然に聴きたくなるような、どこか素敵なムードが捨て難い1枚です。それは例えば宴会疲れの怠惰な休日の朝とか♪♪~♪

あ~ぁ、昨夜の宴会はつまんなかったなぁ……。なんていうボヤキも、このアルバムの演奏には見事に吸収されてしまうのでした。

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モード対R&B

2009-01-23 11:27:14 | Jazz

Soul Battle / O.Nelson, K.Curtis & J.Forrest (Prestige)

ジャケットで一目瞭然、黒人テナーサックス奏者3名による魂の共演盤です。

おそらくは我が国のジャズファンにとって一番有名であろうオリバー・ネルソンは、作編曲家としての評価が高いと思われますが、サックスプレイヤーとしても独特の個性派ですし、ジミー・フォレストは如何にも黒人らしいR&B感覚と大衆性を併せ持った名手として、カウント・ベイシー楽団の看板も務めた実力者です。

そして大いに気になるのがキング・カーティスの参加でしょう。

この人はご存じ、1950年代にはニューヨークを中心に数多くのR&Bヒット曲の制作に関与したテナーサックス奏者であり、クレジットは無くとも、その素晴らしい演奏は必ずや音楽ファンの耳には届いているはずです。さらに1960年代からは自身のバンド「Kingpins」を率いて強烈なファンキーグルーヴを撒き散らした偉人です。なにしろそこにはコーネル・デュプリー(g)、ジェリー・ジェモット(el-b)、バーナード・パーディ(ds)、パンチョ・モラレス(per) 等々、キラ星のプレイヤーが出入りしていたのですから! アレサ・フランクリンのバックバンドとして大活躍したフィルモアのライブ盤も印象的でしたねっ♪♪♪

という3人が集結しての「バトル」盤ですから、まずは企画の大勝利でしょう。実際、私なんかは、こんなアルバムがあると知って、聴く前からワクワクドキドキしていたほどです。

録音は1960年9月9日、メンバーはオリバー・ネルソン(ts)、キング・カーティス(ts)、ジミー・フォレスト(ts)、ジーン・ケイシー(p)、ジョージ・デュヴィヴィェ(b)、ロイ・ヘインズ(ds) なんですから、たまりませんねぇ~~~♪ ちなみに演目は1曲を除いて、オリバー・ネルソンのオリジナルとされています。

A-1 Blues At The Five Spot
 アル・ケイシーのシンプルにしてファンキーなピアノが導く和みのテンポ、それが実にワクワクするドライヴ感を生み出し、ちょっとモード系のブルーステーマが良い感じです。
 そしてそれをリードするのは、もちろんオリバー・ネルソンですから、そのまんまアドリブパートへと自然に移行していく流れには何の抵抗感も無く、続いて登場するキング・カーティスがたっぷりとしたフィーリングでテナーサックスを鳴らす頃には、完全に演奏の虜になってしまいます。
 さらにジミー・フォレストがダークな音色でハードなアドリブという、所謂「格の違い」を聞かせてくれるのは嬉しいですねぇ~♪
 演奏全体としてはリラックスした露払い的な仕上がりですが、ビシバシにキマるバックのリフとか、健実なリズム隊のサポートもあって、単なるジャムセッションとは一線を隔していると思います。このあたりがオリバー・ネルソンの手腕なんでしょうねぇ。
 ちなみにロイ・ヘインズは、相当にシビアな怖さも発揮していますよ。

A-2 Blues For M.F.
 これはジンワリと和みのゴスペルファンキー♪♪~♪
 ゆったりしたテンポで演奏されるテーマメロディのホノボノ感と手数の多いジョージ・デュヴィヴィェのペースリフが印象的ですが、アドリブパートに入っては、もちろん粘っこい4ビートのグルーヴが全開となります。
 それはジミー・フォレストが余裕のブルースフィーリング、シンプルさと革新のバランスが絶妙なオリバー・ネルソン、正統派R&Bのフレーズを見事にモダンジャズ化しているキング・カーティスと、各人が自分の持ち味を発揮して潔し! 中でもオリバー・ネルソンは前曲でもそうでしたが、ちょっとアルトサックスみたいな音色で夢遊病っぽいフレーズを乱れ打ちという、本当に奇妙な味わいが印象的です。
 それとピアノのジーン・ケイシーは基本に忠実なタイプで、好感が持てますねぇ。 

