OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

初体験の農作業

2007-04-30 19:30:11 | Weblog

さて、本日は生まれて初めて、本格的農作業を手伝いました。

バンドメンバーの家が大農家で、練習もその蔵を借りているわけですが、それにしても広大な水田があるもんですねぇ~。

もっとも、田植え作業は機械で行うわけですが、今日はその田圃をトラクターで土起こしみたいな仕事でした。それと苗の用意とか、まあ、あらためて農家の大変さを実感!

食事の際には「ありがとう」という言葉が自然に出るように気分になりました。

ということで、本日の1枚をアップしょうとしたら、またまたプログが不調です。

上手く掲載できないというか、消える、消える、消えるの繰り返し三連発で、諦めました。

それにしても今月は体調不良から人間ドッグ騒ぎで、休載が多く、申し訳ないかぎり……。気合を入れていたはずなんですが、空回りでした…。

さい、来月こそっ! 

 

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傑作サントラCD復刻

2007-04-29 17:58:22 | Weblog

今日はいろいろとネタを仕入れてきましたが、やっぱり店頭で手に取って買物する楽しみは、ネットでは味わえない貴重な楽しみだと痛感!

その中から、こんなん買ってしまいましたというのが、本日の1枚です――

赤い鳥逃げた? / オリジナル・サウンド・トラック (Polydor / ユニバーサル)

映画のサントラ盤には、お洒落でカッコイイ音楽がいっぱい♪

これって、前世紀末頃からの社会常識になりましたが、やっぱりそれは映画そのものを観ているか否かで、ずいぶんと印象も変わろうかと思います。

さて、このアルバムは藤田敏八監督による昭和48年の東宝映画「赤い鳥逃げた?」のサントラ盤ですが、各々の楽曲は、もちろん映画でそのまま使われたわけではありません。真の映画サントラ=フィルムトラックとは別物というか、映画では、ここに収録された楽曲の断片や編集バージョンをカットやシーンの長さに応じて使い分けているのが、本当のところです。

つまり、このアルバムとフイルムトラックは似て非なる別物です。

しかし素直に曲と演奏を楽しむ事においては、全く影響ありません。特に映画本編をご覧になっていない皆様には、むしろ、こっちの方がオススメです。

肝心の内容は、作編曲が近年、局地的に人気があるピコ=樋口康雄♪ インスト主体ではありますが、特に主題歌は安田南によって歌われています。ちなみに彼女は、ディランⅡによって歌われた昭和の名曲「プカプカ」のモデルになったジャズシンガーだと言われておりますが……。

また気になる映画本編は、主演が原田芳雄、桃井かおり、大門正明で、物語は藤田監督が十八番の無気力青春破滅物語です。あてどない恐喝を生活の糧にしている原田芳雄と大門正明の2人にフーテンの桃井かおりが加わって、あれやこれや……。もちろんセックス、ドラッグ、ロックンロールしたくても出来ないという、焦りに満ちた末期的青春物語です。

そして実は桃井かおりは大金持ちのお嬢様というオチがあるのですが、もちろん物語は藤田監督がお得意の無気力節ですから、個人的は??? まあ、正直言って、自分の感性にあっていないトホホです。

しかし使われた音楽は、昭和歌謡フォークのレアグループ的展開とでも申しましょうか、けっしてソフトロックなんて言えない、イナタイ演奏が脱力するほど快感です――

A-1 メイン・テーマ
 一瞬、ギル・エバンス!? のイントロからファンキーロックなインストが始まります。もちろんクインシー・ジョーンズ風の展開で短いながらも密度の濃いカッコ良さ♪

A-2 マコのテーマ
 一転して、フルートを使った歌謡フォークの室内楽的な展開が心地良いです♪ あぁ、この優しいメロディの妙は樋口康雄の真骨頂でしょう。せつないストリングの響きにシンミリと泣けたりします。生ギターとヴァイブラフォンのコンビネーションも良いですねぇ。エレキベースのイナタイ蠢きも、好きです。と愛の告白♪

A-3 旅の最中に
 これまたイナタイ蠢きのエレキベース! ソプラノサックスがリードする素敵なメロディと生ギター、そしてヴァイブラフォンの絡みが爽やかです。
 あぁ、本当に「昭和48年」です。って、これはリアルタイムを体験した者にしか通用しないかもしれませんが、そんな思いに浸っていると、またまた爽快なエレピのソロに昇天させられます。
 あぁ、歌謡フュージョン♪
 
A-4 猟銃
 ちょっと思いつめたようなメロディが印象的ですし、もっさりとしたエレキベースが、これまた素敵な演奏です。スローな曲なのでストリングも重めになっているあたりがミソでしょうか、厳かにシミジミとしてまいります。

A-5 ビルディング
 オトボケ&ファンキーな曲と演奏が見事にキマッています。
 イナタイ4ビートのベース&ドラムスにリードされたエレピのアドリブにも和みますし、カントリーロックのエレキギターがオクターブ奏法をやってしまうあたりも、憎めません♪
 ブラスもトボケて痛快ですよ!

A-6 猫
 厳かなゴスペル歌謡フォークとでも申しましょうか、バロック風味もあったりして正体不明な魅力がある曲です。ユーミンの歌が出てきそうな雰囲気も♪
 まあ、実際には様々な要素がじっくりと煮込まれたアレンジが凄いのでしょうねぇ……。何時の間にか虜になってしまう演奏だと思います。

A-7 赤い鳥逃げた?(唄:安田南)
 これが主題歌で、安田南の歌唱は溌剌として悪い予感に満たされているという素晴らしさ! 歌詞とぴったりなんですねぇ。
 ちなみに曲調は、開放感のある歌謡フォークなんですが、やっぱり♪

B-1 山の手
 これまたオトボケ調のインストで、カントリーロックに和製ゴスペルを加えたような雰囲気ですが、エレピが隠し味でしょうか。ギターがパキパキのソロを聞かせた次の瞬間、歌謡曲どっぷりのトランペット出てきて、泣かせますよ。

B-2 愛情砂漠 (唄:原田芳雄)
 原田芳雄の歌は、やや暑苦しいので好きではありません。
 この曲はCMなんかにも使われていましたから、きっと皆様は知っていらっしゃるでしょうが、個人的には……。

B-3 宏のテーマ
 なかなかカッコ良いファンキーなインストです♪
 ワウワウなギターは当時の流行ですし、決してグイノリでは無い、もっさりとグルーヴするエレキベースは、このサントラ盤を通して印象的なキモだと思います。
 う~ん、エレピや電気サックスも上手い使われ方ですねぇ。

B-4 オレンヂ・ブリッヂ
 歌謡フォークをクラシックで煮しめたようなイントロから、ヴァイブラフォンが哀愁のテーマをリードしてフルートにバトンタッチ♪ 緊張感のあるストリングスやエレピ、生ギターのリズムも素敵です。
 もちろん、もっさり型エレキベースの蠢きも良いです♪
 しかし、この演奏はあくまでもメロディラインに絡むストリングスの素晴らしさに尽きるでしょう。何回聴いてもシビレます!

B-5 封筒を開けたら
 なかなかジャズロックっぽいアレンジがハードボイルドです。エレピが最高ですねぇ~♪ チープなソプラノサックスと無理矢理グルーヴしてくるエレキベースがイナタイ! あぁ、たまりませんねぇ♪
 ペラペラのエレキギターも逆に痛快♪
 なんと和製フュージョンの夜明けが、ここにあったというわけです。

B-6 赤い鳥逃げた?(イントスルメンタル)
 なかなかバロックにアレンジされた主題歌のインストバージョンで、チェンバロが印象的♪ そしてクラリネットやフルート、ストリングスも使われていますが、リズム隊がグルーヴしまくるエレキベースにリードされているんですから、グッときます。場違いな生ギターのリズムも結果オーライでしょう。

ということで、このサントラ盤は個人的に愛聴している1枚なんですが、なんと現在、1300円でCDが買えます! あぁ、速攻で買って車の中で鳴らしまくりです♪ そして映画の中にトリップする成りきりモード♪

う~ん、なんか急激に映画本篇が観たくなっています。DVD、出ていないのか!?

