OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

フィル・ウッズのジョニー・ホッジス

2009-03-08 11:24:59 | Jazz

The New Phil Woods Album (RCA)

1950年代から活躍してきたフィル・ウッズは誰もが認めるアルトサックスの第一人者ですが、ハードバップ期はともかくも、1960年代からの数年間は不遇だったと思われます。そして渡欧してのヨーロピアンリズムマシーンで息を吹き返した後、帰米してみれば、やっぱりそこは……。

もちろんフィル・ウッズほどの腕前と感性があれば、自分のバンドを率いての活動の他にもスタジオの仕事とか、経済的に貧窮することはなかったのでしょうが、やはり率直にジャズを追求する姿勢には理解者が必要でした。

そんな状況で邂逅したのがノーマン・シュワルツというプロデューサーで、この人はイノセントなモダンジャズには拘らず、一時はゲイリー・マクファーランドと組んでソフトロックやラウンジ系のお洒落アルバムを作っていた元祖フュージョン派!

ですから時代が既にクロスオーバー主流のジャズ界にあって、フィル・ウッズが次なる飛躍を目指すには最適のコラボレーションが可能となり、さらにノーマン・シュワルツの人脈から大手レコード会社のRCAと契約して作られたのが、本日ご紹介の1枚です。

そしてこれこそ、タイトルどおりに新しいフィル・ウッズと標榜されながら、しかし本質はグリグリに熱っぽい、お馴染みの「ウッズ節」が、これでもかと堪能出来ます。

録音は1975年10~12月、メンバーはフィル・ウッズ(as,ss)、マイク・メリロ(p,el-p,key)、スティーヴ・ギルモア(b)、ビル・グッドウィン(ds) という当時のレギュラーカルテットをメインに、ストリングスとホーンのオーケストラ、ギターや打楽器も加わった大編成の演奏が、秀逸なアレンジと強烈なアドリブのコントラストも鮮やかに楽しめるのです。

A-1 The Sun Suite
 タイトルどおり、およそ三部のパートで構成された組曲です。
 まず最初は欧州時代を彷彿とさせるフィル・ウッズの思わせぶりなアルトサックスが嬉しい、ちょっと現代音楽の香も漂う導入部から、続いてロックビートを内包した躍動的なパートへと移ります。
 フィル・ウッズの情熱的なアルトサックスもさることながら、分厚いハーモニーを活かした躍動的なバンドアンサンブルが既にして名盤の証ですねぇ~♪ マイク・メリロのエレピも素敵ですよ。
 そして最終パートは伝統的なジャズビートでドライヴしまくった勢いが圧巻!
 ちなみに各パートでのキメのリフやアドリブ構成の妙は、当時のレギュラーバンドによるライブの現場でも多用されていたものらしく、それはリアルタイムを記録したライブ盤「Live From The Showboat (RCA)」でも楽しめますので、ぜひ、どうぞっ♪♪~♪

A-2 At Seventeen / 17歳の頃
 ジャニス・イアンが当時ヒットさせていた人気曲で、ここではボサロックの気持良い演奏となっています。フィル・ウッズのハートウォームな魅力が全開ですよ♪♪~♪
 マイク・メリロの素直なピアノも感度良好ですから、本当に短いのが残念なほどに素敵です。

A-3 Gee
 そのマイク・メリロのオリジナル曲で、もちろん作者が全面的に活躍した演奏です。
 ちなみにこのピアニストはフィル・ウッズのバンドに入ってから有名になったわけですが、おそらくこのセッションが初レコーディングでしょうか? ここではアレンジも担当していますし、今でも局地的にしか評価されていないようですが、なかなかの才人だと思います。私は大好き、と愛の告白♪♪~♪゜
 肝心の演奏は重層的なアンサンブルと躍動的なリズムのバランスを楽しむのが王道かもしれません。 

B-1 B Side D
 1分に満たない演奏で、おそらくB面全体の流れを作るための目論見というところでしょうか……? オーケストラだけの演奏のよる序曲でしょうねぇ。これだけ聴いても意味が無い???

B-2 Chelsea Bridge ~ Johnny Hodges
 そして始まる、このデューク・エリントン楽団へのトリビュートのような演奏が素晴らしいです! 前半の曲はもちろん良く知られたメロディですから、フィル・ウッズも存分にフェイクとアドリブの天才性を発揮していますし、後半はタイトルどおり、同楽団のスタアにしてアルトサックスの名手というジョニー・ホッジスに捧げられた素敵なオリジナル♪♪~♪
 まずは前半で静々とメロディを変奏し、その流れでグイノリのアドリブを聞かせてくれますが、後半の「Johnny Hodges」では快適な4ビートに煽られながらも、ソプラノサックスで歌いまくるフィル・ウッズ! まさにジャズを聴く喜びを存分に提供してくれますよ♪♪~♪
 バンドアンサンブルもエリントンスタイルを踏襲しながら、実にカッコ良いモダンジャズになっていますし、参加メンバーの纏まりも最高だと思います。実際、当時のジャズ喫茶はフュージョンの嵐でしたが、これが鳴り出すと店内には4ビートが逆に新鮮というムードが満ちていきました。学生バンドでも、これを演目にしていたところが多かったと記憶しています。
 いゃ~、実に良いですねっ♪♪~♪

B-3 Body And Soul
 そして続くは有名スタンダードを熱く吹奏するという、これがフィル・ウッズの極みつき! この力みが、本当に心地良いですよ。
 新主流派っぽいリズム隊が伝統的なグイノリ4ビートへと温故知新の輝きならば、フィル・ウッズはハードバップから新しい表現を引き出さんと腐心するのですが、最後には両者が上手く仲直りというか、これもセッション成功の秘訣が楽しめるのでした。

B-4 Mimi
 再びフィル・ウッズのソプラノサックスが楽しめるアップテンポの快演です。歌心を蔑ろにしない姿勢が、テーマ部分からアドリブパートの隅々まで行き届いていると感じます。
 快適なビートを提供するリズム隊もハードバップから一歩前進した感覚ですし、これも短いのが残念!
 ただしこの曲のキモは、前述したライブ盤「Live From The Showboat (RCA)」でも活かされていますので、ぜひっ!

B-5 Sacre Coeur
 オーラスはフィル・ウッズの大袈裟なオリジナル曲で、おそらくタイトルはパリの大聖堂? まあ、それはそれとして、疑似ボサロックというか、躍動的なリズムと重厚なオーケストラアレンジ、そしてカルテットの熱演が渾然一体となった音の洪水は、強い印象を残します。
 個人的にはあまり好きではない演奏ですが、ここまでアナログ盤片面を聴き通してくると、冒頭に短く置かれた「B Side D」の企みにハッとさせられたりします。

ということで、これも発売当時はジャズ喫茶の人気盤でした。既に述べたように、ちょうどフュージョンの全盛期と重なっていた頃とはいえ、完全に作り込まれた部分と瞬間芸的なカルテットのパートが、これほど見事に融合した作品も珍しかったと思います。

ただし、それゆえに拒否反応を示したジャズ者も多かったのですが……。グラミー賞を取ってしまったのも、我が国の愛好者には逆効果だったような気もしています。

その意味でCDがあれば、好きな演目だけ聴くのも悪くないかもしれませんね。サイケおやじは「At Seventeen」と「Johnny Hodges」が不滅だと思っています。

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