OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ジュリアンの低音ハードバップ

2009-03-10 11:06:33 | Jazz

Spiritsville / Julian Priester (Jazzland)

世の中は出会いが大切ということで、いろんなレコードを聴いていく中では、どうしても良い出会いがないアルバムというのも必ずあります。例えば本日の1枚も私にとっては、そのひとつでした。

主役のジュリアン・プリースターは1950年代から第一線で活躍したトロンボーンの名手で、マックス・ローチのバンドレギュラーとしても有名ですが、その他にも多くのレコーディングを残しています。

しかしリーダー盤となると、これが意外にも少なく、モダンジャズ全盛期の1960年に、たった2枚しか作られなかったのは??? ちなみに次の作品は1970年代以降となるのですからねぇ……。

で、このアルバムは2作目のリーダー盤ですが、これがなかなか激レア! というか、私の前に現れるブツは、ほとんど状態が良くないくせに、値段が反比例していたのです。まあ、それでも無理して入手したのは、その内容の良さに加えて、私の意地と執念という笑い話しでしょうねぇ。実際、それはチリチリの盤質に書き込みもバッチリというジャケットでした……。

しかしそれが、なんと我が国で紙ジャケット仕様のCDで、しかも素晴らしいリマスターで復刻されたんですから、せつない気分で即ゲット♪♪~♪ あぁ、やっぱり良いアルバムです。

録音は1960年7月12日、メンバーはジュリアン・プリースター(tb)、ウォルター・ベントン(ts)、チャールズ・デイビス(bs)、マッコイ・タイナー(p)、サム・ジョーンズ(b)、アート・テイラー(ds) という無骨なフロントにイケイケのリズム隊! 実に核心を突いた組み合わせがニクイですねぇ~♪

A-1 Chi-Chi
 チャーリー・パーカーのオリジナルブルースですから、ビバップ色が強いのは当然ですが、このバンドの妥協の無い姿勢は流石のハードバップになっています。
 アドリブ先発のチャールズ・デイビスは相当に不器用な雰囲気ですが、その真摯な姿勢が潔く、続くジュリアン・プリースターのトロンボーンは急速フレーズにも浮遊感があったりして、あまりブルースっぽく無いのが逆に素敵です。
 またヘロヘロな音色のウォルター・ベントンも妙な感じですねぇ……。
 しかしリズム隊の妥協しない怖さは天下逸品! 正統派ビバップに拘るマッコイ・タイナーというのも珍しいですが、これが結果オーライですし、ハードエッジなアート・テイラーとピンピンピンのサム・ジョーンズという強烈な存在感も、リバーサイド系列ならではの硬質な録音で見事に記録されています。
 ちなみに前述した紙ジャケット仕様のCDはステレオバージョンですが、このミックスが真ん中に集められた音像を自然に左右に散らしたような雰囲気で最高です。団子状でありながら、楽器ひとつひとつの分離にメリハリがあるんですねぇ~♪
 まさに低音ハードバップの魅力とでも申しましょうか、それだけでシビレてしまいます。

A-2 Blue Stride
 これもブルースですが、ジュリアン・プリースターのオリジナルとあって、バンドアンサンブルやアドリブの展開に新しさと纏まりが感じられます。
 しかもここではリズム隊が完全にサポートに徹していながら、逆に目立ってしまうんですねぇ。このパードバップがモロ出しのジャズビート! 本当に素晴らしいと思います。
 肝心のアドリブパートはフロントの3人が、いずれも不器用というか、飾らない姿勢が感度良好♪♪~♪ また、ちょっとトミー・フラナガン? と思わせるマッコイ・タイナーが面白いような!?!