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スーパーサックス1975

2007-04-28 18:55:55 | Weblog

連休に突入したのに、本日は仕事でした。

実は連休明けに上海出張が予定されていますので、その準備です。

でも、煮え切らないので、スカッとするこれを――

The Japanese Tour / Super Sax (Hindsight)

モダンジャズを創成したチャーリー・パーカーという偉大な黒人サックス奏者は、1955年に34歳で亡くなっていますが、未だに誰も乗り越えられない真の天才です。

とにかくその真髄はアドリブの凄さに尽きるわけですが、それならば、その残されたアドリブを徹底研究して再現しようとする試みとして、スーパーサックスという、これまた別の意味で凄いバンドが、1970年代に登場しました。

彼等が目指したのは、チャーリー・パーカーが残したアドリブを寸分違わずサックスアンサンブルで再現するという、本当に無謀で怖ろしい企みでしたが、なんと最初に発売したアルバム「スーパーサックス・プレイズ・バード(Capitol)」は驚愕の出来栄え! そして1973年度のグラミー賞を獲得したのです。

バンドの中心メンバーはメド・フローリー(as) とバディ・クラーク(b) という、アメリカのスタジオやビックバンドの世界では名人の中の大名手です。そしてチャーリー・パーカーの残したアドリブを綿密に採譜・アレンジし、一糸乱れぬサックスアンサンブルで再現したその演奏は、チャーリー・パーカーの凄さの再認識でもありましたが、やはり聴いていて抜群のスルリと快感があるのです。

発売されたアルバムは前述の1stに続き「ソルト・ピーナツ」「ウイズ・ストリングス」等々がありますが、メンバーはリーダー格の2人以外は流動的でした。しかもサックスアンサンブルの他に、ちゃんとメンバー自身のアドリブパートも用意されているのですから、生半可の実力では勤まりません。

ですから私は、所詮、スーパーサックスはスタジオで作られた架空のバンドだろうと、当時、勝手に決め付けていました。

ところが1975年1月に、そのスーパーサックスの来日公演が行われると知って、またまた驚愕! あんな物凄いサックスアンサンブルがライブで可能なのか!? と興味深々でした。

で、結論から言うと、ほとんど完璧な演奏でした。そしてこのアルバムこそ、当時の来日公演を収録した奇跡の発掘CDというわけです。

録音は1975年1月、メンバーはメド・フローリー(as,arr)、ジョー・ロペス(as)、ウォーン・マーシュ(ts,arr)、ジェイ・ミグリオリ(ts)、ジャック・ニミッツ(bs)、フランク・ロソリーノ(tb)、ルー・レヴィ(p)、バディ・クラーク(b,arr)、ジェイク・ハナ(ds) という、実力者揃いです――

01 Scrapple From The Apple
 チャーリー・バーカーが1947年11月に行ったスタジオセッションで吹き込まれた代表的オリジナル曲ですが、もちろんライブでも定番ということで、公式・非公式を含めて、夥しい録音が残されています。
 スーパーサックスの演奏は、その中から特に素晴らしいアドリブパートを抜き出してサックスアンサンブルにアレンジし、冒頭からアップテンポで一糸乱れぬ演奏を披露しています。あぁ、このイントネーションまでバッチリ合わせたアドリブの再現パートは、神業でしょうか!? 爽快です!
 そしてメンバー自らのアドリブパートでは、まずフランク・ロソリーノが絶好調で小刻みフレーズの積み重ね♪ 豪快にスイングしまくった、これも神業だと思います。また続くジャック・ニミッツのバリトンもアタックの強い野太い音ですし、ジェイ・ミグリオリはモード系で押しまくり、ルー・レヴィは軽快に歌っているという、本当に凄い演奏になっているのでした。
 あぁ、これ1曲で完全にスーパーサックスの虜になるでしょう。リズム隊の安定感とグルーヴィなバップフィーリングも最高ですよっ♪

02 All The Things You Are
 有名スタンダードですが、これもチャーリー・パーカーが十八番にしていただけあって、幾多の名バージョンが残されています。もちろんスーパーサックスは、その美味しいところを総ざらいしたアンサンブルが見事!
 う~ん、それにしてもチャーリー・バーカーは、なんて手間のかかるフレーズばっかり吹いていたんでしょう! あらためて驚愕させれますねぇ。
 そしてアドリブパートではフランク・ロソリーノが大暴れ! こんなにワイルドな演奏は、ちょっと珍しいかと思います。また鋭さ満点のメド・フローリーは、かなり前衛しているのも??? すると、何時もは和みのルー・レヴィまでもがド派手なピアノで、なんじゃ、これっ!? の松田優作状態です。

03 Salt Peanuts
 ディジー・ガレスピーが書いた、ビバップの完成形とされる楽しい曲ですが、もちろんチャーリー・パーカーとのコンビを想定したエキセントリックな雰囲気がいっぱいです。
 ここではジェイク・ハナの爆発的なドラムスが土台を作り、炸裂するサックスアンサンブルがディズ&バードの見事な再現を目指し、ウルトラアップテンポで疾走していきます。
 そしてルー・レヴィが大奮闘! もちろんバド・パウエルの役目をしっかりと務めているわけですが、続くサックスアンサンブルのパートも激烈! あぁ、リアルタイムで圧倒された、あの日の思い出が蘇える金狼です♪
 またフランク・ロソリーノが、またまた凄いですし、ウォーン・マーシュがクール派の仮面を剥ぎ取ってのメチャ吹き! ちなみにステージでは首を振り振り、テナーサックスを吹くんですよっ♪ あぁ、何度聴いても強烈で、眩暈してきました。

04 Parker's Mood
 チャーリー・パーカーのオリジナルで、ソウルフルなブルース魂に満ちたテーマ~アドリブが、永遠の傑作として音楽史上に残っておりますが、スーパーサックスはそのエッセンスを余さずに抽出し、ジャズの素晴らしさを伝えようと奮闘しています。
 ただ、サックスアンサンブルが見事過ぎて作り物というイメージが強くなり、残念ながらチャーリー・パーカーの魂までは再現出来ていないと感じます……。
 しかし、それを救うのが、フランク・ロソリーノの豪快なトロンボーンによるアドリブソロという仕掛けが♪

05 Just Friend
 これもチャーリー・パーカーが十八番だったスタンダード曲ですから、サックスアンサンブルで再現されるテーマからアドリブ再現は、間然することがありません。
 短めの演奏ですが、むしろスッキリと好ましい仕上がりになっています。

06 Ornithology
 これまたチャーリー・バーカーが書いた典型的なビバップ曲! ですから、サックスアンサンブルも緻密にアレンジされ、演奏も完璧に近い出来栄えです。もちろん、お客さんがお待ちかねのブレイクもビシッと再現され、痛快です!
 アドリブパートではフランク・ロソリーノが烈しく燃え、続くウォーン・マーシュが面目躍如の意味不明というフレーズを連発! これって、モードですかぁ……? いやはやなんともですねぇ。ルー・レヴィにも疲れが滲んでいる雰囲気ですが、流石に纏め方は上手いので、和みます。
 そしてラストのアンサンブルが、またまた凄~~~い、です! ベース&ドラムスの縁の下の力持ちも素晴らしいと思います。