A-3 Anacruses
 ロイ・ヘインズのシャープに躍動するドラミングがイントロとなって始まる、これは新主流派も真っ青のテーマ合奏が???ではありますが、アドリブパートは痛快至極です。
 オリバー・ネルソンは些かウェイン・ショーターになっていますが、ロイ・ヘインズの怖い煽りには、これがジャストミートでしょうねぇ~~♪ そしてキング・カーティスが、これまた全く動じないマイペースというか、ジーン・アモンズ系のプローで勝負を仕掛ければ、ジミー・フォレストは横綱相撲のタフテナー!
 あぁ、こういう真っ黒な雰囲気が横溢する中では、オリバー・ネルソンは完全に浮いているのですが、ジーン・ケイシー以下のリズム隊が出番となる終盤には、曲のミソとなっているモードが明かされますから、溜飲が下がると思います。

B-1 Perdido
 さあ、これがアルバムのハイライト!
 曲はお馴染み、こういうバトルジャムには御用達というデューク・エリントンの名作リフですから、ビシバシにキメたロイ・ヘインズのドラミングが導くテーマ合奏の気持ち良さ♪♪~♪ もう、ここだけでウキウキしてきますよっ♪♪~♪ 上手くアレンジされたアンサンブルがシンプルにして最高です。
 そしてジミー・フォレストが絶好調のアドリブでハードバップのR&B的解釈を披露すれば、キング・カーティスは俺に任せろ! そのグリグリに突進する熱っぽいフレーズの連続技には、続くオリバー・ネルソンも心中穏やかではなく、迷い道のスタートから少しずつ自己主張を取り戻していくあたりが、ジャズの面白さでしょうねぇ~♪
 そしてお待ちかね、いよいよ突入するテナーバトルでは、もちろん3人が意地のぶつかりあいを演じていますが、オリバー・ネルソンが意外にもキワドイ系のブローを聴かせてくれますよ。
 また快適なグルーヴを演出するリズム隊では、やはりロイ・ヘインズのキレまくったドラミングが痛快で、特にラストテーマ最終パートのキメは最高! 実にカッコ良いです。

B-2 In Passing
 前曲の波乱万丈を心地良く和ませてくれる、オトポケゴスペルなハードバップですが、そこはオリバー・ネルソンですから、「モード」が入っているのは「お約束」でしょう。そしてアドリブ先発で奇々怪々なフレーズしか吹かない作者の「分からなさ」が、思わせぶりな露払いとなるのです。アルトサックスとしか思えない高音域吹奏も、???なんですが……。
 しかし続くキング・カーティスが、そんなの関係ねぇ~! 分からないなりの自己主張というか、相当に立派なハードバップのアドリブです。まあ、本音としては歌いようがない……、ということでしょうか。
 ジミー・フォレストに至っては開き直りというか、十八番のR&Bな音色と絶妙にデスコードしかかったフレーズを使いながら、黒さを捨てないテナーサックスは流石だと思います。

ということで、「バトル」に興じているのは「Perdido」だけなんですが、オリバー・ネルソンの新しい感覚とR&Bど真ん中のグルーヴが上手く融合した、実に面白いセッションが楽しめます。

中でもガチガチのジャズファンからは白眼視も止むを得ないキング・カーティスの純ジャズ的な凄さ! これが認識されるだけでも、私のような者には嬉しいアルバムなのでした。

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JM直前のブレイキー・クインテット

2009-01-22 12:09:29 | Jazz

Blakey featuring Art Blakey (EmArcy)

アート・ブレイキーといえば、なんと言ってもジャズメッセンジャーズなんですが、その基本は例の「バードランドの夜」で奇跡の名演を繰り広げた1954年のクインテットであり、翌年に正式旗揚げするジャズメッセンジャーズまでの間に残されたレコーディングも、ハードバップの真髄として大いなる魅力に満ちています。

それは例えばホレス・シルバー名義でブルーノートに吹き込まれ、後にジャズメッセンジャーズ名義で纏められたクインテット作品、そして本日ご紹介のアルバムが代表的なものでしょう。

録音は1954年5月20日、メンバーはアート・ブレイキー(ds) 以下、ジョー・ゴードン(tp)、ジジ・グライス(as)、ウォルター・ビショップ(p)、バーニー・グリッグス(b)、という実力派が集められています。

A-1 Minority
 ジジ・グライスか書いた自身の代表作で、後にはビル・エバンスも演じていますから、ジャズ者にとっては耳に馴染んだテーマメロディでしょう。それをここでは、グッと重心の低いアフロのリズムとグイノリの4ビートを巧みに混ぜ込んだ、如何にもアート・ブレイキーという演奏で楽しめます。
 あぁ、エキゾチックな味わいと黒人感覚が、実に見事な融合ですね♪♪~♪ これこそがハードバップのキモという感じです。
 そしてアドリブパートに入っては、鋭くてハートウォームなジジ・グライス、妥協しないジョー・ゴードン、ハッスルしまくったウォルター・ビショップという素晴らしいソロが続き、ビシッと纏まったバンドアンサンブルも流石だと思います。 