A-3 It Might As Well Be Spring
 有名スタンダードをジュリアン・プリースターが独り舞台のワンホーン演奏♪♪~♪ 実にハートウォームな表現と歌心の妙が楽しめますから、曲タイトルどおりに、ホノボノとしてきますよ。
 あぁ、こういうのを聴いていると、全盛期にワンホーン盤が作られなかったのが惜しまれますねぇ……。
 そしてここでもマッコイ・タイナーが、些か小賢しいところもありますが、トミフラ的なサポート&アドリブでニヤリとさせてくれます。

A-4 Excursion
 ウォルター・ベントンが書いた正統派ハードバップ曲で、初っ端から炸裂する重低音のバンドアンサンブルが不穏な空気を強調する素晴らしさ! 完全に新しいモダンジャズが胎動していると感じます。
 もちろんリズム隊の怖さは言わずもがな、チャールズ・デイビスのアドリブに被ってくるホーンリフの強い存在感とかジュリアン・プリースターの前向きなジャズ魂には、思わず血が騒ぎます。
 そして作者のテナーサックスは灰色の音色がモード系のフレーズとジャストミート! 完全に我が道を行くという態度が、続くマッコイ・タイナーのピアノと上手くリンクして、もうこのあたりは最高です♪♪~♪

B-1 Spiritsville
 アルバムタイトル曲は、これぞファンキーというウォルター・ベントンのオリジナルです。ミディアムテンポで強烈なバックピートを打ち出すリズム隊を代表して、まずは最初にピンピンのベースソロを披露するサム・ジョーンズが、録音の素晴らしさもあって、まさに会心のハードバップ節ですよ。続くマッコイ・タイナーも好演ですし、アート・テイラーのヘヴィなドラミングも高得点!
 ですから3管のアンサンブルは完全にジャズテット現象♪♪~♪
 しかもそこには、あくまでも低音の魅力が横溢し、チャールズ・デイビスの鈍重な響きからウォルター・ベントンの新感覚テナーサックスへと繋がる展開は、ちょうどウェイン・ショーターあたりがやっていた演奏と一脈通じるものがあります。
 その意味でジュリアン・プリースターのトロンボーンがハードバップに強く拘っているのは大正解でしょうねぇ~♪ 全盛期のモダンジャズは、やっぱり素敵です。

B-2 My Romance
 軽快でありながら、重心の低いジャズビートも印象的なスタンダード曲の楽しい演奏です。まずは歌心をリードするようなマッコイ・タイナーのイントロ、それに続くジュリアン・プリースターのメロディフェイクがホンワカムード♪♪~♪ もちろんアドリブハートに入っても歌心優先ですから、気分は最高です。
 無骨なチャールズ・デイビスも、ここでは歌う努力をしていますし、ウォルター・ベントンの芯が無いようなテナーサックスの音色も結果オーライというか、独特の浮遊感が良い感じ♪♪~♪
 それにしてもマッコイ・タイナーは、何をやらせても上手いと実感してしまいますね。
 
B-3 Donna's Waltz
 オーラスは、これまたウォルター・ベントンのオリジナルというワルツ曲で、基本は愛らしいメロディが思いっきり無骨に演じられるという、このミスマッチがたまりません。なんかダサダサの男が無理して社交ダンスを習っているような……。
 しかしアドリブパートに入ると一転、ビシバシの4ビートでグイノリのソロが連発されるという、如何にもハードバップ全盛期の楽しみが横溢するのです。
 ただし、ちょいと背伸びしたというか、フロント陣が新しい世界を目指したような無理を感じてしまうのは、私だけでしょうか……。もっと素直に楽しんでも良かったと思います。
 逆に新時代の旗手ともなるマッコイ・タイナーの自然体が潔いというか、私は好きです。

ということで、あまり期待して聴くと肩透かしかもしれませんが、やはりモダンジャズ全盛期の空気が見事に封じ込められた作品だと思います。

特にリズム隊には、その熱気と怖いムード、妥協しない姿勢が強く感じられますねぇ。既に何度も書いたように、リバーサイド系特有のハードエッジな録音もジャストミートしていて、それが低音楽器演奏の魅力をダイレクトに伝える結果に繋がったんじゃないでしょうか。

ですからリズム隊のガチンコな雰囲気も、尚更に最高だと思います。

そして、それを楽しむためには大音量での鑑賞が望ましく、それゆえに我が国の住宅事情では苦しいわけですが、そこはジャズ喫茶という特別の天国がありますからねぇ~。気が向いたらリクエストしてくださいませ。

コメント
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