07 Embraceable You
 おぉ、チャーリー・パーカーと言えば、絶対に外せないのが、この演目です。大胆にテーマを変奏してアドリブに入っていく本家の神業を、見事にサックスアンサンブルで再現していくあたりは、1947年のオリジナルバージョンを知って尚更驚愕です。短い演奏ですが、素直な再現が憎めないところでしょう。

08 Moose The Mooche
 これもチャーリー・バーカー全盛時から定番化している名曲・名演にチャレンジするスーパーサックスの凄さが堪能出来る演奏です。
 まずジェイク・ハナのドラムスが大ハッスルすれば、サックスアンサンブルは怒濤の勢いで突進しまくり! というよりも、チャーリー・パーカの凄さを堪能出来る仕掛けというべきでしょうか♪ う~ん、しかしこれをライブでやってしまう、このバンドの恐ろしさ!
 アドリブパートでのフランク・ロソリーノは生涯の名演というか、ハメを外したような凄みがありますねぇ。また逆に正統派の潔さで迫るのがジョー・ロペスであり、ジャック・ニミッツです。しかも2人とも、極力、パーカーのフレーズを出さないようにしているあたりが、ミソ!

ということで、発掘物ですが、音質も大変に良好なステレオ録音であり、サックスアンサンブルの細かな部分とか、グルーヴしまくるベースと炸裂するドラムスの強烈なビート、そして全員の豪快かつ繊細なノリが存分に楽しめます。

ちなみに、このアルバムには続篇も出ていますので、いずれご紹介する予定ですが、まずはこれから♪ 絶対のオススメ盤というか、スカッとジャズの本質を楽しむ時は絶対です。あぁ、ついつい音量を上げてしまいますねぇ♪

そして最後には、本家チャーリー・パーカーを聴きたくなるのでした。

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新旧対決1966

2007-04-27 18:22:58 | Weblog

あぁ、明日から華麗なる連休を楽しむ皆様もいらっしゃるのでしょう。

私は仕事、バンド練習、その他の野暮用でいっぱいです。

しかも先日の人間ドッグ騒ぎから、家族が赴任地にやって来ていますので、監視されているようで……。

はい、バチアタリなのは自分でも分かっているのです。しかし単身赴任というか、久々の独り暮らしを楽しんでいた身分としては、ねぇ……。

ということで、本日は――

Here Comes Earl“Fatha”Hines (Contact)

ジャズ喫茶の隠れた楽しみが、居眠りです。あの大音量の中で気持ち良いビートに身をまかせて落ちて行く居眠りモード♪

そして、もうひとつの快楽が、そんな夢見心地の中でブイブイと耳を刺激し、ズバ~ンと脳天に杭打たれるジャズの衝撃です。

本日の1枚は、私にとって、当にそうしたブツで、けっこうジャズ喫茶に通い始めた初期の頃に出会ったアルバムです。

もちろんその時も居眠りモードの真っ只中でしたが、ゴリゴリのベースとビシバシのドラムスが心地良く響き、躍動的なビアノがガンガン迫ってくるという、本当にジャズ喫茶ならではの音が快感でした。

で、ドラムスはエルビン・ジョーンズかなぁ……? と思って目を開け、飾ってあるジャケットを眺めると、そこにはアクの強い笑い顔の黒人オヤジが写っていたのです。そして、この人こそ、ジャズの基本を作り上げた偉大なピアニストだったというのは、後に知るわけですが――

録音は1966年1月17日、メンバーはアール・ハインズ(p)、リチャード・デイビス(b)、エルビン・ジョーンズ(ds) という、異端の強力トリオです――

A-1 Save It Pretty Mama
 如何にも古臭い曲ですが、ラテンビートを使った楽しい演奏になっています。
 アール・ハインズは既に述べたように、ジャズ創成期から活動してきた黒人ピアニストで、ルイ・アームストロングと共に今日まで続くジャズの基本を作り上げた偉人ですが、そのスタイルは歯切れの良い単音弾きとガンガン迫るブロックコード弾き! つまりナット・コールやウイントン・ケリーらに継承発展された不滅のスタイルが特徴で、ここでもその魅力が全開!
 山場で炸裂する打楽器のようなピアノに対抗するエルビン・ジョーンズのシンバルが強烈ですし、終始、真っ黒な蠢きに撤するリチャード・デイビスのベースも流石だと思います。

A-2 Bye Bye Baby
 一抹の哀愁を含んだ楽しい名曲を、このトリオは徹頭徹尾スインギーに聞かせてくれます。あぁ、エルビン・ジョーンズのブラシの粘っこさ! リチャード・デイビスの絡みつくベースも秀逸です。
 肝心のアール・ハインズは歌心いっぱいの飛跳ねフレーズを連発していますが、「間」の取り方も絶品で、そこを埋めていくリチャード・デイビスのベースも上手いですねぇ~♪ ズバリ、快演です!

A-3 Somke Rings
 これも1930年代の曲らしく、演奏は日活酒場のような雰囲気に満たされていますが、リチャード・デイビスのベースワークはモダンそのもの♪ しかしアール・ハインズは全くペースを乱さないのですから、貫禄も実力も完全に上というところでしょうか。
 こういう悠然たる態度こそ、偉人の証ですが、全然威張っていない楽しいピアノが、たまりません。

A-4 Shoe Shine Boy
 いきなり猛烈に疾走するエルビン・ジョーンズのブラシが鳴り響きますが、アール・ハインズは全く動じることがないマイペースです。もちろんスピード感に満ちたピアノを聞かせてくれますが、大ハッスルするドラムス&ベースを尻目に、緩急自在の思惑が見事に完結し、若い2人は翻弄されっぱなしなのでした。

B-1 The Stanley Steamer
 これが、前述した私のアール・ハインズ初体験演奏です。
 重量級のドラムスとベースを従えたアール・ハインズは哀愁のテーマを力強く弾きまくり、アドリブパートもその変奏に終始しますが、そこへ襲い掛かっていくのが、リチャード・デイビスとエルビン・ジョーンズですから、強烈です。
 曲はアール・ハインズがアルバム・プロデューサーのスタンリー・ダンスに捧げたものですから、必然的に熱も入ろうというもんですが、それにしてもリチャード・デイビスの力強いグルーヴとエルビン・ジョーンズの怖ろしいシンバル!
 アドリブパートでもリチャード・デイビスはフリー寸前の烈しいベースソロを聞かせてくれます。しかしアール・ハインズは、それ以上にアグレッシブなんです。あぁ、こんな文章を書いている自分が歯がゆいというか、虚しくなるほどの演奏です。
 全てのジャズ者は必聴! と決めつけましょう!
 それと実はこれ、最初、居眠りモードで聴いた時は、ウイントン・ケリーのピアノかと思ったんですが、後に1920年代から第一線でやっていた人と知って、尚更に驚愕したわけです。

B-2 Bernie's Tune
 続けて演奏されるのは、ジェリー・マリガンで有名な、これも楽しい名曲ですが、ここでも猛烈なスピートと黒いグルーヴが両立した快演になっています。
 まず、とにかくアール・ハインズのピアノに勢いと質量があります! もちろんリチャード・デイビスのベースも激烈ですし、エルビン・ジョーンズのブラシも必死の形相なんですが、どうにも止まらないピアノの真正スイングには、お手上げ状態! う~ん、この躍動感には完全降伏です。

