世の中、自分の不運を嘆いて無理難題を言う人が、必ずいます。
その気持ちは充分に分かりますが、それを規制するのが法律という仕組みであり、世の中の秩序はこれで保たれているのですが……。
どうしても納得出来ないものがあるのは、仕方がないか……。
ということで、本日は――
■Junior / Junior Mance And His Swinging Piano (Verve)
愛聴盤、なんて言葉を容易く使ってしまう私ではありますが、さて、愛聴盤というのは何時聴いても心底、シビレて感動するのが本当でしょうね。
そこであたらめて自分の好きなアルバムを思い返してみると、ピアノトリオでは、どうしてもこの1枚が必ず入ってしまいます。
主役のジュニア・マンスはハードバップの代表選手にしてゴスペルファンキーな演奏が得意ですから、1950年代末期から1960年代にかけて人気盤を多数発表しています。ただし時として、それが行き過ぎた部分も確かにあって、我国ではイマイチ、ブレイク出来ないのは、そのあたりが要因でしょうか。
しかしこのアルバムは名盤としての品格、充実した演奏と選曲の妙、さらに如何にもというジャケットの雰囲気が見事に合致しています。
録音は1959年4月9日、メンバーはジュニア・マンス(p)、レイ・ブラウン(b)、レックス・ハンフリーズ(ds) という素晴らしいトリオです――
A-1 A Smooth One
ベニー・グッドマン(cl) の当り曲で、テーマの印象的なリフがカーティス・フラー&ベニー・ゴルソンの某有名曲に引用されたほど♪ ですからジュニア・マンスの演奏も小粋なスイング感とファンキーなフィーリングの両立が見事に成功しています。
もちろんレイ・ブラウンのツボを押えたベースは最高ですが、レックス・ハンフリーズのドラミングも地味な良さが堪能出来ますねぇ。ちなみにステレオ仕様のアルバムは左にドラムス、真ん中にピアノ、右にベースが定位したミックスがすっきりとした録音で、特にベースの細かい音使いは、ハッとするほど良い感じです。
A-2 Miss Jackie's Delight
ジュニア・マンスが以前に在籍していたキャノンボール・アダレイ(as) のバンドでは定番の演目になっていたハードバップ曲ですから、このバージョンも抜かりはありません。
ブルースをイヤミ無く追求していくジュニア・マンスのサポートで素晴らしいベースワークを披露するレイ・ブラウン! 素晴らし過ぎます! プロのベース奏者にはお手本になっているらしいですね。
A-3 Whisper Not
ご存知、ベニー・ゴルソン(ts) が書いた哀愁の名曲を、このトリオはじっくりと演奏していきます。所謂イブシ銀の味わいなんですが、それでいてファンキー度数は非常に高く、ひとつひとつのフレーズに魂が宿った躍動感にグッとシビレます。
こうしたミディアムテンポでのスイング感は、オスカー・ピーターソンに通じる雰囲気もあり、それはレイ・ブラウンの参加ゆえのことでもありますが、実はオスカー・ピーターソンの通称「黄金のトリオ」よりも、このセッションが早いわけで、つまりドラムス入りのビアノトリオとしてはリアルタイムで最前線の輝きがあったのでしょうねぇ♪
A-4 Love For Sale
これまた幾多の名バージョンが残されているスタンダード曲という嬉しい演目♪ ここではアップテンポでコロコロと転がり続けるジュニア・マンスのピアノが出色で、ちょっとレイ・ブライアントに似ているあたりも、好感が持てます。
またレックス・ハンフリーズのブラシも最高に気持ち良く、クライマックスでキメを仕掛けてくるジュニア・マンスに感応するノリの良さは、本当にたまりませんねっ♪
A-5 Lilack's In The Rain
そしてこれが、このアルバムで私が一番気に入っている演奏です。地味なスタンダード曲なんですが、この味わい深いスローな表現はジュニア・マンスの一般的なイメージを覆すものでしょう。
脂っこい演奏が続いていた前曲までの流れがあって、LP片面ラストのこの曲が始ると、心底、ホッと和みます。
あぁ、このジンワリした歌心♪ 予想外に綺麗なピアノタッチも特筆ものでしょうか、とにかくこれは隠れ名演としか言えません。正直、この曲と演奏があるので、私は愛聴しているのでした。
B-1 Small Fry
B面に入っては、これまたたまらないソフトなゴスペルファンキー曲♪ ジンワリと染入って泣きに変化するテーマメロディの素晴らしさ、そしてアドリブ展開の完璧さ、小粋なピアノタッチとトリオとしての一体感♪ あぁ、こんな素晴らしいピアノトリオがあるでしょうか。
基本に忠実なレイ・ブラウンと余計な手出しをしないドラムスの存在は、逆に強まるばかりですし、全体にゆったりしたテンポが最高のグルーヴを醸し出しているのでした。
もう死ぬまで聴き続けても飽きないと、私は覚悟を決めています!
B-2 Jubilation
ジュニア・マンスのオリジナルとしては一番有名な曲でしょう。もちろんゴスペルハードバップなスタイルはモロ出しなんですが、このピアノトリオバージョンはテキパキとしたピアノタッチとグイノリのレイ・ブラウンが見事なコラボレーション!
失礼ながら、これにはレイ・ブライアントもオスカー・ピーターソンも顔色が無いでしょうね。意外とさっぱりとした味わいもニクイところです。
B-3 Birk's Works
当時はジュニア・マンスの親分だったディジー・ガレスピー(tp) のバンドレパートリーという真っ黒なブルースです。もちろんここでの演奏も、ギトギトに煮詰められたブルースとソウルが噴出しています。
冷静なレイ・ブラウンの伴奏があって、なおさらに脂ぎっていくジュニア・マンスのピアノは必要以上に熱くならず、前半はじっくり構えてジコチュウモード♪
しかし中盤になってレックス・ハンフリーズがブラシからステックに持ち替える俄然、熱気が充満していきます。僅かに聞こえる唸り声も良いムードを盛り上げますねぇ♪
クライマックスのブロックコード弾きは豪快にしてツボを押えた必殺技です。そうして次の瞬間、地味な世界に戻っていくあたりは、憎たらしいほどです。
B-4 Blues For Beverlee
ジュニア・マンスが十八番としているスローブルースの世界が存分に楽しめる名演です。と言っても、ブルースが嫌いな人には地獄かもしれないほどのドロ臭い仕上がりなんですが……。
とにかく粘ってファンキーに進んでいくジュニア・マンスの本領発揮! そのアドリブの背後でエグイ事を平気でやるレイ・ブラウンのベースワークも凄いと思います。このあたりはオスカー・ピーターソンのトリオとは一味違った雰囲気で、思わず和んでしまうのでした。
う~ん、このベースのアドリブは圧巻!
B-5 Junior's Tune
オーラスはタイトル通り、ジュニア・マンスのオリジナル曲で、当然ながらゴスペルの味わい♪ まあバンドテーマという趣もあり、短い演奏です。
しかし小粋で洒落た雰囲気は最高で、とても前曲でドロドロネバネバをやっていたピアニストと同一人物とは思えないほどです。これがジュニア・マンスの恐ろしさでしょうねぇ~♪ 私は大好きです。
ということで、個人的にはスミからスミまで名演揃いのアルバムとして心底、愛聴している1枚です。最低でも月に1回は必ず聴いているといって過言ではありません。いろいろと気が多い私にしては、珍しい事です。
今更、こんな独白は、ちょっと恥ずかしいのですが……。