A-2 Salute To Birdland
 これもジジ・グライスが書いたアップテンポの素敵なハードバップ曲で、さまざまな既成のビバップフレーズが上手く使われているのがミソでしょうか。ちなみにジジ・グライスは、このセッション中、1曲を除いて7つのオリジナルを提供していることから、おそらくはこのハンドでの音楽監督を任されていたと推察していますが、独特の白っぽい音色で真正ビバップのフレーズを吹きまくるアドリブも凄いと思います。
 また小型ガレスピーと言われていたジョー・ゴードンの熱血トランペットやガンガンに突進してくるウォルター・ビショップの頑張りも、最高に気持ちが良いですね。

A-3 Eleanor
 どうやらビバップの有名リフ「Jumping With Symphony Sid」のイタダキ的改作曲なんですが、これもまたスカッとする演奏になっています。
 それはアート・ブレイキーの強いバックピートに煽られたアップテンポのグルーヴが、本当にビバップとは一線を隔したノリになっていて、意外なファンキー節を聴かせるジジ・グライスから火傷しそうなジョー・ゴードンと続くゴキゲンなアドリブソロ、またリズム的な興奮も感じさせるウォルター・ビショップのピアノには、本当にウキウキされられますねぇ~~♪
 臨機応変にビートのリフを作っていくアート・ブレイキーも流石だと思います。

A-4 Futurity
 これもアート・ブレイキーならではアフログルーヴが全開したハードバップの快演で、正体不明で加わっているコンガが良い感じ♪♪~♪
 そして痛快なアップテンポで疾走するアルトサックス、流麗にしてフックの効いたフレーズを連発するトランペット、ホレス・シルバー調を強く感じさせるピアノと続くアドリブパートまで、なかなかに完成度が高い演奏が楽しめるのでした。

B-1 Simplictiy
 アップテンポで、ちょいと無機質なテーマメロディから熱いアドリブに入っていくという、如何にも当時の最先端を感じさせる演奏です。
 中でもジョー・ゴードンの歌心排除系のアドリブが曲想そのまんま! そしてウォルター・ビショップやジジ・グライスまでもが、これまでとは些か異なるクールな姿勢を聞かせるあたりが、新しいということなんでしょうか……。、
 個人的には、もう少しの温もりが欲しかったような……

B-2 Strictly Romantic
 ところが一転、こんどはシンミリ系の演奏となり、華麗な装飾に専念するピアノ、甘いメロディのテーマ、ゆったりとして強いビートのリズム隊という、ちょっとこのバンドには不似合いの展開が……。、
 しかしトランペットとアルトサックスの絡みで聞かせるアドリブパートの面白さは、ハッとするほど良い感じです。

B-3 Hello
 これまた前曲の焼き直し的な演奏で、スローに展開されるメロディの基本が同じという、なんだかなぁ……。
 ジジ・グライスのアルトサックスは艶やかに歌っていますし、ジョー・ゴードンのミュートも味わい深いのですが……。う~ん、ネタギレか……。

B-4 Mayreh
 なんていう嘆きをブッ飛ばすのが、オーラスに用意されたこの熱演!
 曲は前述した「バードランドの夜」でも伝説的な快演となっていたホレス・シルバーのオリジナルということで、ここでの面々も尚更に熱が入っています。まずは勢いに満ちたテーマの合奏からして凄いですねぇ~~♪
 そしてウォルター・ビショップがホレス・シルバーに負けじとイケイケの爆裂ピアノ! もちろん同じグルーヴを追求した潔さが高得点ですから、続くジョー・ゴードンとジジ・グライスもアート・ブレイキーとのソロチェンジを交えながら必死の自己主張で、ハードバップの真髄に迫っています。

ということで、原盤は10インチなので1曲あたりの演奏時間は3分前後のトラックばかりですが、その密度は充分に濃いと思います。

録音そのものもエマーシー特有の明るくてパンチのある音作りですから、重心の低いピート感が特徴的! それはハードバップの基本となるものでしょう。

ちなみにアート・ブレイキーはクリフォード・ブラウン(tp) やルー・ドナルドソン(as) を擁した前述「バードランドの夜」クインテットを続けたかったそうですが、諸事情からそれは不可能ということで、次なる新展開を模索していた時期の演奏が、このセッションだったと思われます。

また音楽監督的な立場と私が勝手に推測しているジジ・グライスにしても、データ的には前日にアート・ファーマー(tp) と、あの「When Farmer Met Gryce (Perstige)」のA面に収められた名セッションを演じていただけに、気合とヤル気がガッチリと入っています。

個人的にはA面を愛聴していますが、もしもCDがあればBラスの「Mayreh」を追加して聴き通したいほどですねぇ~♪

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