B-3 Dream Of You
 これまた有名スダンダードですが、前2曲から一転して和み優先モードなので、ホッとします。と言うか、こんな演奏ばっかりでも、充分にアルバム1枚を傑作に出来るはずなのが、アール・ハインズの実力でしょう。
 全く、真似の出来ない楽しい歌心の妙は、実は予測不可能というスリルがありますし、神妙なエルビン・ジョーンズ、また機を見て敏なるリチャード・デイビスのベースワークも秀逸です。
 本当に何時までも聴いていたアルバムの終焉に相応しい演奏だと思いますねぇ。

ということで、これもジャズ喫茶の人気盤♪ 特にB面が定番ですが、自宅ではA面のリラックス感にシビレたりします。

ちなみに主役のアール・ハインズは、このセッション時には還暦を過ぎていたはずですが、その若々しさは驚異的! 全盛期のエルビン・ジョーンズが子ども扱いですからねぇ♪ しかもモダンだとかスイングだとか、そういうジャンル分けが不可能なジャズそのものの楽しさ、凄さが存分に味わえるという、真の名盤だと思います。

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ボッソ&バッソ

2007-04-26 19:22:01 | Weblog

なんか、今日は寒かったですよ、身も心も……。

こういう時は安心感満点のアルバムを聴く他ありませんです――

`S Wonderful / Bosso Meets Basso Quintet (Philology)

今やすっかり人気者になったイタリアの若手トランペッターと言えば、ファブリッツィオ・ボッソ! 抜群のテクニックを駆使して、時には尖がった演奏もやってしまいますが、柔らかな歌心を追及するという近年の姿勢は、私のお気に入りです。

しかも親子以上に年齢差があるベテランのテナーサックス奏者=ジャンニ・バッソと組んだハードバップ路線のアルバム製作は、事勿れ主義というよりも、安心感優先の大衆的モダンジャズ♪ 実はこういう姿勢が潔くて貴重じゃないかと思います、決して居直りじゃなくて!

さて、本日の1枚は、このバンドによる最新作で、録音は2006年1月6日、メンバーはファブリッツィオ・ボッソ(tp)、ジャンニ・バッソ(ts)、Andrea Pozza(p)、Luciano Milanese(b)、Stefano Bagnoli(ds) という、ほとんどレギュラー化している面々です。

しかも演目がスタンダード中心であり、いずれもジャズの歴史を作ってきた名人トランペッター&サックス奏者によって決定的な名演が残されているという、なかなか油断出来ない選曲です――

01 What Is This Thing Called Love
 コール・ポーターが書いた名曲で、ハードバップではブラウン&ローチのバンドによって決定的な名演が残されていますので、なかなか勇気ある挑戦だと思います。
 で、結論から言うと、もちろん敵うはずもない仕上がりなんですが、それなりに快適でグルーヴィな演奏を聞かせてくれます。特にファブリッツィオ・ボッソが大奮闘! ただし、クリフォード・ブラウンの優れたアドリブが耳タコになっている所為か、虚しいものを感じてしまうのですねぇ……。
 それはジャンニ・バッソにも言えることで、全盛期のソニー・ロリンズに比べてしまうこと自体が不遜なんでしょう。
 ですから、虚心坦懐に聴くことが要求されるという、煮え切らなさが……。

02 Withchcraft
 和み系のスタンダード曲ですから、ここではジャンニ・バッソがリードしたソフトな演奏になっています。ちなみに、この人のスタイルは西海岸派のビル・パーキンスがベン・ウェブスターを真似したような感じで、つまりコルトレーンのフレーズなんて、間違っても出てきません♪ あくまでも歌心とムード優先という非常に好ましいもので、ここでもその魅力が全開です。
 また没個性派のピアニストと私が勝手に決め付けている Andrea Pozza が、良い味出しまくりです。
 気になるファブリッツィオ・ボッソはテーマ部分でミュートで絡む他は出番が無いんですが、これがかなりイケていますよ♪

03 Quo Vadis Samba
 欧州の人気トランペッター=ダスコ・ゴイコビッチが書いたラテンビートの楽しい曲ですから、このバンドには相性が良いんでしょうか、躍動的な演奏に終始しています。
 アドリブ先発はウネリとヒネリがたっぷりのジャンニ・バッソ! するとファブリッツィオ・ボッソが偉大なる先輩トランペッターに敬意を表しつつも、かなりアグレッシブなフレーズを駆使して過激にブッ飛ばします。
 ただし残念なのが、リズム隊に冒険心が足りないというか、安定主義なのが勿体ない限りです……。Andrea Pozza も Stefano Bagnoli も、かなり頑張っているのですがねぇ……。
 
04 On A Slow Boat To China
 これまたソニー・ロリンズ(ts)、あるいはフィル・ウッズ(as) の決定的な名演が残されている名曲ですからねぇ。しかし流石はベテランのジャンニ・バッソは素晴らしい♪
 悠々自適のテーマ吹奏から唯我独尊のアドリブまで、全く自分の「歌」に撤しています。それは柔らかな情感であり、熱き心の独白♪ あぁ、これがジャズを聴く喜びだと思います♪
 またファブリッツィオ・ボッソが、余裕で楽しいフレーズを吹きまくり! やや流麗過ぎるというか、コブシが足りない雰囲気も感じられますが、凄まじい難フレーズを楽々と吹ききってしまうあたりは、聴いていてスカッとします♪ テーマをリードするジャンニ・バッソに絡むフレーズの妙も素晴らしいです!

05 If I Were A Bell
 ゲッ、マイルス・デイビスの決定版に挑戦ですかぁ! う~ん、ファブリッツィオ・ボッソ、大丈夫か!?
 と思わずにはいられないのですが、恐いものみたさ的に聴いてみると、これが味わい深い仕上がりになっています。
 まず、イントロは例のレッド・ガーランドの演じたものと同じであり、しかもファブリッツィオ・ボッソはミュートで勝負しているんですねぇ! う~ん、またまた唸ってしまいますが、ちゃ~んと、マイルス・デイビスの味を残しつつ、ファブリッツィオ・ボッソだけの個性を表現しているところは立派というか、驚愕させられます。いや~ぁ、なかなか良いですねぇ~♪ ラストテーマの思わせぶりも憎めません♪
 そして負けず劣らずに良いのが Andrea Pozza のピアノで、安定感抜群の伴奏からアドリブではレッド・ガーランド風の味わいから新感覚のフレーズまでゴッタ煮にして、和みの時間を提供してくれるのでした。

06 With A Song In My Heart
 これも人気スタンダードなんですが、ここではジャンニ・バッソを主役に、ボサノバにアレンジして聞かせてくれます。あぁ、和みますねぇ~♪
 もちろんブリッツィオ・ボッソも素晴らしく、ここではアート・ファーマーのようなソフトで濃密なアドリブを披露♪ バカテクの激烈アドリブばかりではなく、こういう柔らかな歌心があるのも、この人の持ち味だと思います。

07 `S Wonderful
 アルバムタイトルになっているだけあって、物凄いエネルギーに満ちた演奏になっています。曲はもちろん、ヘレン・メリル(vo) とクリフォード・ブラウン(tp) が共演した決定的なバージョンが残されているスタンダード!
 それをここでは快適なハードバップにしていますが、バンド全体のノリが素晴らしいかぎりです。ジャンニ・バッソはモタモタしていながら、決してリズム隊に置き去りにされることなく、ジャズの基本的な部分で勝負しているようです。
 しかしブリッツィオ・ボッソが素晴らしい! 豊かな歌心と激烈フレーズのバランスは、もう最高!!! まあ、基本はウィントン・マルサリス(tp) なんでしょうが、如何にも欧州人らしい愁いとスマートさがイカしています。
 そしてどうやら、バンドもこの曲からエンジンが全開してきたようです。

