OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

イリノイ・ジャケーのムード

2009-03-12 13:19:57 | Jazz

Swing's The Thing / Illinois Jacquet (Verve)

異論はあると思いますが、全ての音楽は、その場の雰囲気を決定づける力を持っているとすれば、ジャズも例外ではありません。

レコード盤に針を下した瞬間から広がっていくグルーヴィな雰囲気♪♪~♪ あるいは気分はロンリーな胸キュンのムード、そして血沸き肉踊るヤル気の充満!

このあたりは何もジャズだけではありませんが、やっぱりインスト主体のジャズは良いんですよ~♪ これは独断と偏見!

ということで、本日ご紹介の1枚は、最高にジャズっぽくて下世話な空間演出には欠かせないアルバムだと思います。

その主役のイリノイ・ジャケーは、何と言ってもJATPとかのジャムセッションで激しく咆哮する大ブローが有名でしょう。そのヒステリックで下品な音使いと馬力満点に突進していくテナーサックスは、黒人ジャズのひとつの側面を極端に表現したものかもしれません。

それゆえに限られたファンだけに愛聴されるミュージシャンという感じが我が国では支配的でしょうねぇ……。実際、私もこのアルバムを聴く前までは、そう思いこんでいました。

ところがイリノイ・ジャケーは確かにR&B系のヒット曲もありますが、もうひとつの本質として、抑えた感情の表現が実に素晴らしく、それは歌物のスローな解釈や絶妙のタメとモタレのスイング感が抜群! それがここでは存分に楽しめます。

録音は1956年10月16日、メンバーはイリノイ・ジャケー(ts)、ロイ・エルドリッジ(tp)、ジミー・ジョーンズ(p)、ハーブ・エリス(g)、レイ・ブラウン(b)、ジョー・ジョーンズ(ds) という、最高にジャストミートした面々♪♪~♪

A-1 Las Vegas Blues
 レイ・ブラウンとハーブ・エリスが作る思わせぶりなイントロから、グッとタメが効いたテーマリフ、そしてミディアムテンポの快楽的なジャズビート! もう、これで決まりですよねぇ~♪
 実際、この気持ち良いグルーヴは最高です。
 そしてイリノイ・ジャケーのハードボイルドにスイングするテナーサックスは、レスター・ヤングの専売特許的なフレーズまでもが素晴らしいノリで使われたりする、ちょいと意外な感じもするんですが、実はこれこそがイリノイ・ジャケーの本質なんでしょうねぇ~♪ そこに魅せられている私は、シビレがとまらないほど、たまらん世界ですよっ!
 ソフトでダークなテナーサックスそのものの音色にもグッときます。
 さらにロイ・エルドリッジのミュートトランペットが、これまた最高の極みつき! ゆるゆると出てきて思わせぶりを演じつつ、次第に熱いブルースを奏でいく物語展開は流石としか言えません。寄り添うハーブ・エリスも上手すぎます。
 それとリズム隊が地味ながら、やっばり強い印象を残します。特にジミー・ジョーンズの歌伴型のピアノが絶妙ですよ♪♪~♪ 全くこの人の起用がここまで正解だと納得させられますねぇ~♪

A-2 Harlem Nocturne
 我が国では往年のフロアショウやストリップ等々、その定番使用だったムードテナー曲ですから、ここでのイリノイ・ジャケーの、全くそれもんの吹奏には気恥ずかしさを覚えるほどです。
 う~ん、それにしても、このテナーサックスのサブトーン、豊な音量とふくよかの表現は激ヤバとしか……。
 そしてロイ・エルドリッジのミュートトランペットが出る頃には、ハーレムど真ん中のムードが横溢するのです。昔っぽいリズム隊のワザのキレも楽しいところでしょうか。
 まあ、このあたりをどう楽しむかで、世代がわかったりしますかねぇ~。

A-3 Can't We Be Friends
 これも和みの歌物スタンダードということで、ジミー・ジョーンズが十八番のイントロから抜群のメロディフェイクでテーマをリードしていきますが、続くロイ・エルドリッジのトランペットが醸し出すムードの良さ! これがジャズだと思いますねぇ~♪
 そしてハーブ・エリスが控え目ながらもキラリと光るアドリブを演じた後、いよいよ登場するイリノイ・ジャケーがリラックスしたスイング感のお手本を示します。あぁ、このたっぷりとした音量のテナーサックス! 歌心に満ちたソフトな感情表現も素晴らしいかぎりですし、こういう人がド派手なブロー大会をやるなんて、ちょっと心外でしょうね。

B-1 Achtung
 と思っていたらB面は強烈なアップテンポでドライヴしまくった演奏から始まります。
 もちろんアドリブの先発はイリノイ・ジャケーですが、あのヒステリックな叫びは出さない真っ向勝負! これが実に正統派モダンスイングというか、意識的にタテノリ感を強めるリズム隊と共謀して熱気と興奮を誘います。
 そして当然ながら、こういう展開ならばロイ・エルドリッジの火の出るようなトランペットは欠かせませんねっ! バックのリフやリズム隊のキメも鮮やかに潜り抜けながらの大熱演ですし、クライマックスのテナー対トランペットのパートでは、ベテランの仮面を脱ぎ捨てたような潔さが最高です。
 なにしろイリノイ・ジャケーが煽られてしまうんですから!!

B-2 Have You Met Miss Jones ?
 またまた有名スタンダードを和みのスイング♪♪~♪、テーマのフェイクからアドリブへと繋げていくイリノイ・ジャケーは、まさに薬籠中の名演でしょうねぇ~♪ ミディアムテンポのジャズビートも、例えばハードバップあたりとは決定的に異なるグルーヴになっていますが、別のフィーリングで黒さは顕在! というか、こっちが本物なんでしょうねぇ~。
 その意味でロイ・エルドリッジの些か纏まりのないアドリブさえも、結果オーライの雰囲気優先だと思います。

B-3 Lullaby Of The Leaves
 私の世代ではエレキインストのベンチャーズの得意演目として有名な曲ですから、ここでも一緒にメロディを口ずさみながら、身体は自然に4ビートという、なかなかにせつない演奏です。
 しかしジョー・ジョーンズのドラミングはスイング派どっぶりながら、レイ・ブラウンが絶妙にモダンな味付けがニクイところかもしれません。
 肝心のアドリブパートではグッと抑えたイリノイ・ジャケーに対し、ド派手なロイ・エルドリッジというあたりが意味深でしょうか。後半が特に熱いですね。

ということで、ブリブリの吹きまくりを期待するとバスレるんですが、ジャズの一番良い雰囲気を求めてはジャストミートの仕上がりだと思います。特にA面ド頭のムードは決定的じゃないでしょうか。

それはリズム隊の匠の技も聞き逃せないところです。このレーベルの、この手のセッションでは、メンツからしてピアノにはオスカー・ピーターソンが当たり前のところを、あえてジミー・ジョーンズの起用が大正解だったと思います。本当にシブイ歌伴同様の小技にはゾクゾクする瞬間もあるほどですよ。ジャズは「インスト」でも「歌」なのですねぇ♪♪~♪

またロイ・エルドリッジのハッスルぶりも高得点! 抑え気味のリーダーに代って幾分のスタンドブレイさえ演じる物分かりの良さがニクイほどです。

グイノリのジャケットとは、ちょいと異なる和みのスイングというか、サイケおやじはこういうのも好きということで、ご理解願います。

コメント
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