08 Candy
 うへぇ、これはリー・モーガンが絶対的な名演を残しているんですよっ!
 それに挑戦するブリッツィオ・ボッソは、何、考えてんだぁ……!
 しかし、この演奏も凄いです!
 ゆったりしたテンポなんですが、テーマメロディに含まれたソフトな情感と粋なフィーリングを完全掌握したボッソ&バッソのコンビネーションが、まず最高です。
 アドリブパートでは、先発のジャンニ・バッソが心の中の底から湧き上がる歌心を余さずに披露すれば、続くブリッツィオ・ボッソは、なかなか上手いタメとモタレでコブシの無さをカバーしつつ、全てが「歌」という最高のフレーズを連発していきます。もちろん超絶テクニックによる倍テンポ吹きも披露しますが、あくまで「歌」に拘った姿勢が潔いですねぇ~♪

09 Oh, What It Seemed To Be
 あぁ、和みます♪ ジャンニ・バッソが一人舞台の名人芸♪
 このキャバレー・モードと申しましょうか、ナイトクラブで美女といっしょにグラスをかたむけ……、さあ、その後は♪ という部分も良し、さらに独り感傷に酔ってしまうのも、また良しというムードの醸し出し方は、凡百のプレイヤーには無理です!
 まさにベテランの味わいというか、そのあたりを咀嚼したリズム隊の地味な良さも、味わい深い演奏になっています。

10 Quo Vadis Samba (alternate)
 オーラスはオマケでしょう、「03」の別テイクですが、甲乙付け難い仕上がりです。個人的には、こちらがリズム隊にワイルドな感じがして好きですが♪

ということで、これは安易な企画と受け取られがちなアルバムではありますが、中身は濃いです。実際、今、これだけ安心感のあるハードバップ~モダンジャズをやってくれるバンドがあるでしょうか。

ただし残念ながら、このCDは録音の按配がベースに甘く、モヤッとした音なんですねぇ……。もう少しゴリゴリした音が出ていれば、また印象も変わるかもしれません。

それと噂では、ブリッツィオ・ボッソが名門ブルーノートと専属契約をかわしたらしいですが、さもありなんとは言え、妙な背伸びとか妥協をしない姿勢を貫いてほしいものです。

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懐かしのダイレクト盤

2007-04-25 17:25:59 | Weblog

連休前に仕事の追い込み!

あんまりケツを叩くのは好きではないですが、これも仕事だ! ゼニ儲けだぜっ!

と言い訳しながら、ガツガツやったのが本日です。

そこで――

The Three (East Wind)

フュージョン全盛期だった1970年代後半には、モロジャズ側から様々な反抗があり、それゆえにジャズ喫茶も最後の黄金期を迎えていたと思います。

このアルバムも、そうした中の花形的な1枚でしょう。

なによりも企画が純粋ジャズの極北にあるダイレクト・カッティングという、前時代的な手法を用いていましたし、同時に参加メンバーが新鮮でした。

録音は1975年11月28日、メンバーはジョー・サンプル(p)、レイ・ブラウン(b)、シェリー・マン(ds)! もちろんジョー・サンプルは当時バリバリに人気があったフュージョンバンド=クルセイダーズの主要メンバーであり、またレイ・ブラウンとシェリー・マンはモダンジャズの大御所という組み合わせが、あざといと言う以上に興味深々でした。

つまり表向きはフュージョン対モダンジャズという趣であり、しかし深層には新主流派の隠れ実力者であるジョー・サンプルのモダンジャズ魂と、時にはスタジオの仕事でロックやフュージョンをやっていたレイ・ブラウン&シェリー・マンの物分りの良さが、如何なる演奏を聞かせてくれるのか!?

またダイレクト・カッティングという、所謂一発勝負が、これまたジャズの真髄に迫っているという部分もウリでした。

このダイレクト・カッティングというのは、テープレコーダーが実用化される前の録音手法で、スタジオで演奏された音を直接、レコーディングマスターのラッカー盤に刻むというのがミソです。

つまり塩ビのレコードをプレスする時のハンコを直に作る作業になるわけですから、レコード片面を一気に演奏して、尚且つミスは許されず、もちろんオーバーダビングも出来ませんので、ジャズという瞬間芸には最適のスリルが記録されるという目論みです。またテープを介在していないので、音の良さも抜群でしたが――

A-1 Yearnin'
 オリバー・ネルソンが書いたゴスペル風味満点の名曲です。
 実はこのアルバムのプロデュースにはオリバー・ネルソンも関わっていたのですが、なんとセッション直前に急逝! そこでメンバーはこの曲を追悼の意味で演奏したそうです。まあ、そういうエピソードを知らされると、尚一層、ソウルフルな気分に満たされるわけですが、なかなかどうして、このグルーヴィな味わいは素晴らしいと思います。
 特にジョー・サンプルは真っ黒! とは言え、これはクルセイダーズでのプレイと本質は変わっていないのですから、侮れません。
 またレイ・ブラウンとシェリー・マンは気心の知れたコンビネーションで絶妙のリラックス感を生み出しており、流石だと思います。 

A-2 On Green Dolphin Street
 モダンジャズでは幾多の名演が残されている定番スタンダード曲ですから、安易な姿勢は許されないということで、特にジョー・サンプルが大ハッスル! 初っ端からベテラン組のベースとドラムスをリードしてインタープレイからテーマに入れば、もうスピード感満点の展開にシビレまくりです♪
 シェリー・マンのブラシも最高の気持ち良さで、途中から持ち換えるステックもスマートですし、全篇で烈しくも痛快なドラムスを聞かせてくれます。
 もちろんジョー・サンプルも烈しく疾走し、モード系のフレーズからハードバップ丸出しのコード弾きまで、ジャズ者の琴線を刺激しっぱなし!
 あぁ、この曲にまたひとつ、名演が生まれたというわけです。

A-3 Satin Doll
 お馴染み、デューク・エリントンの代表作のひとつ♪ まあ、ビアノトリオ盤には欠かせない人気曲ですから、ここでもリラックスしつつグルーヴィに演奏されますが、前2曲のインパクトがあまりにも強かった所為か、個人的にはイマイチという感じ……。
 それでも出来は平均点以上で、中でもレイ・ブラウンの落ち着いたベースワークが秀逸だと思います。
 ただしダイレクト・カッティングという企画では、ここまで一気に16分強を押し切って演奏していますから、緊張感に疲れが滲んでいるような……。

B-1 Manha Do Carnaval / カーニバルの朝~黒いオルフェ
 さてB面も、ここからの3曲がスタジオで一気に演奏されています。
 まずはボサノバの名曲ですが、なんとボサロック調のリズムが強く、それゆえにジョー・サンプルのピアノからはファンキーなフレーズが溢れ出るという趣向に好き嫌いが分かれると思います。
 正直、個人的は???
 
B-2 Round About Midnight
 セロニアス・モンクが書いたモダンジャズを代表する名曲です。
 ここでの主役はレイ・ブラウンで、最初から繊細な表現でペースを設定し、ジョー・サンプルも幻想的なピアノプレイで応じていくあたりが新鮮です。
 そしてこういう静謐な演奏になると、ダイレクト・カッティングのウリである音の良さと緊張感が存分に活かされていると感じます。シェリー・マンの小技の妙もしっかりと録音されていますねぇ。素晴らしいと思います。

B-3 Funky Blues
 オーラスはトリオ3人の共作という、タイトルどおりの楽しい演奏です。
 シェリー・マンのメリハリの効いたドラムス、絶妙の「泣き」を交えたジョー・サンプルのファンキー節、そして蠢くレイ・ブラウンのベースが一体となっていますから、たまりません♪ 私がこのアルバムの中では一番聴いた演奏が、実はこれです。
 ちなみにシェリー・マンのこういう演奏って、意外に上手いので、ちょっと驚きでした。終盤のブレイクなんか、もう、たまらんですよ♪

ということで、これは当時、忽ち大ヒット! アッという間に初回盤が売り切れでした。というのも、ダイレクト・カッティングだけに、作られたラッカー盤に限界がくれば、もうプレスは出来ないわけですからねぇ。

そこでレコード会社は同じ演目・曲順でテイク2を作っていて、つまり再プレス分からは別テイク演奏が発売されています。

残念ながら、そっちは所有していないのですが、友人から聞かせてもらったところ、甲乙つけ難い出来でした。

このあたりは流石に一騎当千の名人ばかりの成せる技でありましょうが、実はこのセッションには綿密なリハーサルがあったと、私は推察しています。というのも、ダイレクト・カッティングの録音には、各楽器の音的な特性やプレイヤーが演奏する際のクセから生じる音の大小に対して、極めて繊細な調整が要求されるからです。しかも演奏されるのが即興がウリとジャズとあっては、尚更、リハーサルが要求されたと思うのですが……。

ただし、それだからといって、モダンジャズのスリルが失われていることはありません。オリジナル盤もテイク2盤もそれぞれに素晴らしく、当に企画の勝利が生み出した人気盤だと思います。

ただしCD時代になってからの再発では、同時に録音されていたテープからリマスターされた音源を使っているようですね。当然ですが、機会があれば、このダイレクト・カッティングからプレスされたアナログ盤を聴いてみて下さいませ。

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ジャマルへの目覚め

2007-04-24 18:56:01 | Weblog

このところ、連夜のバンド練習で気合が入っています。まあ、仕事もこの位の熱心さが出ればいいんですが……。

ということで、本日はウルトラ和みの愛聴盤を――

But Not For Me / Ahmad Jamal Trio At The Pershing (Argo)

殊更にピアノトリオ愛好者が多い日本、という事情からしても、これが名盤と認定されたのは何時頃からでしょう。

私がジャズを聴き始めた頃は、マッコイ・タイナーとかチック・コリア、ハービー・ハンコックが御三家で、別格がビル・エバンスという雰囲気でしたし、そのまた上にバド・パウエルとセロニアス・モンクという厳しい神様が君臨していました。

しかし本日の主役=アーマッド・ジャマルという名前は妙に有名で、それはマイルス・デイビスがお気に入りのピアニストであり、その演目&アレンジを借用したり、自己のバンドのピアニストの座を用意していたというエピソードだけが先行していたのです。

実際、1970年代前半のジャズ喫茶で、アーマッド・ジャマルなんて鳴らしていた店がどのくらいあったでしょうか? それが何時の間にかガイド本にも堂々の名盤として掲載されるようになり、再発盤としても定番になったのですから、時の流れは分からないものです。

さて、このアルバムはアメリカでアーマッド・ジャマルの名前を決定的にしたヒット盤で、1958年秋にはアルバムチャート3位にランクされる快挙! もちろんそれはポビュラーチャートなんですから、驚愕です。また同じ音源からはシングル盤が幾枚か発売され、ジュークボックスを中心に売れていたようです。

しかし私には、この作品のどこが良いのか、しばらく理解出来なかったのが本音です。それが1990年代に至り、忽然と目覚めたというか、今では聴く度に快感を覚えるようになってしまいました。

録音は1958年1月16日、シカゴのパーシングホテル内にあったラウンジでのライブ録音で、メンバーはアーマッド・ジャマル(p)、イスラエル・クロスビー(b)、パーネル・フォーニア(ds) というシブイ面々です――

A-1 But Not For Me
 アーマッド・ジャマルのピアノは隙間だらけです!
 トツトツとテーマメロディを弾くんですが、それでさえも端折りがあるというか、メロディのキモの部分しか弾いておらず、その隙間をベースとドラムスが埋めていくという論法が、このトリオの持ち味かと、ひとり納得するしか無い演奏です。
 このあたりはマイルス・デイビスが1950年代に散々やった、例の思わせぶりと同じなんですが、また同時にレッド・ガーランド風のオカズを主食にしたアーマッド・ジャマルの妙技が、一度目覚めると抜け出せない魅力になっています。
 ちなみにこれは逆もまた真なりで、自分のバンドにアーマッド・ジャマルを迎えられなかったマイルス・デイビスが、レッド・ガーランドにアーマッド・ジャマルの物真似を強要した結果だと言われています。

A-2 Surrey With The Fringe On Top / 飾りのついた四輪馬車
 これもマイルス・デイビスの演奏で有名なスタンダード曲ですが、それとアーマッド・ジャマルの演奏は似ても似つかないものです。
 ここでは烈しいアップテンポで疾走するトリオ全体のグルーヴが痛快で、なんとテーマメロディは断片しか弾かれていませんが、演奏全体がキメの連続! そしてその中でバーネル・フォーニアのブラシを中心としたドラムスが最高という出来です。
 あぁ、これはマイルス・デイビスのリズムセクションが常用していたキメと同じじゃないですかぁ~! う~ん、と唸っていたら、最後のオチが和みモードになり、これもレッド・ガーランドが十八番にしていたキメという怖ろしいネタバレがあるのでした。

A-3 Moonlight In Vermont / ヴァーモントの月
 これはスタン・ゲッツのバージョンがあまりにも有名な和み系スタンダードの極みつきですが、この演奏も素晴らしい♪ ゆったりしたテンポで「間」を活かした演奏でありながら、ダレるどころか不思議な緊張感と和みが両立しているんですからねぇ!
 もちろん途中ではワルツテンポを入れたり、アレンジされた部分もありますから、ジャズにおけるアドリブの楽しみというよりも、アーマッド・ジャマルを信じきって救われる演奏だと思います。

A-4 Music, Music, Music
 これはリラックスし過ぎたレッド・ガーランドという雰囲気なんですが、それは逆というのが本当でしょう。トリオ3者の巧みな絡みと自己主張が頂点に達したような演奏で、終始快適なテンポのベース&ドラムス、そして隙間だらけのピアノが絶妙に混じり合って化学反応したとしか、書けません。
 とにかく最高です♪
 
A-5 No Greater Love
 一抹の哀愁を感じてしまう、私の大好きなスタンダード曲を、アーマッド・ジャマルはなかなか抽象的に解釈で聞かせてくれます。あぁ、こんなフェイクはありでしょうか!?
 当にレッド・ガーランドの元ネタがびっしり詰まっていると思います。
 もちろん歯切れの良いドラムスと伴奏が「歌」になっているベースも存在感がありますねぇ♪

B-1 Poinciana
 私が、ある日、忽然とアーマッド・ジャマルに目覚めた演奏がこれです。
 それは1994年の夏でしたねぇ、某海水浴場の海の家でうたた寝していた私の耳に、有線から流れこんできたのです。最初はラテン風のリズムに気を惹かれ、次いで隙間だらけのピアノに快感を覚え、ついには有線局に電話して演奏者を教えてもらったという、ふっふっふっ、です。
 なにしろラテンビートを逆手にとったようなトリオの絡みが素晴らしいビート感に溢れていますし、ふんわりしたメロディフェイクとの相性もバッチリです。
 ちなみにこの演奏はリアルタイムのアメリカでは編集バージョンのシングル盤として発売され、爆発的に売れたそうですが、わかりますねぇ♪
 とにかく一度ツボを刺激されると、何時までも浸りきっていたい演奏なのでした♪
 冷静に聴くと、けっこうプログレというか、今日でも進歩的だと思いますが、それで和んでしまうのですから、アーマッド・ジャマルという人は凄いと思います。

B-2 Woody'n You
 これまたマイルス・デイビスのバンドでは定番演目になっているビバップ曲ながら、ここでのアーマッド・ジャマルは暑苦しい部分をスッパリと切り捨てて、爽快に聞かせてくれます。
 もちろん隙間だらけのピアノをドラムスとベースがサポートするという、このトリオならではの展開が存分に楽しめるのですが、ほとんどレッド・ガーランド・トリオというパートさえありますから、そこは聴いてのお楽しみ♪

B-3 What's New
 オーラスは如何にもという有名スタンダード曲が、そのまんまに演奏されます。
 それは聴き手がこのオリジナルのテーマメロディを知っていることを前提にした演奏であり、端折りの部分やオカズだけ弾いているところを、リスナー自らが補完しなければならないという、言わば参加型の演奏というのがミソ!
 ですからトリオは、かなりあざとい事をやっているんですが、ちゃ~んと和みも提供してしまうんですから、これは一体!?

ということで、かなり抽象的な演奏が多いと思います。通常のスタンダード中心のピアノトリオ物とは明らかに違う仕上がりなんですねぇ~。だから何時聴いても新鮮です。う~ん、これが名盤と認定され、一般的にも爆発的に売れた理由がなんとなくわかったような……。

ちなみにアーマッド・ジャマルというピアニストは、ここでは隙間だらけですが、1970年代に入ってからのリーダー盤ではモード手法も取り入れ、バリバリと音数の多いフレーズやオスカー・ピーターソン風の両手フル使いの演奏も聞かせていますから、土台はテクニシャンなんでしょう。

ここでも隙間だらけなのにダレ無い演奏に纏め上げるところは、流石だと思います。またトリオとしての一体感というか、三位一体の演奏姿勢は、ある意味、ビル・エバンスのトリオと双璧の凄みがあるのかもしれません。

そして実は、私はこのアルバムが名盤と知って、目覚める前に買っていたのですが、2~3回聴いても、どこが良いのか分からずにレコード棚のお邪魔虫にしていたのが、真相! ですから、しっかり愛聴するようになったのは、ここ10年ほどのことですが、けっこう集めたアーマッド・ジャマルのアルバムの中では、やはりこれが好きです。

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伝承派テナーが好き♪

2007-04-23 19:14:41 | Weblog

さて、スライドバー、抜けました♪

実は小指用に使っていたやつを薬指に付けたのが、悪かったのです……。

ということで、本日は――

Song For Sonny / Oleg Kireyev (Landy Star / Jazzland)

Oleg Kireyev はロシア人らしいサックス奏者で、このCDで聴くかぎり、けっして器用なプレイヤーではありません。

ただ、直向というか、演奏に取り組む姿勢は真摯だし、ツボにハマると豪快に歌いまくるという、なかなかの好人物♪ 中ジャケの写真からのルックスは、ジャッキー・マクリーンを白人にしたようなガンコなコワモテおやじです。

さて、このアルバムは10年ほど前にドイツの露天で買ったもので、ポーランドあたりで作られたものらしく、タイトルどおり、ソニー・ロリンズ(ts) にリスペクトした演奏集です。

録音は1995年3月14~15日、メンバーは Oleg Kireyev(ts,ss)、Joahim Mencel(p)、Arkadi Ovrutski(b)、Kazimierz Jonkiesz(ds) というワンホーン編成です。

ところが、ジャケット記載の曲目・曲順がデタラメなので、ここでは訂正しておきましたが、なかなか魅力的な演目が――

01 As Time Goes By
 おぉ、映画「カサブランカ」を印象的にした、あの名曲♪
 それが正統派テナーサックスで情緒満点に綴られるとあれば、ゾクゾクしないわけにはいきません。リズム隊もムード優先のサポートに撤しています。
 ところが、どっかしら腰が据わっていないというか、若干のふらつきが気になります。しかし本人は必死だと思いますねぇ……。なんか聴いていて、こっちが気をもむというか、妙にせつなくなってしまうのでした。
 否、けっして悪い出来ではなんですよ。Oleg Kireyev は大技・小技を上手く使い分けていますし、ピアノの Joahim Mencel も新しい感覚をいれて健闘しているのですから!

02 Palka Dots And Moonbeames
 お馴染み、美メロのスタンダード曲をボサノバで演じてくれますから、これも和み狙いなんでしょうが、ややリズム隊にシャープさが足りず、主役の Oleg Kireyev もどうしていいのか迷い道……。いやはやなんともです。

03 Secret Love
 ところが一転、面目躍如の快演が、これです。
 素材はスタンダードなんですが、バンドはイントロにジョン・コルトレーン風のイントロを付け、アップテンポで豪快無比な演奏に撤していきます。
 もちろん Oleg Kireyev はソニー・ロリンズ系のハードバップを基本としていますが、適宜、ジョン・コルトレーンも混ぜ込んでの熱演です! リズム隊も強烈な煽りとツッコミで熱風地帯! 実はベースはエレキなんですが、気になることはありません。またドラムスが調子良く、ピアノもハービー・ハンコック~マッコイ・タイナーという雰囲気ですから、たまりません。
 全体に歌心と痛快なノリが満載という仕上がりです。
 
04 Wave
 個人的にもお目当てにしていたボサノバの大名曲なんですが……。
 あぁ、何も書きたくないほどに、トホホです……。
 失礼ながら、このリズム隊はボサノバをわかっているんでしょうか?
 もう何も、書きたくありません……。

05 Tenor Madness
 ソニー・ロリンズの代表的なブルースですから、ここでもノッケからテナーサックスとドラムスの対決で、その場はハードパップ色に染まりきってしまいます。
 Oleg Kireyev のスタイルは、ソニー・ロリンズというよりもジョン・コルトレーン~スティーブ・グロスマン、アーチー・シェップに近くなっていますねぇ。
 続くピアノとドラムスの対決では、ややフリーに足を踏み入れてしまう瞬間までありますが、案外、このあたりにバンドの本性があるのかもしれません。
 最終パートではエレキベース対ドラムスになって、なんかジャコ期のウェザー・リポートになってしまうのは、ご愛嬌♪

06 I Thought About You
 これは、良い!
 雰囲気系スタンダード曲を正統派テナーサックスで見事に吹いてくれます。それはフスススススス~というサブトーンの溜息であり、柔らかで芯のある音色で綴る「歌」の世界であり、メリハリの効いたリズム隊のグルーヴであり、またハードバップならではの和みの時間という、永久不滅の素晴らしさ♪
 あぁ、何度聴いてもシビレます! カタカタとなるテナーサックスのキーの音さえも、魅力的なのでした♪

07 You Don't Know What Love Is
 そして、これがまた素晴らしい!
 ここでの Oleg Kireyev はソプラノサックスに持ち替えていますが、思わせぶりなイントロに続いてテーマの一節を吹いてくれる瞬間から、もうシビレます♪ あぁ、その音色、情感……。なんて素敵なんでしょう。リズム隊の蠢きも秀逸ですし、何よりもバンド全体の息の合い方が絶妙だと思います。
 ちなみに、この曲はスタンダードですが、歴史的にはソニー・ロリンズの決定的な名演が残されていますからねぇ、Oleg Kireyev もソプラノに逃げた事情も分かりますが、それにしても、この演奏は気に入りました♪ ピアノの Joahim Mencel も、「泣き」のフレーズ、幻想的な美メロばっかり弾いています。
 さらに終盤では Oleg Kireyev が本領発揮の素晴らしいアドリブを披露! それはジョン・コルトレーンやウェイン・ショーターの影響を自分なりの血肉としたものでしょう、聴いていて本当に熱くなってしまいます。ドラムスとのインタープレイもバッチリ! 次第にビートが強くなり、グルーヴィに盛り上がっていくのでした。

08 Song For Sonny
 タイトルどおり、ソニー・ロリンズを痛烈に意識したカリプソ系の演奏になっています。もちろん作曲は Oleg Kireyev で、楽しさは最高♪ 聴くほどにニヤリするフレーズや仕掛けが、これまた楽しいところです。

ということで、前半を聴いたかぎりではハズレと思いきや、終盤の3連発があまりにも強烈です。実はそこに「Secret Love」を加えた4曲をメインに聴いているのが、正直なところで、そういう小細工が出来るのもCDの良さでしょうか。

今となっては日本で入手出来るか否か、ちょっと不明ですが、機会があれば聴いてみて下さいませ。

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スライドバーの悲喜劇

2007-04-22 18:41:37 | Weblog

はっはっはっ……。

もう笑ってごまかすしか無いんですが……。

午後からバンド練習していたら、左手薬指からスライドバーが抜けなくなりました。

あぁ、情けな~い! いまだに取れないんです。

今こうしてキーボードたたいているのも苦しいところ……。

ということで、本日は休載させてください。

なんとか今夜中にスライドバーを取らないとなぁ。

ヤスリで途中まで切断したところなんですが……。

思いっきり、笑ってねぇ~♪♪♪

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土曜日の朝

2007-04-21 17:52:07 | Weblog

午前中はオヤジバンドの練習、午後からは観桜会というスケジュールでした。

残念ながら午後から時折チラチラと雨が落ちてきましたが、ダンダンダンと盛り上がったのは良かったです。

ということで、本日は――

Saturday Mornig / Sonny Criss (Xanadu)

ソニー・クリスほどジャズ喫茶が似合うプレイヤーもいないと思います。

そのスタイルはチャーリー・パーカー直系という黒人アルトサックス奏者なんですが、リアルタイムではジャズのガイド本で紹介されることも稀でした。しかしジャズをある程度聞き込んでいる愛好者、つまりジャズ喫茶族を虜にする魅力満載の演奏やアルバムを、しっかりと残していたのです。

さて、このアルバムはそんなソニー・クリスが、我国で本格的にブレイクするきっかけとなった1枚です。

録音は1975年3月1日、メンバーはソニー・クリス(as)、バリー・ハリス(p)、リロイ・ヴィネガー(b)、レニー・マクブラウン(ds) というシブイ本格派が揃っています。

ちなみに製作のザナドゥというレーベルは、ジャズ評論家でありマニアでもあるドン・シュリッテンによって当時創設されたばかり! しかもウリが本格的モダンジャズということで、1970年代に蔓延っていたジャズロック~クロスオーバーに対抗する真正4ビート作品がジャズ喫茶では歓迎されていたのです。

そしてその決定打になったのが、このアルバムでした――

A-1 Angel Eyes
 マット・デニスが作ったモダンジャズでは名曲の中の大人気曲です。
 そのキモは愁いを含んだ「泣き」のメロディにありますが、ここでのソニー・クリスはそのあたりを踏まえ、尚且つ、自らの資質である幾分「クサイ泣き」を存分に聞かせてくれます。
 とはいって、その持ち味たる大袈裟なところが、ここにはありません。
 実はソニー・クリスという人は正統派ビバップを継承していながら、野放図というか投げっ放しバックドロップというか、とにかく派手な吹き流しが特徴で、それゆえに好き嫌いが烈しい恨みがあります。
 なんというか吹き過ぎなんですねぇ……。
 ところが、ここでは見事に抑制された感情の吐息とでも申しましょうか、ジンワリと滲む哀しみのような「泣き」が見事です。まさに日本人好み♪ あぁ、このテーマメロディの歌わせかたは、唯一無二の忍び泣きです。
 もちろんアドリブパートに入っても絶妙のサブトーン、また艶やかな高音域のコントラストが素晴らしく、自らの悲しみを振り絞るようなところにグッときます。
 さらにバリー・ハリスのサポートが絶品です。録音の按配が如何にも1970年代という空虚な電気増幅があったりしますが、それが逆に幸いしたようなリズム隊の存在感も、ここでは良いと思います。
 あぁ、ラストテーマで、私はまたまた、泣いてしまいます。

A-2 Tin Tin Deo
 ラテン系ハードバップの名曲を下世話に解釈した名演です。
 ここでもソニー・クリスはサブトーンを駆使したテーマメロディを下卑た音色で大衆的してしまうという裏ワザを出してしまいますが、本当にたまらん世界!
 そしてアドリブに入ると本性ムキ出しというメチャ下品なフレーズの洪水です。あぁ、韓流ドラマの男性主人公のような、大袈裟に泣きまくり!
 このあたりが日本人の感性に合わなかったのが「昭和」でありました。
 しかしそこはバリー・ハリスが、グッと感情を押し殺したクールな熱演で帳消しにするのでした。

A-3 Jennie's Kees
 ソニー・クリスが書いたスローなブル~ス♪
 イントロからバリー・ハリスが雰囲気満点にピアノを鳴らせば、ソニー・クリスはソフトで黒~いアルトサックスの真髄を聞かせてくれます。う~ん、この素敵なフレーズの連続には心底シビレますねぇ~♪ クサイ思わせぶりもキマッています。
 さらにバリー・ハリスが、良いんです。ただ、ただ、良いとしか言えませんねっ♪

B-1 Saturday Mornig
 ここから始まるB面が、当時のジャズ喫茶では定番でした。
 その初っ端からソニー・クリスが思わせぶりたっぷりの吹奏、そして哀愁満点のテーマメロディ、それを絶妙にフェイクして忍び泣きするんです。これでシビレないジャズ者はいないでしょう!
 バリー・ハリスも流石のアドリブですし、かなりグイノリになっているリズム隊もシンプルで素晴らしいと思います。
 終盤でのソニー・クリスは、もう薬籠中の名演! 気分はすっかりジャズ喫茶です♪

B-2 My Heart Stood Still
 これは何故かソニー・クリスが抜けたリズム隊だけの演奏になっています。つまりピアノトリオでバリー・ハリスが十八番を演じたというわけですが、どうやらソニー・クリスが先に帰ってしまったという気まぐれがあったようです。
 しかしアルバム全体からすると、このトラックが抜群のアクセントになってしまったんですから、結果オーライでしょう。如何にも1970年代らしい録音を楽しむ(?)というのも、今となってはオツなものです。それは電気増幅されたベースの音であり、妙に分離が良すぎるドラムスの音であり、時代に逆行したような安っぽいピアノの響きなんですが、演奏そのものは極上です♪

B-3 Until The Real Thing Comes Along
 これが悲しみに満ちたスタンダードの隠れ名曲ですから、ソニー・クリスにはぴったりの選曲です。
 烈しい感情を迸らせるテーマ解釈の妙は何度聴いても最高ですし、その艶やかでソフトな音色も大変に魅力的♪ もちろんアドリブも絶品で、全てが「歌」というフレーズは、早い音符の羅列さえ、単なるスケール吹きではない世界です。
 そしてバリー・ハリスが、ここでも本当に良いです♪
 大袈裟じゃなくて、涙がボロボロ……。

ということで、人気盤が多いソニー・クリスですが、まずはこれから!

ちなみに私には、これでソニー・クリスに目覚め、過去のアルバムを集めまくった前科があるのですが、結局はこれに帰るという放蕩なのでした。

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